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リザエレ! エレミネイション+ウィンクルム EPISODE 04 『トレーニング with REAL ENGINE 4』 Vol.1

はじめに

 この度は数ある記事、作品の中から本作品(「リザエレ! エレミネイション+ウィンクルム」)をお手に取っていただき、心より感謝を申し上げます。

 度々のお願いで恐縮ですが、お読みいただく際の注意事項を以下に添えさせていただきます。

 本作品は現在『note』のみで連載しております。その他のブログサイト、小説投稿サイト、イラスト投稿サイトでは連載しておりません。この作品は一部無料にて公開しているものですが、掲載されている画像、文章などは著作権フリーではありません。無断転載、コピー、加工、スクリーンショット、画面収録、AI学習及びプロンプトとして使用する行為はお控え頂くよう、ご理解の程よろしくお願い致します。

 この作品の物語はフィクションであり、登場する人物、場所、団体は実在のものとは一切関係ありません。また、特定の思想、信条、法律・法令に反する行為を容認・推奨・肯定するものではありません。本作には、演出上一部過激な表現が含まれております。お読みの際は、十分ご注意ください。





Chapter 21 「Real world situation」


 ――朝。


 静かな部屋に鳴り響くポップアラーム。愛叶は眠りから目を覚ます。
 布団と毛布を取り払い、ベッドから起き上がる。枕元に置いてあるスマートフォンを手に取って、カバーディスプレイを注視する。
 画面には芽瑠からのメッセージを知らせる通知が表示されていた。通知ウィンドウをタップしフェイスラインを起動する。

 める
 》『みんな、心配かけてごめん。病院の先生から二週間ほど入院してって言われちゃった』

 》『フェアリススーツのおかげでどこも骨折しなかったんだけど、鼻だけは折れちゃってたみたい』

 》『今はめっちゃ鼻と口の中が痛くて、飲み物も食べ物も沁みて呼吸も辛いけど、戦っているときと比べたら全然楽勝だよ』

 チャットにはメッセージがつづられていた。
 それを読んだ愛叶は自然と笑顔になった。スマートフォンを開いて芽瑠宛てにメッセージを送る。

 《『わたし、みんなと一緒に戦えるようにトレーニング頑張るから! 芽瑠も治療頑張って!』

 このメッセージの数十秒後、彼女から返信が届く。

 める
 》『ありがとう! 頑張りすぎて怪我しないようにね!』

  スマートフォンを胸の辺りで握りしめ、一緒に心を躍らした。

「うん。今日はいいことありそう! あっ!」
 
 《『お見舞いいつ行ったらいいかな? あとで教えて^^♪』
 《『あと場所も!』

 める
 》『👌☆(-_^)』

 ウインクをしたキツネのキャラクタースタンプが即座に返信された。愛叶も素早く指を動かし、喜ぶ猫のスタンプを送信。その約一秒後には既読済みラベルが付いた。
 笑みをこぼしていると、――ピンポーン。タイミングよく玄関の呼び鈴が鳴った。愛叶は急いで部屋を出て応対する。

 《「おはようございまーす。郵便局でーす。勇木さん宛てに封筒を届けに参りましたー。玄関前の置き配ボックスに投函致しましたのでご確認お願いいたします」》

「はい、ありがとうございます。ご苦労様です」
 愛叶は通話終了ボタンを押した。
 スマートフォンの時計を見る。時刻は朝の七時十分。昨日も同じような時間帯に来たような……。
「ん? 今日は郵便受けにじゃないんだ。というか、来るのやっぱり早くない? 本当に郵便局の人なのかな?……あとで管理人さんに訊いてみよっと」
 気持ち悪さを感じるも愛叶は玄関へと向かう。
 一応警戒しながらドアを開け、玄関前の置き配ボックスに素早く手を伸ばして白い封筒を掴み取る。施錠し、リビングへ。
 テーブルに白い封筒を置いて椅子に座り、トースターにパンを入れてボタンを押す。昨日と同じ行動パターンだ。
 差出人不明の白い封筒の宛名には、彼女の名前と住所が書かれていた。
 愛叶は封筒の蓋を開けて中身を確認する。
「何か入ってる……あっ!」
 封筒の中に手を入れて、長方形の物が張り付いた紙を取り出した。封入されていたのはルートの会員証メンバーカードだった。
 自分の顔写真と名前、生年月日、血液型、個人ナンバーカード番号、会員バーコード、会員ランク、所属ネオボランティア団体名には『リザエレ!(リザレクトエレメンツ!)』が記載されている。
「ほあぁ、これがヒーロー会員証……!」
 カーテンを開けて、朝の光に当ててもう一度会員証を見る。
 彼女が今まで見てきた会員証の中で一番しっかりとした作り。カードはプラスチックではなく、丈夫なカーボン素材で出来ていて、ふちはブロンズで覆われている。
 昨日投函した書類の返信ともいえるルートの会員証が、わずか一日で届いたことに違和感を感じるものの、あまり気にはせず、愛叶は喜びで受け流した。
「ふふふ、これでわたしも……! そうだ、みんなに教えないと!」
 彼女はありがとうのスタンプと喜びのメッセージを芽瑠と沙軌に送り、エレメティアでそのことを希海に知らせた。


 *


 昨日とは違い、気分上々で学校に登校した愛叶。自分の席に座り、コートを椅子に掛ける。
 前の席に座る牧島コハナに挨拶をし、彼女がお気に入りだというズットモッター動画配信者『モタおじ』の話と昨日食べたクレープサンドの話題で盛り上がった。
 担任の進藤先生が教室に入る。生徒たちとの挨拶を交わした後、先生は出席確認を始める。
 今日も希海は学校には登校せずリモート出席。進藤先生から芽瑠の欠席が伝えられ、クラス中がざわめいた。勿論であるコハナも血相を変えて驚いていた。

