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リザエレ! エレミネイション+ウィンクルム EPISODE 03 『ファースト・バイソン』 Vol.1

はじめに

 この度は数ある記事、作品の中から本作品(「リザエレ! エレミネイション+ウィンクルム」)をお手に取っていただき、心より感謝を申し上げます。

 度々のお願いで恐縮ですが、お読みいただく際の注意事項を以下に添えさせていただきます。

 本作品は現在『note』のみで連載しております。その他のブログサイト、小説投稿サイト、イラスト投稿サイトでは連載しておりません。この作品は一部無料にて公開しているものですが、掲載されている画像、文章などは著作権フリーではありません。無断転載、コピー、加工、スクリーンショット、画面収録、AI学習及びプロンプトとして使用する行為はお控え頂くよう、ご理解の程よろしくお願い致します。

 この作品の物語はフィクションであり、登場する人物、場所、団体は実在のものとは一切関係ありません。また、特定の思想、信条、法律・法令に反する行為を容認・推奨・肯定するものではありません。本作には、演出上一部過激な表現が含まれております。お読みの際は、十分ご注意ください。





Chapter 17 「友達神請」


 薄暗い部屋。スマートフォンから鳴り響くポップなアラーム。布団を取り払い、鳴り続けるアラームを切って起き上がる。
 眠気眼をこすり、ベッドから降りてカーテンを開ける。射し込んできた朝光を浴びると自然と大きなあくびが出た。
 昨日のトレーニングは疲れた。そのおかげか、全身に硬くゴムがついている感覚がある。
 部屋から洗面所に移動して、鏡で自分の姿を見る。いつもはふんわりとしている髪の毛も、今日はあちこちに向かって毛先が広がっている。しかも、目の下には薄くくまもできている。
「うわっ、隈ひどいな。コンシーラーで隠せるかな」
 顔を洗ってタオルで拭いた後、握りが赤色の歯ブラシを取る。ブラシの硬さは『やわらかめ』だ。
 歯磨き粉を少量歯ブラシにつけた。最後まで使いきれるよう、チューブ状の容器には押し出す道具が取り付けられている。コップに水を汲み、力は入れずに歯を磨く。
「(そういえば、この間の土曜日以降、イアシスさんからイヴィディクトが現れたって連絡来てないな……。EDCカードを使用しないとイヴィディクトには変身できないんだよね。変身してるってことは、それを使わない限りは確実に現れない。なんであの日は連続して出てきてたのかな? 誰かが悪さを企んでいるとしても、何のためにやっているんだろう。わからないなぁ……。まっ、いつかはわかるでしょ。うんうん)」
 あまり深く考えすぎないように自分を納得させ、頬を上げて歯を磨き続ける。すると、部屋のインターホンが鳴る。
「わ?!」
 一瞬血の気が引き、驚きのあまり歯ブラシを洗面器に落としてしまった。
 歯ブラシを拾うのをあとにし、愛叶は急いで口の中を洗う。
 飛び散った水をタオルで吸い取り、リビングに移動してモニター付きインターホンの通話ボタンをタッチして応対する。

