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問診だけで8割診断がつく!・・・のか?

これも10年以上前に書いたもので,↓よりも前に書いたものですが,

 「病歴だけで8割診断がつく」としばしば聞きますが、あれってどれだけ根拠があるのでしょうか?
 感覚的には「8割」、まあそんな感じかなぁとも思うのですが、この言葉を
「病歴だけで8割診断できるんだから、検査を出しまくる医者は考えないダメな医者だ」
というような文脈で使われることに昔からちょっと引っかかっていました。

 仮に80%診断できたとしても、きちんと治療していくにはやっぱり検査が必要になることが多いでしょう(もちろん、疾患によりますけど)。
 例えば、典型的な細菌性髄膜炎は経過や症状と診察所見で大体わかると思いますけど、きちんとした治療のためには検査(原因菌を同定したり、合併症を防ぐために)が必要なわけです。検査なしで細菌性髄膜炎の治療するのは、途上国ならあるかもしれないですけど・・・。

 病歴の重要性が軽んじられてきたことと検査偏重へのアンチテーゼとして、ちょっと大げさに言っているところはあるのでしょうけれど、正直言いますと、自分が総合診療をやっていた頃は、このことについて、とばっちり的なイヤミを言われることも少なくありませんでした。
 なにせ、当時は自分もまだ若かったですし、書物で勉強して鑑別診断をたくさん挙げれば挙げるほど、きちんと除外しなければならない、と思えてきて、必然的に検査が多くなっていたなぁと過去を振り返って自己反省しています。

 最近思うのは、経験の少ない研修医に最初から「検査を少なくすることを目的化」すると、思わぬ(必然的に?)見逃しが起こりうるんじゃあないかということです。もちろん、きちんと指導医がスーパーバイズして指導医の責任で「この検査はいらないな」というのを徹底していくのは大事なんですけど、指導医が常に監視していくのは現実的に難しいし、仮に監視できたとしても、その研修医が一人立ちして指導医の目が無くなったときに、「なぜその検査が必要なのか?必要でないのか?」ということが本当に身についているのか?とちょっと疑問に思うのです。
 ある程度経験を積んで、小さな失敗を繰り返して、指導医にちょっと小言を言われながら、「あれはやっぱりやり過ぎだったかな」と修正していく方が一人になった時に考えることの出来るようになる医者が育つように思うのです。

 と、前置きが長くなりましたが、「問診だけで8割診断がつく」にどれだけ妥当性があるのか?原典を探してみました。

 原典はおそらくこれ↓ではないかと思います。

・General Practitionerから一般内科外来へ紹介された新患患者を対象
・前医からの紹介状の診断と最終診断が一致したのは80人中37人だった。
・前医からの紹介状と病歴聴取終了時点の診断が、80人中66人(82.5%)の最終診断と一致した(おっと,前医からの紹介状があったなんて聞いてないよ!)。
・検査をオーダーする前に、その必要性を"essential", "desirable", "routine"の3つにランク分けしたところ、オーダーされた478の検査中"essential"と考えられたものが160、"desirable"と考えられたものが116だった(半分以上の検査があった方がいいっていうことじゃないの?)。

 確かに病歴の段階で8割が最終診断と一致した診断を考えていたわけですが、問診の段階で診断が正しかったどうかを知る術は現実的にはないわけで、やっぱり「病歴だけで8割診断できる」というのはちょっと大げさな拡大解釈のような気がしてしまいます。

 大体、前医からの紹介状があるとすれば、紹介状を読んで患者に会う前に検査をオーダーしてその結果から考えられる診断の最終診断との一致率は意外と8割位いくんじゃないかと思ってしまいます。

 それに、意地悪なことを言うと、80例中37例(46%)が前医の紹介状の診断と最終診断が同じだったみたいなので、「病歴だけで8割診断できる」という主張が成り立つなら、「前医の紹介状をみれば、患者の話を聞かなくても半数近くが診断できる!」という主張も成り立つような気がします。

 "The Patient History"(McGraw-Hill)の訳本の「聞く技術」(上)のp.3には以下のように書いてありました。

「ベテランの臨床医は、既往歴は患者ケア技術の核心であるともっともらしく口にする。彼らは、症例の85%は病歴から診断が導かれることを主張する文献を引用し続けている。しぱしば引用される85%という数字は疑わしい。なぜなら、患者から医師に提供される病歴情報とは、実際は以前に外来を受診したり入院したときの一連の臨床検査・画像診断データの要約にほかならないからである。」
The Patient History"(McGraw-Hill)の訳本の「聞く技術」(上)

そう,実は
・2ヶ月前の胸部CTで結節影があった
・10日前のHbA1cが8%だった
・入院時のCRPが12mg/dLだった
といった情報は全部病歴なのです。ある時点での診察所見や検査所見は全て病歴にも含まれてしまうのです(いや,ズルくない?)。

同じくp.4には以下のように書いてあります。

「検査結果は疑いもなく、重要であり情報を与えてくれる。それは、病歴として語られる患者の話と、身体診察の情報と統合されたときにのみ知識となる。そして、医師がこの真実を認識したときに叡智を獲得する。」
The Patient History"(McGraw-Hill)の訳本の「聞く技術」(上)

 「病歴」「診察」「検査」の、どれが優れているのかを論じるのは不毛なことで、それぞれがどのようにつながって、診断が導かれていくのか?を考える方が大事なのではないかと思います。

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