 一時限目は家庭基礎。授業が始まるまで少しだけ時間がある。急に用を足したくなった愛叶は速足でお手洗いへと向かった。
 お手洗いへ入ってすぐ、洗面台の前で鏡を見ながら化粧メイクをしている二人の生徒がいた。
 右側に立つ生徒は、カールのかかった茶色い髪、腕にはシュシュ、丈を短くしたスカート、白のショートソックス、パーカー下のシャツは胸元が見えそうなほど開いている。
 左側に立つ生徒は、シルバーミディアムにリボンカチューシャ、同じく丈の短いスカート、黒のルーズソックス、手が半分まで隠れるほど大きいニットカーディガン。二人の見た目は、陰キャと陽キャのギャルといったところ。
 愛叶は挨拶を交わし、真ん中の便器のある空間に入る。
 扉を閉めて鍵をかける。タイツ、ショーツをゆっくりと膝下まで降ろして便座に座る。スカートをたくし上げた――『ねえ、レイラ聞いた? 華山さん、怪我して病院に運ばれたんだって』『マジ? 何があったの?』――生徒たちの会話が溜水に流れ落ちる音に混じって聴こえてきた。

 『イーナスで男の人と口論になって、思いっきり殴られたらしいよ』
 『えー、かわいそうぉ。男の人って誰かな? もしかして彼氏?』
 『殴ってくるようなランクの低い男とは関係なんか持たないでしょ。持ってたとしても華山さんの親が許さないと思うよ』
 『だよねー。あたし正直思うんだけどさ、華山さんレベルの子、学校に来なくてもいいよね』
 『そう思ぉう。あと高乃さんも。高乃さん、この間学校に来たときに一緒にご飯食べようって誘ったんだけど無視されたよ。あの子、校則破ってるよね』
 『モエナもそうされたんだ。あの子うちらのこと見下してるように感じるよね。話す相手はいつも華山さんだけだし……』 
 『ホントっ、どっちもお偉いさんの娘なんだからさ、こんなバカ私立高校に入んなくたってコネで一流高校に進学できたでしょ』
 『ね~調子乗んなって感っじ~。あ! 一つだけうちらと違うのは、二人とも彼氏がいないことだよね~』

 聞こえの悪い笑い声が愛叶の心の中をまた曇らせる。さっきまでのポジティブな気持ちが不要な水分とともに身体から抜けていく。
 まさか、希海と芽瑠がこんなにも忌み嫌われているとは……。愛叶はこのことに驚きを覚えると同時に、何故か自分まで否定されているかのような感覚に陥った。
 キツイところもあるけど、希海はいい子だよ。芽瑠も嫌味で学校に来てるわけじゃない。誤解はしてほしくない。と、説明しようと頭の中で考えたが、そこにいる彼女たちは同じクラスメイトじゃない。

 (ここでわたしが二人を擁護するようなことを言ったら、あの子たちに変な噂広げられそうだよ……。今度会ったら自己紹介でもしよう。和解するのは仲良くなってからだね……)


 *


 ――昼休み。今日はコハナと一緒に昼食を取った。
 ホームルームで芽瑠の怪我の知らせを聞いてから、コハナはずっと轟沈してたらしい。
 今日は気分が落ち込むことが多いよね。けど、元気出していこう!――そう自分にも言い聞かせるように愛叶はコハナを励ました。
 今度一緒に芽瑠のお見舞いに行こうか。と愛叶は提案。コハナは、是非とも。と喜んで了承してくれた。

 午後の最初の授業は化学。
 桐生先生のふくよかな体型とデジタル黒板に書かれた専門用語、複雑な化学式が眠気を誘ってくる。
 から襲ってくるような睡魔と戦いながら、黒板に書かれているものをタブレット端末にメモしていく。重要な箇所は教員生徒共有ファイルからダウンロードし、タブレット内の授業ファイルに保存した。


 ◇


 授業終了のチャイムが鳴る。一日の学校生活があっという間に終わってしまった。
 でも、まだ一日は終わらない。放課後は〝ヒーロー〟になるためのトレーニングだ。
 コハナに手を振って別れた後、愛叶は希海たちとの待ち合わせ場所、ルート東浜辺支部南館へと向かう。


 ◇


 ルート東浜辺支部の横に立つ、神殿のような建物。太陽を模した形のルート東浜辺支部南館。その入り口を入ってすぐのエントランスホール内で、レザーソファーに座る私服姿の希海が。彼女は片腕を組みながら缶ソーダの飲み物を飲んでいた。
 希海は愛叶が来たことを認識すると、何も言わず左手を小さく上げた。
「ごめん、来るの遅かったかな?」
「十分前には着いてたけど、面白いものを見てたから退屈はしなかった」
「面白いもの?」
 愛叶はそう訊き返すと、希海はゲート手前にある横に細長い窓ガラスを指さした。
「そこの中を覗いてみ」
 愛叶は首をかしげながら窓ガラスに近づき、中を覗き込む。
 四方白い壁に囲まれた広い空間に、一人の女性が縦横無尽に動き回るドローンに向かって、直接手から何発もの火炎弾を放っている。
 火炎弾は一発も誤射することなく、確実にドローンを仕留めている。爆発音がガラスを揺らした。これに思わず声が出た。
「わっ! な、何あの人?! て、手から炎が! しかも一発もミスってない。すご……」
「あれは超人の能力を持ったルート南浜辺支部の職員の人だな。ここに来たついでにトレーニングしてるっぽい」
「超人の能力? イヴィディクトとは違うの?」
「違う。確か……プルなんとかとか言ってたような。ああいう力を使える人も他の街にはいるんだよ」
「え、え……知らないよそんなの」
「そのための情報規制だしな。限られた人にしか教えられない」
「事実ならみんなに教えたほうがいいと思うけど……ダメか」
 突然、轟裂音がガラスを揺らした。さっきとは違うその音に二人は驚く。
「……あの人の力やばいな」
「だね。なんか怒ってるみたい……」
 もう一度轟裂音がガラスを揺らす。二回目でもその音に二人は驚いていた。

 ルート東浜辺支部南館は、戦闘を主体としていないルート東浜辺支部職員専用の訓練施設として建てられたものだが、要望に応えて、今年の夏、他の支部のルート職員や会員も利用できるようになった。
 南館の規模は本館よりも一回り小さいが、実技訓練棟と研修棟に分かれ、地上二階、地下一階で構成されており、この支部にしかないリアルエンジンフィールド戦闘訓練場を兼ね備えている。
 各訓練場はルート職員が扱う武器や能力の訓練を惜しみなく行えるよう、最大一千万トン、十万度以上の熱、衝撃に耐えられる構造になっている。

