
リザエレ! エレミネイション+ウィンクルム EPISODE 06 『違和感』 Vol.2
はじめに
この度は数ある記事、作品の中から本作品(「リザエレ! エレミネイション+ウィンクルム」)をお手に取っていただき、心より感謝を申し上げます。
度々のお願いで恐縮ですが、お読みいただく際の注意事項を以下に添えさせていただきます。
本作品は現在『note』のみで連載しております。その他のブログサイト、小説投稿サイト、イラスト投稿サイトでは連載しておりません。この作品は一部無料にて公開しているものですが、掲載されている画像、文章などは著作権フリーではありません。無断転載、コピー、加工、スクリーンショット、画面収録、AI学習及びプロンプトとして使用する行為はお控え頂くよう、ご理解の程よろしくお願い致します。
この作品の物語はフィクションであり、登場する人物、場所、団体は実在のものとは一切関係ありません。また、特定の思想、信条、法律・法令に反する行為を容認・推奨・肯定するものではありません。本作には、演出上一部過激な表現が含まれております。お読みの際は、十分ご注意ください。
Chapter 34 「黒服再来」
光沢のあるジャケットに白いシャツ、黒のネクタイ、しわのないスラックスと磨き上げられたプレーントゥシューズを纏う、白肌の銀色短髪の男性と褐色肌の黒髪セミロングの女性。二人は店のドアを背にし、屹立する。
日常生活では決して関わることのない非日常の存在を前に、愛叶は若干身震いをして動じてしまった。背筋を伸ばして唾を飲み込み、自心を整えて、ここは冷静に応対する。
「あの、何の用ですか? 今日はもう閉店なんですけど……」
「日曜日の営業は午後からのはずです。なぜもう店を閉めているのですか?」
女性ルート職員は腕を組み、強面で問い詰めてくる。
「いや、これから出かけるので……」
「出かける? 我々が定めた規約通りに活動してもらわなければ困ります」
「あ、はい……」
彼女の威圧的な声に、愛叶は負けてしまった。下を向いてもじもじと手をさする。
「で、用は? 久々に顔を見せてきたけど、また解散の話か?」
希海は睨むように鋭くルート職員の二人を見つめ、不満を漏らす声で問い質す。その問いに男性ルート職員が答える。
「いいえ。新しくメンバーが加わったことで、あなたたちの解散は免れました。隣にいる君が、新たにリザエレのメンバーになっていただいた勇木愛叶さんですね。ご活躍は聞いております」
男性ルート職員は頭を少し下げ、またすぐに顔を上げた。
「は、はい。ありがとうございます……。(あれ、今ごろわたしに挨拶? 理衣奈さんも新メンバーのはずだけど、知らないのかな)」おどおどした視線で、愛叶は違和感を呟く。
「リザエレの皆様には日頃から感謝しております。あなた方のおかげで、我々の目標はもうすぐ達成されつつあります。引き続き、ネオボランティア活動に勤しんで頂くようよろしくお願い致します。……と。言いたいところですが、先日もお伝えしたように、メンバーの消息がわからない間は、外での活動はなるべく控えるようにしてださい。最近の君たちの行動には目に余るものがあります」
「行動って、まだしてないですけど……あっ」思わず口を滑らしてしまう愛叶。
「目に余る? どこがだよ。あたしたちはただ、ネオボランティア活動をしているだけだ。困っている人も助けてあげてる。それの何が問題なんだ」希海は馴れた様子で強く言い返す。
「我々の定めた規約に則っていない行動をしているからです。イヴィディクトの対処、このお店の経営に関係ない活動はすべて規約外となります。市民を手助けする行為やルミカさんの捜索も同じです」
「は? 世界平和を目的としているくせに、戦いは容認して、人助けはダメなのかよ。じゃあ、あんたらも調べている誘拐拉致事件は、イヴィディクトとは無関係なんだな。絶対関係あると思うけどな」
「…………」