 《「日和郵便でーす。勇木さん宛に封筒を投函致しましたので、ポストの確認よろしくお願いいたします」》

「はーい、ありがとうございます。後で取りに行きまーす」通話終了ボタンを押した。
「封筒? もしかしてアレかな」
 歯ブラシを洗って片付け、一旦401の部屋を出てエントランスにある郵便受けを確認してみると、中に一通の水色の封筒が入っていた。愛叶は封筒を取り出す。
 封筒の左下には、『ルート』のマークと『ルート中央支部』の住所が書かれている。
「やっぱり書類だ。来るの早くない? 郵便局の人もそうだけど……」
 部屋に戻り、ナチュラルカラーのダイニングテーブルの上に水色の封筒を置く。
 プリンター横に置いてある小さなケースの二段目の引き出しからレターオープナーを取り出し、封口を開けた。封入されている申請書類一式を取り出して、テーブルの上に置いていく。
 白い紙はルート本登録申請書、黄色い紙はネオボランティア保険加入申請書、折りたたまれた空の封筒、その他様々なサービスへの案内とイベントのチラシ。
 この申請書に記入、提出をすれば、彼女は正式にリザエレのメンバーとして活動ができるようになる。何者かになれるんだ。という感情に揺さぶられ、鼓動が高鳴った。
 スマートフォンの時計を見る。家を出る時間までは三〇分ほど余裕がある。
「……よし、ちゃっちゃと書いて郵便ポストに入れよう。あっその前に……」
 エレメティアの八時ボタンを三回押し、セット3に設定してある制服に変着した。ちなみにローファーは履いていない。靴は玄関に置いてある。
 一枚の食パンをトースターに入れ、ボールペンをノックし、チラシにインクを走らせる。
 十数秒後、シンプルな音とともに焼けたパンがトースターからゆっくりと顔を出す。
 準備万端。深呼吸をして高鳴る鼓動を抑える。愛叶は鬼集中モードを発動。ペン先に意識を集中させ、素早く、丁寧に、字の間違えが無いよう、二枚の申請書に記入をしていく。
 名前の記入欄と申請者署名欄に『印』のマークがあった。
「ハンコ……は、確かここに――」
 愛叶は小さなケースの三段目の引き出しを開け、中から筒状の入れ物と蓋がついた円形の入れ物を取り出した。
 筒状の入れ物を横に開いて判子を手に取る。蓋を取って朱肉に印面を強くつけて、『印』の箇所に判を押す。そして紙面から判子を離す。
 記入欄と署名欄には滲みなく、しっかりと彼女の苗字が印字されていた。
 もう一度申請書に目を通して記載漏れがないか確認する。
 住所、氏名、電話番号、生年月日、職種、ナンバーカード登録番号、配偶者氏名、記入日、印鑑――必要事項に記載漏れはなかった。
 一旦気を落ち着かせた後、二枚の申請書を山折り谷折りで折り畳む。一緒に封入されていた空の封筒を手に取り、封筒の折り目を直して封口を開ける。そしてその中へ折り畳んだ二枚の申請書を封入する。
「あと切手か。ん? 封筒の切手を貼るところに……西京都さいきょうと代千武よちぶ区承認って書いてある。……ってことは、切手要らないねこれ」
 白の両面テープを取り、上蓋を折って封を閉じる。
「よし! これで大丈夫!」


