「テレビ朝日ホールディングス」VS「朝日放送グループホールディングス」財務諸表からの比較
<はじめに>
Youtubeやネットフリックスなど、様々な番組コンテンツが出てきて、「オワコン」とも称されることの多いテレビ局各局。一部で斜陽産業とささやかれ、放送外収入の模索が言われ続けているテレビ局はどんな収益構造を取っているのか、また、どのような対策を取ろうとしているのか。系列と呼ばれる、連合体を築いている各局の中でも東京局と大阪局にはどれほどの違いがあるのか、東京キー局であるテレビ朝日を抱えるテレビ朝日ホールディングス(以下、テレビ朝日HD)と大阪準キー局である朝日放送テレビを抱える朝日放送グループホールディングス(以下、朝日放送GHD)、2つの会社は財務諸表から見て、どのような違いが表れるのか、調べました。
大阪では上場している会社が朝日放送GHDしかないため、自動的に朝日放送GHDと、テレビ朝日系列のキー局である、テレビ朝日HDを調べることにしました。
<会社の特徴>
テレビ朝日ホールディングスはテレビ朝日を中心にBS局である、ビーエス朝日やCS局である、シーエス・ワンテンを連結子会社として抱え、青森朝日放送など系列局9局やアベマTVなども持分法適用関連会社として抱える、テレビ放送事業を中心とした、一大メディア企業です。中心企業のテレビ朝日は言わずと知れた、東京キー局。放送エリアは関東1都6県の4,361万人2,092万世帯をエリアとする放送局です。「報道ステーション」や「アメトーーク!」、「相棒」など全国向けの番組を中心に製作・放送している局です。
一方の朝日放送グループホールディングは朝日放送テレビ、朝日放送ラジオを中心に、CS局のスカイ・エーや、ゴルフ事業のABCゴルフ倶楽部、ハウジング事業のエー・ビー・シー開発を抱えた、こちらもメディ事業を中心とした企業となっています。一方でテレビ朝日と異なり、持ち分法適用会社はありません。中心企業である朝日放送テレビは近畿2府4県と徳島、三重の一部の、2,159万人1018万世帯を放送エリアとする放送局です。「アタック25」や「ポツンと一軒家」や「M-1グランプリ」など全国放送となる番組も一部、製作・放送しています。
2020年度の 6時~24時の視聴率で言うと、テレビ朝日は日本テレビに続いて2位。朝日放送は読売テレビ(日テレ系)、関西テレビ(フジ系)に続いた3位となっています。日テレ系強し・・・。ちなみに、少し前までは世帯視聴率(世帯のうち、何%が視聴しているか)が主流でしたが、最近はYoutubuなどの動画配信サービスとの比較ができるよう、個人視聴率(エリア内の何%の人が見たか)が主流になってきているので、個人視聴率のみを取り上げました。
両局ともテレビ朝日を中心としたテレビ朝日系列に属しています。
<歴史>
2局の歴史で見てみると、開局が早かったのは実は朝日放送。1951年3月に会社を設立し、その11月にラジオ放送を放送開始。そして、1955年5月に大阪テレビ放送が設立、1956年12月にテレビ放送を開始。開始当初はテレビとラジオが別会社でスタートしたようですが、1959年6月に両社が合併、ラジオ・テレビ兼営局となりました。1975年3月にテレビネットワーク系列をテレビ朝日系列に変更しており、それまではTBS系列だったようです。このあたりの時期にはテレビ局が新しく開局したりして、系列の乗り換えという事がよくあったようです。2018年に認定持株会社に移行し、朝日放送GHDに社名変更。現在に至ります。
一方、テレビ朝日。1957年11月に日本教育テレビとして、会社設立。1959年12月に開局しています。ちなみに、社名の通り、当時は教育に力を入れた番組を放送していたようで、1973年11月教育専門局から総合番組局に移行して、現在のような放送コンテンツの形になったようです。1977年4月には社名を全国朝日放送株式会社、略称をテレビ朝日に変更。この略称のテレビ朝日を社名に変更したのは2003年10月。2014年に認定持ち株会社に移行し、テレビ朝日ホールディングスに社名変更。現在に至ります。
テレビ朝日が正式社名になってから、まだ20年も経っていない事に驚きですが、その時の名残か、関西では大阪の朝日放送の事を「大阪朝日放送」と言って、テレビ朝日と区別する人がまぁまぁいます。両社とも朝日放送だったので、区別がつかなかったんですね。
<問題>
突然ですが、ここで大事な大事な、アタック チャンス!