「うあわっ! あの人、背中から羽出したよ!? あ、と、飛んでる!!」
 興奮に目を煌めかせながら覗き見ている愛叶をよそ目に、希海は愛叶に話しかけた。
「お前今日から本格的にリザエレのメンバーになったんだよな。おめでと」
「ありがとう~。希海、これからもよろしくね」
 愛叶はルート会員証を希海に見せた。彼女はクールに微笑んだ。
「あっ、でも、会員登録の手続きとかあんなに簡単でいいの? 親の同意とか、顔を合わせて本人確認とかしなくて平気?」
「ナンバーカードには個人情報のほとんどが記録されているから、同意書も対面での本人確認も必要ない。名前や住所に変更がなければ、登録には読み込み端末とナンバーカードさえあれば簡単に済む話なんだよ」
「ふ~ん、そうなんだ~。登録はデジタルなのに封筒で会員証のカードが届くところはまだまだアナログなんだね」
「あん」頷いた希海はエレメティアで時計を見た。待ち合わせ時間を過ぎているのにも関らず、沙軌はまだやって来ない。
「おいおい、今日は仕事休みのはずだぞ」
「沙軌さん、遅れるって連絡なかったよね」
「おん。沙軌が来ないと中に入れないんだよな」
 エントランスホール入り口の自動ドアが開く。
 入ってきたのは黒いコートに上下黒スーツ姿のスラっとした体系の女性。風林沙軌がようやく到着した。
「お疲れみんな~。ごめんね待たせちゃって……」
「あ、沙軌さん!」
「遅れるなら連絡しろよな。さっさと中に入るぞ」希海は椅子から立ち上がり言う。
「もうせっかちだな希海は~。少し落ち着かせてよ。あっつぅ~」
 沙軌はコートと下のジャケットを脱ぎ、希海が座っていた椅子に腰掛ける。
「沙軌さん、そ、その恰好は……」
 第二ボタンを外したシャツの裏に隠れていた首元、細身のスラックスから見える足首と黒パンプス――脚を組んで座る彼女の色っぽい姿にドキドキしながら愛叶は尋ねる。
「これ? 実はさっきまで、すぐ隣のルート東浜辺支部に面接に行ってたの」
「へっ、募集なんかしてるんですか?」
「うん。一般事務職の募集なんだけど、大卒以上なら受けれるから受けてみようかなって。まあ、倍率高くて受からないとは思うけど」
「受かりますよ絶対!」
「ふふっ、ありがとう愛叶ちゃん。そういえば、あれ以来の久しぶりだね」
「はいっ、初めて会った日以来ですよね」
「そうね。あの日バイトが無かったら、もっと長くいられたのに~。って、今そんなのんきなこと言ってられないよね。私たちもっと強くなれるようにトレーニング頑張らなきゃ!」
「そうですね。わたし頑張ります! たくさんしごいてください!」
「しごくって……私たちがしごかれる側なんだよね……」
 沙軌は希海をチラ見する。
「あ、そうだ愛叶ちゃん。これからしばらく一緒に活動するわけだし、互いにかしこまるのやめようか。私のことは沙軌って呼んで。よろしく愛叶」
 沙軌は愛叶に右手を差し出した。愛叶も右手を出して握手を交わした。
「よ、よろしく沙軌!」