 *


 > 私立マリトワ女子高等学校 一年C組

「おっはよう!!」
「わっ!」
 席に座ったばかりの愛叶に背後から大きな声で挨拶をしてきた一人のクラスメイト。
 黒髪のツインテール、赤い眼鏡をかけていて、体型はすこしふっくらとしているが、美人な顔立ちが眼鏡の奥に垣間見える。この生徒の名前は牧島まきしまコハナ。先日のHRホームルームでの自己紹介後、真っ先に愛叶に話しかけてきた子である。
 彼女の握るIタイプのスマートフォンには、フェイスライン公式マスコットキャラ『ふぇいっくま』のミニフィギュアストラップが付いている。
「あっ、おはよう~。びっくりしちゃったよ~」
「ごめんね。ちょっと元気無さそうだったからパワーを送ったの」
「パ、パワー? わたし、元気無さそうに見える?」
「なんとなく感じるだけ。パワーは適当に言ったから気にしないで」
「なんだ、すごい特殊能力があるのかと思ったよ~」
 ホッと力が抜けた愛叶。コハナは腰を下ろし、机の横に両手を置いた。
「勇木さん……いや、もう愛ちゃんでいいや。愛ちゃんは華山さんたちと仲いいけど昔からの知り合いなの?」
「えっ、違うよ。おととい初めて知り合ったばかりだよ。街でうろうろしてたら、偶然二人に出会ったんだ~。そこから仲良くなっちゃって」
「すごい偶然だね。私もこの学校に来て初めて知り合ったの華山さんと高乃さんなんだよ」
「へっ? コハナちゃんも転入生なの?」
「違う違う。四月頃の話」
「あっ、そうだよねー。勘違いしちゃった」愛叶はてへっ、というしぐさをする。
「愛ちゃん、華山さんって綺麗で可愛くて、フレンドリーで、すごく神々しいよね」
「神々しいまでかわからないけど、わたしも初めて芽瑠ちゃん見た時、この子めっちゃ可愛いって思ったよ」
「はぅ?!……愛ちゃん、今なんて言った?」
「えっ、めっちゃ可愛いなって……」
「違うよ。呼び方……」
「芽瑠ちゃん、って……えっ?」
「みんな華山さんや芽瑠さんって呼んでるよ……」
「へっ、ちゃん付けって、いけないの?」
 愛叶の疑問にコハナはうんうんと頭を振る。
「ものすごく仲がいい人じゃないとそんな風に呼んじゃいけないんだよ」コハナは小声で語り掛ける。
「そんなことないでしょ~」愛叶は大きな声で答えた。
「愛叶、コハナ~、おはよ~。みんなもおはよ~」
 芽瑠が登校してきた。彼女の挨拶にクラスメイトたちは一斉に「おはようございます。華山さん」と言って頭を下げる。コハナも跳びはねるように立ち上がり、芽瑠に向かって頭を深々と下げる。
 顔を上げたコハナは毅然とした態度で挨拶をする。
「おはようございます。華山さん」
「おはよう芽瑠ちゃん!」――「わああああああ!」コハナは叫び、慌てて愛叶、芽瑠から遠ざかっていく。
「あれ? コハナ、どうかしたの?」
 芽瑠がきょとんとした顔で見つめる。愛叶は事情を説明する。
「なんか呼び方がどうのこうのって……ちゃん付けしちゃダメだとか」
「何そのルール……」
「ねぇ、芽瑠ちゃんは芽瑠ちゃんって呼んでいいよね?」
「もう愛叶~、ちゃん付けやめようよ~。芽瑠でいいよ芽瑠で」
「えっ、いいの?!」
「友達でしょ。愛叶だけじゃなくて、コハナもみんなも芽瑠って呼んでいいよ」
「芽瑠ぅ~!」
 愛叶は芽瑠に抱き着いた。
「うゃああああ!……う」
 コハナは気を失い倒れてしまった。粋な心遣いをしてくる芽瑠の姿が女神のように見えたらしい。
「ちょ、ちょっとコハナちゃん!?」
「あらら~、どうしよう……ね?」
「ね? って、早く保健室に連れて行かなきゃ!」


