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スクリーンから能面

「今日はゆっくりやりますからね」

先生の言葉にすっかり安心していたら、
結果的にめちゃくちゃ早かった。
一人で全部やってみてください、もあった。


必死。
とにかく必死。


先生のおっしゃることを聞き洩らすまいとするが、
新しいパートに入ったら、また外国語みたいに聞こえてきた。

今日で3回目のお稽古だが、
「今日は難しいですよ」という言葉を毎回聞いているような気がする。
おそらく全部難しいということだろう……。


ところで、「つ」が「ちゅ」になってしまっているとの指摘は恥ずかしかった。
「つるかめ」が「ちゅるかめ」と聞こえるらしい。今まで「つ」の発声について誰にも言われたことがなかったが、言われてみれば少しおかしいのかもしれない。皆それぞれ発音しずらい言葉はありますから心配しないようにとの言葉になぐさめられる。


お稽古の後、復習を兼ねて夫に聞いてもらう。


「えぇと、もっと練習してから聞かせて……」


なんとも微妙な表情とともに言われる。

ここまで解読するのにどれだけ録音を聞いたと思っているんだと思ったら
少し腹が立ったが、できないのは自分が一番わかっているので仕方がない。
練習だ。


仕舞では、
突然スクリーンいっぱいに能面が現れたので
思わず「わぁ!!」と声が漏れた。

最初はやはり怖いと思ったが、先生の説明がとても面白かったのと、
とてもきれいな若い女性の面で、そうかこれが熊野という人なのかと
思ったら少し親しみが感じられた。
この表情をイメージして舞うようにとのこと。

お稽古の間は、考えるという時間がほとんどない。
とにかく言われたとおりにやるしかなく、当たり前だが面白いぐらいできない。

最初から、と言われ、
ついささーっと歩いていって簡単に座ってしまった私であったが、
座るときからもう始まっているんですよ、と言われ
慌てて座りなおす。

今日は初めて足踏みもやった。
女の人の役だから、そんなに足を振り上げなくてもよいと言われる。
またここで雑な日常が出ている。

と、やってはいけないことの連続だったが、
唯一、扇を開くのだけは簡単にできるようになった!


足踏み一つが心情を表すと聞き、なんと面白いことかと思う。
私の立っているその先には、とんでもない世界が広がっているようだ。

次に能の舞台を見るときには、目も頭も感情も大忙しになることだろうと思う。

早く日本に帰れますように!

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