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イーロン・マスク―現代の革新的起業家
1. イーロン・マスクとは何者か
生い立ちとアメリカ移住
イーロン・マスク(Elon Musk)は1971年6月28日に南アフリカ共和国プレトリアで生まれました。幼い頃から読書と科学が大好きな内向的な子供で、コンピュータにも強い関心を示しました。わずか12歳のときには独学でプログラミングしたビデオゲームを完成させ、約500ドルで売却しています。これは宇宙戦争をテーマにした簡単なゲームでしたが、幼いマスクにとって初めて自分の発明で稼いだ貴重な経験となりました。
マスクは少年時代、体が小さかったこともあり学校でいじめに遭っていました。しかし15歳頃には身長も伸び、空手やレスリングで身を守る術を身につけたと言われています。こうした経験を経て強く成長したマスクは、「自分の能力を発揮できるより大きな舞台」を求めるようになります。
17歳になった1988年、マスクはカナダへ渡ります。これは南アフリカの大学に進学する代わりに、将来の兵役(当時、南アフリカには徴兵制度がありました)を避け、より大きなチャンスを求めた決断でした。彼は母親がカナダ出身だったことから比較的容易にカナダ国籍を取得し、まずオンタリオ州のクイーンズ大学に入学します。マスク自身は後に「北米に来たのは、テクノロジーで偉大なことを成し遂げる機会がここにあると感じたからだ」と語っています。1992年、マスクはアメリカ合衆国ペンシルベニア大学に編入し、経済学と物理学の学士号を取得しました。その後、カリフォルニア州のスタンフォード大学大学院に進学して応用物理学の博士課程に進もうとしましたが、ちょうどインターネット革命の波が押し寄せていた時期でもありました。
初期の起業活動
スタンフォード大学への入学手続きからわずか2日後、マスクは大学を休学し起業の道へ進みます。「インターネットがこれから世界を変える」と考えたマスクは、自身もその波に乗るべきだと判断したのです。当時24歳のマスクは弟のキンバル・マスクとともにシリコンバレーでソフトウェア企業を立ち上げることを決意しました。こうして1995年に誕生したのがZip2(ジップツー)という会社です。
Zip2はインターネット上で街の地図や電話帳のような都市案内サービスを提供する事業でした。当時、新聞社が紙媒体からオンライン版へと進出し始めており、Zip2はニューヨーク・タイムズやシカゴ・トリビューンなどの新聞社向けに都市情報プラットフォームを提供しました。これは現在で言えばGoogleマップや食べログのように、街の地図上にレストランやお店の情報を載せるサービスと考えるとイメージしやすいでしょう。インターネット黎明期において、こうしたオンライン都市ガイド事業は先進的でした。
Zip2社は順調に成長し、4年後の1999年にはコンピュータメーカー大手のコンパックに買収されます。買収額は総額3億7千万ドル(約400億円)にもなり、マスク個人にも約2,200万ドルもの巨額の資金が入ったと伝えられています。この成功によって、マスクは20代にして既に経済的な自由を手に入れました。しかし彼はそこで満足せず、得た資金を元手にさらなる大きな挑戦へと打ち出します。
2. 初期の起業とPayPal時代
オンライン銀行X.comとPayPalの誕生
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