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リザエレ! エレミネイション+ウィンクルム EPISODE 01 『RE:START↑↑↑↑』 Vol.4

はじめに

 この度は数ある記事、作品の中から本作品(「リザエレ! エレミネイション+ウィンクルム」)をお手に取っていただき、心より感謝を申し上げます。

 度々のお願いで恐縮ですが、お読みいただく際の注意事項を以下に添えさせていただきます。

 本作品は現在『note』のみで連載しております。その他のブログサイト、小説投稿サイト、イラスト投稿サイトでは連載しておりません。この作品は一部無料にて公開しているものですが、掲載されている画像、文章などは著作権フリーではありません。無断転載、コピー、加工、スクリーンショット、画面収録、AI学習及びプロンプトとして使用する行為はお控え頂くよう、ご理解の程よろしくお願い致します。

 この作品の物語はフィクションであり、登場する人物、場所、団体は実在のものとは一切関係ありません。また、特定の思想、信条、法律・法令に反する行為を容認・推奨・肯定するものではありません。本作には、演出上一部過激な表現が含まれております。お読みの際は、十分ご注意ください。





Chapter 09 「エレメティアの機能」


 一軒家、アパート、マンションの屋上や屋根を次々と渡り駆けていく。
 普通じゃ味わえないこの開放感は、はじめて空を飛んだ時よりも贅沢な気分だ――そんなことを胸の中で語る愛叶。彼女は芽瑠の姿を見失うことなく、無事リザエレの拠点である古着服店ペミィ・ペミィーまでたどり着くことが出来た。
 愛叶は息切れをしている。芽瑠は一切息切れをしていない。
「はぁ、はぁ、はぁ……芽瑠ちゃん、よく疲れないね?」
「毎朝走ってトレーニングしてるから余裕だよ」
「すごい~……ほぁ……だから脚がすらっとしてて身長も高いんだ……」芽瑠の全身を舐め回すように見つめる。
 芽瑠はエレミネイションスーツから脱着し、ドアを開いて変着状態の愛叶を誰にも見られないよう、体で覆い隠しながら店の中へと入れた。

 《「おかえりなさいませ、芽瑠様、愛叶様」》

 店の中へ入るとイアシスが彼女たちを出迎えてくれた。
 まだ慣れていないからか、突然聴こえてくる姿なき彼女の声に体をビクッとさせてしまった愛叶。その彼女の横で芽瑠は、のほほんとした口調で「ただいま~」と返事をする。
 店内にはすでに希海がいた。彼女はソファーに座り、豆乳キウイシェイクドリンクを飲んでいる。芽瑠は不思議に思う。
「希海、戻るの早くない? 」
「近道使えばすぐに着く」
「ウチらも近道使ったはずだけど、間違ってたかな……。まっ、いっか」
 芽瑠はコートを脱いで、レジ裏にある小さな椅子の上に置いた。愛叶は店内を見て、店を無人にしていたことを思い出す。
「あっ! 店開けっぱなしで出てきちゃった。泥棒に入られていないよね……」
「心配無用。この店は人がいなくなるとイアシスが自動で店の戸締まりをしてくれて、ちゃんとした客が来た場合は接客も行ってくれる」
「そうなの? よかった~」
 希海の説明に、ホッとする愛叶。イアシスもフォローする。