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Chapter 22 「彼女らなりの射撃訓練」


 ◇


 月明かりに照らされる夜空の下、ライトアップされた実技訓練棟二階B-3総合射撃場は、横幅二五メートル、奥行き二〇メートル、およそ一五メートルの壁に囲まれた屋外の空間。標的を出現させるための細長い縁の装置が放射状に五メートルの間隔を空けて設けられている。
 実銃の免許を所持している希海がインストラクターとなり、愛叶は基本的な銃の取り扱い方をリザエレの武器を通して学ぶ。
 まずはストレッチ。腕、肩、首、腰、脚の固まった筋肉をほぐし、血液を体全体に行き渡らせる。
 二人の姿を見て沙軌は微笑み、全身をほぐした後、射台の後ろにある操作室に入る。
 全身が温まってきたところでストレッチをやめ、愛叶と希海はエレミネイションスーツ/フィアレス、エレミネイションスーツ/ファラロスに変着し、それぞれの武器を取り出す。
 希海が持つ青い銃を見つめ、愛叶は尋ねる。
「この青い銃の名前は[水声銃すいせいじゅうウォタガンフル]だ。モデルになっているのはショットガンとアサルトライフル、あとウォーターガンだな」
「へー、だからウォタガンフルなんだね。じゃあ、わたしのツインフレイムイーグルにもモデルがあるんだ」
「あん。お前のは昔実際に販売されていた銃がモデルになっている。名前もそれから取っているみたいだ」
「へ~なるほど。それでかっこいい名前なんだね」
「雑学はこれぐらいにして、これから訓練を始める。そこの射台に立って」
 希海の指示に従い、愛叶は半四角形に括られた白い枠の中に移動する。
「武器を使ってターゲットを撃つ前に、まずはおととい教えたことのおさらいをする。その二丁のフレイムイーグルを合体させてみろ」
「イエッサー!」
 愛叶は右手に握るフレイムイーグルと左ホルスターに収納されているリトルフレイムイーグルを取り出して、若干もたつかせつつも、見事二丁を合体させる。
「次はその二つを分解して、どちらかをホルスターにしまい、残したほうの安全装置を解除しろ」
 希海の指示通り、ツインフレイムイーグルを分解。リトルフレイムイーグルを左ホルスターにしまい、フレイムイーグルの側面にある安全装置を外した。
「出来ました!」
「よし、次は攻撃を行う前の動作を確認する」
「攻撃を行う前の動作……あれ? なんだっけ……。チャージトリガーを引く前に何か一つあったような……」
「これを見たら思い出すだろ」
 希海は銃の上部を引く動作を見せた。
「上の部分を引く? ……あっそうだ!」
 愛叶はグリップ上部にあるスライドを引いた。
「そうだ。次はその状態で技を放つときの準備とキャンセル方法だ」
「それなら簡単だよ」
 フレイムイーグルの白いトリガーを数回引いて、グリップ下部を押して技の発動をキャンセルした。
「『リジェクト』を言っても回数はキャンセルできるんだよね」
「おん、その通り。これでおさらいは終わりだ。では、射撃の訓練に移行する。間違ったところを教えるから、まずはお前なりの銃の握り方と構え方をしてみろ」
「りょ、りょーかい」
 愛叶は右手でフレイムイーグルのグリップを握り、用心金の中にあるアタックトリガーに人差し指を置く。左手は右手を下から支えるように添えた。
 前方へ伸ばしている両腕が「ピンっ」と張り詰めている。
 彼女の握り方を見て希海は指摘をする。
「その銃の握り方、間違えてるぞ」
「へっ? 違うの?」グリップを握る手を右手から左手に持ち直す。
「違う、人差し指と添えている手の位置だよ。握り方はこうだ」
 希海はウォタガンフルでグリップの握り方を見せる。
「実銃と同じで、狙いをつけて撃つとき以外はアタックトリガーに指は掛けない。人差し指はこう……用心金の横、またはフレーム側面に付けておくんだよ」
「へ~、そうなんだ~」
「アタックトリガーにずっと指をかけてたら、転んだりしてしまったときに自分の体や周囲の物に誤射してしまう可能性があるからな」
「わ、危ない」
「で、片足を一歩前に出して前傾にやや姿勢を取る。そしたら張り詰めない程度に腕を伸ばして標的がいる方へ銃口を向けて構える。顎は少し内側に引き、片目で照門を覗いて照星を的に合わせ、狙いを定めたらアタックトリガーに人差し指を置いて、呼吸を整えて……撃つ!」
 ウォタガンフルの銃口からアクアマリン色の光弾『アクア』が発射された。
 水光弾は射撃場の壁に当たると液体に飲み込まれるように消滅した。
「この通り、壁に当てても平気だから、何回か技を含めてやってみて」
「わかりました教官!」
 教えられた手順に従い、愛叶はフレイムイーグルを構えて火炎弾『イグニス』を数発放つ。
 続いてチャージトリガーを二回引く。狙いをつけてアタックトリガーに人差し指をかける。『オリエンス・イグニス』の技名がリアサイト上部に表示されている状態で引き金アタックトリガーを引いた。
「わあ!」
 大火炎弾が発射されたのと同時に構えていた腕が引き戻り、愛叶はバランスを崩して床に倒れこんだ。
「おい、技に反動あるの忘れたか?」
「わ、忘れてた~」
 愛叶は差し出された希海の手を掴み立ち上がる。
「反動に耐えるためには両足をもうちょっとこう、肩より大きく前後に開くか、『人』の字に横開いて体勢を中腰にする。左手は下からじゃなくて横から添えるようにして、左腕は伸ばした右腕を支えるように腕はしっかりと伸ばしつつ、ゴムのように柔軟にしておく」
「うわ、難しい……。どっちも腕も腰も痛くなりそう。じゃあまずはこっちで構えて撃ってみよう」
 愛叶は足を『人』の字に横開いて腰を少し低く浮かせる。腕をしっかりとゴムのように伸ばし、グリップを握る左手を横から右手で支え、側面、中央、天井に向けて何発か技を放った。大小の火炎弾が当たる度に僅かな火の粉が舞い壁の中へと消えていく。
 さっきは受けてしまった『オリエンス・イグニス』の反動が握り方を変えただけで抑えられている気がする。
 実感した愛叶は次に両足を前後に出した状態で、もう一度同じ箇所へ技を放つ。彼女の体を覆う赤紫のエレミネイションスーツは技の反動を受け止めて小刻みに揺れていた。
 ある程度感覚をつかんだ彼女はそっと息を吐き、炎鷲銃フレイムイーグルを下ろした。
「まあまあだな。次はホルスターから銃を取り出して射撃する練習だ」
「おお、ガンマンみたいにできるの?」
「期待はするな。これから教えるのはかなり地味だぞ」
 希海はウォタガンフルを背中の装備位置に配置する。
「あたしの銃やフレイムイーグルは一度装備位置にしまうとスライドが初期化されてしまう。再び銃を取り出した際はスライドを引く動作が必要になる」
「めんど……銃って複雑だね」
「そこで、その動作を行いながら効率よく構えることができる方法がある。ホルスターから銃を取り出してスライドを引く際、銃口は下には向けず、標的に向けたまま行う。そうすることで構えた際に体勢を維持したまま素早く射撃することができる。ちょっと借りるぞ」
 希海は愛叶からフレイムイーグルを借り、その方法を実践する。
「見てろ」
 中腰姿勢の状態から、太もも辺りからフレイムイーグルを取り出し、銃口をまっすぐ向けたまま、グリップ下部を上に向けた状態でスライドを素早く引き、腕を伸ばして構える。
 力強くグリップを握り、左手は右手を守るように支えている。人差し指はしっかりとフレーム横に付けている。
 その動作は僅か一秒半ほどだった。
「へっ、いきなり上級者向けじゃん!?」思わず愛叶はなげいた。
「今みたいに素早くやれとは言ってない。ゆっくりとでいいからやってみろ」
「わかったよ」
 愛叶は一度ホルスターにしまったフレイムイーグルを中腰姿勢の状態から、右手で力強くグリップを握り、フレイムイーグルを取り出す。銃口はまっすぐに向けたまま、グリップ下部を上に向けた状態でスライドを引き、曲げていた両肘を銃口を突き出すように伸ばして構える。
 希海が愛叶の手元を覗く。
 左手は右手を守るように支え、人差し指はしっかりとフレーム横に付けている。
「そんなもんだな。まあ、スタンスによって握り方、構え方、動作は細かく変わってくるから、今教えたものは絶対的に正しいものじゃない。自分に合った撃ち方を見つけて体に覚えさせろ」
「なるほど~、奥が深いね」

