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EV:構造・市場・課題・展望のすべて
EV(電気自動車)とは何か?
電気自動車(EV)とは、車載バッテリーに蓄えた電気エネルギーでモーターを回し走行する自動車です。走行中にCO2などの排気ガスを一切出しません。EVの動力源はバッテリーと電気モーターであり、バッテリーからモーターに電流を送りモーターを駆動させることで車輪を回します。モーターの出力はインバーターなどの制御装置(コントローラー)によって調整され、アクセルの踏み具合に応じてスピードを制御します。
構造上の特徴
EVのパワートレイン(動力伝達機構)は主に「駆動用バッテリー」「モーター」「インバーター等のコントローラー」の3つで構成されます。一方、ガソリン車ではエンジンや多段変速機(トランスミッション)・燃料タンク・排気マフラーなど複雑な機構が必要ですが、EVにはこうした内燃機関関連の部品がありません。部品点数は大幅に少なく、一般にガソリン車が数万点の部品を持つのに対しEVは1~2万点程度ともいわれています。機構がシンプルなので車両の整備頻度が低く、メンテナンス費用も抑えられるメリットがあります。またエンジンがないことで振動や騒音が非常に少なく、静かで滑らかな走行が可能です。モーターは低速から最大トルクを発生できるため発進加速が鋭く、変速ショックもありません。
重量配分と運転特性
EVは大型のバッテリーを床下に搭載する設計が多く、車両の重心が低く安定する利点があります。さらにエンジンやプロペラシャフトが無い分、バッテリーやモーターなど主要部品の配置自由度が高く、車体の前後重量バランスを理想的に設計しやすいと言われます。このためガソリン車に比べハンドリング(操縦性)が向上する場合もあります。一方でバッテリーの分車重は増えるため、車両重量が重いという側面もありますが、ブレーキ時には回生ブレーキ(減速時にモーターを発電機として機能させバッテリー充電する機構)によりエネルギーを一部回収できるので、重さを有効活用して航続距離の延長に寄与しています。
EVが注目される背景
環境問題への対応
地球温暖化や大気汚染への危機感から、排ガスを出さないEVへのシフトが世界的に加速しています。ガソリン車は走行時にCO2を大量に排出し温暖化の原因となるうえ、排気ガス中の有害物質が大気汚染や健康被害を引き起こします。そのため「走行時に環境に優しいEVへ移行しよう」という動きが各国で強まっており、ガソリン車の販売を禁止する方針を打ち出す国・地域も相次いでいます。例えば中国政府は2035年以降、国内の新車販売をすべて電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車などの新エネルギー車にする方針を発表しました。アメリカでもカリフォルニア州をはじめとする複数州が2035年までにガソリン車の新車販売禁止を決定しています。日本政府も2020年末に「2035年までに新車乗用車販売を100%電動車(HV含む)にする」という目標を掲げました。このように政策的にもガソリン車からEVへの転換が強力に後押しされているのです。
エネルギーと資源の課題
化石燃料である石油は有限であり、将来的な枯渇リスクや価格高騰も懸念されています。特に日本のようにエネルギー資源を海外に頼る国では、輸入に依存しないEV普及はエネルギー安全保障の観点からも注目されています。再生可能エネルギーで発電した電気を使えばCO2排出ゼロで走れるため、EVは気候変動対策とエネルギー自給の切り札として期待されています。また、近年の原油価格の高騰(例えば2022年前後の世界情勢によるガソリン価格上昇)により、燃料費の安いEVに関心を持つ消費者も増えました。
技術進歩と市場動向
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