 《「お店の前、店内を二四時間監視。録画、顔認証、個人のデータ照合も行っておりますのでご安心ください」》

「……うわ、いろんな恥ずかしいところ撮られちゃったかも」

 《「愛叶様がお店の前で何かしてらしたときの映像は、すべて削除させて頂きました」》

「監視社会怖っ……」
「人に見られるより、AIに見られたほうがマシだろ」
 希海はそう一言言って、豆乳キウイシェイクドリンクを飲み干し、ソファーから立ち上がる。
「それじゃあ、服の登録方法を教えるか。芽瑠、ハンガーに掛けてある服使ってもいいか?」
「勿論いいよ。全く売れないものが二階にあるから、それも使って。ちょっと持ってくる」
 芽瑠はそう返事をし、事務室隣の階段を上っていった。
「二階は倉庫か何かなの?」
 容器を片付けながら希海は愛叶の質問に応える。
「大量の服と雑貨が積まれてる。ほとんどが芽瑠の元所持品。あとは前の家主が置いていったものがある」
「前のってことは、その家主さんは今……」
「すでに亡くなってる」
「……そうなんだね」
「あたしのじいちゃんがその人と知り合いで、更地にされる前に華山家にお願いして、買い取ってもらったんだ」
「へぇ~」
 そう感心していると、二階からきしむ音が聞こえてくる。建物は相当年季が入っているようだ。
 扉が閉まる音がし、大きめのバスケットを持った芽瑠が一階へと下りてくる。そのバスケットをレジカウンターの上に置く。
「ふぅ……愛叶、希海、好きなの選んでね」
 バスケットの中は何十着の服とマフラーなどの小物類、靴下、ブーツやスニーカーが入っている。どれもほぼ新品未使用に近い綺麗な状態だ。
「わあ~、すごい量の服~」
「芽瑠、こんなにはいらないだろ?」
 希海は冷めた返しをした。
「ごめん、要らないのも入ってるかも。気に入ったやつがあったら、どんどん持って帰っていいよ」
「太っ腹だね。わたしにピッタリ合うサイズあるかな?」
「小さいのだと身長が伸びた時に反映されなくなるから、登録する服と靴は1サイズ上を選んだ方がいいぞ」
「1サイズ上か……あっ、これいいな……。おっ、これもかわいい~」
 バスケットの中から自分好みの服装を選んでいく愛叶。それと反対に希海は、ファッションに興味がないのか、適当に物を選んでいる。
 しばらくして――二人の服選びが終わった。
「よし、これから登録方法を説明する。あたしのやり方を見ながらやってくれ」
 希海はエレメティアの画面を人差し指でタッチした。
「空間上にアイコン選択画面が出たら、服装アイコンを選択する。選択したら服装登録一覧画面左下のスキャンをタッチする。空の人型のマークが出たら、そこに直接この服たちを入れる。見てろ」
 希海は靴、靴下、ジャージボトムス、ジャージトップスを人型マークの中へと入れていく。
 服が彼女の手元から二次元へ消えていく度、人型マークが足下からオレンジ色に光ってくる。その光景を食い入るように見つめる愛叶。
「靴から先に入れて、靴下、下の服の順に下から上に向かうように順番に服を入れる。入れたらそのまま手を放して」
「こう?」
 愛叶はスニーカーを人型マークの中へ入れる。すると人型マークの足部分が光った。
 その後、黒タイツ、ロングスカート、Tシャツ、セーター、マフラー、ファーが付いたチェスターコートを入れていく。
 何もないところへ服を入れる感覚はとてつもなく不気味だ。
「わ……なんかやばいよこれ」
 人型マークが満タンに光っている。その下には、【 これでよろしいですか? 】の文字が表示されている。
「確認画面が出て、それでいいなら【 はい 】を、変えたいなら【 いいえ 】を選択する」
「【 はい 】っ!」をタッチすると、【 登録が完了しました 】の文字が表示され、再び登録服一覧画面に切り替わった。
 登録された服たちの名称はセット1となっている。
