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「女の敵は女」を理論化したもの達

前回のこちらの記事の続きです。

前回の記事では、心理学者である 森 裕子先生と、石丸先生との共著である「マウンティングエピソードの収集とその分類:隠蔽された格付け争いと女性の傷つき」という論文を紹介しました。そして記事の中で、森先生が、「本当に三すくみは女性だけなのか、男性も単純なひとつの評価軸だけで上下が決まるわけではない、というご意見もいただいて、確かにそのとおりだなと反省した部分もあった、というような発言をされていたことを紹介しました。

この例外もあるではないか、という批判は、はっきりいって新しい理論を生み出そうという意欲的な学術的研究者的態度に対して、超・否定的な態度であり、こういう輩がはびこっているのが、今の日本のアカデミック界の現状なんだろうな、と思います。これも一種のマウントですね。

それはさておき、本当に正しいのかわからないけれども、一部、もっともな部分もある理論というのは、実はきちんと整理すればそこから新しいものが見出せるかもしれないよ、ということで、今日は、たまたま発見した2つの理論を紹介し、そこからもうひとつの可能性について気づいてしまったので、そこまでを整理しておきたいと思います。


1.クイーンビー症候群

これはこちらの記事で発見しました。引用交えて解説していきます。

まず、研究的な話の部分。筆者は、東北大学大学院情報科学研究科 加齢医学研究所認知行動脳科学研究分野准教授 細田 千尋 先生です。

中でもとくに女性の上から下への厳しい評価や攻撃は「クイーンビー症候群(Queen Bee Syndrome)」と呼ばれます。日本ではまだまだ聞きなれない言葉です。ところが、もう40年以上前の1970年代ミシガン大学の心理学研究者によって始めて提唱されて以来、欧米では多くの反響を呼んでいます。“クイーンビー”とは、管理職についている女性で、部下の中でもとくに女性を陰湿にいじめる人のことを指す言葉です。

米メリーランド大学の研究に、20年にわたる1500社のデータを用いて、クイーンビー症候群の存在を検証する統計的分析を行なったものがあります。分析の結果、1人の女性が上級管理職に就いたときに、2人目の女性がそのポジションに就く可能性は、女性が初めて上級管理職につくことができる可能性に比べて、51パーセントも低くなったのです。

上記事より

やはり「女性の敵は女性」なのでしょうか。

実際、この結果だけを見ると、「クイーンビーが女性登用を阻んでいる」と解釈しがちですが、男性が最高経営責任者(CEO)の場合と、女性がCEOの場合に分けて分析を行なうと、女性がCEOの会社のほうが、女性が上級管理職に就く割合が高いということがわかっています。その背景には、女性がCEOに就いている職場ではダイバーシティーが進んでいて、男とか女とか白人とか有色人種といった差別がなく、すべての人に平等に昇進の機会があたえられていたことがあります。

一方、偏見や差別が根強く残り、ダイバーシティーを宣伝するために女性登用をしているような企業では、クイーンビーが増殖するという考え方も示されています。つまり、男性社会が、クイーンビーを生むということです。

クイーンビーが象徴するのは、“男社会で成功した女性が、自分の地位を守るために他の女性の活躍を快く思わない心情”です。“クイーンビー”になるのは、男社会の中で必死で頑張ってきたエリート女性なのです。リソースをうまく使い育児も仕事も完璧にこなすスーパーウーマンで、仕事もできるし、身体もタフ。職場の会社人間時間に適応し、家庭と仕事の両立のためにも、夫とも対等な関係を築いている……。そのため、「“男性社会”でこの地位を手に入れられたのは、自分が頑張ってきたからだ」という自負が強いのです。

当然その裏には、その他の人(女性)より何倍も頑張ってきた希少な人材である、という意識が強くあるため、自分よりぬるく見える女性、或いは自分の地位を脅かすかもしれないような女性への見方が厳しくなり、女性の地位向上には至極冷淡になるのです。

無理なく女性が活躍できる環境をつくらなければ、一時的に女性管理職数を増やしても「後が続かない」ということが起きてしまうでしょう。

上記事より

さて、ここで思い出していただきたいのが、前記事で紹介した三すくみの図です。

女性のあいだでみられるマウンティングの 三すくみ(前記事より)

このクイーンビー症候群として語られることと<人間としての地位・能力>マウンティング、というのは、どうやら同じことを言っている気がします。

もちろん、上の記事ではすべてこなしている、という風に書いていますが、3つとも完璧に、というのはやはり人間では無理でないかと思います。<伝統的な女性としての地位・能力>の部分を最低限こなし、<女性としての性的魅力>は若干、犠牲にしてでも、<人間としての地位・能力>を主にアピールする、というのが、このクイーンビー症候群として語られているのではないかと思われます。

関連記事がこちらにもありました。筆者は、ジャーナリスト・近畿大学教授
の奥田 祥子先生です。

女性が同性、特に女性の部下を、敵と見なして手厳しく対応する現象は、「女王蜂症候群 Queen Bee Syndrome)」と呼ばれる。米国・ミシガン大学の3人の心理学者が1973年に発表した論文で初めて登場した概念で、1970年代に欧米で話題になった。

男性優位社会で努力して指導的地位を手に入れて成功した女性ほど、その地位に固執し、自分より職場で下位にあり、かつ有能な女性を、自身の地位を脅かす存在、すなわち敵と見なす。そして、後進を指導して助けるどころか、足を引っ張って昇進を妨害するという。

女王蜂が、ライバルとなるメスと敵対する習性からそう名づけられたようだが、当時の論文では概念構築に比重が置かれ、現象が起きる要因について明確な答えは示されていない。

