#5起業までの背景と、その想いの伝え方
前回は、熱を帯びて確信に近づいてくる内容だったと思います。
江角さんが能力を伸ばしていきながら学生時代を過ごし、王道街道ともいえる大手企業に就職して、都内でいろいろな分野のお仕事を経験されて。
才能が開花しているときに妊娠出産というご自身のライフイベントがあって。
育休期間も研鑽を積んでいらして、MBAを取得するなど、すごく会社への貢献意識が高かったのですが、なかなか思った通りにはならなかった。
「まあ、そういうもんだよね」という一言もたくさんいただいたと思います。
江角さんの中で、そこで初めて世の中の不条理というものを強い怒りと共に感じた、というのを以前おっしゃっていたのが印象的でした。
そのときの想い、源泉について教えていただいてもいいですか。
1.選択肢が1つしかない社会
江角さん:
本当に怒りと悲しみというか、感情が先に出てきて、頭で相手の理解をしようと思っても相手は配慮してくれているし、子どもを抱えて働くには申し分ない環境で大好きな職場でした。
理解のある上司や仲間も素敵だし、そこは私という個性を受け止めてくれる職場だって分かっていたのですが、それを拒んでしまう自分もいて。でも、今このステージでここに残るという選択が、私の中でありませんでした。
自分が目指したいキャリアや将来像みたいなものを事前にすり合わせていたつもりだったんです。面談のタイミングでも人事に伝えていながら、なかなか叶わなかったというのは、それほどまでも強いアンコンシャスバイアスというか。
とはいえ働くお母さんはこうだから、という決めつけというものにものすごい憤りを感じまして、私は違うって言いたいのではなくて、どちらかというと「世の中のお母さんはこうやって世の中から可能性をつぶされてきた」ということにものすごくショックを受けましした。
それで黙ってきた先輩たちの想いは酌めないけど、もしかすると「それが良かった」という人もいるのも事実、それは考え方の多様性で全然とがめる必要はありません。
そういう人もいる一方で、「こういう不条理に悩まされた人たちも周りにたくさんいるんだ」ということに気づいて、自分が当事者になったときに、この選択が一つしかないとか、おかしいよね、と。
で、確かに復職してもバリバリ役員になりたいです!みたいな女性が多いか、っていうと多分マイノリティ。考え方のマイノリティな人たちも含めて社会っていうのに受け入れてくれないと、本当にみんな同じになってしまいます。
同じような価値観で働くようになってしまうのがおかしいのではないか、とすごく感じました。
これは、母になった私の経験から感じたことだったのですが、たぶん若い人も同じ。若いからというラベルを貼られてしまう。例えば50過ぎたからって言われて再雇用がみえてるからって言われるとエイジの違いでもそう、ジェンダーの違いでもそう。
なんかこの世の中おかしいなとすごく憤ったことを、一つの事例からたくさん感じたのがそのタイミングでした。
寺田:
源泉のマグマのように燃え盛る火種を手に入れることができたという肯定的な考え方でいうと、清濁併せもって組織の中で粛々と役割を果たす生き方もそれはそれでなかなかできることではないから、私は本当に世の中のサラリーマンというか、そういった役割を果たせる人って素晴らしいなと思います。
一方でそういうところにいることが組織側にとってもその人にとってもサイズが合わなくなってきているときが飛び出すときだったりしますが、江角さんもまさかこのタイミングで、まだお子さん小さい中で起業することになるとは思わなかったと思います。
そのあたりの転換は、どの辺が決め手だったのかというのを聞きたいと思います。
2.起業を決めた瞬間
江角さん:
一足飛びに「じゃあ起業だ!」っていうタイプかというと、先ほどのストーリーでお話したとおり、特に起業志向が強く育ったわけでもありませんでした。
それも助走があったといいますか、復職前育休のタイミングで通っていたビジネススクールでまたピンときてしまいました。
これまでは組織の中で自分をどう活躍させるか、組織をよりよくするためにどうやっていくかというサラリーマンマインドセットでビジネスを学んでいたのですが、どっかのタイミングで「あれ?私って起業っていう選択に蓋をしてるな」と気づきました。
それは、いろんなきっかけがありました。
いろいろな起業家の話に触れることが多かったのですが、私とは違うし、とどっか線引きしている自分に気づいて「でもその選択ってなくはないか」って。
何かご縁があれば、とピンときて、ビジネスコンテストなどに出してみたり、ビジネススクールの中で起業のプログラムに応募してみたり、少しづつアントレプレナーシップというか独立心とか、起業家マインドセットのようなものが養われていきました。
そのタイミングで、1年ぐらい醸成されていったその精神とちょうど育休復職するタイミングの理不尽さ、自分がすごくマグマのような熱源を持つ怒り、この世の中を変えたいと思うタイミングと一致してきたので、事業の内容は何も決まっていなかったのですが「もういいや、辞める!起業する!」みたいな。