「これで登録は終わり。空間上の表示を消すには、エレメティアの画面をもう一度人差し指でタッチして」
 人差し指でエレメティアのディスプレイをタッチすると、空間上から表示が消えた。
「それで脱着ボタンを押せば、今登録した服に戻ることができるはず。確認に、鏡の前で脱着してみて」
 愛叶はソファー横にある、キャスター付きのスタンドミラーを見ながら、恐る恐る脱着ボタンに手を置いて押し込む。虹色の光が再度体を包み込む。
 愛叶は鏡に写った自分の姿を確認する。
 スニーカー、黒タイツ、ロングスカート、Tシャツ、セーター、マフラー、ファーが付いたチェスターコート――すべて自分の体に覆われている。これはまやかしではなく、手で引っ張れば伸びる、脱げばハンガーに戻すことができる、実際に服を着ている状態だ。
 無事、登録した服一式に着替えることができた愛叶は、陽気に喜び、その場でくるりと一回転した。
「登録した服を確認したい場合は、さっきの手順で登録服一覧画面までいくと確認できるから暇なときに確認しておいて。あと、学校の制服があるなら、あとでそれも登録しておけよ」
「あっ、それすごく便利だね。いちいち着替えなくても良さそう~。ありがとうみんな!」
 無邪気な笑顔で言う愛叶に、希海と芽瑠はチラリとお互いを見て微笑んだ。
「あたしたちと会ってから一日も経ってないんだぞ?……」
「いいじゃん希海。なんか戻ってきたみたいで」
 その芽瑠の言葉に、希海の表情が少し重くなる。
 愛叶はふと、我に返った。
「そういえば、さっき脱着したとき、何で下着だけになったの?」
「下着は服として認識されていないんじゃね?」
「それだと靴も靴下もそうだよね?」
「それは……配慮だと思うよ」
 少し恥ずかしそうに、芽瑠は言った。
「え~! 怪物だった女の人は裸だったよ?」
「あっちはあたしらとはシステムが違う。裸になるのはただの仕様だろ」
 希海の返事に愛叶は「ふ~ん」と頷いた。
「システムとイヴィディクトの話はまた今度な。今日は疲れた……はぁ~……」
 希海は店内の客用のソファーに座り横になった。
「明後日の授業だるいな……」
「授業……あっ、二人はどこの学校に通ってるの? というか何歳なの?」
「ウチと希海は十六で、同じマリトワ女子の一年生だよ」
「え、ホントに?! わたしも十六で来週からそこに通うんだよ!」
「そうなの?! すごい偶然~。じゃあ、明後日一緒に学校行こうか」
「うん、よろしくね、芽瑠ちゃん!」
 愛叶と芽瑠は手を合わせて喜び合っている。一方、希海は……。
「あたしはリモート授業がメインだから、一緒には登校できないぞ」
「へっ? リモートなの? なんか残念……」
「でも希海、今度の月曜日はリモートコースの生徒も絶対に登校しなきゃいけない日だよ?」
 芽瑠が店内の大きなカレンダーを見て、希海にそう指摘する。
 希海はソファー横のスツールに立てかけてあるカレンダーを見つめる。明後日の日付には水色の文字で、『のぞみ登校日』と書き記されていた。
「あ~、二重でめんどくさいな……」
「決まりだね。愛叶、フェイスラインでしようか」
 愛叶は大きく頷いて、フェイスラインアプリを起動。スマートフォンをかざして友達申請、登録ができる『テラシテ』機能を使って、互いにフレンド登録を行った。愛叶の友達一覧に家族以外の人物が登録された。
「やった! 上京して初めての友達だ~!」
 両手を上げて喜ぶ愛叶を半目で見ている希海。その表情は、あまり嬉しくなさそうな様子だ。
 芽瑠は希海に訊いた。「希海、愛叶とフレンド登録しなくていいの?」
「そうだよ。交換しようよ~」
「エレメティアでフェイスラインのようにやり取りできんだから、そっちですればいいだろ」
「じゃあ、希海だけエレメティアで連絡だね」
「うぃ~す……」あくびをしながら希海は返事をした。
「これでも連絡できるんだ。どうやってやるの?」
「ウチが教えてあげる」


