自毛植毛の副作用とその対応
こんにちは、アルモ形成クリニック 植毛医・毛髪外科医の内田直宏です。
自毛植毛手術では、一定の確率で副作用(合併症)が生じ得ます。
今回は、自毛植毛手術の副作用・トラブルとその対応について述べていきます。教科書的な話ではなく、植毛医として遭遇することのある代表的なもの10個にしぼってみました。
(※今回は、痛みや痒みといった当然の術後の合併症は除いています。)
①移植部の感染やニキビ・毛嚢炎
治療部位に「熱感」「赤みが出る」「強い痛み」「強い腫れ」といった状態が長引く場合は、感染が疑われます。
植毛手術後に大きな感染が生じる可能性は少ないのですが、毛嚢炎・ニキビがおきることがあります。
これは、元々毛が生えている場所に移植穴を作成し、毛根周囲の感染が生じやすいからという理由と穴を作成した箇所に表皮成分が埋入し、いわゆる粉瘤状態(inclusion cyst)となるためです。
対応
スリット作成の工夫や使用する植毛機器の種類により軽減することが可能です。毛嚢炎やニキビができた場合、洗浄処置および抗生物質含有軟膏を塗布し、抗生物質の内服を行います。これで、改善するケースが多いですが、改善しない場合は小切開を行い、排膿処置を行います。
②移植部の出血や血腫
移植部に出血、塊になった血腫が移植穴にできてしまうことで、移植株の穴に対する密着性が低下し生着不良に陥ることがあります。また、移植穴の周囲に血腫を作ることもあります。特に穴が線状であるため、ドレナージの効きにくいラインスリットでは皮下血腫ができることがあります。特に抗凝固剤や抗血小板薬を内服している方は出血しやすいので、休薬が必要です。
対応
軽度の血腫は吸収され問題にならないことが多いですが、稀に大きな血腫となった場合には小切開を行うことがあります。来院して見せてください。
③移植部の傷跡、採取部の傷跡
pitting scar:くぼんだキズ
ridging scar:隆起したキズ
対応
1年経過すると傷跡は成熟して、落ち着いてくることが多いです。
隆起したキズに対しては経過を観察しても改善しない場合、ステロイドの注射処置を行います。気になる傷跡には脂肪注入やレーザー治療を行うこともあります。
隆起した生え際が一定の高い位置にある場合は、その部分の前に髪を追加することでカモフラージュすることができます。
生え際が低すぎる場合は、全体を切除するのがよいでしょう。
また、毛包や余分な組織の完全除去や部分的な除去を行うデバルキングも可能です。心配な場合、来院して診察させてください。
④ショックロス
手術の複合的なストレス(物理的、化学的)により、既存の毛髪が休止期に入り、休止期脱毛を引き起こすことで発生します。約20%の症例で発生すると言われています。通常、術後2週間から3ヶ月で発生します。
ほとんどの毛は新しい毛髪サイクルを開始し、約3ヶ月経て生え揃いますが、戻らずに、永久に脱毛状態に陥ることもまれにあります。なお、ショックロスは女性に多くみられます。ショックロスについては、過去に私のtwitterでも何度か述べていますが、一定の傾向があります。
対応
ミノキシジル内服などの内服薬を術後一定期間使用することで、自毛植毛後のショックロスを経験的に防ぐことができます。改善しない場合は、注射処置を行う場合があります。また、ショックロスを予防するには手術計画が大切であり、頭部血流の走行の把握が大切になります。
⑤円形脱毛(一時的なことが多い)
術後2週間から3ヶ月にかけて生じることが多いです。よくできる場所は側頭部や生え際、前頭部です。
対応
一定期間、経過観察します。改善しない場合には、塗布薬や注射処置を行うことがあります。
⑥巻き毛、癖毛
ピギーバック(piggybacking)といって、穴の深さが深すぎたり、既存毛がしっかりと生えている部分に穴を作成していると、その部分の移植毛が癖が強くなったり、巻き毛になったりします。
対応
改善が見られない場合は、小さな切開を行い、その後、巻き毛を抜去することがあります。
⑦2-4日後に瞼が腫れる(眼瞼浮腫)
麻酔液の貯留および炎症による腫脹がおでこから、目元にかけて降りてきます。内出血(皮下溢血)が起きることがあります。
対応
頭を高くして寝る。ヘッドアップ姿勢を保つ。私は、術後5日目以降は歩行を推奨しています。術後10日目以降で、サウナに入るべきという植毛医もおります。
⑧軽度な感覚障害
スリットを作成した箇所や採取部の後頭部に一時的に細い神経の切断や障害が起きます。
対応
経過観察により改善することがほとんどです。状況に応じて神経再生を促す内服薬を追加することがあります。
⑨左右差が生じる可能性
部分的な生着率の左右差やデザインの違い等で移植した毛に左右差が生じることがあります。
対応
左右差が生じた部分にグラフト移植を追加することで対応。
※現在、私自身、300症例を超えていますが、生着の左右差が生じた症例を1例のみ経験しています。
複数の方法を組み合わせてできる限り左右差が出ないように予防していますが、完璧な左右対照な生え際は困難を極めます。
⑩1回の手術での密度の不足の可能性
生え際で50G/cm2、頭頂部から前頭部で35〜40G/cm2を目指すことが多いです。詳しくは、CV(coverrage vale)を計算して、術前の希望通りの密度に達するようにグラフトを算出します。(以下の過去ブログ参照)
対応
本人の希望通りの密度にならなかった場合、もしくは生着不良部位にもう一度移植を行います。ほとんどのケースで対応可能です。ただし、前回手術時の瘢痕が強い場合は、生着率が低くなることもあります。
以上、今回は、自毛植毛手術に経験上起こりうる副作用とその対応を述べました。
心配になることもあるかもしれませんが、そのほとんどは適切な処置等で改善できることが多いです。心配な方は執刀医やクリニックに聞いてみてください。
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