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なぜ日本ではマウンティングは女性に起こりがちなのか?(シン・社会学)

画像はAIに「マウンティング(山登り)で競い合う3人の女性」で描かせたものです。違う、そうじゃないw

先日、ある方とお話していて、あ、このテーマの記事を書くつもりだったのに書いてなかった、ということにふと気づきまして、すぐに書かないとまた忘れそうですので記事化しておきます。

まずは、こちらの動画をご覧ください。

ということで、今日はマウントのお話です。

今回、紹介したいのは、心理学者である 森 裕子先生の「マウンティングエピソードの収集とその分類:隠蔽された格付け争いと女性の傷つき」という論文です。(石丸先生との共著ですね。)

この研究の中では、マウンティングは、「女性同士の関係性の中で「自分の方が立場が上」であると思いたいために,言葉や態度で自分の優位性を誇示してしまう現象」として扱われています。論文の概要を紹介してみましょう。

マウンティングとは,女性同士の関係性の中で「自分の方が立場が上」であると思いたいために,言葉や態度で自分の優位性を誇示してしまう現象(瀧波・犬山,2014)を指し,近年注目されている現象である。本研究では,書籍やテレビドラマからマウンティングに該当するエピソードを収集し,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを援用して分類を行った。その結果,20 の概念が生成され,<伝統的な女性としての地位・能力を誇示する><人間としての地位・能力を誇示する><女性としての性的魅力を誇示する>の3 つの上位カテゴリーにまとめられた。これら3 つのカテゴリーは,ある部分では一方に勝てるが,ある部分では負けるという,膠着した三すくみの状態にあると考えられ,女性のあいだでみられるマウンティングは,優劣を決定することができず,繰り返されてしまうといえる。今後は,因子分析など量的方法を用いて分類の妥当性を確認する,マウンティングの強さを測る尺度を作成することなどが期待される。

抄録より

シン・社会学では、理論の有用性を重視しており、世の中で紹介されている様々なフレームワークのうち、確かに、このフレームワークで説明すると説明がつくね、というものを紹介しています。

詳しい内容については、上記の文章を読んでいただくとして、わかりやすくするために、図にしてみました。

図1 女性のあいだでみられるマウンティングの 三すくみに、AIに描かせたイラストをつけてみた

こういう話をすると、いやいや、マウントを取るのは女性だけじゃないじゃん、男性もあるでしょ、という話になるかと思うのですが、論文にも書かれているように、男性はもっとシンプルな世界に生きています。

男性の職業上の成功と達成と,肉体的・精神的強さと独立心(鈴木,1994)は矛盾せず,仕事でいい結果を出しながら,健康的な肉体を手にすることはできる。そのため,男性のあいだでみられるマウンティングは,シンプルなものになり,すぐに勝負がつくか,あるいはマウンティングそのものが起こりにくいと考えられる。

Ⅳ 考察 より

例えば、若い男性同士で集まったとして、誰かがモテモテだった場合、一瞬はマウントみたいになりますが、すぐに、いいなー、誰か紹介してよ、合コン設定してよ、みたいになります。誰かが稼いでいる、という話になれば、じゃあ、おごってよ、となり、なぜかマウントが「シェアしろ」という風になります。

女性の場合には、マウントの方向性3軸がそれぞれ同時には成り立ちにくいものになっているので、マウンティングでの勝ち負けが判定しにくく、したがって、長引くか、対立のまま終わる、ということが起こりやすい、ということを研究しているものです。

具体例を見ていきましょう。

こちらのヤフーの記事の例がわかりやすいです。

引用します。

<伝統的な女性としての地位・能力>
結婚している。子どもがいる。家族と安定した生活を送っている。貞淑である。等
例1:産後すぐに仕事復帰する女性に「子どもが3歳まではそばにいた方がいい」と言う(概念名:貞淑さ)
例2:独身の友人に「イケメンを紹介するよ~」と言う(概念名:既婚の安定)
例3:恋愛の悩みを相談すると「子どもを育ててると毎日が忙しくて、ちっちゃなことで悩んでるヒマはないかな~」と言われる(概念名:子どもの存在)

<人間としての地位・能力>
学歴が高い。年収が高い。有能である。独力で生きられる。自由で楽しい生活。等
例1:自分が仕事で目標を達成したと言うと「私もこの前、同期で一番のりでプレゼン担当になったんだ」と言われる(概念名:仕事の有能さ)
例2:学歴がない女性に対し「男の金で生きてくの?つまんない人生」という(概念名:学歴)
例3:寿司屋で「お寿司、トロから頼んじゃうんだ」と言われる(概念名:趣味・教養)