2020年3月期(2019年度)の営業利益~経常利益のテレビ朝日HDと朝日放送GHDの比較。テレビ朝日はどちらでしょう?
一方は営業利益から経常利益になっても変わらず、もう一方は増えています。
よろしいでしょうか?
正解はBがテレビ朝日HDでした。
<解説>
2020年3月期のテレビ朝日HDの有価証券報告書を確認すると持分法による投資利益が非常に大きくなっています。これにより、営業外収益が大きくなり、経常利益の方が営業利益よりも6%も大きくなっていました。
ちなみに、テレビ朝日系列27局のうち、9局が持分法の適用会社になっており、朝日放送GHD(9.45%)や九州朝日放送(4.00%)の株も多少、所有しているので、記載があるだけで自局と合わせて12局が資本関係がある会社という事になっています。その他のテレビ朝日系列の有価証券報告書が見つけられませんでしたが、テレビ朝日HDは大体の系列局の株を保有しているようです。
また、テレビ朝日HD、朝日放送GHDの第3位の大株主である「公益財団法人香雪美術館」。朝日新聞の有価証券報告書を確認すると、朝日新聞の第2位の大株主でもあるようです。3社の2020年度の配当金だけで2億6,410万円…。税引き前の数字であるものの、失礼ながら、入館料よりも多いのではないかと思ってしまいます。
一体、何者なのか、気になったので調べたところ、朝日新聞社の創業者である村山龍平が収集した美術品を所蔵した美術館となっているようです。美術館を維持させるために、株を持たせているのかもしれません。
<貸借対照表について>
もう少し、分析していきたいと思います。
貸借対照表では朝日放送GHDの方が社債などによって、固定負債が多い以外は大きな違いは見られません。両社ともテレビ放送と言う装置産業がメインになっているため、固定資産が多めです。
損益計算書にしろ、貸借対照表にしろ、財務諸表上からは金額の大小の違い以外はほとんど差が見られない形になっています。
<売り上げについて>
テレビ朝日HDの2020年度の売り上げは264,557百万円。セグメント別にみると、放送事業、音楽出版事業、そのほか事業に分かれるようですが、放送事業が売り上げの8割程度を占めています。番組制作費は66,970百万円で、売上原価のうち34%(売上高に対しては25.3%)を占めています。主なそのほか事業の収入としては「インターネット」、「ショッピング」、「機器販売・リース料」、「出資映画」、「イベント」、「DVD」があるようです。音楽事業よりも売り上げを上げているインターネット事業(売上比8.1%)やショッピング事業(売上比5.9%)がセグメントに分けられず、その他に入れられているため、比率が大きくなっているようです。
一方、朝日放送GHDの2020年度の売り上げは78,344百万円。セグメント別にみると、放送事業、ハウジング事業、ゴルフ事業に分かれていますが、こちらも放送事業が売り上げの8割程度を占めています。番組制作費は15,175百万円で、売上原価のうち29%(売上高に対しては19.4%)を占めています。
放送外収入がしきりと言われているため、テレビ朝日HDや朝日放送GHDの比較では大きな違いが出てくるかと思っていましたが、キー局、準キー局でも、事業は違えど大差なく、いまだ2割程度というのが実態のようです。
そして、ここからはテレビ事業(地上波)の広告費に特化してみていきたいと思います。
テレビ朝日HDのテレビ事業売上から、「BS・CS収入」と「そのほか」を除いた、「スポット(地上波)」、「タイム(地上波)」となっている売り上げ(広告収入)のみを地上波のテレビ朝日としての売り上げと考えると、その売上高は2020年度で154,629百万円。そこでの番組制作費66,970百万円の比率を考えると、43.3%。
一方、朝日放送GHDのテレビ事業売上から「スポット」、「ネットタイム」、「ローカルタイム」のみの売り上げを朝日放送テレビの売り上げと考えると、その売上高は46,586百万円。番組制作費15,175百万円の比率は32.6%。
番組制作費がテレビ朝日の方が10%ほど多いのは番組の数が多いせいではないかと思われますが、テレビ朝日HD、朝日放送GHDともに、大きく、番組制作費を減らしています。番組内などでも言われている製作費が減っているという事は本当のようです。
