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Bコープの新たな企業像~利益と社会・環境貢献を両立する未来へ~

1. Bコープ(Benefit Corporation)とは何か

1.1 定義と基本的な仕組み

Bコープとは、ビジネスの力で社会課題の解決や環境保全に取り組むことを明確に目的とした企業形態・制度のことです。大きく分けて二つの意味があります。一つはアメリカなどで法的に定められた企業形態としてのベネフィット・コーポレーション(Benefit Corporation)であり、もう一つは非営利団体B Lab(ビーラボ)による認証制度としてのBコープ(Certified B Corporation)です。前者は会社の定款に社会・環境への貢献目的を組み込んだ法的ステータスであり、後者は既存の企業が第三者評価を受けて「社会的・環境的に高いパフォーマンスを発揮している」と認められる認証称号です。

基本的な仕組みとして、ベネフィット・コーポレーション(以下「法的Bコープ」)は、法律上企業の目的に「一般公益(社会・環境へのプラスの影響)」を含め、取締役に対して株主だけでなく従業員や地域社会、環境などステークホルダー全体への配慮義務を課し、さらに年度ごとの公益目的の達成状況の報告(ベネフィットレポート)を義務付ける企業形態です。一方、認証Bコープ(以下「認証Bコープ」)は、企業がB Labの定める包括的な評価基準(Bインパクト評価)で一定以上のスコアを取得し、透明性確保のための情報開示を行うことで認められる称号で、法律上の企業形態ではありません。どちらも営利企業でありながら社会的使命を追求する点で共通しており、「ビジネスを良き力(Force for Good)にする」ことを理念に掲げています。

1.2 従来の営利企業との違い

従来の株式会社は、一般的に株主利益の最大化が経営の最優先目標とみなされてきました。取締役の受託者責任も株主に対する利益追求に重点が置かれ、他の利害関係者(従業員や取引先、地域社会など)への配慮は法律上は二次的とされる場合が多いのが現状です。これを「株主中心主義(シェアホルダー・プライマシー)」と呼びます。例えば米国の一般的な会社法では、取締役が意思決定をする際「会社の最善の利益」を図る義務がありますが、その「最善の利益」が曖昧であったため、「結局は株主の経済的利益=株主価値の最大化が最優先」と解釈されてきました。

これに対し、Bコープでは「ステークホルダー全体の利益」を企業の使命に据える点が決定的に異なります。法的Bコープの場合、法律によって「会社の目的は環境や社会へ実質的なプラスの影響を生み出すこと(一般公益)」であると定められ、取締役は意思決定に際して株主以外のステークホルダーへの影響も考慮しなければならないと明文化されています。つまり、株主の利益と社会・環境の利益をバランスさせ、場合によっては社会や従業員等を優先する判断も許容されるのです。また、毎期の公益目的達成度合いを報告する透明性義務が課され、株主だけでなく一般にもその報告書(ベネフィットレポート)を公開する必要があります。このように、法的に「会社のため=株主のため」に留まらず「社会全体のため」に行動する責任がある点で、従来型の営利企業とは異なるルールが設定されています。

認証Bコープ企業についても、法律上は通常の営利企業形態(株式会社やLLC等)でありつつ、B Labの認証を受ける過程で自社の定款等にステークホルダーへの配慮義務を組み込むことが求められます。例えばアメリカで株式会社(CコーポレーションやSコーポレーション)の場合、認証取得のためにはまず自社をベネフィット・コーポレーション形態に変更し、法的にも株主第一主義から離脱することが必要です。この点でも、株主のみを唯一のボスとしない経営スタイルへの転換が従来企業との大きな違いと言えます。

1.3 認証型との違い(Bコープ法 vs Certified B Corporation)

前述のとおり、Bコープには法制度としての「Benefit Corporation」と民間認証としての「Certified B Corporation」の二種類があります。この違いを整理すると以下のようになります。

  • 法的Bコープ(Benefit Corporation): 国や州の法律に基づく企業形態。会社設立時または定款変更によってその地位を取得し、目的・責任・透明性に関する法的要件(公益目的の明記、ステークホルダー配慮義務、年次報告義務など)を満たす必要があります。第三者からの認証を受ける必要はありませんが、各社が独自に第三者基準を用いて公益報告書を作成することが要求されます。基本的に特定の法域内(州や国)のみで有効であり、その法域でのみ通用する企業区分です。

  • 認証Bコープ(Certified B Corp): B Labが運営する認証制度。世界中のあらゆる営利企業が志願して取得可能で、業種や法人形態を問わず受けられます(非営利団体は対象外)。認証取得にはBインパクト評価で80点以上を取ることや、定款等への目的条項追加、B Labサイト上でのスコア公開などが必要です。認証後も原則2〜3年ごとに基準に照らした再認証(アップデート)が求められ、常により高いスタンダードへの適合を維持する必要があります。こちらは国際的に通用するお墨付きであり、企業はB Labのロゴをマーケティング等に活用できます。

両者の違いを端的に言えば、法的Bコープは「法律上の肩書き」であり、認証Bコープは「第三者認証の称号」です。法的Bコープは存在自体がその会社の社会的使命を示すものですが、具体的なパフォーマンス水準に統一された基準はありません。一方、認証Bコープは世界共通の厳格な評価基準をクリアした証であり、いわば「実力テストに合格した良い会社」のブランドと言えます。例えば「すべてのBコープ企業はBenefit Corporationか?」というとそうではなく、法的Bコープでなくとも認証は取得可能です。ただし前述のように、株式会社の場合は認証取得の一環で法的Bコープになることが推奨・要件化されています。逆にBenefit Corporationだからといって自動的にB Labの認証を持っているわけではなく、法的義務さえ果たせばパフォーマンス自体は自己申告ベースです。このため、「Benefit CorporationでありCertified B Corpでもある」企業も存在します。両者は相補的な関係にあり、Benefit Corporationは第一歩としての法的土台、Certified B Corpはさらなる高みへの実践と証明と位置づけられています.

なお日本では現時点でBenefit Corporationに相当する法人格は存在せず、Bコープと言えば主にB Labの認証制度を指す場合が多いです※。しかし本記事では便宜上、両方を総称するとき「Bコープ」という用語を用い、必要に応じて法的Bコープ(ベネフィット・コーポレーション)と認証Bコープ(認定Bコープ)を区別して言及します。

※参考:米国では「Public Benefit Corporation(公益法人)」という呼称を使う州もありますが、多くの州ではBenefit Corporationと同義です。デラウェア州など一部ではLLC(合同会社)でも同様のステークホルダー条項を織り込める場合があります.


2. 歴史的経緯と成立プロセス

2.1 B Labの設立とBコープ認証の誕生

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