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Chapter 10 「仮登録」


 エレメティアに搭載されている情報共有コミュニケーションツール『ナイト』の使い方を教えてもらった愛叶。芽瑠の手を握り、これ以上ないぐらいの感謝の気持ちを伝える。そんな彼女に芽瑠は笑顔で応えた。
 ――はぅ、今何時だろう。愛叶はスマートフォンを取り出して時間を確認する。時刻はちょうど一七時三九分を回ったところだ。
「もう少し居たいところだけど、そろそろ帰らなくちゃ」
「おい待て」希海は、マフラーを手に取った愛叶を呼び止めた。
「へっ、何?」
「また同じようなこと訊くけどさ、お前、今後も続ける気はあるのか? 一発屋で終わらないだろうな」
「も……勿論だよ。助けてもらっていろいろ教えてもらったのに、もう関わらないなんて、なんか勿体ない感じがするから」
「じゃ、明日またここに来いよ。ルートに個人情報登録するから、ナンバーカード持ってるなら持って来い」
「えっ?! ナンバーカードが必要なの? 家にあったかな……あっ、財布の中に入ってるかも。……あれ?」
 チェスターコートの両ポケットの中に手を入れると、正方形の形をした固いものと柔らかい素材のものが入っていることに気がつく。愛叶は両方のものを掴んでポケットから出した。
「なんで新しい服のポケットの中にわたしの財布とスマホが入ってるの!? 怖い……」
「スマホとか財布は、変着したときに一時的にエレメティアに保存されるみたいだよ」服をたたみながら、芽瑠は愛叶に説明する。
「何それ、都合よすぎ~……」
「あるんなら別にいいだろ。早くナンバーカード出せ」希海は背伸びをしてソファーから立ち上がった。
「(うわ、尖った言い方だなぁ)」スマートフォンをポケットにしまいながら、愛叶は心の中で呟き、開いた財布の中からナンバーカードを取り出して希海に手渡した。
「よし、登録するか。ちょっと事務室まで来い」

 希海はデスクの上にある三角形の登録機器の真ん中に、愛叶のナンバーカードを置いた。すると、青色の円光がカードを囲うように現れ、短い間隔で点滅を繰り返す。
 ヒーリングメロディーが流れてくると、点滅していた光が緑色に変わって、鳥の声に似た「ペピッ」という音を鳴らした。ナンバーカードを登録機器から離すと、緑色の円光は消えた。
「これで一応登録は済んだ。これで審査が通れば、ルートからお前ん家に本登録の手続きの封筒が届く。書類に必要事項を書いて提出した後、会員証が届けば、お前は正式にリザエレのメンバーになれる。ほい」
 希海から返されたナンバーカードを愛叶は再び財布の中にしまい、財布をチェスターコートの内ポケットへ入れた。
「意外とちゃんとしているんだね。その、ルートっていう組織」愛叶がそう言うと、言葉は言霊となって届いたのか、突然、登録機器の傍に置いてあるデジタルフォトフレームが起動し、一枚の写真が表示された。
 写真には沙軌、芽瑠、希海と見知らぬ黒髪の女の子が写っていた。思わず愛叶は訊ねた。
「あん、何?」
「もしかして、この子が前にいた子?」
「あ……うん……」希海は写真を見ると、すぐに視線を外した。
「すごくかわいいね。明るそうで、しっかりとしてそう。この子、わたしと同じぐらいかな。いくつなの?」
 再度訊ねると、希海は黙り込んでしまった。
「(あれ? 聞いちゃいけなかったかな……)」
 愛叶はそう察し、気遣う様子で、
「今日はありがとう。わたし、もう帰るよ」と伝えた。
「あん……また明後日な」
 たたずむ希海を見つめながら、愛叶は事務室を出た――。

「芽瑠ちゃん、今日はありがとう。貰った分はちゃんとお返しするからね」
「いいよ、そんな気遣わなくて。困っている人を助けられただけでも、ウチは幸せだから」
「へっ?……、うう……芽瑠ちゃーん!」
 嬉しさと感動のあまり、愛叶は腕を大きく広げ、芽瑠に抱きついた。
「愛叶ったら……。そんなに勢いよく抱きつかれたら、「またね」って言いづらくなるでしょ?」
「……ごめんごめん」芽瑠から腕を解き、体を離した。
「それじゃあ芽瑠ちゃん、明後日もよろしくね!」
「うん、またね愛叶! お疲れー」
「あっ、仕事の挨拶みたい。お疲れさまでーす! イアシスさんもお疲れさまです! 今日はありがとうございました!」

 《「こちらこそありがとうございました。明後日もよろしくお願いいたします」》

「よろしくお願いいたします。失礼いたします」
 愛叶はそう言って、芽瑠、イアシスに頭を下げた。
 マフラーを首に巻き、芽瑠に手を振ってドアノブに手を置いた。
 何か思い出したのか、そこで彼女の動きが止まった。不思議そうに芽瑠は訊ねる。
「愛叶、どうしたの?……」
「め、芽瑠ちゃん、わ、わたしが借りてたシェアバイク、どこに置いたっけ?」
「シェアバイク?……」

