😎【中II.３学期/社会レポート】題目：生活保護問題

※本レポートは、中学2年3学期に息子が書いたレポートです。誤字脱字がございますが原稿をそのまま下ろしたものですのでお見逃しください。

題目：生活保護問題

副題：〜雇用保障と社会保障の関係から考える〜

序論

　現在、日本の生活保護受給者は216万人にものぼり、生活保護費負担金は、3兆8431億円と、非常に高い数値となっており、年々生活保護受給者は増え続けている(1)。さらに、生活保護受給金は、地方によっては最低賃金よりも高いといったことがあるため、稲葉剛の著「生活保護から考える」では、生活保護制度は世間から、「働いたものが馬鹿を見る制度」などと批判されているのだという(2)。　こういった人たちの意見としては、働けそうな生活保護受給者が、働かずにお金を貰えるといったことが不公平に感じるのだということである。しかし不公平だからといって生活保護をなくしたり、生活保護費を安くしたりすると、病気や高齢で働くことができない人たちをないがしろにすることになってしまう。そこで、私はこの生活保護問題について社会保障と雇用保障の関係から考えることにした。生活保護制度が批判されつつある今日においてこのテーマはとても重要であるとわかるだろう。　このテーマを選んだ動機としては、私と家族でニュースを見ていた際、ニュースで生活保護制度に否定的な話をしており、私が納得していると、父の知り合いに病気で働けず生活保護を受けている人がいると聞き、そういった人もいるのだということを知り、一方的に批判するのは間違っているのではないかと思い至ったからである。　本レポートの第一章では、生活保護制度の現状と、なぜ生活保護受給者が増えているのかを、社会保障と雇用保障の点から説明する。第二章では、日本が行っている生活保障の政策と、その政策への批判について述べ、第三章では日本が行うべき対策について述べる。

第一章　なぜ生活保護受給者が増えているのか

第一節　生活保護の現状
　生活保護受給者が増えている理由を説明する前に、この節では生活保護の現状について説明しようと思う。
　まず、生活保護を受けるため条件だ。板橋区のホームページによると、生活保護を受けるためには6つの条件がある。
一つ目は、働ける人は能力に応じて働くこと、二つ目は、年金、手当等、他の法律で受けられるものはすべて受けること、三つ目は、銀行預金、郵便貯金、その他積立、債権当は換金して活用すること、四つ目は、所有の不動産で未利用のものは、処分・換金して活用すること、五つ目は、所有の家屋で居住のために活用しているものでも、余分な敷地、部屋等は、処分・換金や、貸間として活用すること、六つ目は、生活費に変えられるものは、換金して活用すること、となっている(3)。これらの条件を見ると、生活保護を受けるのは、非常に難しいことが分かるだろう。
　これを踏まえて現状をみていこう。
　2012年、安倍政権は「生活保護基準は高すぎる」という世論を背景に、生活保護日の大幅削減に乗り出していると、前出の稲葉は同著で述べる(4)。この安倍政権の判断は正しいのか、そのことについて稲葉は同著で、2010年での猛暑を例にこう話している。東日本大震災の起こる前年に起こった記録的の猛暑で、東京ではヒートアイランド現象の影響もあり、高齢者を中心に熱中症での死者が相次いだ。その際の熱中症の発症場所では、「住居内」が78.1を占めており、「冷房機器があっても使用しなかったケース」が多く見受けられたという(5)。これの背景には電気代を払えないという貧困の問題があるだろうと考える。前出の稲葉が理事長を務めるNPO法人自立サポートセンターもやいでは、生活困窮者がアパートに入居する際に必要な連帯保証人や緊急連絡先の提供を行うと同時に、アパート入居後のサポートも行っているのだが、その＜もやい＞のサポートを受けている人たちに熱中症に関するアンケート調査を実施したところ、電気代を節約しようとクーラーの使用を控えたことが深刻な健康被害をもたらしていることがわかり、さらに、生活保護利用世帯のうち、四分の一がクーラーを保有していないといったことがわかった(6)。しかし、安倍政権は、生活保護受給者の人権よりも世論を尊重し、生活保護費を大幅削減しようというのだ。これは非常に由々しき事態であり、また2010年のような猛暑が起こった場合、今度はさらに大幅な死者が出てしまうだろう。