希海の答えに、ルート職員の二人は黙り込んだ。――ふん、そういうことか。希海は鼻で息を吐いた。
「なら、ルミカの捜索は続けさせてもらう。意地でも捜し出すからな」
「彼女のことはもうあきらめなさい。勇木さんがリザエレに加入した以上、音原ルミカさんはもうメンバーではありません」
「?!」
冷たい言葉で折伏する女性ルート職員。彼女の言霊が、希海、愛叶の胸を締め上げる。
希海は反射的に声を荒げる。
「は!? 何言ってんだよ! ルミカはまだあたしらのメンバーだ!」
「そ、そうですよ。わたしはただルミカちゃんの代理なだけです」
「規定の人数さえ揃っていればそれでいいのです。過去にしがみついてばかりでは、新しい先へは進めませんよ」
男性ルート職員はそう答えた。
ルートの本音とも捉えられる二人の発言に、希海と愛叶は表情を曇らせた。
ルミカのことが過去だとしたら、まさか、彼女はもうこの世には……いない――そんな絶望が頭の中で膨らむ。希海は手のひらに爪を食い込ませて拳を握り、張り裂けそうな感情を抑え込んだ。
彼女たちを気を知ってか、女性ルート職員は左手薬指にある指輪の位置を直し、ジャケットの内ポケットから『フィットガム』を取り出して、ガムを一枚引き抜き食べだした。
「生きているかいないかわからない人間を捜すより、世界の人々のためにやるべきことを続けるのが最優先ではないのですか?」
「……それはあんたらもやることだろ。訊きたいんだけどさ、あんたらはいつも何の仕事してんだよ? あたしらの監視か?」
希海は声を尖らせ訊ねる。彼女の質問に、ルート職員の二人はまた黙り込んだ。
女性ルート職員は噛んでいたガムを飲み込んだ後、口を開いて彼女の問いに答える。
「いいえ。我々は常にあの地区とされる場所の周辺にて、彼らの行動を監視しています」
「彼ら? あの地区とされる場所の周辺ってどこだよ?」
「守秘義務がありますから、それについてはお答えすることはできません」
男性ルート職員が丁寧に答えた。希海はため息をこぼし、小声で「ふざけんなよ」と言う。
愛叶は尋ねた。
「わたしたちもあの地区について知りたいんです。お願いです。何でもいいので教えてくれませんか?」
「なぜ知る必要があるんです? 先ほども言いましたが、規約外の行動は慎んでください」
今度は女性ルート職員が答えた。
ルート職員の二人から目を逸らし、愛叶は大人しく返事をした。
「わかったから早く出て行ってくれ……ませんか?」希海は二人を見つめ、丁寧を装い話す。
男性ルート職員と女性ルート職員はゆっくりと顔を合わせ、そして頷いた。
「そうですね。これぐらいにしておきましょう。では、これにて失礼致します」
二人は頭を下げ、愛叶たちに背を向けて店から出ようとする。
「ああ、一つ言い忘れていたことがありました」
女性ルート職員は振り返り、
「じきにあなたたちのもとへ、プレゼントが送られてくると思います。聖夜の日が近いので。それまで何事もなく、日々をお過ごしください」
愛叶たちに何か意味深なことを言い放った。
頭を下げ、ルート職員の二人はドアを開けて店を出ていった。
ドアがゆっくりと閉まる。異質な存在が消えたことにより、愛叶と希海の二人は重苦しい空気から解放された。
「あいつらふざけやがって……何が過去にしがみついてだ。ルミカは絶対生きてるからな」
「そう、だね……。人を勝手に古物扱いするのはひどいよね。それに、戦いとお金のこと以外は規約外って、申請書で契約交わした記憶ないよ。ムカムカする……」
「あいつら、あたしたちが知らない間に決まりを変えてくるんだよな。始めた頃は縛りなんてなかったのに……はぁ……。前から思ってたけど、あいつら本当にルートに所属している人間なのか? 態度がらしくない。まさか……」
《「あの二人はれっきとしたルート所属の職員です。お二人の名前は、ケント・バンジョウさんとリキュマ・リリさんです。どちらも結婚されており、小学生の子どもがおります」》