 《「先ほど戦ったエンカウントポイントにあるのではないでしょうか。ですが、もう撤去されていると思います」》

「だよね……どうしよう~……次から使えなくなっちゃうぅ………」
 一人落ち込む愛叶。芽瑠は手を差し伸べる。
「愛叶、ウチらがいるよ。自転車バイク保管所に電話してみるから、愛叶はキャビーのサポートセンターに連絡して。イアシス、手伝ってあげて」

 《「かしこまりました」》

「うう、みんな……ありがとう。ご迷惑をお掛け致しますぅ……」


 ◇


 愛叶が乗っていたキャビーは、自転車・バイク保管所に預けられていた。
 引き取り料金は事前に芽瑠が支払ってくれていたため、口座残高からの引き落としはなかった。
 キャビーサポートセンターとの電話では、愛叶とイアシスの必死の説得により、罰金の支払いは二週間のサービス利用停止を条件に、今回は特別に無しとしてくれた。
 預けられていたキャビーを取り出したあと、東浜辺駅近くのレンタルポートに返却した。
 駅の改札口を通り、電車で自宅のある町まで移動。上利加かみりか駅で降りた。
 駅から出ると、目の前の一軒家の塀に沿って一台の車高の低い黒い乗用車が停まっていた。中には誰もおらず、エンジンがかかっている。彼女は首を傾げ不審に思ったが、昼間のこともあってか無理に追及することはせず、見なかったことにして自宅へと帰っていった。

 手洗いうがいのあと、倒れるようにソファーに寝っ転がった。甘い匂いがリビング内に充満している。
「いい匂い~……」
「ちょっと愛叶、その服どうしたの?」
 愛叶の母親、恵子が驚いた表情で彼女に訊ねてくる。
「ん? 買って……いや、貰っちゃった」
「誰に?!」
「今日知り合った女の子からだよ」
「万引きでもしたのかと思ったわ……。ふう、よかった……」
「わたしがそんなことするわけないでしょ」
「姉ちゃん。はい、どうぞ」
 愛叶は妹の夢叶から、紅芋あんまんを受け取った。
「頼まれてたのすっかり忘れてたよ……」
「あなたが帰ってくるの遅いから、夢叶に頼んで買ってきてもらっちゃったわ」
「ごめんママ。夢叶ありがとう~」
 愛叶は紅芋あんまんを口にした。
「わっ、この紅芋あんまんおいしいなぁ。あ、ママ、新しい学校の制服ってもう届いた?」
「とっくに届いてるわよ。隣の部屋のクローゼットに掛けておいたわ」
「ありがとうママ」
「明日から一人暮らしが始まるんだから、自分のことはしっかりやんなさいよ」
「わかってるよ~……一安心したら急に眠気が……これ食べたらもう寝ようかな……」
「姉ちゃん、外に出たんだからシャワーぐらいは浴びなよ」
「え~、寒いから明日にする~……」

 ――ベッドと段ボールが積まれた愛叶の寝室。開けたクローゼットには、新しい入学先の『私立マリトワ女子高等学校』の制服一式がかけられてある。
 愛叶は制服を手に取り、希海から教わった手順で制服をエレメティアに登録。輝くエレメティアを見つめながらこれから始まる新しい生活に期待を寄せた。

