鯛の婿入り
鯛の婿入り
頃を申せばいついつか あじ な 年号はじまった
頃は小鮒の末っ方
ナマズ元年ドンコの2月
海を申さば玄界灘 御魚のご大臣、鯛の助殿は
今日は、いざ 吉日、カニの日なれば
いざ、婿入りなさん
その日の出で立ちはなやかに
肌にとりては
白浪召され
ワカメ(藻)の袷
カジメ(藻)の羽織
ヒジキ(藻)の紐、一寸しめて
名古屋の三十帯うしろで結び
昆布の袴に
いかのしらたび
カレイの雪駄
ザンブとけこみ
ハマグリ巾着
モダチの緒〆
マテの印籠一寸腰にさげ
一尺八寸、浪の平打ち 二尺三寸の太刀の魚
駒にとりては 玄海育ち
クラゲの駒に りょうじんきたいの
轡をはませ
ふかの しきがわ しかせては
だいし だしの はらおびもんど
べっこうづくりの くらをしき
しゃくの あぶみに えびの ほかけ
たずなにとりては
ハモとウナギのより分け手綱
ななよりはんのに よって よりをかけ
みより ゆって ゆりもどす
とりかみ つかんで ゆら と のる
其身カレイにヒラメと召され
さて又鯛の助の御供は誰々なるや
いわしの 類が1万匹 はだらの類がなんまんあびき
サワラの三郎ブリの助
ボラの太郎サバの守
アゴなし、と、マンビキが箱かつぎ
面ぐせ悪いオコゼとアンコウが草履とり
ヤリを持つのがギギウにウンキウ
あまたの鰯が提灯とぼし
道案内がチヌの魚
その他
あまたの いお のものども
おれも 花婿のおんともと
おれも われもと
たいのすけの 婿入りのともどもは
何万匹と ともぞろい
一万よ騎の御供で
豊後灘をあとにして しだいしだいに
玄海灘の沖はるか 行列し
いおの十郎 鯛の輔の婿入り
雲仙みゆる 有明海へとなりぬれば
あないこうでは いでむかえ
ボラの三郎、飛び込んで
只今、婿君の御入りなりとふれ込めば
くじら大臣は玄関、出で迎え
すわりぐち にとなるならば
初めて婿にアイの魚
さわらば奥の一間へ
サワラばコチへコチへと 奥座敷
めでたいな めでたいな
あじとさばが亭主役
上から下まで座をくんで
上が吞んでは下が歌う
下が吞んでは上が歌う
まずは祝言、杯、急がんと
結婚の祝杯 三三九度も事終われば
とももみんなも 鯨大臣もおおよろこび
銚子(土器)あらためて
嫁が飲んでは
婿にさし
婿が飲んでは
又嫁よ
かかるところに
これ スズキの七郎よ
この様な目出度い祝言なれば
何ぞ一つ踊り給えとありければ
スズキははっと立ち上がり
イカ、サバ、コノシロ、フナに帆をあげて
浪のアワビの島、小鯛
イト目出度しと祝ゑ岩へと舞にける
かかるところに
そのとき
於福嫁御が立ち上がって花踊り
やあ やあ いかにも お鯛さん
嫁のおふぐさんは
鯛の側にするよりて
申し上げます自らは
色の黒いはいえゆずり
腹の太いは親ゆずり
あなたさまは このよーなどたふくに
婿入りするとは どうしたか
このよーな どたふくより
あじ さば いるではないかいな
お鯛さん
あなたが これほど しんじつに
わたしを おもい なさるなら
かならず、あいて、くださるな、と
かならず これから 一生 そいとげよ
お家繁盛 お家繁盛 と躍り上がれば
なにをもうすか
コレ於福
あなたさまは
我にとっては 誠の福の神
かならず 一生 互いに 日送ろう
ああ ありがたい ありがたい お鯛さん
今の気持ち忘れず お家繁盛と おどり あがれば
しなでかかるを
鯛はヒレにてピンとはねれば
いならぶ あまたの 雑魚ども
おふく よめご(さんの姿に)にやんややんやと
てをたたく
ヨイヤヨイヤと
おふくさんが命取りじゃと、誉めにける
いくすえだいだい 魚も代々
お家繁盛 漁師繁盛 海繁盛
治まる御代こそ目出たけれ