トシリズマブによる下部消化管穿孔のリスク
ある疾患(Covid-19ではない)で,ステロイド,その他複数の免疫抑制剤に加えてトシリズマブが投与されている人の下部消化管穿孔があったので,これが噂のトシリズマブの憩室穿孔か(添付文書には0.2%で腸管穿孔という記載)と思う人がおられました。
どれくらいのリスクなのか?と思って↓のコホート研究を見てみました。
・トシリズマブの下部消化管穿孔の発生率は2.7/1000人年で,その他の治療の発生率0.2−0.6/1000人年と比べて高かった
・従来のDMARDsと比べた調整ハザード比は,
トシリズマブ 4.48 (95% CI 2.0 to 10.0),
TNF-α阻害薬 1.04 (0.5 to 2.3),
その他のbiologic DMARDs 0.33 (0.1 to 1.4)
と確かに他の薬剤と比べるとリスクが高くなるようです。また診療上の注意点としては,
・トシリズマブで治療されていた患者の11人中4人は下部消化管穿孔の典型的な症状(急性腹症,激痛)がなく,CRPが10mg/dLを超えたのは1人だけだった,というのも重要ですね。
トシリズマブが下部消化管穿孔のリスクを上げる機序は明確にはわかっていないようですが,IL-6阻害によるVEGF(腸管粘膜のintegrity維持に重要な役割がある)低下が関連しているかもしれないそうです。
また,ステロイド,その他細胞性免疫を落とすような薬を服用中の人の消化管穿孔では,背景に腸結核やCMV腸炎が隠れていたというケースも複数みたことがあります。腸切除が行われていたら病理を確認したいですね。