 そして、月曜日の朝――。


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Chapter 04 EX 「黒服周来」


 希海が突然、足を止めた。沙軌は理由を訊ねる。
「……誰かに後をつけられている気がするんだ」
 彼女から不吉なことを聞いた沙軌は、不安げに後ろを振り返るが、そこに怪しい人影はない。
「かくれんぼが超上手い、美人を狙うストーカーとか?」
「多分な。この先の十字路に差し掛かったら、沙軌はそのまま店に戻って。あたしは店とは反対方向に行く」
「わかったわ。ぐれぐれも気を付けてね」
 二人は互いに手を振り合い、十字路で別れた。希海はコンビニエンスストアがある方向へ、沙軌は住宅街の道を歩いていく。
 小さな一軒家、アパートが立ち並ぶ道を左折、保育園の角を右折、そのまま真っ直ぐ進んでシンドウ理髪店の左斜め向かい側のレトロな外装の店――ペミィ・ペミィーの扉を開けて中へと入った。
「ただいま。芽瑠、店番ありがとうね」
「おかえりなさい。あれ、希海は?」
「『誰かに後をつけられている気がするから先に行ってて』だって」
「うわ、ストーカー? ウチらも気をつけないと」
「最近イヴィディクト以外の事件も多くて物騒だからね。ところで芽瑠、私たちがいない間、お客さん来てた?」
「うん、来てたよ。今度は大家族のお客さん」
「大家族? それで、服はどれぐらい売れたの?」沙軌は瞳をニヤリと輝かせる。
「新品のトップス、ボトムス一着ずつと、ウチが小さい頃に着てた服三着に小学生の時の服四着、ママが着ていたセットアップが一着売れたよ」
「おお、結構買ってくれたね。その大家族、結構お金持ってるわね」
「子ども手当の給付金が出たから買いに来ましたって言ってたよ」
「う、なんか申し訳ないわ……」
「それと、お客さんのお母さんがまた一人身ごもったらしいから、追加で赤ちゃん用の服、タダであげちゃった」
「へっ?! ちょっと芽瑠、赤ちゃん用でも一応は売り物なんだから、タダであげちゃダメよ。この前だって若い夫婦にあげてたでしょ」
「だって在庫がいっぱい余ってるんだもん。困ってる人がいたら助けてあげなさいって、ママの言葉を守ってるだけだよ」
「お母さんのお言葉を大切にしてるのはいいけど、タダであげるのは本当に生活に苦しんでいる人だけにしたほうがいいわよ。転売でもされちゃったらこっちが損するじゃない。ていうか、芽瑠の服、ここにどんだけあるのよ……」
「家にあるものを含めたら、駅中にあるチェーン店一店舗分ぐらいはあると思う」
 芽瑠の答えに、沙軌は声を上げず、顔を渋めた。
「さて、仕事に戻りますか。芽瑠、在庫表にまだ登録してない服あるでしょ? それ持って来てちょうだい」
「オッケー。ん? 沙軌、店の外、騒がしくない?」

 扉の向こう側から、揉め事のような声が聞こえてくる。

 『え、ちょっと!……何がどうなってるのか教えてよ! 君は何者? さっきの機械怪物、あれは一体何なの?!』
 『お前が知る必要はない』
 『えへぇ~、そんなこと言われても……目撃しちゃったら気になるよ。ネットで調べても出てこないんだよ?』