ルート職員との会話中、今まで一言も話さず黙っていたイアシスが、〝あの二人〟を擁護するかのように希海の疑問に回答した。
「どうでもいいだろそんな情報……。あ~、時間ロスしたし、一気にやる気無くした……」
「希海、まだ始めてないんだからそんなこと言わないでよ。本氣盛り寿司でお寿司食べて、元気取り戻そう?」
「寿司か…………腹も減ったし、行くか」
店を完閉して、二人はそのままペミィ・ペミィーの近くにある『本氣盛り寿司』に入店。お寿司を腹六分目まで食べた。
会計後は、コンビニにあるレンタルポートまで移動。予約済みのキャビーに乗り、調査する弾教区上島町まで走る。
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Chapter 35 「昔ながらの調査」
> 東浜辺市 弾教区 上島町
専用駐輪場にキャビーを停め、二人は町を歩く。
弾教区上島町は代田区、琴球区のような先進的な建物はなく、二十年以上前からあるマンションや雑居ビル、小さな会社、お店、簡易宿泊所が立ち並んでいる。それらの看板や建物名などには「華山」という文字が確認できる。
芽瑠が言っていたとおり、華山ファーストグループには表立って語られない裏事情があることは間違いなさそうだ。
「上島町……建物は多いのに人通り少ないね」
「半分商業地で住宅地、こういう小さな町の休日は田舎よりも人の気配がしないんだよな」
「それわかる~。田舎の方が人がいる感じするよね。何でなんだろう。家が大きいからなのかな」
「さあな――ん? おい、あの店からデカい声が聞こえてこないか?」
「声?」
愛叶は髪を振って希海が指差すほうに顔を向ける。ピンクのテント看板に『スナックたまき』と書かれた店の中から男性たちの声が漏れてくる。
『何やってんだよ大島~! そこはサードバックに送球だろ! あいつもうクビだクビ!』
『リーガーボール界の二刀流の名が廃るじゃねえかまったく……思考までは二刀流じゃないんだな!』
「ねえ、怖いよ……」
誹謗中傷ともとれる罵倒声に血の気が引き、不安に襲われる愛叶。そんな彼女を希海は軽くあしらう。
「は? こんなの全然怖くないだろ。リーガーボールの話をしてるってことは、クライマックスシリーズの中継を見てるのかもな。一応訊きに入ってみるか」希海は店のほうへと足を動かした。
「ちょ、ちょっと待ってよ~」
ディースナックのドアノブに手をかけ、扉を開く。昔ながらの鈴音が鳴り響き、カウンター越しにいるおばさんとソファー席に座るおじさん二人は希海たちに振り向く。
「いらっしゃいませ~。あら、あなたたちどうしたの?」
明らかに客柄ではない希海たちに対し、店主のおばさんは心配そうに話しかけてくる。
「あの、すみません。ちょっと訊きたいことがあるんですが」希海は敬語で対応する。
「ん? 聞きたいこと? 何?」
「津須美英人という、元プロスポーツ選手の男性を捜しているんですけど、以前この店に来たことってありますか?」
「津須美英人? 誰だい、その人は?」
誰だかわからずに首を傾げる店主のおばさん。とりあえず希海と愛叶をカウンターチェアに座らせる。
「何飲む? オレンジジュースがいいかな」
「あ、あの聞きたいだけなんで、飲み物はいいです……」
希海は事を済ませて早く出たいのか、素直に遠慮する。
「遠慮しないで。子どもからはお金を貰わないから。で、何飲むの?」
「いや……結構――」
「希海、貰おうよ。二人ともオレンジジュースでお願いします」
店主のおばさんはニコニコしながらオーダーに答えた。ドリンクサーバーからコップへ手際よく注がれたオレンジジュースが二人の前に出される。愛叶は喜んで飲み、希海は渋々と口にした。
おばさんは愛叶たちの代わりに、リーガーボール中継を見ているおじさんたちに大きな声で訊ねた。
「ねえ、あなたたちー、津須美英人っていう人知ってるー?」
「津須美? 津須美って元ファーストバイソンズの選手で、週刊誌の常連だったやつだろ?」「元ファーストバイソンズの津須美だろ。それがどうしたの?」