そこは急に全然合理的ではないというか。なんかもう起業してみるという、その想いだけで起業してしまったっていうのが私の中でありました。
寺田:
ビジネススクールに通ってらっしゃる方は優秀だったり、ポジションも高い方が多かったりして、人脈も非常に蓄積しやすいものの、その中でアントレプレナーコースとかを受講しつつ、ガチで起業しちゃう人って結構レアなんですよね。
江角さん:
かなり少なくて、周りを見渡しても数人レベルですね。何百人もいる中で。結構私は壮大なる勘違いをしちゃったというか。
寺田:
そういう方、すごく素敵だと思うんですよね。知識とか計画を立てても「いつか」という感じになる。人生いつどこで何があるか分からないし、何か使命感、行動せずにはいられないみたいな。
行動が先に立つところから、えい!って一歩踏み出してみたら、意外とそういう風にする人いなかった、みたいな。
江角さん:
「あれ?」みたいな。スタートライン誰も踏み越えてない、みたいな。
3.SNSとの付き合い方
寺田:
やり始めて、踏み出したから見える世界、全く組織とは違う側、自分の原風景となる商売していた自分のご両親の背中がかえって近く見えるのは、そこに行きつくまでの通過点だったのでしょうか。
後になってから見えてくるものですが、そんな想いを最近ご自身のFacebookでも勇気を出して開示して書いてみたら、反応があったんですよね?
江角さん:
そうなんです、寺田さんにもご覧いただいて。これまで私自身の原体験というか、想いとか感情的な部分を外に出すことをしてこなかったんですね。
寺田さんとこういうメンタリングしてもらったり、広報の話を聞く中で、SNSとどうやって付き合おうかな、と悶々としていて、やっぱり表に出すって怖いな、と。
それは先ほどのストーリーの中でお話したように、感情を出したときに嫌われる部分と好かれる部分両極なときに、結構自分の心が摩耗してしまいました。
自分自身のアイデンティティはあるんだけれど、それによってすごく嫌なこともたくさんあったので、「それをなるべくやりたくないな」「避けて通りたいな」とか「そういう私のカラーがサービスに乗り移らないように、変なカラーを付けないで綺麗なサービスにしよう」と頑張ろうとしていたのだと気づきました。
寺田:
大事なところだと思うんです。
同じようなことを考えていて同じような想いにある方がいつつも、そこから一歩踏み出す環境に恵まれる、そうせざるを得ないというところで数も絞れてくる中で、また順風満帆で突っ走るだけではなくて、立ち上げたものの、きれいに進めがちというか、会社にいらしたときの組織の中で嫌われない生き方というものが染みついてたりとか、もったいないところもあったりしますよね。
私が江角さんのMakuakeのクラファンのサイトをみたときに、小田木さんのVoicyで語っていたみたいな人間臭さとか、泥臭さとか、もう少し奥深い部分なんかも書いたり話したりしてもいいんじゃないかな、まだそこまで開示するまでには至ってないのかな、と何となく感じていました。
前回いろいろ話していて、江角さんのほうからfacebookで思い切って自分の想いとか原風景にマグマのような想いを伝えてみたところ、結構ダイレクトメッセージや応援や共感する声が来て反響があったと聞いたのですが、その辺ってどんな声が聴けましたか?
4.人の心を動かす文章
江角さん:
圧倒的に多かったのは同じような環境にあった先輩方とかですね。私も1人目のときそうだったよ、みたいな。
共感というか、同じ経験をしたという声が一番多かったのですが、実はそれ以外でも男性とか、お子さんがまだいない独身の方とか、本当にいろんな方から「すごく共感する」「元気をもらえた」「チャレンジをしないということに対して妥協したくないと思った」という言葉をいただきました。
母だからつらいという話よりも「だけどやる!っていうこの姿勢」とか、「やってられない!って思ったから行動しちゃったこの私」みたいなものを肯定してくれる人も多かったです。
その姿から勇気づけられてるっていうのが意外な反応で、私も決して同情してほしいとか応援してほしいとか、変なエゴがあってやってたわけではなくて。
「私こんな人間なんです」と言ったときに本当に久しぶりだった中学校の友人や、数年来連絡がとれていなかった仲良かった子からも、応援の言葉をもらえたのがとっても嬉しかったです。
「世の中ってそんなに怖くないんだ」「開示しても分かってくれて応援してくれる人とやはり私はつながりたいんだ」ということを再認識できたんだな、と思いました。
寺田:
やはり文章ひとつでも、その人に真実というか心を開いて裏表なくさらけ出した瞬間に人は心を動かされるのかなと。
勇気持った1歩に、普段みていたけど「いいね」を押さずにいた人が一気に「そうだよね!」と江角さんの行動に自分の想いを載せるというか、託すというかそういう形で「いいね」したりメッセージしたりという感じなのかなと。