 *


 昼休み。今日は希海はリモート登校で学校に来ていないため、二人だけでランチタイムを取る。
 本日の昼ごはんは、芽瑠はマカロンドーナツ一つ、愛叶は抹茶クリームあんぱん。どちらも期間限定出店中の『カワムラベーカリー』の人気商品だ。
「あんな気絶するほど芽瑠が好きだなんて、コハナちゃん、結構面白い子だね。気絶から復活してよかった。……けど、みんな芽瑠のこと誤解してない? 一斉に挨拶したり、緊張した顔でジロジロ見てきたり、ちゃん付けしちゃダメ、さんを付けてとか、いじめに近いと思うんだけど」
「ウチは別に気にしてないよ。でも、最近すごく窮屈。みんなもっとフレンドリーにしてほしいよ」
「結構フレンドリーに接してるのにね。何でそういう風に距離がある接しかたしてくるんだろう? お金持ちの娘さんだから?」
「それはウチの家が――」
「大きくても関係ないと思うけどね~。デカい家のお金持ちの人だったら日和全国にたくさんいるよ」
「愛叶の言う通りだよ。お金持ちだからって別にウチは特別でもないし、学校に来てこうやって話してる時点でみんなと同じだよ」
「うんうん。そうそう」愛叶は腕を組んで何度もうなづいた。
「あっ、愛叶。今度家に来てって言っちゃったけど、どこかわからないよね。場所教えてあげる」
 芽瑠はスマートフォンを横に開き、マップを起動して、自分の住む家の場所を探す。
「そうだ、いつ行こうかな~。芽瑠の家ってデカいんだよね。どのぐらいなんだろう……」
「デカいって言っても、ウチの家なんか普通と同じぐらいだと思うよ。あった、ここだよ。ここがウチの家」
「ふむふむ…………はひっ?!」
 画面に表示されていたのは、野球場の広さと同等の土地。愛叶は思わず声を漏らした。
「ひぇ! ひ、広すぎるよ! 本当にここ?!」
 芽瑠は首を傾げた。
「そうだよ。家はこんなのだけど」
 緑色に囲まれた四角い建物を拡大する。
「い、家が普通ぐらいでも土地が凄く広いよ~! これじゃさん付けどころか、王女様だよ!」
「愛叶までそう言うの~? 普通でしょ」
「は、はい、ふ、普通です~……絶対遊びに行くから許して!」
 拝むようにそう言い返した愛叶だったが、芽瑠は頬を膨らませており、らしからぬ不満そうな顔だ。そんな彼女を見て愛叶は丁寧に謝った。
 教えてもらった場所を忘れないよう、マップアプリのマイリストに『華山邸』の住所を記録。想像を超える華山邸の広さに愛叶はウキウキと心が躍っていた。


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Chapter 18 「戻される日常」


 *


 チャイムが鳴る。教室にいる生徒たちは次々と席を立ち上がり、「一緒に帰ろう」「じゃあね、また明日」などと言って、手を振り合う。
 今日の授業は五時限目まで。放課後のトレーニングは沙軌を含めたを行うため、この日は休みだ。
 芽瑠からのを受けた愛叶は、東浜辺駅西口の地下にある商業施設『イーナス』へと訪れた。
 このショッピングモールは東浜辺クラウンズスクエアのほか、大明時代から続く創業百年の老舗デパート『三來みらい屋』、『マシバシカメラ東浜辺西口店』、数多くのミュージシャンを排出した『アスナローブミュージックキャンパス東浜辺校』とインターネットサービス関連の製品を展開する大手IT企業『サイ・デーグル社』の第二本社にも直結しており、連日多くの人たちで賑わう場所だ。
 モール内はショッピングエリア、フードエリア、サービスエリアの三つで構成され、アウトレットモール1フロア分ほどの広さに約八六店舗のお店が出店している。利用客の多くは雑貨・ファッションストア、カフェやレストランに集中している。
 D‐1出口階段横の電子案内板の前に立つ二人。フロア内の地図を見ながら芽瑠は愛叶に尋ねる。
「愛叶、どこから行きたい?」
「う~ん……芽瑠にお任せするよ」
「じゃあまず、一番近いここから行こうか」
 芽瑠はショッピングエリアを指さした。

 アロマとお香の匂いが漂う、女性用化粧品と生活雑貨を取り扱うお店『ミラン・ケユカ』、メンズカジュアルの『ラムダンデ』、ディスカウントレディスファッションの『フェックビーン&ニールス』、「家族服は~♪」でお馴染みの『アルバートセオリー』――など、ショッピングエリアには外資系企業のお店が軒を連ねている。その中で唐突に現れる一際目立つ紫色のお店。
 東浜辺市のリーガーボール球団『東浜辺ファーストバイソンズ』のオフィシャルグッズショップ『BISON’sバイソンズ BULLPENブルペン』だ。

 リーガーボールとは、ラグビー、サッカー、バスケットボールをミックスさせた、九対九で得点を奪い合うスポーツ競技。得点を決める役割を担うポインター、ボールを奪いポインターへとパスを行うアタッカー、得点を守るディフェンサーが広大なフィールドを駆け回り試合を繰り広げる。発祥の地は日和と同じ島国の『エッグザード国』。

