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"Moonshot"を撃ち、「世の中ハラスメント」 をひっくり返そう — ビットキー・寳槻昌則のストーリー(第3回)

ビットキー共同創業者であり、代表取締役社長 CEOの寳槻昌則(ほうつき・まさのり)。この記事では寳槻へのインタビューを通じて、ビットキーが実現したいこれからの未来についてお伝えします。
 
第3回目のテーマは、起業家・寳槻が考えるスタートアップの存在意義。スタートアップの魅力、不可能を可能に変えた先人たちへのリスペクト、ビットキー創業の原点にあった想いを聞きました。

第2回目の記事はこちら


寳槻 昌則(ほうつき・まさのり)

株式会社ビットキー 代表取締役社長 CEO。1985年生まれ。起業家の父と芸術家の母の間に三男として生まれる。中学卒業後すぐに大検の資格を取り、高校へ通わず独学で京都大学へ。在学中は教育ベンチャーの起業や映画助監督を経験。2011年にIT企業のワークスアプリケーションズへ入社。2年目でアメリカ事業立ち上げ責任者に選ばれ、単身で渡米。ニューヨークとロサンゼルスを拠点にしたビジネス展開を経験する。帰国後の2018年にビットキーを共同創業した。

お金や成長のためではなく、”Moonshot”を撃つためのスタートアップ

——ここ十数年で日本にも数多くのスタートアップ企業が誕生しました。寳槻さんはこの動きをどのように見ていますか?
 
寳槻:もちろん素敵なことですよね!
でも「スタートアップ」には、実は2種類の文脈があると思います。
 
1つ目は、「錬金術」としてのスタートアップ。
インターネットの波が来て、少ない資本でもパソコン1つと知恵さえあればお金持ちになれるかもしれない、と夢見る人が増えました。起業して成功すれば上場後に株を売って資産家になれます。人生逆転のチャンスです。書店に足を運べば「起業ノウハウ」や「資金調達の方法」などを解説するスタートアップのハウツー書籍があふれ返っています。

2つ目は、「前進」のためのスタートアップ。 
世の中を前進させるために、「スタートアップ号」という乗り物を選ぶ。お金儲けという目的ではなく、理想を実現するために情熱を持ってそこに乗り込む。「もっとこういう世界になったら良いのに」というアイデアが重要です。

起業家が続々と生まれ、世の中に新しいアイデアが次々と発信されるようになったのはとても良い流れですが、多いのは前者の「錬金術」の思考だと思うんです。
お金儲けは悪いことではないですしそれ自体を否定するわけではないんですが、後者の「前進」の思考を持ったスタートアップがもっともっと多く生まれればよいのに、とも思います。

——寳槻さんがやりたいのは、「前進」のためのスタートアップですか?
 
もちろん、そうです。既に存在する企業や政府やNPOができないような、新しい枠組みで価値を創出する。独創的なアイデアの社会実装によって世の中のアップデートを目指す。私が憧れてずっと追いかけてきたのは、そういう「未来を切り拓くための」スタートアップです。
 
スタートアップ文脈で使われる有名な言葉で、“Moonshot”(ムーンショット)という英語の言い回しがあります。直訳は「月に向かってピストルを撃つ」ですが、これは ”無謀な行為" の比喩であり、昔はもともと「不可能で危険なことに挑戦する大馬鹿者」に使う言葉でした。

しかし1962年以降は、その言葉の定義が変わるんです。当時のジョン・F・ケネディ大統領が演説をします。「我々は月に行くことを選択した。簡単だからやるのではなく、難しいからこそやるのだ」と。その後、人類の月面着陸は成功します。アポロ11号が ”本当に” Moonshot を実現してしまったので、言葉の意味も変わってしまいます。以来、Moonshotとは「既存の常識にとらわれない、大胆な挑戦」を指すようになりました。

NASA on The Commons, No restrictions, via Wikimedia Commons

スタートアップとは、まさにこの ”Moonshot" を世の中に向けて撃つために存在している枠組みではないでしょうか。
当時、ケネディの言葉に感銘を受けた優秀な学生達は、まだ新興組織だったNASAに続々と集いました。NASAは政府機関ですが、成功するかどうかもわからないことに挑戦していたベンチャー組織ですよね。起業家精神の塊であり、いわば「スタートアップ号」です。集った若者らもまた、自身の富や成長のためではなく、世の中にはまだない魔法を実現するために、「前進」のために、命を燃やして参加したんです。そう思うと、胸が熱くなります。

