2019年 J1リーグ第12節 大分トリニータVS清水エスパルス~喧嘩中の恋人に電話でどうアプローチする?~
今シーズン6年振りにJ1へと昇格した大分トリニータは、立ち位置で相手を動かし、ギャップを突きながらチャンスを作るパスサッカーで旋風を巻き起こしている。だが、今節は思うような試合運びが出来なかった。
大分の指揮官である片野坂さんは、試合後のインタビューで
雨の中、たくさんの方が来てくださり、勝点3を願って最後まで応援してくださったのだが、勝点1に終わり本当に申し訳なく思っている。今日のゲームはお見せするに値しない非常に悪いゲームだった。自分を含めて反省します。
(大分トリニータHPから引用)
と試合を総括した。
この日の対戦相手であった清水エスパルスは周到な準備をし、前半は大分のビルドアップを機能させなかった。だが、後半は大分も策に出て1点をもぎ取る。それでも、清水はさらなるシステムチェンジを見せるという試合展開だった。
今シーズンの平均パス数が「約600本」に対し、この試合は「760本」と「160本」ほど多い数字が出たのも納得がいく。空いたスペースを探る時間はいつもより多かったからだろう。それでは、「清水がどうやって大分のビルドアップを止めたのか」。そして、「大分の後半用いた対策はなんだったのか」を解説していきたいと思う。
両チームのスターティングメンバー
大分はいつも通りの3-4-2-1を採用。清水は、今節から篠田新監督の下で、北川をトップ下にした4-2-3-1のシステムで挑んだ。
4-2-3-1にした意図
まず、清水が4-2-3-1にした意図を読み解く。これは「攻撃面」では無く「守備面」での考えがあったからであろう。
普段4-2-3-1を採用するチームは、守備時は4-4-2のブロックを組むのだが、この日の清水は4-2-3-1という形でブロックを組んでいた。
4-1-4-1の形で攻撃を展開する大分のシステムに清水のシステムを噛み合わせるとこのような形になる。
肝となるシャドーはボランチのマークに遭い、WBは清水のSHがスライドすれば十分に間に合う位置にある。
次に実際試合の流れの中であった守備ブロックを紹介する。
ドウグラスと北川は縦の関係を入れ替えながら、ボールホルダーに近い選手がプレッシングに行き、後ろの選手たちもゾロゾロと着いて行く。
そして、ボランチ、SH、トップ下、CFがそれぞれ選手へのパスコースを遮断して、一つのルートしか用意しないようにするのだ。大分の選手は、バックパスや横パスでやり直すが、再びゾロゾロと選手間の距離を詰められながら自陣のゴールに近い位置でリスキーなビルドアップを開始する。それによって、ロングボールを蹴って打開しようとするも、清水の選手に拾われたり、パスミスを連発してしまったのだ。
失点シーンも高畑のパスミスをドウグラスに拾われると、GK高木がエリア内でたまらずファウル。このPKをドウグラスに射止められた。
4-2-3-1のブロックを敷くことで、限られた選択肢の中でプレーをさせる。これが清水の大きな狙いだったであろう。それが功を奏した前半だったのだが、後半になり片野坂監督も動いてくるのであった。
必殺トリプルボランチ
前半のうちに交代枠を1枚使い切った中で、行なった次のプランが3-5-1-1というシステムチェンジだった。
DFラインに吸収されていた長谷川と、シャドーの高い位置にいた小塚が清水とトップ下とSHの間でプレーをするようになったのだ。島川を合わせた「トリプルボランチ」によって、前半には無かった攻撃のリズムが生み出された。
小塚が落ちてきてボールを触ることにより、他の選手を経由しながらボールを前進することができる。そして、1番の目的は清水SHを攪乱させることにある。
これまで、シャドーの選手はボランチに任せ、SHはWBへのコースを消していたのだが、長谷川や小塚が間に入ってきたことで、マークのズレが生じてしまうのだ。
実際このような場面から、岩田へと突っ込んだSHの選手がいなされて、WBに経由される。そこから右→左→右サイドと振られて岩田に得点を許したのだ。それも後半開始してからわずか2分の出来事だ。
