
かりんとうは お好きですか?
少し悩んだ。
自分ひとりでは解決できない ちょっとした悩みを抱えながら先輩の店に伺った。
・・・・・・・
先輩の店は、行く度にホッとする。
気品ある佇まいの生菓子、タルト、焼菓子が所狭しとディスプレイされているが、
ツンと澄ました景色ではなく、暖かな雰囲気に溢れている。
これは店主である先輩の人柄だと思う。
殊に今の時期はクリスマスムードいっぱいだ。
・・・・・・・
忙しいところ済みません。
ただ、それだけしか言えなかった。
開店当時からのスタッフさんが「あら!珍しい!」と、駆け寄って来てくれた。
私がここに足を運ぶのは何かあった時、限定。
それを察知して、シェフ(先輩)に取り次いでくれた。
喫茶コーナーでスタッフさんと話す。
心の中を話さずにはいられなかった。
すると私たちの会話が聞こえていたシェフ(先輩)が…
「で、お客さんに喜んでもらえているの?」
そう言いながら近づいて来てくれた。
いきなりだった。
黙ってしまった。
・・・・・・・
手土産のヌスボイゲルとボベスを頬張りながら
先輩は「美味しいねぇ、あぁ懐かしい。」と言った。
そうだ!先輩はドイツ菓子の店で修行を積んだ人だった。
と、それに気づいた瞬間から酷く恥ずかしかった。
先輩が私に言った。
「ドイツ菓子って〝かりんとう〟なんだよね。」
「確かに美味しいんだよ。
でも、このビジュアルじゃねぇ。そもそもこの美味しさを知っている人でなければ手に取って貰えないんだよねぇ。難しいところだよねぇ」
「それに…手土産に〝これ美味しいんだよ〟って〝かりんとう〟を貰ったら、どう?」
かりんとう…。
・・・・・・・
確かに、かりんとうは美味しい。
だけど、ビジュアルがね…。
お茶の間のお菓子だなぁ。
手土産にはならない…かもなぁ。
心の中で、いろいろ思った。
すぐには判断できなかったけど、先輩の言いたいことが読み取れた。
私の家族は口が悪い。
お年頃の娘(私たち姉妹)に向かって〝売り物は毛をむしれって言うだろ〜〟などと無神経に言う親だった。
酷く口の悪い家族だったけど(今でも)正直だ。
〝確かに!〟と頷く一言を、ズバッと言い切る鋭いセンスを持った親だった。
先輩も、うちの親に似てるかも?と思った。
・・・・・・・
先輩はドイツ菓子をベースにしていることは、
知り合った当時から、私は知って(気づいて)いたはずだ。
すっかり忘れていたけれど。
ドイツ菓子をベースにオシャレなスイーツを展開している。
とにかくセンスが良い。
フランス菓子とも違う。
先輩の人柄と感性の鋭さを感じる。
先輩に聞いてみた。
「そう言えばこの店、◯◯菓子とか付いていないんですね。」
初めて気づいたことだった。
「うん。洋菓子屋。ボクが作ったお菓子が多くのお客さんに喜ばれる。それで良い。」
先輩は私の手土産を完食した後「ドイツ菓子って言ってるの?」と聞いた。
「いぇ。何となくドイツとかオーストリアとかって言ってはいますけど。」
暫く沈黙の後、一言。
「自分の菓子を作ろうよ。」
ハイ!と言える自信が無かった。
「ベースを押さえてアレンジするの。出来るでしょ?
ここ(地元)ではドイツ菓子は無理だと思ったから、ボクなりにチャレンジして来たんだよ。」
先輩の、この言葉の裏側の、並々ならぬ努力を想像した。
地味美味な〝かりんとう〟も良いけれど、ちょっとお洒落なline upも欲しいな…。
そうだ!そうだった!何か教えて貰いたかったんだ。
何って、一言で言い表せなくて、モヤモヤしっぱなしだったんだ。
それが、これだったんだ。
かりんとうも良いけれど、金平糖みたいに美的なものが欲しいんだ。
えっ? 私のセンスは団扇の範疇ってことかしら?
さぁ!さぁ!磨かなくてはね!
・・・・・・・
ところで皆さん! かりんとうは お好きですか?