<女性としての性的魅力>
モテる。男性に尽くしてもらえる。見た目が良い。若い。等
例1:「みんなメイク盛ってるね~!」とすっぴんの女性が言う(概念名:美しさ)
例2:男性に声をかけられることを話し「軽く見られてるのかなー」(概念名:モテ経験)
例3:「彼氏、イケメンじゃないところが逆にいいね」と言う(概念名:男のセンス)

なぜ女性同士はマウントを取り合うのか?臨床心理学者に聞いた女性の「三すくみ」とは?
https://news.yahoo.co.jp/articles/f9b6be2cb447f9029771e3ad8e07c6cd5c5abb3f?page=1

いかがでしょうか。もちろん、これらの発言は、意図的にマウントとして発せられることもあるかとは思いますが、逆に、本人の価値観に基づいて発した発言が、マウントと取られることもあるでしょう。しかし、本人は無自覚でも、3軸のある軸についての話を他の軸の話にずらされた、と感じることが、マウントを生み出していると考えると、この問題はなかなか闇が深い問題のように思えます。

一応、お断りしておきますが、この問題は、女性が別にその生物学的特徴からそうなっている、という話ではなく、あくまでも社会が女性に要求している役割が分裂している、という問題だと思っています。

もう少し詳しく見ていきましょう。こちらのフレームワークをあてはめてみたいと思います。

<伝統的な女性としての地位・能力>はわかりやすくて、社会資本を得ている、と考えられます。<人間としての地位・能力>は人的資本を持っている、ということでしょう。では、<女性としての性的魅力>は、といえば、これも人的資本になる、というのが女性特有のところかと思います。

もちろん、<女性としての性的魅力>の結果として<伝統的な女性としての地位・能力>ということも考えられますが、この場合、そのまま<女性としての性的魅力>を保持し続けることは考えにくく、資本を<伝統的な女性としての地位・能力>に振り替える、ということになるかと思います。

男性はどうでしょう。<男性としての性的魅力>は人的資本になりうるのでしょうか? アイドルや配信者、ホストなどのお仕事だったらあるのかもしれませんが、一般には、特に組織では、ここは無視されているのではないのかな、と思います。(個人事業であれば、若干、影響はあるかもしれません。)

ここに、ちょっと何か違和感を感じます。

やはり、日本社会においては、意思決定者が圧倒的に男性が多く、そうなると、<男性としての性的魅力>は意思決定のパラメータから無視されやすい。逆に、<女性としての性的魅力>は意思決定のパラメータに入れられやすい、ということはあるのかもしれません。

世の中の風潮として、魅力的な女性が居てお酒を飲む空間は、ガールズバーからキャバクラから、クラブからラウンジと、低価格のものから高価格帯まで存在しています。ということは、それだけ<女性としての性的魅力>を金融資本に変換できる場所がたくさんある、ということかと思います。

一方で、魅力的な男性が居てお酒を飲む空間、となると、ホストクラブくらいしか思いつかず、例えば、ビジネスの接待で女性経営者たちがそこで商談をする、なんてイメージは、私が知らないだけかもしれませんが、ちょっと商売的に成り立っていないような気もします。

政治家、経営者、その他、社会に影響力を持つ女性が半数以上になって均等になれば、もしかしたら男性の中でもマウンティングが始まるのかもしれません。

取材記事の中で、森先生は、

この論文を出してからさまざまな感想をいただきましたが、「本当に三すくみは女性だけなのか」「男性も単純なひとつの評価軸だけで上下が決まるわけではない」というご意見もいただいて、確かにそのとおりだなと反省した部分もあります。

なぜ女性同士はマウントを取り合うのか?臨床心理学者に聞いた女性の「三すくみ」とは?https://news.yahoo.co.jp/articles/f9b6be2cb447f9029771e3ad8e07c6cd5c5abb3f?page=2

とおっしゃっていますが、女性だけのものではない、という声も寄せられたようですが、シン・社会学の考え方としては、こういう非建設的な細かいツッコミを入れることで、理論全体が破綻するというものでもなく、こういう傾向がある、ということがわかると、救われる人が多いなら、それは有用な理論なんではないかな、と思うわけです。