第二節　生活保護受給者の増える原因
　一節で生活保護の現状を説明したので、この節では生活保護受給者の増える原因を日本の社会保障と雇用保障という点からみていこうと思う。
　宮本太郎は自身の著「生活保障」で、日本の生活保障の特徴を四つあげている。第一に、社会保障への支出は小さかった。社会保障・福祉分野の支出の指標とされるOECDの社会的支出の大きさを見ると、1990年代までは先進国の中では最低の水準であった。第二に、にもかかわらず、これまでは社会保障に加えて雇用の実質的な保障によって、格差が相対的に抑制されていたということだ。雇用保障のおもな対象となる男性稼ぎ主の賃金は、妻と子供の扶養コストも含めた家族賃金として支払われ、妻と子の生活を支えた。同時に、家族主義の規範のもとで、保育や介護をめぐっては、抑制された公共サービスに代わって主婦が奮闘することが期待されたのだ。第三に、現役時代の生活保障が雇用と家族に委ねられたゆえに、相対的に小さな社会保障支出は、会社に頼れなくなり家族の力も弱まろ人生後半にシフトした。すなわち、日本の社会保障支出の内訳は、年金、遺族関連、高齢者医療などに集中した。日本の社会的支出のうち現金給付の部分を、高齢者のための支出と現役世代に対する支出に分けて2003年のGDP比で高齢者向けが8.2％で現役世代向けが1.5%となっており、日本における高齢者向け支出の高さがうかがえる。逆に、現役世代の支援、たとえば積極的労働市場政策への公的支出は、GDP比で0.3％とOECD平均の半分ほどである。積極的労働市場政策とは、職業訓練、職業紹介、カウンセリングなど、失業者を積極的に仕事に就けていくための政策のことで、日本は、失業者の増大にかかわらず、この分野の支出が少なくなっている。第四に、低賃金の非正規労働市場の存在である。現役世代向けの住宅や教育での公的支援が弱かったことが一つの背景となり、多くの家計では住宅ローンや学費への支出が嵩んだ。男性稼ぎ主の給与では十分ではなく、主婦が非正規のパート労働に出る必要があった。学生のアルバイトも、就学中の所得保障の弱さを補うという意味があった。しかしながら、税制や社会保険は男性稼ぎ主が妻や子を扶養することを想定して設計されていた。妻や子の所得が一定水準を超えると、税制上の控除がうけられなくなったり、社会保険における被扶養者の地位を失って保険料の拠出を求められたりすることになった。つまり、家計を補完するために稼がざるを得ないが、稼ぎすぎても損をすることになる。ここから、日本の非正規労働市場の低賃金構造が生まれたのである(7)。これらをまとめると、現役世代の生活保障を雇用と家族に委ねたことで社会保障支出が人生後半に集中した。さらに、男性稼ぎ主の所得を補完するために非正規労働市場の低賃金をしたはいいが、現役世代向けの支援がないため男性稼ぎ主がその低賃金化した非正規労働市場で働くことになってしまい、雇用も社会保障もないため、生活保護に頼らざるを得なくなってしまったということである。こういった政策が原因で生活保護受給者が増えているというのに生活保護費大幅削減などと、政府の対応には、苦言を呈さざるを得ない。

第三節　先行研究のレビュー
　私が本レポートで使用した先行研究は二つある。一つ目は、稲葉剛の「生活保護から考える」である。この本では、著者の稲葉氏自体がNPO法人自立サポートセンターの理事長を務めており、そこからできるアンケート調査などを行い、分かりやすい具体的な数値を出して説明していたためこの問題の深刻を想像することができた。
　二つ目は、宮本太郎の「生活保護」だ。この本では、二節で説明した日本型生活保障とスウェーデン型生活保障を比較して述べられているため、日本の生活保障制度の甘さを知ることができた。

第二章　日本の生活保護

第一節　日本の政策
　生活保護に関する数ある政策の中で、本レポートでは気になったものを挙げていこうと思う。
　2013年3月27日に小野市議会で可決され、4月1日から施行された「小野市福祉給付制度適正化条例」は、生活保護法、児童扶養手当法、その他福祉制度に基づく公的な金銭給付の受給者が不正な手段で金銭給付を受けたり、給付された金銭を「パチンコ、競輪、競馬、その他の遊技、遊興、賭博等」に費消したりして、その後の生活の維持、安定向上を図ることができなくなるような事態を防ぐため、「市民及び地域社会の構成員」に対して、「市及び関係機関の調査、指導等の業務」に積極的に協力することや、市に情報を提供することを責務として定める、という法律だ(8)。つまり、金銭給付受給者が金銭的な娯楽などを行っていた場合、市にその情報を提供しろということだ。これについて前出の稲葉は同著で世論は、小野市に賛成が寄せられる一方で、「市民による密告を奨励するものであり、監視社会を招く」といった意見が寄せられたという(9)。