 店内には球団マスコットキャラのベンくんとベメちゃんのビッグサイズぬいぐるみが、ぬいぐるみと一緒に記念写真が撮れるようスポーツベンチに設置されている。その後ろの壁には、白と紫色の背景にピンクのハートマークが大きく描かれていて、ここは最近、NSNSアプリ『デートグラム』で人気を博している魅せ映えスポット。長蛇ではないが、撮影を求めるお客の列が店の外にまで出来ている。
「うわ、人並んでる。それにはじめて見るよ紫色の牛……。お饅頭みたいで可愛い……」
「愛叶、ここで写真撮らない?」
「うん! 撮ろう! 撮ろう!」
 二人は撮影待ちの最後尾に並んだ。順番が回ってくるまでの間、コートと制服のブレザーを脱いでカーディガン姿になる。
 前の女子大生三人組の自撮り撮影が終わり、順番が回ってきた。
 スポーツベンチに座り、芽瑠が持つスマートフォンの画面を見ながら、二人は手櫛で髪の毛を整える。
「う~静電気やばいよ~」
「ウチも~。よし、愛叶撮るよ。はいっ、ワンチーズ(^^♪」
「ワンチーズ(^^♪」
 芽瑠はプラス音量ボタンを押してシャッターを切った。
 ベンくんとメベちゃんを器用に画角に収めながら、二人は次々と表情、ポーズを変えて自撮りをする。
 何枚撮ったのだろうか、そろそろ撮影待ちの人の視線が強くなってきた。二人は見切りをつけ、撮影スポットから離れた。
 店を出て早速、撮ったばかりの写真を確認する。写真にはの女子高生らしく可愛らしい姿が写し出されていた。
「おっ、いいね。イイ感じ。あ、でも、わたしと芽瑠の髪の毛少し跳ねてる」
「これはこれでいいじゃん。この写真希海と沙軌に送っておくよ♪」
「えっ~! まっ、いいか♪」

 次はフードエリアを歩く。
 『本氣マジ盛り寿司』というお店の持ち帰り販売棚には美味そうなお寿司セットが。シャリが見えないほどネタが大きい。
「持ち帰りでこの大きさ……値段は少し高いけど、100バースコインで食べれるお寿司よりかは美味そう」
「希海に見せたらものすごく食いつきそうだね」
「へ~、希海って魚介類好きなんだ~。あ、だからこの間の昼休みに鮭おにぎり食べてたのか」

 『安いよ! 安いよ! 本氣《マジ》盛り寿司は本氣で盛っています! 写真は撮影用ではありません! 産地直送! 代替魚無し! すべて新鮮でこの値段! お安く食べて元氣本氣盛り! いらっしゃいませ! いらっしゃいませ! 安いよ! 安いよ! 本氣《マジ》盛り寿司は本氣で盛っています!――』

 活舌良く熱く語る男性の呼び込み音声が繰り返し控えめに、店の入り口にあるスピーカーから流れていた。

 次は『ラリィ・ビアンゴ』という店の前に来た。この店はサソリを使ったスコルピオネピッツァが有名で、それ以外は一般的な品を提供するピザ専門店である。最高級のシェーブルチーズを使用しているため、価格はそれなりのお値段。一番人気で安いマルゲリータはSサイズ1500バースコインもする。ここは持ち帰りの販売は行っていない。
「うわ~チーズのいい匂い~。ここのピザ美味しそう~」
「冬休み入ったらみんなで食べに行こうか」
「うんうん! なんかいろいろ見てたらちょっとお腹空いてきちゃった……」
「それじゃあ愛叶、次はここに行ってみようよ」

