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プレミアを席巻する”ストーミング”を言語化してみた
現代サッカーは二つの哲学を元に成り立っていると考えられている。一つ目は「ポジショナルプレー」。ジョゼップ・グアルディオラが指揮をするマンチェスターシティなどが掲げる、攻守に渡って「数的優位を作る」戦い方だ。そして、もう一つが今回のテーマとなる「ストーミング」である。「まるで嵐のように」という意味からストーミングと名付けられたのかと想像する。
この「ポジショナルプレー」と「ストーミング」は対立する立場にあると言われている。その「ストーミング」について、筆者なりに言語化をして、試合の図面を用意しながら解説していこうと思う
ストーミングとは?
いきなり難題な部分に入る。近年新しくできた哲学のため「ストーミング」については、まだハッキリとした概念が存在していない。ストーミングに関する記事を読んできてはいるが、ポジショナルプレーと同じく、書いている人によって言い方が少し変わってくる。footballistaの11月号で結城康平さんは、ストーミングについて
「ボールを手放すことを厭わない概念」ゲームモデルを便宜的に「ストーミング」と定義すれば、乱立された戦術用語が整理されるのではないか。
footballista11月号のP57から引用
と語った。確かに、「自らがボールを保持して数的優位を作る」とされるポジショナルプレーとの差別化がここで図ることができる。
そもそも「ストーミング」の根本は「ゲーゲンプレッシング」と「ポジティブ・トランジション」にあるものだと考える。相手がボールを保持してから一息付く前に激しいプレスを書け、ボールを奪ったら直ぐに攻撃のスイッチを入れる。だが、これだとシティが行なっているネガティブ・トランジションと同じだ。そこで、前述で述べた結城康平さんの意見が重要になってくるのである。シティは「攻撃の時間を長くするためにボールを奪いに行く」という「即時奪回」を目指すためにプレッシングをかける。一方のリヴァプールは「ボールを保持されたとしても、奪い返して攻撃に繋げる」という考え方になるのだ。
この仮定を元にするならば、湘南ベルマーレの戦術も「ストーミング」と言えるだろう。ボールを相手に持たせ、ハイプレスからのショートカウンターを仕掛ける。海外サッカーをあまり見ない方には筆者はこう説明すれば分かりやすいかもしれない。
そして、この「ストーミング」の完成形と言われているのが、現在プレミアリーグを唯一無敗で首位に立つリヴァプールなのだ。
そこで、CLグループステージ第6節 リヴァプールvsナポリに触れながら「ストーミング」について少し解説していく。
両チームのスターティングメンバー
リヴァプールは4-3-3のフォーメーション。対するナポリは、今シーズンから指揮を執るカルロ・アンチェロッティ監督の下で4-4-2をベースとしたポゼッションサッカーを確立させてきた。
ナポリは引き分け以上でグループステージの突破が決まる。そのためリヴァプールに残された道は勝利しか無かったのだ。
得点差以上の実力差
前半からお互い決定機を作るハイテンションな入りとなった。開始7分に、アラン→インシーニェと斜めに繋ぎ、左サイドの高い位置でボールを受けたルイがクロスを入れるがファンダイクがクリア。そのわずか数秒後。サラーからのパスを受けたワイナルドゥムが左サイドにサイドチェンジ。ボールを受けたロバートソンのアーリークロスにサラーがフリーで飛び込むがオスピナがキャッチ。このように攻守がめまぐるしく入れ替わる展開が序盤は続いた。
しかし、10分を過ぎた当たりからリヴァプールのペースが続く。激しい前線からの守備とプレスバックを繰り返し、攻撃の際は選手が入れ替わりながら、少ないタッチ数でゴールへと突き進む。ナポリはプレスをかけることができず、ジリ貧の展開が続いた。そんな中で試合を動かしたのは、やはりこの男だった。34分。ミルナーの縦パスを受けたサラーがアランと入れ替わりエリアに侵入。対面したクリバリをステップで剥がして角度の無いところから右足で流し込みリヴァプールが先制した。
後半に入ってもリヴァプールの「ストーミング」がナポリに牙を剥く。幾度も無く決定機を作るがフィニッシュの精度を欠き、試合は1-0のまま後半アディショナルタイムへと突入する。
すると90+2分。右サイドバックのマクシモヴィッチがクロスを入れると、途中出場のロブレンと入れ替わったナポリのミリクがフリーでシュートを放つも、GKアリソンのファインセーブに阻まれゴールならず。試合は1-0で終わったが、スコア以上に実力差を感じる一戦となった。
それでは、ここからリヴァプールのプレッシングと攻撃のパターンについて解説していく。
ボールを保持させたときのプレッシング
この試合で印象的だったのが、前半のシーンだ。
