親子DE柔術 第2部
僕はブラジリアン柔術をやってます。
僕だけがブラジリアン柔術をやってます。
最初はお父さんに無理やり連れていかれました。
もう6年は通ってます。
高校生になりました。
格闘技を勧めてくれたお父さんは僕が3回連続で1回戦負けをした帰り道
「お前も大きくなったから一人で試合会場行けるだろ。何かあったら柔術で護身もできるしな。ハハハ。」
と言ったその日からもう試合も練習も見に来なくなりました。
ぼくは次第に試合には出なくなりました。
そんなある日の高校の終業式で部活の表彰のあとに課外活動で活躍した人が紹介されていました。
柔術甲子園で優勝した小原君。他にも福岡国際柔術選手権、アジア選手権でも優勝しています!
ざわつく生徒たち、すげー、甲子園より国際大会とかアジア選手権とかで優勝もすごくない?
拍手に包まれながら彼は今後の目標を全校生徒の前で高らかに宣言してました。
「今年はアメリカでやる世界選手権にも出る予定です。」
うわー、誰でも出れるやつじゃん。全然すごくないよ。とぼくは1人だけ拍手しませんでした。
教室に帰ると友達が話しかけてきました。
「お前もブラジリアン柔術やってたよな?どっちが強いの??」
全国?誰でもエントリーできるし。
国際とか名乗っててもただのローカル大会だよ。てか世界選手権も誰でもでれるし。
俺はクラスであいつの実績を否定しました。
俺が柔術やってることはすぐ広まって2学期の始業式を迎えた事にはあいつの耳にも入ったらしい。
「ブラジリアン柔術やってたの?同じ学校にいるのは嬉しいよ。よかったら一緒に練習しない?」
意外な展開だった。
二人で地元の武道場を借りて練習することになった。
柔術という共通の趣味で知り合った俺たち。インスタを交換した時はこれからもっと仲良くなるのかなって思った。
合同練習する当日。
あいつを迎えに行った場所は地元の駅近くにそびえたつタワマン。
それがあいつの家だった。
「あっ、今から降りるから待ってて。」
当たり前のように最上階まで上がったエレベーターが長い時間をかけて1Fまで下りてくるとあいつが姿を現した。
2人での練習は地獄だった。
準備運動をしてから打ち込みをする時に
「リングワームの解除したいからガード作って。え?知らないの?じゃあベリンボロ入るからスタックされた時にニアサイドに体重かけて防ぐ動きはできる?」
数学の授業で当てたれて黒板の前に立たされた時と同じ。何をすればいいかわからないまま、シーンと静まった空間。
恥ずかしくて、変なプライドもあって、わからないとも言えない時間が続いていた。
「じゃあ、トレアナをするからリテンションしてきて。」
妥協してくれたあいつ。俺がトレアナに対して肩を押しながらエビをした時には
「それはリテンションじゃないよ。」
と教えてくれた。
スパーの時間はもっと酷いものだった。
俺も同じ青帯だよ?って血気盛んに挑んだけど相手は全然本気でやってこないの。力抜いてテクニックでボコられた。
同じ青帯なのに。先生が認めてくれた青帯なのに。
ゆっくり気を使われながら極めらる度になめやがって。
俺は高校入学記念でもらった忖度帯じゃないんだよ、、。
忖度帯じゃないとXで呟いても俺には有名柔術家からの擁護も慰めもないから、代わりに心の中で何度も呟いた。
一通り練習したあと、道着を着替えてる時に色んな話をした。
高校生になっても、都内の有名道場まで親が送り迎えをしてくれて恥ずかしいとか。
いつも家族みんなで応援に来てくれるのが嫌だとか。
大学はスポーツ推薦で行く予定だから世界選手権とか、海外の大会で実績作ってるとかね。
試合で何度も海外に行ってるらしい。俺は愛知に一度行って負けた時からお金の無駄だと父親に言われたのを思い出した。
この前の夏は推薦でのアピールのために大好きな柔術の道着をブラジルのファベーラに寄付したって社会貢献の活動の実際も作ったりしてるみたい。
受験か、、、昔、親父は俺はUFC選手になるから英語だけしてればいいって言ってたよな、、。
柔術のことも受験や人生のことも親が一緒に頑張って協力してくれてたらそりゃこうなるよな。
とてもいい奴なんだよ。性格も明るくて話しかけてきてくれて、金も持ってて、育ちも良ければ顔もいい。
スパーではマウント取ってきたが会話ではそんなことはしてこない。
でも、それがムカつくんだよ。
存在そのものが俺を否定してるみたいで。
武道場を出て自転車を乗るときに言ってやった。
「わりーけど、今後は練習なんてできないわ。うちの先生は出稽古とかうるさくてさ。もしかしたら試合で当たるかもしれないじゃん。俺のところは帰属意識を高く持ってる道場なんだよね。」
本当はお互いのレベルに差がありすぎてもう練習なんてしないだろなと思ったから俺から先に言ってやった。
昔、奇跡的にできた彼女に振られるのが怖くてやった戦法と同じやつ。
「そうなんだ。そういう道場もあるよねー。今日はありがとう。」
ほらな、やっぱり引き止めなかったよな。
お前は俺と練習なんてしたくなかったんだろ。
帰りは無言で家に帰った。帰り道が同じなのが地獄だった。
あいつが家の前に着くと「じゃあね。また学校で。」と言って別れた。
親父は成金の象徴だと言ってたけど、夜、ピカピカと光るタワマンは綺麗だった。
別れた後、振り返ってもう一度あいつの住んでいるタワマンをふと眺めた。あいつはもうエントランスにはいなかった。
今頃ちょうどエレベーターでご自慢の最上階に上がっていくところだろう。
これからあいつは柔術の実力、帯色も今乗っているエレベーターと同じでどんどん上に向かっていくんだろう。
社会的地位も年収も柔術意外のステータスもどんどん年を重ねるにつれて上がっていくんだろうな。
年を重ねるにつれて夢や可能性が閉じていく俺とは大違い。
疲れた体と心で家に帰り道着を洗濯機に入れてる時、スマホでライジンの試合予想を見ている父親が声をかけてきた。
「お前もいつまで柔術なんかやって遊んでるんだ〜。そろそろやめて、勉強とかしろよ。そろそろ準備しろよ。来年には受験とかあるだろ。」
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