文鳥の鳴く街

-人を殺すにゃ刃物は要らない
文鳥がひと鳴きすりゃあいい-

あの頃の文鳥は
ただのゴシップ雑誌だった
芸能人の浮気だとか
政治家のスキャンダルを
まことしやかに書きたてる
そんな程度のものだった

そんな文鳥だったが
ある事件をきっかけに
こんなにも変わるなんて
だれが想像できただろう

その事件はみんなの記憶にも
残ってるんじゃないだろうか?

とある国民的芸能人と
テレビ局の醜聞を書きたて
世界を巻き込む騒動に仕立て上げた
あの事件だ

ターゲットになったテレビ局は
広告収入のほとんどを絶たれ
もはや廃局か?と思われていた

その矢先に救いの手を差し伸べたのが
文鳥だったんだ

と言えば聞こえばいいが
叩いて弱ったところを
かっさらったってのが実情だろう

こうして
一介のゴシップ雑誌社が
テレビ局をも傘下にしたのだった

そこからの文鳥は
大空を得た鳥のようだった

文鳥の得意とする
ゴシップを専門に扱う
ワイドショーは押しも押されぬ人気番組に

ワイドショーのWEBサイトには
誰かを蹴落としたい人間からの
タレコミが集まる「文鳥のえさ」コーナーが
真偽不明の情報をかき集め
「街の噂」コーナーで紹介される

実名こそ出ないが
噂の当人は特定され
たたかれ失脚していく

自由な大空を手に入れた
文鳥の羽ばたきには目を見張るものがあった

またたくまに
ワイドショーの枠から飛び出し

地域情報サイト
文鳥タウンを立ち上げ
各地の地域に根差した
タレコミを吸い上げ始めた

このころになると
文鳥に悪く書かれることは
社会的な死を意味するようになり
大手企業はこぞって
文鳥の広告スポンサーになっていった

文鳥タウンでは
有料会員制度を開始して
収益はうなぎのぼりに上がった

この有料会員には
支払いのランクによって
自分宛てのタレコミの削除ができたり
他人あてのタレコミの優先度をあげる
そんな昨日まで実装された

もう文鳥は
この国の司法にとってかわった
そう言っても過言ではなかった

さすがに行き過ぎた文鳥
誰かが止めないと
そんな動きを始めた矢先だった

おれの噂が文鳥タウンに掲載された

弁護士であるおれが
あろうことにもクライアントの弱みにつけこみ
クライアントである女性に密室で性加害を行っている と。

被害女性AさんBさんCさんまで登場して
被害状況を克明に証言しているそうだ

女性恐怖症でゲイであるおれがだ!

これは
強大な力を持ったマスメディアに
一介の弁護士が戦いを挑んだ物語である

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