 《「二人とも、そろそろファースト・ステップを始めたいんだけど、設定はどうする? 何か要望があったら言ってちょうだい」》

 操作台から沙軌が呼びかける。

「特にはない。その他設定は沙軌にお任せする」

 《「オッケー。じゃあ、設定するわね」》

「希海、何を撃ち落とすの?」
「今から始めるのは菱形のターゲットの撃破だ。固定、上下左右前後に移動するそれらをどんどん撃ち落として感覚を身につけろ」
「うお、できるかな……」

 《「はい、準備できたわよ。二〇秒後にカウントが開始されるから準備して」》

「うん!」
 愛叶は足を横に開いて体勢を取り、武器を下ろした状態で構える。隣でウォタガンフルを構える希海は訓練の補足した。
「ターゲットは出現してから五秒ほど経って視界から消える。なるべく早く正確に撃て。撃破しきれなかったターゲットはあたしが処理する」
「りょーかい。よし……」
 3、2、1、ビー!――スタート音とともに菱形のターゲットが二人の前方中央に三つ出現する。一二〇センチほど大きさのターゲットには07、02、03の番号が付いている。
 構えた両腕を上げて、愛叶はターゲット07に向けて技を放つ。
 火炎弾が弾着し、ターゲット07はガラスのように粉々に砕け散る。続けて隣のターゲット02を撃破。さらにターゲット03に向けて弾を発射する。
 見事五秒以内に全てのターゲットを撃破することができた。
 次はWの字に白色のターゲット五つが出現する。
 フレイムイーグルを再び構えて、愛叶はターゲットを撃つ。


 ◇


「ふう……」

 《「お疲れ様。すぐにセカンド・ステップが始まるわ。備えて」》

 沙軌がそう言ったすぐ後に、中央右からターゲットが三つ連なって出現した。
 銃を構え、愛叶は010、01、05のターゲットを一つずつ確実に狙い撃破する。
 続いて左上奥から三つのターゲットが出現。先ほどとは違って大きさと数字が小さく見える。
 狙いを定めて撃つが、人が歩くスピードで動くターゲットになかなか技が当たらない。
 結局ターゲット09しか撃破できず、残りは希海が処理した。
 次は奥から手前に移動してくるターゲット08が出現。愛叶は余裕といった表情で撃破する。しかし、ターゲットは一つだけではなかった。
「うわ、もう一つ?!」
 慌ててアタックトリガーを引く。撃破したターゲット06の奥にさらにもう一つ、ターゲット04があった。愛叶は再び慌て、アタックトリガーを引く。ターゲット04を撃破。
「動揺した状態で弾を撃つな!」希海は愛叶に指摘する。
「は、はい~!」
「返事はいい!」
 続いて手前から奥へ移動するターゲットが三つ出現した。今度は文字と色付きだ。愛叶は意識を集中させ、連続で火炎弾を放つ。標的が最奥へ行く前にターゲットA、B、Cを撃破した。

 《「愛叶、気を抜かないで。最後に上下左右前後から一気に来るわよ」》

「へっ?! 無理だよ!」

 《「全部は撃破しなくていいわよ」》

 沙軌の予告通り、ターゲットが上下前後左右から三つずつ出現した。合計一八個。さすがにこれらすべてを五秒以内に撃破することはできない。
 愛叶はまた慌ててしまい、また希海からお叱りを受けてしまう。番号字なしの黒で統一されたターゲットをどれから撃破すればいいか分からなく、頭の中が混沌としている。
 彼女が撃ったターゲットの列がまばらになっている。残りは希海が素早く打ち抜いた。

 ブー!――全てのステップ終了を知らせるブザー音が鳴り響いた。

 愛叶は肩の力を抜いて武器を下ろす。
「はぁ、終わった……疲れた~」

 《「お疲れ愛叶、初めてにしてはよくできたほうよ」》

「もう、途中から慌てちゃって何個撃破したか覚えてないよ……。でも、楽しかった」
「お疲れ。これで射撃訓練はお終いだ」
 希海は背中に武器をしまい、エレミネイションスーツを脱着した。
 愛叶も武器をホルスターにしまい、エレミネイションスーツを脱着する。
「ねえ、希海、今日の訓練はこれで終わり? なんか物足りないんだけど」
「これで終わるわけないだろ。沙軌の訓練が終わったら、次は地下一階にある訓練場で実習訓練を行う」
「実習訓練……変着して自由に動いて戦えるの?」
「あん。それが今日のメインだからな」
「本当? うわ~楽しみ~!」
「……お前、やる気があるのはいいけど、やる気ありすぎて戦闘狂になるなよ」
「それってバーサーカーのこと? ならないよ。ただそっちのほうが早く身になるかなって思っただけ」
「沙軌と同じこと言ったな……」
「奇遇ね愛叶、私もこのターゲットの訓練嫌なのよ。神経使うっていうか、妙に堅苦しいのよね。自由に動いて戦って感覚を身につけるほうが効率いいわ」
 操作室から出てきた沙軌は言う。
「沙軌もそう思う? だよねー」
「そんなに嫌なら次回からここの予約入れないぞ。その代わり実習訓練のほうを厳しくするからな」
「ごめん~、やっぱり予約入れておいてちょうだい」

 次は沙軌の射撃訓練。
 普段彼女は武器を槍状態ランスモードにして戦闘を行っている。風の矢を放てる弓状態アルカモードを使うこともあるが、未だにアルカモードの扱いが苦手である。彼女曰く、槍から弓に変形させるのが手間で時々指を挟みそうになるし、振り回す方が無双感があって好きだから、近接戦のほうが自分は向いているという。だが、例え苦手でも、手を抜かずに真剣に臨む沙軌の姿は愛叶には格好良く映っていた。