私はこういう文脈で、「乗り物」としてのスタートアップに魅力を感じているんです。乗り物だから、行き先が重要です。行き先はつまり目的であり、「どんな価値を生み出すのか」ともいえます。

起業家とは、理不尽な仕組みや現実を「許せない」と考える人

——寳槻さんの起業家としての原動力はどこから来るのでしょうか。
 
寳槻:先ほど言った「前進」というポジティブな気持ちもありますが、私の場合、それよりもさらに原動力として強く持っているのが、実はネガティブな感情です。「前進」のための理想がA面だとすると、裏側のB面。それは「我慢できない」「許せない」といった、負の想いです。私はいわば「怒り」をガソリンとして、進撃しています。

どういうことなのか、もう少し説明しますね。
世の中には、嫌なことがたくさんありますよね。夏は暑くて蚊に刺され、冬は寒くて風邪をひく。都心に住めば、朝は満員電車に乗らなければならない。理不尽な現実ですが、これらは世の理(ことわり)です。世界に存在する当たり前のルールです。多くの人は受け入れて慣れていってしまう。これに対して「こんなのはいやだ!」とわがまま言って、ひっくり返そうと挑むのが起業家の生き方だと思うんです。

例えば、「鳥は空を飛べるけれど、人間は飛べない。」という常識。
こんなの、どうしようもないことだと諦める人がほとんどでしょう。いや、本人は諦めているという自覚すらないでしょう。だって ”当たり前” なんですから。そんなことは慣れてしまっています。
でもごく稀に、突然変異が現れる。現実を受け入れずに「俺は人間に生まれたけど、あきらめずに空を飛びたいんだ」と考える。周囲は馬鹿にするんですが、真剣に挑戦し続ける。崖から飛び降りて怪我した奴、変な機械を作ってみた奴。成功に至るまでには、膨大な失敗があったはずです。そして、飛行機が生まれる。ついには、月面へまで人を飛ばしてしまいます。

起業家とそうではない人だと、世の中の風景の見え方・捉え方が違うのかもしれません。多くの人は変えられないと思っていることを、起業家たちはもちろん変えられるはずだ、と根拠なく信じます。「おれはそんな運命を受け入れない。そんなの我慢できない!許せない!自分が正しくて、世の中のほうがおかしいんだ!」と憤ります。超傲慢で、わがままな生き物なんです(笑)

——起業家の視点はなかなかユニークですが、そう考えるとスタートアップは遠い存在にも感じます。
 
寳槻:はたして、そうでしょうか。

子どもの魂でというか、ピュアに考えてみてください。満員電車って不愉快ですよ。鳥のように空を飛んで自由に移動したくないですか?
たしかに世の中でいえば起業家はレアな職業です。しかし、「もっと自由になりたい」と思うのは、人の根源的な欲求のはずです。そしてその欲求は、少しずつ叶ってきています。私たちは遠くの友人とビデオ通話をして、スマホ操作で世界中からなんでも買えます。かつては治らなかった病気が、治療できます。

それらは誰が成し遂げたのか。その舞台裏には、もちろん起業家たちの輝かしい挑戦があります。でも起業家だけでは実現できなかった。月を目指すケネディの言葉に共感した若者たちのように、起業家が信じる未来に共感した人たちが集い、少しずつバトンをつないできた。そういった「前進ためのリレー」による勝利だと思います。

その意味では、このリレーの参加者の全員が、起業家精神を持っています。
かつての大きな歴史的な「前進」の多くは国家主導でしたが、今はスタートアップがイノベーションを起こして時代を引っ張っていると思います。スタートアップに飛び込むほんのわずかな勇気さえあれば、誰でも自分の起業家精神を発揮できる。「前進ためのリレー」に参加できる。これは素晴らしい仕組みですよね。

スタートアップへ転職するときには「死ぬまで勤め上げる会社を決める」ということではなく、「自分の関心があるプロジェクトに参加する」という感覚で選んで、起業家精神を発揮する。
例えるなら「終の家を選ぶ」ではなく「旅行先に行くための乗り物を選ぶ」ということですから。「ちょっと乗ってみよう」ということで良い。
スタートアップは、とても身近になったんです。

スタートアップは、世の中ハラスメントにあらがう「レジスタンスチーム」

——スタートアップが身近になった中での、起業家の役割はなんですか?