女性は管理職ポストに就くことが男性に比べて難しいだけに、また女性間で生き方、働き方が多様なだけに、自分と同性の他者を比較し、競争し合う傾向が強いことが影響しているのではないか。約20年に及ぶ取材と調査からそう私は考えている。

中でも、子どもの有無というライフスタイルの違いは、問題をなおいっそう深刻にしているようだ。冒頭の裕子さんの事例でも、パワハラを行った既婚で子どものいない女性上司が、育児と仕事を両立させたうえに管理職昇進を目指している裕子さんを疎ましい存在と捉えた可能性は高い。

上記事より

クイーンビー症候群は、<人間としての地位・能力>をメインの価値観として、発揮され、そこに<伝統的な女性としての地位・能力>の裏の関心が重なるとハラスメント的な面を帯びてくる、という印象です。

ちなみに別事例として、むしろ女性だけの職場ですと、男性の中にこのクイーンビー症候群が見られる、という貴重な声もありましたので、参考までに紹介しておきます。

サービス業から男性が遠ざかることへの一考察 ―ジェンダーステレオタイプ脱却の鍵を探る―大塚 彩音(村上ゼミ)
https://www.senshu-u.ac.jp/School/shakai/2_shakaigakka/2.5_thesis/abstracts/2022/thesis2022_daihyo1_murakami.pdf

4点目は、男性社員自らも、X社の仕事を女 性向きだと評価していたことである。女性社員 によって、女性の価値主張が行われている点は、 保育士と同じである。しかし、男性社員が、X 社の仕事を女性向きとしている点は、男性保育 士と異なる。男性保育士は、保育職を専門職と 位置付けることで、性別による壁を取り外す試 みをしていた(中田 2018)。一方でX社の男性 社員からは、そうした発言は見られなかった。 5点目は、X社の男性社員が男性を遠ざけようとする、「女王蜂症候群」のような事例が起き
ていることである。女王蜂症候群とは、男性優位の環境で上の役職に就いた女性が、自分よりも下の役職の女性を遠ざけようとする現象である(Derks et al 2016)。

上記事より引用

2.バタフライ症候群

次は逆に、<女性としての性的魅力>を男性社会での生存戦略に選んだ女子について、です。

こちらの記事から引用します。筆者はライターの北条かやさんです。(リンクのSNSが全部、見れないですが、叩かれたのでしょうか? Wikipedia貼っておきます。)

斎藤美奈子さんは『紅一点論』(筑摩書房、2001年)の中で、女らしさを過剰にふりまき、「お姫さま扱い」されたがる女性たちを「バタフライ症候群」と名づけました。彼女たちは、男性並みに頑張って成功するクインビー(女王蜂)のような戦略は取りません。美しい蝶のように、女らしさという鱗粉をふりまき、男性を魅了するのです。

上記記事より

いくら女性の進学率が向上し、働く女性が増えたといっても、働く人に占める女性の割合は4割ほど(厚生労働省「働く女性の実情」2012年版)。企業や部署によっては女性の数が極端に少なく、「男の園」状態も珍しくありません。

そんな中で、男性と対等に競争して「上」を目指すのは大変。こう悟った一部の女性は、まるで蝶のように可憐な女らしさや若さを売りにすることで、男性社員に取り入ろうとします。彼女たちが目指すのは「男と平等になること」ではなく「女としてちやほやされること」。

だからこそ、毎日綺麗にお化粧して、(いやらしくない程度に)ボディラインを強調した服装に身を包み、男性社員には1オクターブ高い声で接するわけです。仕事で困ったら「すみません、相談に乗ってもらえますか……?」と、子犬のような目をして歩み寄り、得意技は飲み会でのお酌とボディタッチ、男性社員へのおべっかです。

男性は意外に鈍感なので、こうした女性の態度の「裏にある思惑」には気が付きにくいもの。ただ、バタフライ女子も「ぶりっ子」ばかりしているわけではありません。他の女性に嫌われないためにも、適度に仕事をこなす必要がある。そんな彼女たちが意中の男性に、よく使うセリフはこちら。

「新人の女の子、なかなか部署のルールを覚えてくれないんですよね。何か協調性がないっていうか……」

本心では新人の若い女性を叩きたいだけなのに、「部署のルール」をタテマエに、お目当ての男性から共感を得ようとするわけです。彼女たちは、他の女性をそれとなく落とすのが実に上手い。

上記記事より

この作者さんは大学の先生ではないので読みやすいですが、ちょっと軽い文体になっていますので、もうちょっと研究っぽく解釈しますと、女性としての魅力を使って職場で生き残ろうとする生存戦略とも言えます。こういう先輩が居る場合、新人女子は先輩の戦略に気づき、自分はもう少し控え目な戦略を採用することでしょう。そうすると、「協調性がない」というマウントを取ってくる、という話です。

この話の面白いところは、「男性は意外に鈍感なので、こうした女性の態度の「裏にある思惑」には気が付きにくい」ということです。つまり、これは男性向けの戦略ではないのです。あくまでも同性に対するマウンティングになっている、というところが、実に面白い。

これらの記事、すべて女性の手によるもの、というのが、男性編集者の思惑なのか、それとも女性が女性を叩きたいからなのか、それはよくわかりませんが、こうして見ていると、あれ、もうひとつの可能性については名づけられていないのかな、ということが気になりました。

それが、<伝統的な女性としての地位・能力>をアピールして、他の女性を排除していく女性の存在です。

ここで思い出したのが、エアバッグで世界最大のシェアを持ちながら不祥事で2017年に経営破綻した、タカタ株式会社の事例です。

まずはWikipediaから事実関係を整理します。


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