12月5日

世の中は「成功者」の持論で溢れている。
私は最近よくそう思います。

体育の実技で大コケした。
でもその後必死に練習して、次の実技ではうまく出来た。

定期テストで何も書けなかった。
でもその後必死に勉強して、次のテストで飛躍的に得点が伸びた。

受験で志望校に受からなかった。
でもその後必死に努力をして、就活では一流と呼ばれる企業に就職できた。

人員整理でリストラされた。
でもその後起業をして、世間一般でも知られる大企業に育て上げることが出来た。

これらは全部挫折からの「成功」であり、世間では美談であると一般的にみなされます。失敗があるから成功できる。若い頃には買ってでも苦労をしろ。挫折するから人は学べる。正論です。その通りであると思います。だいたい「成功者」になるひとは挫折を味わっています。
しかし、世の中はそうではありません。挫折から立ち直ることが出来なかった「挫折者」も数多くいます。
しかし彼らの持論に耳を傾ける人はいません。

体育の実技で大コケした。その後必死に練習したが、出来ないものはできなかった。

定期テストで何も書けなかった。その後必死に勉強したが、なにもわからずテストの点も落ちた。

受験で志望校に受からなかった。その後企業分析からSPIまで必死にやったが全て最終面接でお祈りをされた。

人員整理でリストラされた。その後起業をしたが、倒産し多額の借金だけが残った。

人々は「成功者」の声にだけ耳を傾けます。なぜなら自分もそうなりたいから。
人々は「挫折者」の声には耳を傾けません。なぜなら自分はそうなりたくないから。

成功者の声は力を持ち、成功者を成功者たらしめていきます。
挫折をしてからが本番だ。失敗してもやり直せばいい。努力すれば大抵のことはできる。まだまだこれからじゃないか。
これは成功したから言える言葉です。次何かが起きてもまた成功できると楽観視できる人間の言葉です。しかし挫折者は違います。
もう無理だ。もうこれ以上失敗したくない。努力しても無駄だ。まだ続くのか。
一度折れたものはなかなか治りません。治っても前より強くなるものでもありません。

「信じていれば夢は叶う」
「諦めなければ必ず成就する」

アホか、と思います。夢が叶うまで信じていりゃあそりゃあ叶うに決まっているし、叶わなければ消えるだけです。呪いを撒き散らすこともない。
成就するまで諦めなければそりゃあ成就するに決まっているし、成就しなければやはり消えるだけです。
信じるのにもエネルギーがいるし、諦めないことにもエネルギーがいる。しかしそのエネルギーはもうなくなってしまった。なのに世間はこれらを宣う。

諦めなければ、もっとやれば。

これまではずっと諦めなかったし、努力も精いっぱいしたつもりです。でももう無理です。もう出来ません。
しかし、「成功者」の声に支配された世間はそれを許さない。もうお腹いっぱいなのに食堂まで詰めようとしてくる。吐いたら情けないと罵られる。

物語には脚本があります。脚本なしに物語が描かれることはありません。そして物語には終わりが必ずあります。ハッピーエンドか、バッドエンドか。
そして多くの人は人生にもそれを投影します。人生の脚本を描きます。脚本どおりに上手く行っている人は少数です。多かれ少なかれ挫折をしていると思います。その度に何度も何度も脚本を書き直して、望むエンドに近づくことが出来るようにしてきたのでしょう。だからその人たちは「まだまだ人生はこれからだよ」「いつか必ず上手く行くよ」といった「成功者」の声を出す事ができる。生存者バイアスです。そのまま力尽きた人たちが何かを言うことはない。なぜなら誰も聞かないから。
この声を聞いてまた頑張ろう、もっとやろう、そう思える人は「挫折者」ではなく「成功者」です。紛れもなく「成功者」です。おめでとうございます。
「挫折者」はそんなこと思いません。もう無理だ、これ以上は出来ない。本気で心の底からそう思います。

そんなお話でした。