見分けがつかないほど顔がよく似た双子のおじさんが、津須美という名前に反応し、ほぼ同時に振り向いて答えてくれた。
希海はカウンターチェアから降りておじさんたちに近寄る。
「あたしたち、今その人を捜しているんですけど、居そうな場所知らないですか?」
「居そうな場所って、知り合いじゃないおじさんに聞かれてもな~。ごめんね。わからないよ」
「お嬢ちゃんたち、それを聞いてどうすんだい? 人捜しなら警察とかに任せたほうがいいんじゃないの?」
「警察に捕まる前に訊き出さないといけないことがあるんです」
「警察に捕まる? おい、津須美またなんかやったのか?」
「それは……言えません」
「というか君たちは何なんだい? 危ないことはやめたほうがいいと思うよ?」
おじさんの優しい忠告に対し、
「大丈夫です、わたしたち二人で一人の探偵なんで。危ない橋は充分渡ってますから、心配しないでください」カウンターチェアから降りた愛叶は咄嗟に作った設定を話した。
「探偵だったの? 早く言ってよ〜」
「どうしてもって言うなら、夕方ごろになるまで待つしかないね。色々な事情を知る人たちがこの町に来るから、その人たちに訊いてみたらどうだい?」
「夕方ですか……。どうする希海?」
「他のところに行ってまた戻って来よう。あの、もう一つ訊きたいんですが、おじさんたちはあの地区について何か知ってることはありますか?」
「あの地区? 聞いたことがあるような……」
「そこはカードがどうとか、ニュースで言われてたところじゃないの? 結局無かったって話で落ち着いてるけどねぇ。……うーん、ごめん、わからないよ」
「やっぱり、ただのスピン報道だったのか……。わかりました。おじさん、おばさん、ありがとうございました。ほら、行くぞ」
礼をした希海は愛叶に一言言って、店の鈴音を鳴らして外へと出る。
「あっ、え、待ってよ――ぷはぁ、ありがとうございました!」
オレンジジュースを飲み干して愛叶は一礼した。
「あら、もう帰っちゃうの? また来て頂戴ね」
「は~い、ありがとうございました!」
愛叶は笑顔で手を振り、スナックたまきを後にした。
二人は再び上島町を歩く。
「なんか意外って言ったら失礼だけど、普通のおじさんたちだったね」
「入る前の罵倒が凄かったけどな。リーガーボールがどうのこうのの話は、昔からタブーって言われてる理由がわかった」
「リーガーボールの話ってしちゃいけないの? じゃあわたしたち……」
「ファン同士で喧嘩になるから、話しするのは良くないって意味だよ」
「へ~……そういうのめんどくさいね。けど、優しい人たちで良かった。入る前、超怖かったもん」
「あたしはじいちゃんで慣れているから平気だった」
「そういえば、希海の話し方っておじさんに似てるよね。おい! とか、お前! なになにだろ? とか」
「ほとんどじいちゃんに育てられてきたんだから、自然と似てくるだろ」
「希海のおじいちゃん、そんな喋り方なの?」
「あん。男が一番的な世代の人間だから、孫娘のあたしを男らしく育てようとしたけど、結局失敗して、喋り方だけそうなっちゃった」
「その喋り方、やめたほうがもっと可愛く見えると思うけど」
「か、かわ……い、いいんだよこれで……。早く次行くぞ」
おじさんのように照れを隠す希海は、愛叶を置いて先へと進む。
希海の可愛らしい一面が見えた。愛叶はクスッと笑い、ニヤニヤと微笑みながら彼女の後を追う。
時刻は一五時二七分。日の入りまではまだ時間がある。愛叶たちは休憩を挟みながら、英人について聞き込みを行う。
その中で出会った若い子連れのお父さんから、現役時代英人と親しかったという景山隼汰が、この日、近くの小学校でリーガーボール教室を開いているとの情報を得た。
「リーガーボール教室は何時までやっていますか?」
「夕方までじゃないの? 会っておきたいなら、早く行ったほうがいいんじゃない」