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Chapter 23 「彼女らなりの戦闘訓練」


 沙軌の射撃訓練が終わり、三人は小休憩を入れた後、次の訓練を行う場所がある実技訓練棟地下一階へ。
 吸い込まれていきそうな吹き抜けに架かる下りエスカレーター。手すりに両手をかけて沙軌は後ろを振り返り、希海に話しかけた。
「そういや、希海と一緒にトレーニングするの久々だったわ。最後一緒に訓練したのは二か月ぐらい前だっけ」
「多分そのぐらいだな。暑い時期だったのは覚えてる」
「八月、九月……その頃は某会社の仕事と飲みの付き合いで忙しくて……」
「間違いを指摘したら会社クビにされたんだよな」
「そうそう~。明らかにおかしな箇所があったからマニュアル通りに報告したのに、仕様です。問題ありません。って返答されてさ、いざアップデート配信日になったら、ユーザーの方からすぐにお問い合わせがあったらしくて、『ジーク・ランス』の髪の毛の色が前のバージョンと若干異なる。不具合が見つかりました~。って、先方から連絡が来ちゃってさ、そのあと会議室に呼ばれて説教。結果私だけが悪いことになって、一か月後には辞めさせられるんだもん……理不尽だよね」
「ジーク・ランス……それってミステリューズの話?」
 希海の後ろに立つ愛叶が思い当たる節を語る。
「そうよ」

 ミステリューズとは、株式会社ナギサミが開発したスマートフォン・ブラウザ向けのアプリケーションゲーム。ジャンルはアドベンチャー・シミュレーションRPG。

「それわたし遊んでたよ。ジーク君かっこいいよね。沙軌ってゲームクリエイターだったんだ~すごい~!」
「ゲームクリエイターではないんだけどね……ただのデバッ――あっ、辞めても守秘義務は守らなきゃいけないんだったっけ。ごめん! 今の話は妄想ですっ!」
「ええっ~! 嘘なの?!」
「だけど、半分ホントよ」
「どっちなの~!?」
 嘘なのか、本当なのか、愛叶はわけがわからなくなった。希海は機転を利かせ、就活のことについて訊ねてみる。
「今日行った面接以外にも受けに行ってたんだろ。さすがに一社ぐらいからは内定来てるだろ」
 沙軌は呆れた表情で首をゆっくりと横に振った。
「……それがゼロ。羽曽ぱそうさんと菱山ひしやま首相のタッグによる構造改革をもろに受けてる世代だからね。一昔前と違って女性の正規雇用率はかなり低いから就職は難しそうだよ……とほほ」
「まじか。あたしらはどうなるんだろうな。大丈夫かな」
「希海たちは早くいい男見つけて結婚した方がいいよ。男も女も単身者にはちょよ~キビしい社会になってるから」
「あたしたちより、沙軌は自分のことを心配しろよ」

 風林沙軌。彼女は以前アプリゲーム開発のデバッグ業務を行う契約社員として人材派遣会社に勤めていたが、理不尽な解雇に遭い無職となった。現在は掛け持ちのバイトとリザエレの活動をしながら、就職活動を行っている。それで毎日が多忙な日々……とまではいかないが、高校生の希海たちとは予定が合わせにくいため、一緒に訓練できる機会が少ない。訓練施設の予約が取れないときは、自宅近くの公園でトレーニングをしているという。
「就活は諦めて、リザエレ一本で食っていくっかな。会社化したらとりあえずは安泰だわ」
「おい、勝手に商売道具にすんな。そんなこと考えているならメンバーから外れてもらうぞ」
「じょ、冗談に決まってるでしょ……。もう、固いな希海は……」
 希海に正論を言われ、慌てて本心を誤魔化す沙軌だった。


 ◇


 天井高三〇メートル、床面積約一七〇〇平方メートルの巨大な白い空間――実技訓練棟地下一階A-1リアルエンジンフィールドには射台や発射台、天井に張り付くイカの姿はない。あるのは方眼紙模様の床と中央に赤い円、底面に備え付けられている排気口だけ。
 この場所でどうやって戦いの訓練をするのか。愛叶は希海に訊ねた。
「わかりやすく言うと、この白い空間は巨大な3Dプリンターの中といったところだ。ここではリアルエンジン4システムを使って生成されたフィールドでターゲットを相手に訓練をする。攻撃を受けたり、当たったりすれば当然痛いぞ」
「うわお、本格的だね。当たったらどれぐらい痛いの?」
「それはレベルによる。レベルが高ければ高いほど重傷になるリスクは高まる。ターゲットの強さはレベル1からレベル5まである。今回使用するのはレベル3。レベル3は重い技を一回放てば確実に倒せる強さだ。最初はこのシステムに慣れるためにディスクドローンと戦ってもらう。その後は虎型のターゲット三〇匹と戦え」
「ドローンに、と、虎三〇匹?!」
「一人で戦うわけじゃないから大丈夫よ。希海、先に愛叶と訓練させてもらうわ。細かい設定はお任せで」
「わかった。準備するから、それまで控室でストレッチと軽いランニングをしておいて。終わったら変着してフィールド中央の赤枠の中に立ってくれ」
「わかったわ。愛叶、行きましょうか」

 沙軌と愛叶は互いに体をほぐす。軽く冗談を言い合えるほど二人の仲は縮まった。六つ離れていても、その距離は同い年の同級生と何ら変わりはない。二人はもう友達だ。
 ストレッチが終わり、ランニングマシンで軽く走った後、二人はエレミネイショスーツに変着してフィールド中央の赤枠の円の中に立った。
 沙軌は小刻みにジャンプし、愛叶は腰を回し動かしている。
 フィールド内に希海の声が鳴り響く。

 《「設定の確認をする。ファースト・ステップはディスクドローン、数は二〇機。セカンド・ステップは虎型のターゲット三〇体、フィールドタイプはビジネス街、ターゲットから逃げ惑う人々あり」》

「えっ、ビジネス街? 逃げ惑う人々ありって……人も生成できるの?」と愛叶が驚く。
「勿論全部本物じゃないわ。昔のゲームポリゴンみたいな感じよ。リアルのシチュエーションに近いようにしておかないと、実際に町で敵が現れた時に対応できないでしょ」
「う~ん……大丈夫かな。パニックになったらどうしよう」愛叶は眉根を狭めた。
「そうならないためにここで鍛えるのよ。自信持ちなさい」
「……うん!」

