【ボクシング】大振り、バランスの悪さを武器にする。ナバレッテが逆転KOで3階級制覇
☆2月3日(日本時間4日)・アメリカ・アリゾナ州グレンデール/デザート・ダイアモンド・アリーナ
WBO世界スーパーフェザー級王座決定戦12回戦
○エマヌエル・ナバレッテ(メキシコ)WBOフェザー級チャンピオン
●リアム・ウィルソン(オーストラリア)3位
TKO9回1分57秒
ビッグパンチ、ビッグスイング。リーチが長く、打ち抜きが利いているから派手で見栄えがよいが、上体の勢いを細い両足が支えきれず、打ち終わりに必ずバランスを崩す。見る人が見れば実に心もとない。これがナバレッテのスタイルで、正統派のウィルソンもまずはそこを突いてきた。
上体を右に倒しながら深く左ジャブを突きのばすナバレッテに対し、ウィルソンは挨拶代わりに左ショートフック、右クロスを合わせる。2ラウンドからはサウスポーへのスイッチも織り交ぜて、ナバレッテを幻惑しにかかった。右を打ちながら上体を突っ込ませるナバレッテに左ボディカウンターも見舞ってみせた。
それでもナバレッテは強引豪快な攻撃をやめない。天にも届きそうな左右アッパーを真下から突き上げる。かと思えば、長い左足を大きく前方に置いて奥行きを作り出し、ジャブを放つ。荒々しく、かつ不器用に見えて、でもそういうひと工夫もまぶしてくる。実戦で得た戦い方なのだろう。
ナバレッテのもうひとつの戦法は、ビッグパンチに相手を引きずり込むこと。あれだけ長く、深く、強いスイングで風を切られれば、人間の心理・本能としてその戦いに吸い込まれてしまう。無意識のうちにこちらのパンチも大きくなって返してしまうもの。だが、ウィルソンはしっかりとそこを我慢した。そして4ラウンド、ナバレッテの豪快な右アッパーをかわしざま、狙っていた左フックをヒット。これで腰砕けにし、連打からの右でナバレッテにヒザを着かせたのだ。
辛くもゴングに逃れたナバレッテの足元は、5ラウンドに入っても揺らいでいた。ダメージが残っているように見えるが、初回に見せていたようにぎこちないステップもまた彼の特色でもある。ウィルソンは自らに冷静さを求めたことに加え、ナバレッテの状態の判断もつかなかったのではないか。攻め急がずに左右へのスイッチを冷静に繰り返し、左フックを狙う。だが、ナバレッテも右からの入りを多用し始め、返しの左のタイミングを計りだした。
そして続く6ラウンド。ここが分かれ目だった。右アッパーからの左ボディブローが決まり、ウィルソンが後退する。ナバレッテは右ショートから左ボディを連発し、一気に巻き返しにかかった。ラウンド終了間際、足をサウスポースタンスに組み替えたウィルソンが左から右フックをヒットしてナバレッテにダメージを与え、ポイント的にはイーブンに戻したものの、ナバレッテの勢いはこの回で加速した。
徹底的に右からの左ボディを狙う。上方へは相変わらずビッグパンチを叩きつけておき、ボディ、そしてインからの左右アッパーを突き上げる。鼻血がひどくなったウィルソンからそれまでの冷静さが薄れ始めた。そうして迎えた9ラウンド。相変わらずナバレッテの右打ち終わりに左フックを狙うウィルソンだったが、ナバレッテは技ありのワンツーを放つ。右ストレートの打ち終わりには必ず上体が突っ込んできたはずが、ここでは遠い位置をキープして、腕の長さだけを利用した打ち方に変えた。入ってくるはずのナバレッテの顔が入ってこない。中途半端に打ち出した左フックに、逆にカウンター気味となったナバレッテの右。ウィルソンは思わず尻もちをついてしまった。
こうなれば、ナバレッテの独壇場だ。真っ直ぐ下がるウィルソンに、長い左右ストレートが届いていく。後退したウィルソンはロープに詰まり、連打に晒される。最後の最後まで左フックを狙うものの、ナバレッテの勢いは止まらない。何度も脱出したものの、足をもつれさせたウィルソンをナバレッテが捕まえる。クリス・フローレス・レフェリーが割って入り、試合終了を告げた。
スーパーバンタム級では体格の利を圧倒的に活かしていたナバレッテ。だが、フェザー、そしてこの階級では、そこまで有利に働かなくなった。それでも、不器用というマイナス要素を逆に有効活用する戦法が身を救った。不安定さは相変わらずだが、実戦での強さ、しぶとさをまた披露してみせた。
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暁視GYOSHI【ボクシング批評・考察】
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