まず、ナポリのバックパスに対してマネが猛スピードでアプローチをかける。その後ナポリが陣形を整えた際には、このような場面が展開されていた。ナポリのボランチに対しては、リヴァプールのインサイドハーフがマンマーク。DFライン3枚でビルドアップする際には、数的同数となる3トップが1人ずつにプレスを仕掛けていく。この時のサラーは左サイドでフリーになっているルイのパスがカットできる位置にポジションを取り、パスコースを封じているのも見逃せない。これは、ゲーゲンプレッシングでいう「パスコース制圧型」に当てはまる。
ボールを持っていたアルビオルは苦し紛れに右サイドのカジェホンに向かってボールを蹴るが、ここにも左サイドバックのロバートソンが対応に行く。一瞬フリーに見えていたカジェホンだが、実はロバートソンがしっかりと監視していたのだ。
このようにあえてその場にボールを蹴らせる守備、あわよくばそのままボールを奪い去ってゴールへの最短ルートを導き出すような守り方がリヴァプールはとても上手いのだ。
被カウンターの対処法
また、相手のカウンターの際にはFWが猛然と走り守備のスイッチを入れる。
リヴァプールのCKから生まれたカウンター。ナポリはショートパスを繋ぎカジェホンからファビアンがボールを受ける。CB二人が上がっていたため、リヴァプールにとっては大ピンチを迎える局面だったと言える。
しかし、ここで真っ先にプレスをかけたのはCFのフィルミーノだ。フィルミーノにプレッシャーをかけられたファビアンは単騎突破で無くパスを選択。だが、ロバートソンが既にそのパスコースを限定していたため、そのままメルテンスに繋がること無くパスカットに成功した。そして、そこから相手ゴールへと奇襲をかける。
3トップが生み出す連携と嵐のような攻撃
これはリヴァプールの連携が見られた良い攻撃だった。ボールを受けたサラーがドリブルで駆け上がる。ここで注目するのは、マネとフィルミーノの動き出した。マネがダイアゴナルの動で斜めに走る。アルビオルがマネへのパスコースを塞ごうと左にポジションをずらした際に空いたスペースにフィルミーノが走り込んでフリーでボールを受けることができるのだ
また、相手が攻撃に移る前にボールを奪って二次攻撃へと繋げる。ボールを受けたメルテンスだが、ヘンダーソンが真っ先にボールを奪いに行く場面だ。このときナポリの選手の頭の中は「守→攻」へと変わっていることを覚えておいて欲しい。
ヘンダーソンが突いたボールを拾ったアーノルドが素早い縦パスを入れ、サラーの足元へと収まる。ナポリの選手たちは「守→攻」へと切り替わった頭からこの4秒間の間で再び「攻→守」へと切り替えなければならないのだ。当然身体は付いていかないし、後手を踏む形となってしまう。守る側の心情を分かりやすく言うならば「一難去ってまた一難」というやつだろう。まるで嵐のような激しいチェイシングは「何が起こったのか分からない」と感じさせるような速い攻撃。これがリヴァプールの持ち味であり、強さの秘訣だ。
ストーミングから学ぶ守備の大切さ
言ってみれば「全員攻撃全員守備」と言ったところだろうが、このように攻守に渡り走るのがリヴァプールの戦い方だ。
「ボールを手放すことを厭わない概念」の意味がここに来て分かって貰っただろうか。例え失ったとしても激しいプレッシャーでボールを奪い返して攻撃のスイッチを入れる。そして、速攻をしかけ攻め上がる。至ってシンプルな戦い方なのだ。
「ポジショナルプレー」には技術が伴う。ポジショニングもそうだが、トラップの位置、パスのスピードや高い質。これらが求められるため、完成するまでには時間が掛る。だが、極論を言うならば「ストーミング」はスタミナと高いフィジカルがあれば戦うことが可能だ。先ほど挙げた試合にて、インサイドハーフで出場していたミルナーは、85分で途中交代したが、この時点で12㎞近く走っていたというのだから脅威的である。
そのスタミナに加えリヴァプールの選手は高い技術力とインテリジェンスの高さがある。そのため今も負け無しでプレミアのトップを走り続けるのだ。
日本で「ポジショナルプレー」と「ストーミング」のどちらが流行るかと言われれば筆者は後者だと考える。集団でのプレッシングを早い段階で学べれば、「ストーミング」は体現できる。問題はそれらを教えるメディアとスタッフが少ないことだ。
もう「守備陣」と「攻撃陣」で分ける時代は古くなってきている。これを読んだ皆さんには、「失点が多い=守備陣が悪い」という概念を捨て去って欲しい。リヴァプールの選手でさえチームの勝利のために献身的に走っているのだ。「しっかりとしたプレッシングをベースにすればチームは強くなる」。これからのサッカーはそういう世界になるのだ。
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【写真】リヴァプール公式Twitterから引用
【図面】Football Board