「そうでした。どうもありがとうございました!」
しっかりとお辞儀をした二人は、早々とリーガーボール教室が行われているという小学校へ歩を移す。
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Chapter 36 「牛、行方知らず」
> 東浜辺市立上島小学校
校門前には数台の自転車、車が停まっている。ちょうど休憩時間なのか、ゼッケンを着たスポーツウェアの女の子が、門の柱にもたれかかりながらスマートフォンをいじっている。愛叶はその子に挨拶をして話しかけた。
「あの、すみません。ちょっと訊いてもいいかな?……」
「え、はい? なんですか?」
「わたしたち、ここでリーガーボール教室の先生をしている景山隼汰さんに話があるんですが、呼んで来てもらっていいかな?」
「……コーチを呼んでくればいいんですか?」
「うん。お願いします」
敬語で話してくる愛叶と後ろで腕を組む希海に、女の子は少し警戒をしながら、景山を呼びに行った。
数分後、校内から先ほどの女の子と一緒に、ラフな短髪で身長はやや低いが、体格は大きい、いかにもスポーツ先生といった男性がやって来る。
愛叶は頭を下げた。
「この人たちが景山さんに話があるって言ってきたんです」
事情を話す女の子。景山隼汰は不思議そうに愛叶らを見つめた。
「この子たちが? アポ取った覚えはないけど……君たちは何者?」
「わたしたちはヒマジョ……高校生で探偵サークルやってる勇木愛叶と高乃希海です。今日はお尋ねしたいことがあって来たんですが、今お時間よろしいでしょうか」
「悪いけど、リーガーボール教室が終わってからにしてくれないかな?」
「そうですよね。何時頃に終わりますか?」
「あともう一時間ぐらいだよ。急ぎの用なら今話しても構わないよ」
「あ、いいえ。急いで無いので大丈夫です。それじゃあ、終わるまでここで待ってます」
「じゃ、よろしくね。ほら、休憩時間終わりだぞ」
女の子とともに、隼汰は校庭へと戻っていった。
「ここで待つなら、校内で終わるの待ってようぜ」
「入っちゃって平気かな?」
「大丈夫だろ。一時的にだけど、隼汰とは知り合いだからな。もし注意されたら事情を話せばいい」
「そっか、景山さんに用があるからいいのか。では、お邪魔しまーす」
校内に足を踏み入れ、校庭の端っこで隼汰のリーガーボール教室を眺めながら、閉校を待つことに。
愛叶はスマートフォンを取り出して開き、ネットニュースを確認する。
津須美英人、彼が逮捕されたというそのような速報はどのニュースサイトにもまだ上がっていないようだ。その代わりに気になるものが掲載されていた。それは、東浜辺市の隣、南浜辺市の街で起きた爆発事故であった。
「爆発事故だって……やばくない」
「南浜辺市のどこだ?」
「わからない。詳細の場所は書いてないよ」
「情報規制するほどヤバいものか……。イアシス、聞こえるか。南浜辺市で起きた爆発事件について何か教えてほしい」
《「申し訳ありません。その事故に関しては、まだ詳しい情報が入ってきてないので、お答えすることはできません」》
「そうか、何かわかったら連絡してくれ」
《「了解です」》
「だそうだ。今は英人のことに集中しよう」
*
一七時半。リーガーボール教室が閉校し、子どもたちはそれぞれの親とともに帰りの支度をし始める。愛叶と希海は校庭内へ進む。
ジュニアクラブ球団のコーチたちと談笑している景山隼汰。近づいてくる二人に隼汰は気がつき、コーチたちとの会話を中断して駆け寄って来る。
「おう、待たせたね。で、話って何だい?」
「津須美英人の行方について何か教えてほしいんだ。あんた、昔仲良かったんだろ」
「津須美……ああ、現役時代は仲が良かったよ。でもあいつが引退してからは全く会ってないね。今何してるんだろうな」
「知らないって感じか……。あんた以外で英人と関係が深い人っているか?」
「選手以外なら、夜の店の関係者にいると思うけどな」