 クレープサンド専門店『グリム・ワン』にて、二人はバナナクレープサンドとイチゴクレープサンドを購入。店内の黄緑色のテーブルチェアに座る。
 ビニールの包紙を取り、クレープサンドを眺める。ポピュラーなクレープサンドはクレープ生地で果物、クリームをロール状に包んだものだが、グリム・ワンが提供するものは少し違う。薄くスライスしたパンの間に王道のクレープを挟んでサンドイッチしたもの。
 見た目も色合いも不自然さはない。新しい食べ物が生まれ続ける現代で何故誰も考えつかなかったのだろう。愛叶は深く感心し鼻息を吐いた。
「すごいねこれ……クレープを挟んじゃうなんて……」
「クレープとフルーツサンドを足したって感じだね。いただきます……」
 芽瑠はバナナクレープサンドの山頂から一口。
「んむーっ! 愛叶これめっちゃ美味しいよ!」
「どれどれ……いただきます」
 イチゴクレープサンドを優しく一口。
 愛叶の口の中はクレープとパンのふわふわ、イチゴとチョコ、生クリームの甘さで満たされた。
「美味しい! こんなの食べたことないよ~」
 芽瑠は自分のクレープサンド半分にちぎって、口をつけてないほうを愛叶に渡す。
「ほらっ、こっちも食べてみて」
「いいの? ありがとう! いただきます……むほっ、ほぁあ~こっちも美味い~」愛叶はほっぺたが落ちた。
「わたしのもあげる」
 愛叶は半分にちぎったイチゴクレープサンドを芽瑠に手渡した。彼女から受け取ったクレープサンドを口の中へ放り込む。芽瑠もほっぺたが落ちた。
「美味しい~」
「ねぇ、芽瑠は果物の中で何が一番好きなの?」
「ウチはメロンかな。愛叶は? もしかしてイチゴ?」
「うん! 果物の中ではイチゴが一番好き。あの甘酸っぱさがいいんだよ」
「へぇ~。甘酸っぱさだったらキウイもウチ好きだよ。というか果物って基本美味しくない?」
「言われてみればそうかも。柿も梨も見た目地味だけどめっちゃ美味いもんね」


 ◇


「愛叶、このあとどうする? クラスクにでも行ってみる?」
「ほぁ~……。ごめん、あくびしちゃった。どうしようかな……」
「疲れてるなら無理しなくてもいいよ。食べ終わったら今日はもう解散する?」
「そうしようかな。芽瑠、この店教えてくれてありがとうね」
「喜んでくれて嬉しいよ。また来ようね愛叶」
「うんっ!」
 サービスで出されていた紅茶を飲み干し、愛叶と芽瑠は椅子から立ち上がる。
 制服のスカートのしわを直し、黒タイツについてしまったパンくずと綿埃を取り払う。
「ごちそうさま。ふぅ~、いつも芽瑠におごってもらってばかりだよ。今度はわたしが稼いだお金でおごってあげるからね」
「……うん」
 どこか哀愁漂う表情を一瞬見せた芽瑠。彼女はすぐ笑顔に戻った。僅かに首を傾げ、愛叶は不思議に思う。
「じゃあ帰ろうっか。駅まで送ってってあげる」
 芽瑠がそう言った直後、耳鳴りのような音とともに、イヴィディクト出現を知らせるイアシスの声が彼女たちの頭の中に響いてきた。

 《「地下ショッピングモールイーナスでウシ型のイヴィディクト一体が出現しました。場所はショッピングエリア、B‐2地上出口階段付近です。急いで現場へ向かってください」》

「ここに牛のイヴィディクトが?……」
「愛叶、早く行こう!」
 クレープサンドの包装紙と紙コップを店内のゴミ箱に捨て、二人はすぐさま走り出した。

 ――B‐2地上出口階段前の廊下に到着した。先の曲がり角からは人々のざわめく声が聞こえる。二人は顔を合わせ無言で頷く。
 廊下を曲がってすぐのところでは、横いっぱいに密集する人々が。芽瑠と愛叶は人々をかき分けて進み前に出る。目の前の存在に二人は思わず声を上げた。
 そこには全身黒光の鎧機に覆われた、体長二メートルを越える牛人の姿があった。


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 お話はEPISODE03 Vol.2へと続きます。

 この度は貴重なお時間の中、最後までお読みいただきありがとうございました!✨

 続きも読んでいただけると大変嬉しいです!😊

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