また、テレビ朝日はスポットとタイムの売上がほぼ半々ですが、朝日放送の方はスポットが60%程度、40%程度のタイムの内訳としては、ネットタイム30%、ローカルタイム10%という構成になっています。
ちなみに、タイムとは番組の中に放送されるスポンサーで番組提供しているのもタイムスポンサーです。(「この番組は~の提供でお送りします」というやつですね)そのうち、ネットタイムとはキー局が全国放送として、全国の放送局分を一括して販売し、売上のみを各局に分け与える売り方(地方局は放送枠を渡して、売上のみを享受する)、ローカルタイムは自社で自社の放送枠を販売する方法になっています。
話を戻しますと、テレビ朝日と朝日放送の売り上げは、その差およそ3.3倍。人口や世帯数だけで考えると、テレビ朝日は朝日放送の2倍なので、人口比や世帯数比で考えると、2倍になるべきところが3.3倍というのは、やはり、東京という地域性のアドバンテージ料が含まれているようです。朝日放送テレビのローカルタイムが10%程度しか売上がないというのも、テレビのスポンサーは東京を重視している表れではないかと思います。
地域アドバンテージなのかを確認するため、有価証券報告書が見つかった、東京・大阪以下の名古屋・福岡・札幌局で確認しました。名古屋局である中部日本放送(TBS系列)、九州局である九州朝日放送(テレ朝系)、北海道局である札幌テレビ(日テレ系)でテレビ事業に特化して、売り上げを比較したところ、系列が異なる局もあるので、一概に比較はできませんが、テレビ事業の売上比率が、ほぼ大阪エリアとの世帯比・人口比と一致しました。
これだけを見ても、やはりテレビ広告においての東京での広告宣伝活動は他エリア以上に重視されているということがわかりました。
<テレビ局の今後>
コロナ禍の影響もあり、ジリ貧で売り上げを下げているテレビ事業。今後は、どう考えているのか。
朝日放送GHDの決算説明会資料に方向性がありました。事業領域を「放送事業」、「コンテンツ事業」、「ライフスタイル事業(ハウジング、ゴルフ、通販など)」に新たに3つに分類して、連結売上高を1,000億を目指すとのこと。注目すべきは2021年度の予想売上126億から、2025年度までに倍額の250億に増やす目標のコンテンツ事業です。
その内訳としては、アニメ事業、実写、イベント、その他、という分け方のようですが、実写の「放送」以外でマネタイズできるコンテンツとしてはどのような形を考えているのか、放送と連動したビジネス展開というのは既存の広告収入ではない形なのか、今後も注目していきたいと思います。
テレビ局としては、放送設備を抱えるプラットフォーマーの役割と、番組を放送するコンテンツメーカーの役割があります。最近よく見かける、テレショップ番組などはプラットフォーマーの立ち位置としてマネタイズしている形ですね。テレショップ番組も徐々に多くなってきてはいますが、テレビ局は今後もコンテンツメーカーとして、強みを出していこうとしていることが良くわかりました。大阪局などはまだ資金力もあり、そうした形をとれるのでしょうが、地方局になればなるほど、厳しくはなるので、今後は自社でほとんど番組は制作せず、プラットフォーマーとしての立ち位置を取る局も出てくるかもしれません。この辺りは今後、地方局の財務諸表などを調べて、確認していきたいと思います。
<まとめ>
今回、調べてみてわかったのはキー局の強さ、東京エリアの強さ。地上波のみならず、BSやCSやネットテレビ局、さらには、ローカル局とも資本関係を築き、ほとんどの放送媒体を押さえて、どこが抜け出しそうになっても乗っかっていけるようにしているように見えました。
しかし、一方で気になるのは、放送のネット同時配信が騒がれ、「系列局」としての枠組が崩れそうな地方放送局各局。ネット同時配信が実施されると、キー局のコンテンツがネットで見れてしまうため、地方局の立場は今以上に苦しくなりそうです。当然ながら、ネットタイムなども大きく減収になると思われます。そうした事態に陥った時にでも生き残っていけるのは、朝日放送GHDが準備しているような、自局でのコンテンツ作成や放送と連動したビジネス展開であると思われますし、番組制作費が削られていると言われている中、再び、増額されてくるのか、注目です。
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