完全に面食らった清水だが、ここで引き下がるわけには行かず、次の一手を用意した。
4-1-4-1へシステムチェンジ
清水は失点してから、直ぐにシステムチェンジ。金子と一列上がった六平が、蓋をする役目を与えられたのだ。
これがハマる場面ではハマっていた印象を受けた。三竿がボールを保持した際、金子に小塚へのパスコースを塞がれ、WBも北川のスライドで追いついてしまう。そして、島川を経由して逆サイドに振ることも出来ないので、GKの高木へとバックパスをするシーンだ。
大分としては、手応えを掴んだシステムチェンジを考え直さなければいけなくなってしまったことになる。この次のプランとして、選手を入れ替えながらポジションチェンジを行なったのだが、試合を決める1点を奪うことが出来なかったのだ。
恋人との喧嘩に例えて考える
しかし、実際ここまでシステム変更の応酬を見ると「マウントの取り合い合戦に見えて」面白いところがある。
筆者にも似たような体験談があり、それを試合を観てふと思い出したので交えながら紹介してみようと思う。
まぁサブタイトルを見て貰えば一発なのだが、「喧嘩した恋人に直接謝りたい。でも、どうすれば…。」というような状況に似ていると筆者は感じたのだ。
「システム=電話番号」と考えたとき「相手の電話番号は分かっているけど、どうアプローチしよう」となって困っていたのが「前半の大分」であり、この話で言う筆者なわけである。アプローチをして電話をかけたのが、同点に追いついた「後半の頭」。だが、彼女からマウントという「システムチェンジ」を喰らって追加点を奪うことが出来ずに、試合(喧嘩)に勝つことが出来なかったという流れである。
ぶっちゃけ、この話しをわざわざ入れなくても良いのだが、最後のまとめに繋がる部分があるので一応頭に入れて貰いたい。
まとめ
プレミアリーグ国内4冠を達成したマンチェスターシティの指揮官、ペップ・グアルディオラは「システムは電話番号に過ぎない」と語った。
また、2007年に日本代表で指揮を執ったイビチャ・オシム氏も
「日本人はシステム論議が好きらしいが、システムは保証でしかないことを理解したほうがいい。
システムの奴隷になってはいけないのだ。
無数にあるシステムそれ自体を語ることに、いったいどんな意味があるというのか。
大切なことは、まずどういう選手がいるか把握すること。
個性を生かすシステムでなければ意味がない。
システムが人間の上に君臨することは許されないのだ。」
(サッカーのシステム から引用)
実際そうなのかもしれない。ただ、筆者はシステム論はとても大事なことだと思う。その理由として、ベガルタ仙台の戦術ブロガーである、「せんだいしろー」さんが述べたことがそうだ。
この手の話は、所詮テレフォンナンバーなのだけれど、試合を読み解く、両者の意図を解読するきっかけ、糸口、切り口になるから無視することはできない。電話番号が会話するわけではないが、番号が分からなければ、そもそも会話ができない、ということだ。
(せんだいしろーによるサッカー分析ブログ 【銀の弾丸】Jリーグ第9節ベガルタ仙台vsガンバ大阪 から引用)
そうなのだ。電話番号が無ければそもそも会話をすることが出来ない。さっきの「恋人の喧嘩問題」に遡ると、電話番号を知ってたからこそアプローチが出来たのだ。
数字はとても重要で、理解をしてもらうための大きな根拠となる。メディアを学ぶ人間の端くれとして、「数字の重要性」は、サッカーにも用いることが可能だと筆者は強く思うのだ。
そして、この試合もシステムという数字が大きく関わる。大分も清水のシステム(電話番号)を理解し、それにアプローチする術を考えて後半に臨んだ。それに対し清水も策に転じる。この駆け引きがとても面白いゲームだったと筆者は感じたのだ。
今節は、我らが川崎FVS名古屋のハイレベルな試合があれば、大誤審があったのにも関わらず、2点差をひっくり返した湘南のゲームがよく取り上げられる。その2試合には劣るかもしれないが、大分VS清水のゲームもとても面白い内容だったので、是非とも見ていただきたい。
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