腎機能障害のある人へのレムデシビル投与
と記載されています(この薬に限らず,治療上の有益性が危険性を上回ると判断できないのに投与する場合ってあるのか?と思いますが)。
臨床試験でeGFR <30 mL/min/1.73m2の人が除外されたため,腎障害のある人の安全性データがないからだったようですが,腎機能障害のある人,特に透析患者ではCovid-19の重症化リスクが高く,特に発症早期のウイルス増殖期には何らかの抗ウイルス薬を投与したいところです。
SBECD:スルホブチルエーテルβ-シクロデキストリンの影響は?
レムデシビル点滴薬に添加物として入っているsulfobutylether-β-cyclodextrin (SBECD:スルホブチルエーテルβ-シクロデキストリン)に尿細管障害のリスクがあるとされます。しかし,腎障害を起こすには50〜100倍の量が必要で実際にはほとんど影響がないようです。Covid-19やエボラの臨床試験でプラセボと比べて腎障害多くなかったこともこれを裏付けます(Antimicrob Agents Ch 2020;65:e01814-20.)。SBECDは透析で除去されるようです。
SBECDはボリコナゾールの点滴薬(ブイフェンド®)にも含まれていて,ブイフェンド®点滴薬も腎障害のある人へは「治療上やむを得ないと判断される場合を除き、注射剤は投与しない。」となっています。しかし,上記と同じ理由で,実際に投与した時の腎障害の発生リスクは高くなく,ボリコナゾールの投与が必要だけど,内服できない場合は,腎障害があっても使用することはあります(治療上やむを得ないので)。
腎障害(eGFR ≤30 ml/min)がある場合のレムデシビルの投与法
京都大学病院から母集団薬物動態解析モデルより , 投与初日に200mg,投与2日目・4日目に100mgを1日1回点滴静注する (重症例では,1日毎に計10日間まで) という投与量設計が提案されています。これは「新型コロナウイルス感染症(COVID-19) 診療の手引き・第 8.0 版」でも紹介されています。
透析患者へのレムデシビルの投与法
「新型コロナウイルス感染症(COVID-19) 診療の手引き・第 8.0 版」には
と紹介されています。透析で約半分が除去されるのに,透析前の投与でよいのか?と思い,元論文を確認すると,透析前4時間のうちに75-93%が組織に移行するということでした(Kidney Int Reports 2021;6:586–93.)。4時間前に投与が終了する必要があるので,1時間かけて投与する場合は透析5時間前から投与することになります。
緊急入院で緊急透析が必要な場合,透析の4時間前に投与できない場合もあるでしょう。透析患者36人のケースシリーズ(21人が5日間投与完遂)で,腎機能正常者と同じ通常量を5日間投与したが薬剤に関連した有害事象は起きなかったという報告もあり,透析前にこだわりすぎなくてもよいのかもしれません(J Nephrol (2022). https://doi.org/10.1007/s40620-022-01364-3)。
日本から透析患者6例のケースシリーズではAiswaryaらの報告に準拠してローディングは行わず,透析4時間前に投与終了するように100mgを投与したとのことでした。
これらの報告は主に安全性に関する報告で,透析患者へ異なる投与方法を比較したものではないので,どの投与方法が優れているかはまだわかりません。
「新型コロナウイルス感染症(COVID-19) 診療の手引き・第 8.0 版」では
とも記載されています。
元論文を確認すると,国内透析患者のコホート研究で,以下のようです。
レムデシビル投与は,投与しない場合と比べて
死亡リスク低下と関連した(HR 0.60, 95 % CI 0.37-0.98)
。
また,レムデシビル投与を受けた98人と,受けなかった294人について,傾向スコアマッチングで交絡因子を調整すると,HR 0.45 (95% CI 0.26-0.80)と死亡リスク低下と関連し,入院期間短縮(4.7日間, 95% CI 2.2-7.4)とも関連した,という結果でした。残念ながら,レムデシビルの具体的な投与方法は記載されていません(観察研究なので施設それぞれだったのでしょう)。
この研究では,デキサメタゾンの使用は,使用しなかった場合と比べて,死亡リスク上昇と関連したという結果でした(HR 1.36, 95% CI 1.01-1.83)。単に交絡因子が調整しきれていない可能性もありますが,Covid-19に対するステロイドは発症から早すぎるタイミングだったり,抗ウイルス薬なしで投与すると逆効果になる場合もあります。以下は香港の観察研究で,
レムデシビル→デキサメタゾンの順
(または両剤を同日)に投与した方が,
デキサメタゾン→デキサメタゾン レムデシビル(2022年8月10日19:15修正)の順に翌日以降,またはレムデシビルを投与されなかった場合よりも予後が良かったという報告です。
Covid-19の治療で,ステロイドは投与のタイミングによって毒にも薬にもなりますね。
腎機能障害患者へのその他の抗ウイルス薬
・ニルマトレルビル/リトナビル(パキロビッド®パック)
中等度の腎機能障害患者(eGFR 30mL/ min以上,60mL/min未満)には,ニルマトレルビルの減量が必要です。ニルマトレルビルとして1回150mg 及びリトナビルとして1回100mgを同時に1日2回,5日間経口投与します(シートからニルマトレルビル錠のみ半分取り除く)。重度の腎機能障害患者(eGFR 30mL/min未満)への投与は推奨しないとされています。
・モルヌピラビル(ラゲブリオ®)
モルヌピラビルは,腎排泄ではないので,腎機能障害があってもあまり影響はなさそうですが,データはまだ不十分です。
・モノクローナル抗体
カシリビマブ・イムデビマブ(ロナプリーブ®)やソトロビマブ(ゼビュディ®)や現在流行しているBA.5に中和活性が著しく低下,またはほぼないことが報告されており,割愛します。
https://www.nejm.org/doi/pdf/10.1056/NEJMc2207519
腎障害がある患者へのレムデシビル投与のまとめ
レムデシビル(ベクルリー®)の電子添文には,重度の腎機能障害(eGFRが30mL/min/1.73m2未満)では「投与を推奨しない」となっているものの,国内外の知見を踏まえると,投与のメリットはデメリットを上回ることが多いと思います。個人的も2021年の初旬頃からは腎障害があってもよく使ってきましたが,特に問題なく使用してこられました。筆者の場合,
・eGFRが30mL/min/1.73m2未満の場合:
投与初日に200mg,投与2日目・4日目に100mgを1日1回点滴静注する(重症例では,1日毎に計10日間まで)
PINETREE試験に準じて軽症で3日間で投与する倍は,初日200mg,2日目100mgで終了
・透析患者の場合:透析4時間前に終了するように100mg投与,6回まで
で投与(初回,透析前に投与することが困難な場合は,透析後でも可)
を推奨することが多いです(とりあえず薬物動態のデータを踏まえての投与法で,妥当性が検証されているわけではないことにご注意ください)。
余談:肝障害がある場合
余談ですが,来院時,中等症以上で,AST,ALTが上昇している時に,肝障害があるからレムデシビルの投与が躊躇われることがあるようです。Covid-19の重症度が高いとそれ自体でAST,ALTが上昇することがありますので,これも注意しながらレムデシビルを使用することがあります。すると,治療経過とともにAST,ALTも下がってくることが多いです。