「それは誰ですか? できれば店の場所も教えていただきたいんですが」
「えぅ、誰って名前を言ってもなぁ……店の名前ぐらいなら教えられるけど……。君たちもしかして行く気なのかい?」
「いいえ、そこは仲間の大人組に任せるので心配しないでください」
「ああ、君たちだけじゃないんだね探偵は。え~っと、俺と津須美……いや、津須美英人がよく足を運んでた店は――」
・クラブ 菜々子
・ガールズバー ポンチョロ
・セカンドクロス エバータイム
・本格焼肉 凹園
・かき料理家 海女神
「だね。場所はあそこ、英賀区にある繁華街だよ」
「英賀区の繁華街ですか……わかりました。ありがとうございます!」
「聞きたいことはこれぐらいでいいの?」
「おん、これで十分だ」「お邪魔しました!」
「お、おう。またね……」
きょとんとする隼汰を後にし、彼女たちは校庭側の門から帰宅する親子たちに紛れて校外へ駆け出る。
希海はナイトを起動し、理衣奈と沙軌宛に、英賀区の繁華街に行くようメッセージを送信した。
スーパー銭湯、理容室、開店前の居酒屋とバー、リサイクルショップ――その後も弾教区で聞き込みを行うが、英人についての情報は古いものしか得られなかった。彼は理衣奈との離婚後、人との関わりを断っていたようだ。
日が暮れ、二人は休憩のため、モダンで落ち着きのある喫茶店『カフェ・マンチカン』へと入った。
愛叶は再度スマートフォンを開き、ニュースを確認する。
トップ記事は先ほどと同じ、南浜辺市で起きた爆発事故が大きく取り上げられている。
■南浜辺市の国際情報機関ビルで爆発 「変な臭いがした……」
「だって。これ、どこの情報機関かな。ルートじゃないよね……。英人さんが捕まったニュースは出てないね」
「ちょうど昨日の夕方ごろだよな、英人と戦ったの。指名手配犯にまだなってないってことは、警察も追えてないってことか……それとも」
「それとも?」
「いや、考えすぎかもな。その爆発事故と英人の件が繋がってないか、一瞬思っただけ」
「繋がるかな……」
愛叶は腕を組んで上目で天井を見つめる。
「手錠を壊すぐらいの力を持っているから、なかなか捕まえられないのかな」
「きっとそうだろう。……ん? そういえばあいつ、イヴィディクトじゃない状態で手錠壊してたよな。あいつの体どうなってんだ?」
「超人の人と同じ力を持ってるのかな?」
「それだったらややこしい話になるな……。ここは別の視点から探った方がいいな」
希海は抹茶ラテを飲む。
「ルートにもう一度、あの地区について聞いてみよう」
「うんうん、それだよ一番肝心なのは。希海もうっかりちゃんなところあるんだね」
「う、うるさい。一日中お前といたからうっかりがうつったのかもな」
「え〜何それ~ひどい~。わたしそこまでバカじゃないよ」
「はいはい……」希海は抹茶ラテを飲む。彼女を見つめながら愛叶もマロンラテを飲む。
そっとカップを置き、愛叶は笑みをこぼす。
「希海と話していると、男子と話してるみたいでなんか楽しいな」
「気持ち悪いこと言うなよ……。言っとくけど、あたしは同性には興味ないからな」
「それはわたしだって同じだよ。普通の男性が好き。暴力してくる男性は嫌いだけど」
「暴力してくる? お前、受けたことあるの?」
「うん……ママの元再婚相手に。身体触られたり、キスされたりとか……あと……」
「あ~もうストップ。訊き返したあたしがバカだった。ごめんな」
「ううん。もう辛いことは克服したから大丈夫……。けど、たまに思い出すときがあるから困っちゃうんだよね。えへへ……。そうやって気遣ってくれる希海、ちょっとカッコよく見えてドキってしちゃうな」
「うっ、また気持ち悪いことを……」
「別に気持ち悪くないよ。希海だってそうなるときあるでしょ? 同性でもあの人カッコいいとか、かわいいとか。この前も芽瑠のこと、可愛いって言ってたじゃん」
「思うときがあるだけ。常に思ったりすることはないぞ」