 店の扉が開く。不服顔をした希海が戻って来た。
「おかえり希海。外で誰と話してたの?」
「ここに来たただのストーカーに、一言言っておいた」
「ここに来たストーカー? それ、お客さんじゃないの?」
「客じゃないって言ってた」
「へっ、どういうこと?」
 希海の言動を怪しむ芽瑠はそれが本当かどうか確かめるため、店のドアノブに手をかけ、扉を開けた。
 店の外には白いコートにマフラー、デニムジーンズを履いたミディアムショートの茶色い髪の毛の女の子が立っていた。
 女の子は芽瑠と目が合うと、軽く頭を下げた。
「ねぇ、外に女の子いるよ? あ! お客さんじゃないなら志願者かもしれないよ!」
 芽瑠は希海にそう言いながら、ドアノブから手を離した。ペミィ・ペミィーの扉が閉まる。
 希海は頑なになっていた。
「この間来た二人組みたいに新規を受け入れられる余裕はない。あいつが帰ってくるまで、メンバーはこのままだ」
「いいけど、このままだと私たち、半年後には解散になるのよ? わかってる? またルートの人たちが来た時にどう返事するの?」
 厳しい言い方で沙軌に言われるも、希海は彼女に視線を合わせずに、深いため息を吐いた。
 店の扉が開く。
 紳士的な靴音を立てて、店内に入ってきたブラックスーツを着込んだ男女二人組。二人は同時にサングラスを外した。
 芽瑠、沙軌、希海の表情が強張った。
「どうも、こんにちは」銀色短髪の男性が挨拶をする。
「こ、こんにちは。今日はアポなしでどのような用件ですか?……」沙軌は訊き返した。
「しつこいようですが、リザエレの解散について早急に返答をいただきたい」
 銀色短髪の男性がそう言うと、沙軌と芽瑠は予想通りといった表情で顔を合わせる。
 希海はレジカウンターに手をつき、彼らに視線を送る。
「返答は変わらない。ルミカが帰ってくるまで解散はできない」
「先ほどエージェントから、君たちがイヴィディクトと戦っているとの連絡がありました。メンバーの消息がわからない間は、活動の自粛をお願いしていたはずです。どういうつもりですか?」
 褐色肌の女性が少し威圧的に話す。すると、希海は下を向いて黙り込んでしまった。
「自粛ならある程度活動してもいいよね……?」
 沙軌が芽瑠に小声でささやいた。
「そのためのこの店のはずですよ? ここもネオボランティア活動を行う場所です。タダで提供しているわけではないのですよ」
 ヒステリック気味に言う褐色肌の女性に対し、すぐに芽瑠が割り込み反応する。
「あ、ここはウチの会社が買い取ったものだよ」
「……失礼、華山様は我々のスポンサーでしたね。……ですが、リザエレは『ルート』の一部で、ネオボランティア活動を行ってくれている数少ない貴重な存在です。僅かではございますが、イヴィディクト対処数に応じて報酬もお支払いしております。今後、我々のお願いに背くような返答をされた場合は君たちの許可無く、解体の手続きを行わさせていただきます。それまでよく話し合うように」
「……わかりました」
 希海は嫌々返事をした。
「あの、ルミカのことについて新しい情報はないんですか?」
 沙軌がルート職員の二人に訊ねる。
「今のところ新しい情報は入ってきておりませんが、世界中で多発しているといわれている誘拐拉致事件と、ルミカさんが行方不明になっている件について関係があるかどうかは我々も現在調査中です」
「この街もお隣の南浜辺市同様、何者かの標的にされていることは確実でしょう。自身の身の安全のためにも、気は緩めず、なるべく活動は自粛か、活動の範囲を狭めるようにしていただきたい。特に柄の悪い地区には近づかないようにしてください」
 銀色短髪の男性に続いて、褐色肌の女性も丁寧に説明をする。
「わかりました。お気遣いありがとうございます」
「ルミカは絶対に生きているからな……!」
 沙軌の返事に、口を挟むように言葉を吐き捨てた希海。彼女は螺旋階段横の事務室の扉を開けて中に入った。扉が強めに閉められる。
 いつものことなのか、沙軌と芽瑠、ルート職員らはため息を吐いた。
「すみません。あの子頑固で……ちゃんとみんなで相談します」
「よろしく頼みます。では、失礼いたします」
 ルート職員らは斜め四五度きっちりとお辞儀をし、ほぼ垂直に上半身を戻す。そして、沙軌と芽瑠を背にして店の扉を開けると、扉を閉めずに店を出ていった。
「……もう希海! あんた私たちの代表でしょ! ちゃんと応対しなさい!」
 二人組の姿が見えなくなった瞬間、沙軌は事務室にいる希海に対し怒鳴り声を上げ、事務室の扉を開けて中へと入っていく。
「あらら~……どうしようか~……ね?」
 呆れた表情で見つめ、芽瑠は店の外にいる女の子に視線を合わせる。
 女の子は彼女に話しかけてきた。
「あ、あの……入ってもいいですか? まだ営業中ですよね……」
「勿論だよ。入って入って♪」
「お邪魔します」
 女の子は鼻水をすすり、暖かい店内へと足を踏み入れた。


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 お話はEPISODE02 Vol.1へと続きます。

 次のエピソードから有料となりますが、気に入っていただけた方、楽しんでいただけた方は続きもお手に取っていただけると大変嬉しいです!😊

 この度は貴重なお時間の中、最後までお読みいただきありがとうございました!✨

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