数が量が、というよりはそのひとつひとつに江角さんのビジネスの種を見出したというか、自分なりのミッションを感じたのでは。
私が自分の悔しさの腹いせのために、とかそういうレベル感ではなくて、自分が動くことは誰かの勇気とか託したかった未来につながるのかもしれないという使命感も燃えたんじゃないかな、と思いますけど。いかがですか。
江角さん:
まさにその通りで、今までは自分の感情とか人間性を出した時に知って欲しいとか少しエゴもあったと思うんですが、自分自身の。こういうふうにみられないかな?とか。
少しそこは遠慮してお化粧していた部分だったのですが、今回の場合は自分のどうしようもない衝動をきちんと1年間かけて振り返って、どうしてこうなったんだっけ、とかその世の中の問題ってなんだっけみたいなちょっと抽象度高いところのメッセージも含めながら、だからこう取り組んでいるっていう、ストーリーとしても分かりやすく書けました。
感情と使命感のバランスがとれてきて、単に私が嫌だからこうするんです、っていうのではなくて、社会的にもこういう問題があって、その課題に対してさらに憤りを感じてっていう、ちょっと視点を自分以外にも枠を広げながら進んでいる感覚っていうのが出てきたときに、こういうSNSの使い方ができるようになってきたと思います。
本当に怖くなくなってきたというか、その一歩のおかげで「ああこういうことか」と。
みんなに押し述べて好きになってもらう、応援してもらう、ではなくて、本当の私の想いをきちんと尖らせてメッセージとしてそう書かせて、その外に自分の人格もあってっていう。
振り返ると、そのメッセージが際立ったっていうのはすごく良かったのかな、と思います。
5.広報は“人磨き”
寺田:
そうですね。広報って、いろいろな定義があるでしょうけど、私は「人磨き」だと思っています。
誰かに知ってもらったりするときに、ラブレターとしてプレスリリース書くにしても、記者さんにファーストコンタクトで興味を持ってもらったり、ビジネスに共感もってもらったり、SNSでファンを作ってにいくにしても、やはり自分自身の中に答えがあると思います。
これまでの歴史の中に、見てきた風景の中にヒントがあると思ったときに、やはりいろんな人に触れたり声をもらったりする中で磨かれていくと、社会にとって無くてはならないサービスとか、誰かにとって共感を呼ぶようなものになっていくんじゃないかな、と感じます。
テクニックやノウハウのみならず、その人自身の人磨きの体験であったらいいな、と常々思っています。
まさに江角さんはそこに自分でたどり着いて紐解かれていらっしゃるので、とてもピュアな方なんだろうな、と感じますね。
なので、いろいろ経験値を積みつつも、源泉のピュアな部分は決して汚さずに持ち続けて、誰もが「無理だよ、出来ないよ」というものを「いやいや、できると思うんですよね!」というふうに、なにを根拠に?!って感じるそのピュアさにみんな惹きつけられてやまないのかな、と。
そこを自分で認識するってすごく大事だと思ったし、それは広報においてもすごく大事ですね。そういうの分かりますからね、みなさんね。
江角さんが辿ってきた道のりや、社会に出て浴びた洗礼とそこへの憤りからのアクションということで起業したので、まだまだこれからです。
そこから先へ進んでいくにあたって辿り着きたいゴールは、円卓でいろんな国籍の人が1杯のコーヒーを時間とともに楽しんでいるっていうイメージ。
どのように引き寄せていったらいいか、というところをつくっていく段階だと思います。
もう今年の中でも、江角さんなりのXデーがあると聞いていまして、今後はそのXデーから逆算していきながら、広報的視点も含めて知ってもらう初めましての機会を作っていこうかという戦略的な話も含めて重ねていければと思っています。
6.Xデーに向けての構想
寺田:
江角さん、Xデーはいつを想定していますか。
江角さん:
今作っているサービスは、10月1日に正式リリースをしようとしていまして、今のサービスがコーヒーのサービスなので、国際コーヒーの日にリリースをしようと思って準備をしています。
寺田:
そこに合わせて、おそらく大手コーヒーメーカーさんも同じようにイベントを仕掛けてくるタイミングでもあるので、江角さんなりのオリジナリティやそういった源泉風景を出していただきたいです。
提供したいものが、ただコーヒーの豆や体験のみならず、もしかしたらそういう体験の共感などを語り合えるようなものがあってもいいのかもしれないし、オンラインで双方向につなげられるようなものがあってもいいのかもしれません。
そのあたりも深堀していければと思います。
◆ちょっと熱いシリーズが聞けたところで、次はそこの熱さをそのままにギュッと何かしらのアクションをつなげていく次回にしていきたいと思います。
ありがとうございました。
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