「えっ、担任の阿賀先生とかカッコよくない? ああいう渋い女性憧れるなぁ~」
愛叶の声が店内に響いた。
店内で流れる音楽よりも声が大きくなってしまい、周りにいる一部の客が愛叶たちをチラ見する。
愛叶は申し訳なさそうに、
「うるさくしちゃったかも……」と言い、マロンラテを一口。
「飲み終わったらさっさと店を出て、調査再開するぞ」
「うん。次の場所は利加区だね。頑張ろう、えいえいおー……!」
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Chapter 37 「爆臭漂う」
カフェ・マンチカンを出て、数歩歩いてすぐに感じた違和感。ゴムが焼けたような、薬品を焦がしたかのような、日常ではあまり嗅ぐことのない臭いが漂ってくる。愛叶は鳥のように首を振り、辺りを窺う。
「どうした?」
「何か変な臭いしない?」
「臭い?…………確かにするな。ムズムズもする」
希海も違和感のある臭いを嗅ぎ、人差し指の第二関節と第三関節の間で鼻柱をこする。
「これは多分、浜辺区の工場地帯から流れてきたものだろう。たまに嗅ぐ臭いだな」
上島町から二キロ離れたところにある浜辺区の沿岸部には、いくつもの化学工場が存在している。それらの工場から排出される臭いは、時々風に乗って漂ってくることがあるという。希海の言うとおり、この臭いの発生源はそこからだろう。
「それか、大地震の前兆か……」
「ひぇえ~やめて~――おっ?」
臭いは次第に消えていき、やがていつもの街の匂いを取り戻す。
希海は軽く深呼吸して空気の入れ換えをし、愛叶は大きく息を吸い、大きく息を吐いた。そしてポーチからボトルを取り出し、蓋を取って麦茶を飲む。
気を取り直して、再び歩を移した瞬間、近くから空気を裂く音が轟いた。
異常を察知した二人はエレミネイションスーツに変着。音がしたほうへ急いで脚を駆ける。走りながら希海はイアシスに話しかける。
「おいイアシス、今の爆発音はイヴィディクトによるものか?」
《「いいえ。イヴィディクトが出現したという連絡は来ておりません」》
「じゃあなんだ? 事故か?」
《「……調べてみます」》
「よろしく」
「の、希海! あそこから煙が上がってるよ!」
愛叶が指差した方向に黒い煙が上がっている。場所はそう遠くない。
「すぐ近くだな、急ぐぞ!」
二人は力走し、煙源のある場所まで辿り着く。
マンションや小さな店が建ち並ぶ道路で、数台の車が激しく燃え盛っている。
「くそっ!」
希海はウォタガンフルを装備し、愛叶に呼びかける。
「おいっ、あたしは車を消火する。お前は情報収集だ」
「わかった。気を付けて!」
希海は腰のベルトに付けている茶色いポーチから、無数の穴の付いた筒状の装置――レインアタッチメントを取り出し、銃の先端に取り付けた。
車のエンブレムから、製造・販売メーカーを把握し、車の中を目視して人影がないことを確認。燃えている車は全てアスギ社の自動車。しかし、動力源がEV、ガソリン、ハイブリッドなのかはわからない。
「イアシス、わかるか?」
《「炎に包まれている以上、私から答えるのは難しいですが、希海様なら十分承知なはずです。ウォタガンフルから放たれる水流弾には、液体消火薬剤が混和されていますので、車の動力源関係なく、火の勢いを抑えることは可能なはずですが、何故今頃訊いたのですか? 忘れていたなら仕方ありませんが……」》
「再確認したかったんだよ。たまに普通の水と混同しそうになるからな」
《「はあ……。一人で消火活動を行うのであれば、細心の注意を払ってください。火の元の原因が爆弾による爆発だと仮定すると、二次爆発のリスクが高まります。まだ起動していない爆弾が複数仕掛けられているかもしれません。ここは無理せず、警察と消防が来るまで待ちましょう」》
「もう遅い!」
スライドチャージトリガーを二回引き、希海は『オリエンス・アクア:レイン』を放つ。
発射された水流弾は、レインアタッチメントの細かい穴目を通り、放水車のように水を放射する。