寳槻:最も大切なのは、素晴らしい未来を世の中に提案して仲間を集めることだと思っています。そのためには「世の中ハラスメント」に敏感である必要があります。

 ——世の中ハラスメント?
 
ハラスメントといえば、セクハラやパワハラ。これは悪いやつが決まっています。
一方で、「世の中ハラスメント」はほとんどの人が気付いていない、あるいは気にも留めていない理不尽さのことです。世の中の仕組みやシステムとして組み込まれているため、解決し難い課題、といえます。
例えば先ほどの「夏は暑くて蚊に刺される」「満員電車に乗らないと通勤できない」などは、世の中ハラスメント。悪いやつが決まっていないんですよね。誰に文句を言えばいいのかも分からない。ハラスメントの通報窓口もない。つまり、受け入れて我慢するしかないという、世の中のシステムからのハラスメント(嫌がらせ)なんです。

——たしかに、嫌で仕方がないのに「この現実は変わらないな…」と思ってあきらめてしまうことがたくさんあります。
 
でも一部の、私みたいにとてもワガママな人は、こうしたことに敏感にストレスを感じるわけです。これが起業家センサー。そして「自分がこのハラスメントをなくしてやろう」と考える。これが起業家精神。
 
もう一つ「世の中ハラスメント」の例を挙げれば、多くの人は「運転ハラスメント」に遭っています。気づいてないんです。
例えばアメリカは広くてクルマ社会です。私も現地で経験しましたが、生きるためには長時間運転する必要がある。1日に、1時間も2時間も運転します。田舎であれば毎日3時間という人もいます。
もちろん好きで運転する人もいますが、大多数は「強いられて」運転している。年間何百時間も、脳の能力が周囲への警戒と、アクセル・ブレーキの制御に費やされています。何億人もの人がそうやって暮らしています。その時間が解放されたら、世界はどんなに変わるでしょうか。

さらに悲しいのは、事故に遭うリスクです。その人の運転技術の問題だけでなく、巻き込まれることもある。ある日突然、大切な家族や恋人の命が交通事故で奪われる。朝まで元気に話していた人の未来が突然消えてなくなる。これはずいぶん理不尽ですよね。まさしく「世の中ハラスメント」です。被害にあったら事故を起こした運転手が悪いんだと一時的に憤りますが、いまの交通の仕組みであればそれは必然で、いつかは誰かに起こってしまうんです。つまり、悪いのは仕組みなんです。 

AIとか自動運転が実用化に向けて盛り上がっていますが、これが実現して交通事故を99%削減できれば、運転にまつわる人類の悲劇のほとんどをなくせる。画像認識技術や車の制御技術などさまざまな役割を担う人たちは、こういう見方をすると「運転ハラスメントにあらがう、レジスタンス(抵抗運動)チーム」の一員といえます。

 ——スタートアップは、集団で一緒に戦っているということでしょうか?

そうだと思います。ライバルでありながら、仲間なんです。
この運転ハラスメントだけではなく、様々な課題の塊が他にもたくさんあって、「前進型」のスタートアップが群れになってそれらの解決を目指している。いまの「スタートアップの時代」は、そんな社会モデルだと私は考えています。それぞれの「月面」を目指して、チームで乗り込んでいます。

ちなみに、「人類が月に行く」という詳細なイメージを最初に作品化した人は、小説家のジュール・ヴェルヌといわれていますが、SFの父とも呼ばれる彼の言葉の中に、こんな名言があるんです。

"人間が想像できることは、人間が必ず実現できる。"

理不尽を、変えられない不条理だと認めない。理想を、ただの夢だと諦めない。それがスタートアップです。

ひとりでは実現できないかもしれないけど、志を同じくする仲間がいれば必ず成し遂げられる。もちろん失敗はたくさんあるでしょう。けれど、バトンをつないで、1ミリでも1センチでも前進していけば、いつかは月面へと辿り着くはずです。


いかがでしたか。寳槻昌則のストーリー第3回目は、起業家・寳槻が考える「スタートアップの存在意義」をご紹介しました。次回は、「なぜカギを最初のテーマに選んだのか?ビットキーの事業が生まれた背景」をテーマにお届けします。

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