 《「これで始めるぞ。追加したい設定があったら言って」》

「そのままでいいわ。うーし、バッチコーイ」そう答える沙軌は機械槍を回し、肩を慣らす。

 《「わかった。生成を開始する」》

 機械の動く音とともに、愛叶たちの周囲の床面からゆっくりと天井へ向かって大木が伸びるように薄い翡翠色の特殊合成樹脂の街並み――立体モデルが生成されていく。
 口を開けて驚く愛叶。沙軌は、すごいでしょ。と彼女に問いかけた。

 《「出来上がるまでにちょっと時間かかるから、その間に訓練の補足を説明する。ディスクドローンを含めたターゲットはあたしが設定したプログラム通りに動くけど、まれに予測不可能な動きをするヤツが現れる場合がある。その時は慌てずに落ち着いて対処しろ」》

 《「ターゲットは倒すまで消えない。撃破されたターゲットは粉々になってすぐに溶けるから何も気にしなくていい。今生成されている建物も訓練終了時に蒸発させるから、破壊しても構わない。登ったり隠れたりして、どんどん活用しろ」》

 《「もうすぐ完成するぞ。二人とも準備しろ」》

 沙軌は[槍声弓そうせいきゅうランスアルカ|ランスモード]を、愛叶はフレイムイーグルを構える。
 
 《「準備完了。訓練開始」》

 開閉音がどこからか響き渡り、風を切る羽音が聴こえてくる。
 を見上げる。建物の陰から直径約六〇センチほどの円盤型浮遊機体ディスクドローンが現れた。
 五機のディスクドローンは三角形に編隊を組んで愛叶、沙軌を目がけて飛んでくる。
「わああ!」
「愛叶、落ち着いて。相手は突っ込んでくるだけだから、じゃんじゃん撃ってちょうだい!」
 沙軌は宙を舞うディスクドローンに向かってジャンプし、機械槍を振り回して一機破壊する。愛叶は技を発動して何機か撃ち落とす。
 砕けたディスクドローンは床の上で瞬時に融解し蒸発する。
「ほへ~」
 愛叶は関心しながら、視線を空に戻す。
 ディスクドローンはさらに五機現れる。沙軌は技をチャージして、「オリエンス・ランス!」を放った。風光槍は円盤型浮遊機体を四機破壊した。
 愛叶はディスクドローンに向けて、、火炎弾を放っていく。しかし、思うところに弾がかない。
 今戦っている相手は円盤。銃口をターゲットに確実に合わせなければ破壊することはできない。ここは一機だけでも……。彼女は願いながら撃ち続けた。
 その願いが叶ったのか、一機のディスクドローンが一瞬にして燃え尽きた。下手な鉄砲も数撃てば当たる。愛叶はターゲットを撃破した。
「やっぱり、ちゃんと狙って撃った方がいいね」

 《「残り十機。これはランダムで飛んでくるぞ」》

 新たに十機のディスクドローンが出現。
 次から次へと迫りくるディスクドローンは一つ一つ意志を持って飛んでいる。愛叶は近くの建物の陰に隠れたいが、避けるのに精一杯だ。
「わわ、どうしよう!」

 《「沙軌、助けてやれ」》

「わかってるわよ! 愛叶、私が引きつけるから、その隙に急いで隠れて」
 沙軌は愛叶の前に出てディスクドローンを引きつける。
「りょうかい!」
 三秒に一度振り子のように飛んでくるディスクドローン。必死で避ける沙軌。脅威が分散した隙を見計らい、愛叶は全速力で切り抜ける。
 沙軌はチェンジトリガーを引き、[槍声弓ランスアルカランスモード]から[|槍声弓そうせいきゅうランスアルカ|アルカモード]に切り替えて、圧縮された風の光の矢――「オリエンス・アロー!」を射る。ディスクドローンは二機撃墜された。
 建物の陰に隠れることができた愛叶は、その場所からディスクドローンに向けて銃を構える。
 今度は左目で照門を覗き、相手の動きを予測して射撃する。だが、先ほどと同じでなかなか弾が当たらない。
「難しいな……追尾とかあったらいいのに」

 《「デカい技を放って、まとめて破壊することも手だぞ」》

「あっ、そっか。じゃあそれならこれで……」
 愛叶はフレイムイーグルを四回トリガーチャージ。ディスクドローンの群生に向けて『クアエダム・イグニス』を放った。


 ◇


 《「ファースト・ステップ終了。すぐにセカンド・ステップが始まるぞ。準備しろ」》

 息を整えて武器を力強く握る。
 再び機械音が鳴る。今度は床から虎型の立体モデルと人型の立体モデルが生成される。
 四本脚で鋭い牙がついている。五体で直立している。どちらも実物の特徴を捉えているが、本物とはかけ離れた姿形をしている。沙軌が言っていたように昔のゲームポリゴンだ。これもFランク会員ならではの恩恵。高いランクになれば実物と瓜二つのモデルが生成されるのかもしれない。
 虎型のターゲット数体が人々に襲いかかる。そのうちのターゲット二体が二人の存在に気づき、猛進してくる。
「わわわわわっ!」
「愛叶撃って!」
 沙軌は一度、ランスモードからアルカモードに変形させ、『オリエンス・アロー』でターゲットを射抜き、ビルの物陰に隠れてランスモードに武器形態を戻した。破片となったターゲットは瞬間にして蒸発、消えてなくなった。
 愛叶もアタックトリガーを連射してターゲット一体を撃破し、近くの低い建物の上へ飛び上がる。しかし力が足りず、手前で掴まる結果となった。
「あわわ! もうちょいなのにぃ~!」
 足元に群がりはじめるターゲット。愛叶は全身の力を最大限に使い、建物の上へよじ登る。
「ふう~、疲れた~……これで形勢逆転」
 ゆっくりと立ち上がり、目につき次第射撃。優勢の立場から放たれた攻撃はターゲット三体を撃破する。
 沙軌は物陰から状況を確認。ターゲットは逃げ惑う人を襲っている。攻撃をして助けるチャンスだ。
 沙軌は勢いよく物陰から飛び出し、機械槍を振りかざす。
「はぁっ!」
 スイングアタックでターゲット一体を撃破し、空中へジャンプ。目前のターゲットを真上から突き刺した。
 着地後、死角に気配を感じ、機械槍を引き抜き、振り向きざまにターゲットを薙ぎ払う。その直後、一体のターゲットが後方から沙軌に襲い掛かってきた。
 沙軌は転倒。喉元に迫りくる鋭い牙を即座に武器の持ち手で防ぐ。
 力強く足で蹴り飛ばし、チャージトリガーを二回引く。
「オリエンス・ランス!」を、放ち、ターゲットを撃破。続いて、『オリエンス・バースト』を発動。
 沙軌の体から発せられた風の波動壁はかまいたちのごとく、ターゲット数体を切り刻んだ。
「ふぅ……次はそっちね」
 低い建物の上にいる愛叶は次々とターゲットを撃破していくが、何体かは飛び上がり、よじ登ってきており、彼女はその対処で苦戦している。
「あっちいって! わあ! 武器が構えられない!」猫のように蹴りやパンチを繰り出す。