第二節　日本の政策への批判

　前出の稲葉も傍聴したという2011年12月12日に行われた「生活保護制度に関する国と地方の協議」の第二回会合の内容について稲葉は同著で、生活保護受給者の人々がスマートフォンを使用していることなどに苦言を呈するといった、生活保護受給者を普通の人とは違ういわゆる「二級市民扱い」と言えるような発言を繰り返していたという(9)。こういった生活保護受給者への偏見や蔑視が高まっている。しかしこういった考えは日本国憲法の三大原則である基本的人権の尊重がなされておらず、さらに稲葉曰く、1946年に制定された生活保護法は、抜本的に改正されており、その新法では素行不良などに関係なく生活困窮者で一章一節の条件を満たしていればだれでも生活保護を受けることができるという(10)。しかし、やはり働く意思がないものが国民の税金で生活保護を受けるというのは納得のいかないこともあるだろう。そこで、三章ではこの双方の意見が納得できる対策を説明する。

第三節　生活保護問題への対策

　宮本は同著で、新しい生活保障には以下の四つの条件が重要になっていくという。一つ目は、柔軟性だ。かつての日本のように男性稼ぎ主の雇用に依存し続けることは困難であるため、流動化し個人化する社会の中で、男女を問わず、さまざまなかたちで働き、学び、家族をつくり、多様なライフサイクルを生きていくことに柔軟に対応した制度が求められる。第二に、就労を軸とした社会参加の拡大である。労働市場と家族が変容するなか、どれだけ広範な人々が就労できて、いかに継続的に生活の資源を得ることができるのか、同時に、他の人々とつながり、承認される「生きる場」をどう確保していくかが問われる。第三に、補完的保障である。安定した見返りをもらえる仕事が少なくなっている今、たとえ勤労所得が不十分でも公的な所得保障との組み合わせで生活を維持できる補完型の保障が求められる。第四に人々が広く合意できる条件を備えなければいけないということである。という条件である(11)。宮本は、これらの条件をすべて満たす考え方があるという。
それはアクティベーションという考え方だ。宮本の同著によると、アクティベーションとは、社会保障の目的として人々の就労や社会参加を実現し継続させることを全面に掲げ、また、就労および積極的な求職活動を、社会保障給付の条件としていこうとする発想だという(12)。簡単にいうと、雇用と社会保障の連結強化を図るという考え方だ。アクティベーションは、人々がその生涯でさまざまなタイミングで働き始めたり、退職したりすることを前提に就労と社会参加の支援をするため非常に柔軟性が高く、さらに就労を軸とした社会参加の拡大については、これこそアクティベーションの目的であり、職業訓練や教育などに政策の重点が置かれる。さらにアクティベーションは、就労を奨励するために、労働市場の見返りを高める所得保障改革も重視する。よって補完型の保障も行える。また、就労を支援するというアクティベーションは人々が幅広く合意できるものとなっている。この考え方を実行することは難しいかもしれないが、この考え方ならば、生活保護問題を良い方向に持っていけるのではないかと考える。

結論

　今回、本レポートでは、第一章で生活保護の現状と日本の生活保障の形から生活保護受給者が増えている理由を説明し、第二章で日本の政策と、生活保護への偏見という点から政策への批判を行なった。第三章では、雇用と社会保障の連結強化という点から、日本が行うべき考え方を述べた。
　私は本レポートの執筆を行う前は生活保護の実態も知らずに世論の生活保護批判に納得してしまっていたため、他の国民も世論に流されて生活保護の実態を知らないだろうと思うので、こういったところを積極的に発信していくべきだと考える。
　本レポートでは生活保護肯定派の資料しか使用しなかったため否定派の資料も使用するべきだったと感じたため次回からのレポート執筆に活かしたい。

引用注
　(1)　生活保護制度の現状について　厚生労働省　2019年　pp.2
　
　(2)　稲葉剛氏著　「生活保護から考える」　岩波新書　2013年　pp.1-3　　　　　　　　

　(3)　生活保護　板橋区ホームページ　2018年

　(4)　稲葉剛氏著　前掲書　pp.15-18

　(5)　稲葉剛氏著　同上書　pp.19

　(6)　稲葉剛氏著　同上書　pp.22

　(7)　稲葉剛氏著　同上書　pp.24－28

　(8)　稲葉剛氏著　同上書　pp.66－69

　(9)　稲葉剛氏著　同上書　pp.69

　(10)　稲葉剛氏著　同上書　pp.58－59

　(11)　稲葉剛氏著　同上書　pp.72-73

　(12)　宮本太郎氏著　「生活保護」　岩波新書　2009年　pp.89-91

　(13)　宮本太郎氏著　同上書　pp.93

生活保護から考える (岩波新書)

生活保障 排除しない社会へ (岩波新書)

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