「脱毛」に関する営業停止トラブルについて美容外科医が思うこと
酒井形成外科で院長をやっています、酒井倫明(さかいみちあき)です。
気まぐれな6月の天気も、いよいよ梅雨にはいったのだと実感させられる毎日です。
コロナが落ち着いたと思ったら次は麻疹(はしか)が流行り出し、心から落ち着ける日が来るのはもう少し先になりそうですが、とりあえずマスクから解放された日常生活に慣れてきました。皆様はいかがお過ごしでしょうか。
さて、本日のテーマーはタイトル通り「脱毛における営業停止トラブル」に関してです。
今回、私が述べたいことは脱毛治療による火傷といった有害事象のトラブルではありません。
突如、お店が閉院することよりコース契約をした脱毛患者さまが難民になってしまう問題について私見を述べたいと思います。
脱毛の営業停止トラブルは本当に多いのか?
実際に「脱毛」に関するトラブル報告は昔から定期的に報道されており、昨今では過去最高の被害人数になっているという報道がありました。以下、報道のを引用させていただきます。
この記事によるグラフは母数がそれほど大きくないので、この上がり方を全て鵜呑みにはできませんが、多店舗展開をしているエステサロンがこれだけの数倒産しているというのは非常にインパクトがあります。
また、医療脱毛においても突然の閉院により被害報告がなされていると、直近の2023年5月にもありました。
こちらも多店舗展開をされているメンズ脱毛クリニックでの事例のようです。
このように脱毛ビジネスの営業停止トラブルはエステ業界が圧倒的に多いものの、医療機関においても一定数のトラブルがあることが昨今の報道から明るみになっています。
なぜ脱毛は営業停止トラブルが多いのか?
では、なぜ脱毛ビジネスにはこういった経営サイドのトラブルが多いのでしょうか?理由は大きくわけて2つあると考察します。
①無茶な価格設定
エステ脱毛は比較的はじめやすい商業のひとつです(特別な資格がなくて良い)。このために都市部には商業のハコさえあれば乱立することが可能です。資格がなくても始められるビジネスなので、当然「質」で差をつけることができません。
となると残された差別化戦略は「価格の叩き売り」しかありませんので採算のあわない価格設定にしてジリ貧営業が続き、最終的には倒産という形になります。
ここで恐ろしいのが、コース契約を先にしてしまった場合、それが返金されにくいということです。コース契約は最初に多額のお金を支払うため、経営サイドも一時的には潤います。しかし、その後3回、4回と通われると人件費や箱代(家賃)の方が高くなってくるため、コース契約の途中で倒産という形が起こるのです。
②管理医師の不在
先ほどはエステ脱毛の事例でしたが、医療脱毛における営業停止トラブルの代表は「管理医師の不在」になります。脱毛クリニックを名乗るためには管理医師(院長)が必要になります。
もし管理医師がいないと看護師が100人いたとしても営業することはできません。脱毛は医療行為のため、医師の監視下の元でしか看護師は施術できないのです。脱毛専門クリニックは医師が一瞬だけ診察をして、あとは看護師の方に回して稼働していくというビジネススタイルです。
ようはこの業態の場合、医師は「お飾り」なわけです。そんな環境で医師がいつまでも在籍してくれるということは考えにくく、管理医師が退職をして、医療経営が立ち回らなくなる。これが脱毛専門クリニックが営業停止になるパターンです。
患者はどのように良質のクリニックを見抜けばよいか?
それでは、これらのトラブルを避けるために、患者はどのようなチェックポイントをもって脱毛を選べばよいのしょうか?
以下の4点を意識いただければ高い確率でトラブル回避はできると思います。
①まずは「医療」クリニックで医療脱毛をする
そもそも脱毛の効果・安全性から医療機関において脱毛をすることを医師として強く推奨いたします。脱毛の効果を得るためには一定の出力を持った医療機器での治療が必要です。高い出力には技術と知識が必要となり国家資格(医師免許・看護師免許)を持った人間のみが取り扱い可能です。
②常識的な価格設定である
「全身脱毛100円」などを大きく表記している場合がありますが、これらもまず疑ってください。常識的に考えて、これらの金額で治療ができるはずがありません。人件費だけでも東京都の最低賃金は現在1072円です。マンツーマンで治療をする脱毛がそれらを下回る時点で商業としては破綻しています。実際には家賃・光熱費・機器の減価償却代がかかります。
③一定の開業年数があるクリニックを選ぶ
昨日今日できたクリニックはトラブルが多い傾向にありますので、やはり開業してから5年以上経過しているクリニックで治療を受けた方が安心できると思います。歴史があるということはそれだけ長い期間患者さまに信頼を得て、価値を提供できてきたという証拠です。
④医師のプロフィールを確認する
クリニックのHPに医師(院長)のプロフィールがしっかりと明記されてるか確認してください。顔写真は掲載されてるか、卒業年数、卒業大学、所属した医局も確認してください。いわゆる医師の簡単な履歴書になります。これを明記していない場合は、治療行為に責任をもたれない(いつでも雲隠れできる)と言っても良いでしょう。高い医療倫理観をもった施設かどうかは管理医師のキャリアをみればおおよそ判別はつきます。
以上が、私が提案する脱毛する際にトラブルを避けるためのチェックポイントになります。少しでも参考になれば幸いです。
脱毛難民の皆様方へメッセージ
まず、過去・現在を含めて脱毛治療の営業停止トラブルにおいて嫌な経験をされた方にはお気持ちを察すると共に、今後気持ち良く治療にのぞめる環境に巡り合えることを祈念しております。必要であれば、私のクリニックに問い合わせいただいても大丈夫です。
私自身、美容医療に携わる人間として、脱毛の営業停止トラブルは見過ごすことはできませんし、トラブルの報道を目にするたびにとても悲しい気持ちになります。
自分自身が誠実な美容医療を提供しているだけでは、なかなかこういった問題解決にはならない部分もあり、今回は注意喚起という形で、この文章を書かせていただきました。
皆様の美の選択に少しでも貢献できれば幸いです。
「身も心も美しい人生で」
引き続きよろしくお願いいたします。
酒井倫明(さかいみちあき)
医学博士
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