 《「おいお前、そんな状況にふさわしい技があるだろ」》

「へっ? ふさわしい技……。あっ!」
 希海に指摘され、愛叶は思い出す。
 チャージトリガーを三回引く。
「オリエンス・バースト!」
 炎の波動壁が愛叶の体から発生し、周囲にいるターゲットを粉砕する。
「やった!」
「正解よ愛叶!」
 沙軌は愛叶の近くまでジャンプし、同じタイミングでよじ登ってきたターゲットを回転攻撃で薙ぎ払う。
「愛叶、ここは一気に倒すわよ!」
「うん!」
 沙軌は、『オリエンス・ウェントス』で愛叶に風を纏わせ、共に宙へと舞う。
 上昇中、沙軌はチェンジトリガーを引いた。機械槍の槍刃部分が90度回転、二枚の羽弓が上下に展開する。
 半透明の緑色がかかるこの風に彼女たちの眼球が乾かないのは、エレミネイションスーツによって網膜保護されているためだ。
 照準を下方向へ定め、二人は技を放つ。
「サウザンド・アロー!」
「イグニス! 大盛!」
 千本の風光矢と火炎連弾がターゲットたちを覆い尽くした。
 
 《「あと十体!」》

 オリエンス・ウェントスの効果が切れ、二人は地上へ着地。愛叶は二回トリガーチャージ、沙軌は走りながら武器の形態をランスモードに切り替え、ステップを踏むようにスピンテールで残りのターゲットたちを薙ぎ払っていく。

 《「あと四体! 一体!」》

 愛叶は二回トリガーチャージ。
「これでお終いっ!」――「オリエンス・イグニス!」愛叶の攻撃が最後の一体に着弾。ターゲットは小さな火柱を上げて撃破された。

 《「訓練終了だ。二人ともお疲れ」》

「はぁ、はぁ……終わった~」
「ふうぅ~……疲れたわ……」

 《「次の訓練の準備を行うから、控室で待機してて」》

「希海、次もよろしく~。愛叶、休もう~」

 エレミネイションスーツを脱着し、沙軌と愛叶は控室へ戻る。

 フィールドの床には溶け切れていないターゲットの残骸と生成された人々、建物が残っている。
 これらを処理するため、一度フィールド内全体を四百度の高温で温める。床上の特殊合成樹脂たちは気体に変わっていく。
 送風と換気を繰り返して熱を逃がし、室内温度を常温に下げていく。そして最後に巨大なモップが二つ現れ、空間内全体をクリーンアップする。やがてフィールドは塵や埃のない、綺麗な空間に姿を戻した。

 ソファーに座り、スポーツ飲料水を一口した沙軌は小さくため息をついた。
「こっちのトレーニング楽しいんだけど、やっぱり体力的にキツイわ。もう歳ね……」
「沙軌はまだ二十二ぐらいでしょ。全然若いよ~」
「それがね、来月で二十三になっちゃのよ。早いな歳取るの。あー、ピチピチの高校生が羨ましいわ」
「沙軌も十分ピチピチだよ。あんなに動き回われるのにもう歳だなんて……」
「あれは風のエレミネイションスーツのおかげよ。フォルナスはみんなのスーツよりも身軽に動ける仕様なの。愛叶も二十代に入ったら体衰えてくると思うから、今よりかは動けなくなるかもよ」
「そうなの? じゃあわたしもあと三年ぐらいで……やだぁ」
「少しでも老化を遅らせるためには食生活が大事って話らしいわ。愛叶は普段学校とか家で何食べてるの?」
「えっと、今は朝食はパンで、お昼は売店のおにぎりかパンかドーナツ。夜もそんな感じ。昨日はコンビニのパスタを食べたから今日は控えて野菜サラダにしようかな」
「……飲み物は何飲んでるの?」
「麦茶とミルクティーをよく飲むよ」
 沙軌は愛叶に向かって手のひらを合わせた。
「ご愁傷様」
「ええ!? ちょっと怖いこと言わないでよ!」
「安く買えて食べれるものほど、品種改良されたもの使われたり、余計な添加物たっぷりで体に悪いよ。しかも肉や野菜をあまり食べずに米や小麦、砂糖を多めに摂っていると、風邪ひきやすくなったり、太りやすくなってしまう原因を作ってしまうわ」
「そ、そうなんだ。だから最近お腹がプニプニして……」愛叶はへそのあたりをつついてつまむ。
「若いときはいろいろたくさん食べても平気かもしれないけど、十代過ぎたら食生活ちゃんとしないとね。なるべく野菜、大豆、魚を中心に摂っていくと健康になれて、おまけにスタイルのいい美人にもなれるらしいよ」
「スタイルのいい美人になれる? へぇ~、頭に入れておこうっと。ありがとう沙軌!」
 笑顔で応える愛叶。沙軌は微笑み返した。

 《「二人とも、次の準備ができたぞ」》

「よしっ! 行きますか!」
「うん、次もよろしくね!」
 二人は控室を出て変着し、再びフィールドの中心に立つ。


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 お話はEPISODE04 Vol.2へと続きます。

 この度は貴重なお時間の中、最後までお読みいただきありがとうございました!✨

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毘名敬太
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