現場には周辺住民たちが外に出てきていて、かなり騒がしくしている。愛叶は第一目撃者と思われる高齢男性から話を聞いた。
「あの、ここで何があったんですか?」
「と、突然、車に火が点いて爆発したんだよ……」
「どういうことですか? 突然火が点いたって……。放火とかではないですよね?」
「わからないよそんなことは。わしが車の横を通り過ぎるちょうどそのときに燃え出したんだ。その前には誰も車の近くにはいなかったよ」
「えぇ……誰か魔法でも使ったんでしょうかね」
「誰かだとしたら、あの地区にいる連中しか考えられないよ。またここも酷い場所に戻るのかねぇ……」
「(あの地区、やっぱり存在するのかな……。それにこの爆発事故、イヴィディクトが絡んでそうだね。南浜辺市で起きたものとも何か関係がありそう……)」
およそ三台の車が爆発、炎上をしたが、幸いにも応えてくれたおじさんを含め、怪我人は一人もいなかった。
燃え上がる炎たちを鎮火させた希海はゆっくりとウォタガンフルを下ろし、辺りに火源が無いことを確かめて、一息整えた。愛叶は彼女に駆け寄る。
「希海、ここにある車たち、突然火が上がって爆発したらしいよ」
「まじかよ……。爆弾じゃないなら――」
イヴィディクトによるものかと悟った瞬間、再びあの異臭が漂ってくる。
「おい、またなんかムズムズしてきたぞ……」
「本当だ。また焼けた臭いが……うっ、気持ち悪い」
鼻と口を手で覆い、周囲を見渡す。しかし異形の物は見当たらない。
臭いが消える間もなく、今度は愛叶たちの上空で爆発が起きた。
「うわっ!!」「おい、イアシス! 本当にイヴィディクトは現れてないんだよな?!」
《「は、はい……。?! 希海様、イヴィディクトが出現したとの連絡が入りました。エンカウントポイントはその付近です!」》
「姿が見えないぞ」「音も聴こえないよ?」
武器を構えて空を見上げる希海と耳を澄ます愛叶。
何度周囲を見渡しても、イヴィディクトらしき姿は確認できない。
どこかへ去っていったのか?……いや、何かが近づいてくる音がする。空気を揺らす音――その音は羽を振動させて空を飛ぶ、アレに似ていた。
頭の中でイメージが固まり、愛叶と希海は振り返る――「きゃあ!」「うぐっ!」
しかし高速で通り過ぎた謎の物体の風圧によって、二人は吹き飛ばされてしまった。
荒い激風が吹き抜ける。二人は地面を転がるが、すぐに体勢を立て直して武器を構える。そして空へ目を向ける。
夕陽にその姿を照らし、異なる三つの羽を羽ばたかせながら滞空する三体のイヴィディクト――。
#バット・イヴィディクト――メカニカルにデフォルメされた茶色の鎧機蝙蝠。
#バタモス・イヴィディクト――不安を煽る模様の羽が特徴の漆黒の鎧機蝶蛾――。
#ハエフライ・イヴィディクト――丸く大きな赤い目を持つ、生物感のある人肌色の鎧機蝿。
「う、三体もいるよ……」
「同時に相手にするのは無理だ。とりあえず外に出ている住民たちを避難させるぞ」
「うん!」
希海と愛叶は住民たちに頑丈な建物内や遠くへ離れるよう注意を促す。その間に希海はエレメティアを介して、芽瑠、沙軌、理衣奈へ連絡を行った。
エンカウントポイントから住民がいなくなるまで待っていたのか、三体のイヴィディクトは分散し、一体一体、二人に襲いかかってくる。
二人はかがみながら、左右に跳び避けながら、チャージトリガー、スライドチャージトリガーを二回引き、武器にエネルギーを溜める。
敵の攻撃と攻撃の間にできた隙を突き、二人は空中にいるイヴィディクトに狙いを定め、『オリエンス・イグニス』、『オリエンス・アクア』を放った。
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お話はEPISODE07 Vol.1へと続きます。
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