・三すくみは女性だけではない
・男性もひとつの評価軸だけでは決まらない

こういう否定形での批判は、まあ、無視していいのではないか、と思います。

・男性の三すくみの形はこうだ
・実際には男性が評価される軸はこうだ

という建設的な意見が言える人が、日本でも増えたらいいのにな、と思ったのでした。

ただ、若い世代では、ちょっと変化がありそうだ、というニュースもありました。

これまたヤフーニュースでした。

引用します。

出生動向基本調査の経年推移をみると、この「結婚相手の条件」について、おもしろい傾向が読み取れる。近年、女性が男性に求める条件の中で「男性の容姿」を重視・考慮する割合が急速に伸びているのだ。

1997年時点、男性の容姿を重視・考慮する割合は67.3%だったが、それが2015年には77.7%と10ポイント以上も増加した。従来、約8割という高い数字だった「共通の趣味を持つ」という条件が2015年74.9%であり、女性にとっては「共通の趣味」より「男性の容姿」の重要度の方が逆転したということを意味する。
(中略)

女性側の条件で10ポイント以上増加したのは「男性の容姿」だけである。一方、男性側の条件では相変わらず「女性の容姿」は高いが、加えて「女性の経済力」「女性の職業」が10ポイント以上増加している。まるで、「男の経済上方婚志向」が増加しているかのようだ。

結婚相手に求める条件に異変~男の結婚は「経済力」だけでなく「容姿」重視へ
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/9e55a750b85ede27f2eb6622b6c768f891d5b0cb

これは、下記の記事で書いたことにもつながる話です。

で、時間もあるので何か質問はありますか、という話になり、昨今の婚活事情についてヒヤリングすることになった。

なお、これはある特定のエリアの特定のカウンセラーさんの個人的な意見であり、日本全国に当てはまる話かどうかはわかりません。

ここ最近の結婚相談所に来る方が結婚したい理由は、以前のように親や親せきがうるさいとかいう理由は少なくなってきていて、「さみしいから」というものが増えてきている。それは実家住まいでも同じ。

で、もう一つ傾向として、男性も女性も年下が良い、というらしい。結果としてマッチングが難しくなっているとか。

上記事より引用

結婚観の変化、なんて記事もありました。

結婚を考える理由についても、昔と今とでは全く異なります。

昔は、社会的な信用や経済的な安定を得るために結婚を考える人が多くいましたが、今は「安らげる居場所がほしいから」「家族がほしいから」という意見が圧倒的多数を占めています。独りでいることの寂しさや将来的な不安から、社会的な地位よりも、プライベートでの居場所や心のより所を求めている人が増えているんですね。

結婚観は変化している?昔と今、男女での違いとは
https://www.mwed.jp/articles/11472/

もちろん、世の中、結婚だけではないですが、これが事実であり、こういう考え方が主流になってくると、結婚=経済的安定、ではなくなってきます。また、共働きが普通になるでしょうから、家庭のこともやりながら仕事もしている、というのが当たり前になってくる(既になっている気もしますが)かと思います。

しかし、現実の社会よりも文化と言いますか、価値観というのは親世代からの影響もあり、変化するのがなかなかに遅いので、女性が、<伝統的な女性としての地位・能力><人間としての地位・能力><女性としての性的魅力>の3つの力を同時に持つことが求められ、なおかつ男性にも<伝統的な男性としての地位・能力><人間としての地位・能力><男性としての性的魅力>を求めるような、そんな社会になれば、(若干、大変かもしれませんが、)社会的性差のない社会がやってくるんではないでしょうか?

そういう意味でも、最近、個人的に思っているのが、日本のおっさんの美的センスの無さはなんとかならないか、ということです。

ここではおっさんを、「収入のうち一定の割合をプレゼンスのために使っていない年配男性」と定義します。

ダブダブで個性のないダークスーツ、おっさん臭ただよう彼らを見ていると、給料はどこに消えているのかな、と思ってしまいます。

実は、いちばん諦めているのが奥さんだとしたら、それもなんだか可哀そうな気がします。

せめて会社の役職にある人には、それは会社の広報上の問題として、もっと自分のプレゼンスに気を遣ってもらって欲しいなぁ、と私は個人的に思っているのですが、今の社会は男性に甘いですよね。

もっと、女性が経済的安定以外の要素を重視して結婚するようになり、男性のプレゼンスにもまっとうに厳しい社会になったら、もしかしたら、今回、紹介したような、女性のマウティングの状況も、また変わってくるのかもしれません。

なお、森先生ですが、noteでマウント研究先を募集されていたようです。今でも募集されているのかはわかりませんが、一応、リンクしておきます。

現場からは以上です。

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