麻しんを見たことがない医療従事者のための診療のポイント
皮疹の写真は↓から。
https://picryl.com/media/morbillivirus-measles-infection-f5881a
麻しん(はしか)患者さんの発生が大阪府内から報告されていました。
若い世代だと麻しんを見たことがない人も多いでしょうから,診療の上でのポイントをまとめます。
発熱,発疹の人が来たら麻しんを鑑別に挙げよう
ポイントは
・予防接種歴(2回)と罹患歴を確認
→ワクチン1回だけだと約2〜5%,vaccine failureがあるとされます。
・ただし,記憶は信頼性が低いので,母子手帳を確認するのが理想的(実際には難しいことも多いですが)
・疑ったら保健所に届け出てPCR検査を依頼(抗体検査の結果を待たずに!)
麻しんは何が怖いのか?
感染すると中耳炎や下痢,肺炎,脳炎など様々な合併症を起こすことがあります。
下の表のようにワクチン接種と比べると,自然感染による合併症のリスクは高いです。
Tリンパ球や樹状細胞に感染し,長期間(数週間から数ヶ月,最高2〜3年間)細胞性免疫を抑制するといわれます。 Science 2015;348:694–9.
麻しんは空気感染でうつりやすい!
免疫がない人では,すれ違っただけでもうつると言われるくらいうつりやすいです。
特にワクチン未接種の人からはうつりやすいとされます。
↓は,麻しんの集団発生の事例ですが,ワクチン接種歴がない典型麻しんの人からは多く伝播していますが,ワクチン接種歴のある修飾麻しんの人からの伝播は1人のみでした。
麻しんの経過
・潜伏期間:平均14日間(7〜21日間)
・感染性を有する期間:
発疹出現4日前から出現後4日間まで
・カタル期:咳嗽,鼻汁,結膜炎の3つ(3C)
Cough, Coryza(鼻風邪), Conjunctivitisが特徴とされます。この時期は発疹がないので,普通の風邪と区別がつきません。
・発疹:典型的にはいったん下熱した後に出現するとされます。二峰性の経過で,麻しんの「麻」に「木」が2つあることと結びつけて試験勉強では覚えます。
- カタル症状が2~3日続いた後,12~24時間解熱後に発熱と同時に出現する
- 顔面,耳の後ろから始まり,体幹,四肢へ広がる
下の図のように,前駆期(カタル期)には皮疹がないので,この時期に疑うのが難しいです。
薬疹かな?と思ったら麻しんも考えてみましょう
前述の通り,風邪と区別がつかないので,カタル期に医療機関を受診して,何らかの薬を処方されると,その後に皮疹が出現します。
昔は,薬疹のことを「麻しん様皮疹」と表現されることもありましたが,今は麻しんが少なくなっているので,逆に「感冒+薬疹かな?」と思ったら,流行状況に応じて麻しん(あるいは風疹)も疑いたいところです。
麻しんを疑った時のフローは以下にまとめられています。
2016年改訂:最近の知見に基づく麻疹の検査診断の考え方
麻しん疑い患者さんへの感染対策
麻しんを疑う患者さんをみたら,個室(できれば陰圧が望ましいですが,難しいことも多いでしょう)に移動してもらい,患者さんには飛沫の拡散を防ぐためにサージカルマスクをつけてもらいます。
対応する医療スタッフは麻しんに免疫がある(予防接種2回接種または罹患歴が確認,抗体陽性が確認されている)人に限ります。昔は免疫があれば,医療スタッフはN95マスクは不要としていたこともありますが,免疫の有無に関わらず,対応する医療者はN95マスク着用が奨められます。
↓は免疫があってもマスク非着用でうつってしまった医療従事者の報告,ただし,医療従事者からの感染拡大はなかったそうです。
今までワクチンを受けていなかった人では,麻しんは曝露後72時間以内にワクチンを接種することである程度予防効果があると言われますので,これも考慮したいところです。