見出し画像

仮面の恋②

①の続きです。

パーティーも中盤になってくるとなんでもアリだ。
人目を構わず繁殖行動を起こす者、残飯を片っ端から手掴みで食う者、ラリって床をのたうち回る者…空気は澱んでいた。
うまくいったカップル達は腕を組んで、ポツポツと会場を後にする。

👗はバルコニーで、先程踊っていた男といる。
俺はなるべく視界に入る距離で、植木を少し揺らしてみた。
緑に赤は目立つだろうから。

👗「…ブランデーを取ってきて頂けないかしら?酔い足りないの。」
男は喜んでボールルームへ消えていく。
入れ替わりで👗に駆け寄る。

颯爽と跪いて彼女の手を取り「ビューティフル!」と大袈裟に讃えた。
お辞儀と同時に手の甲に口付ける。

画像1


⚗️「私と踊り直しませんか?」
👗「残念ね、もう帰らないといけないの。」
⚗️「…ご冗談を。灰かぶりには見えないですよ?」
しまった、切り返しがイマイチだ…。
が、彼女はそれでもクスクスと扇子を口にあてながら笑ってくれた。
👗「代わりにキスしてくださらない?…思い出として。」
俺は喜んで、ヘンテコな…いや、もはや憧れとも言えるドレスを抱き寄せ、唇を重ねた。

瞬間、小さくて鋭利な剣が二人を割った。
小柄な体躯の女性騎士(⚔)が👗を後方へ押さえ込み、俺の仮面を真っ二つに切った。後ろに屈強な男もいる。
⚔「無礼は承知だ!お控え頂きたい!」

画像2


お気に入りの仮面が台無しになった!
大ショックだ!
俺は無防備に素顔を晒したまま、目を見開いた。
What the hellと言わんばかりに腕を拡げて、遺憾の意をアピールする。
👗「ごめんなさ…」
言うか言わないかで、ボディガードに担がれた👗は会場を去って行った。

━━━━

⚔「これで口をゆすいでください、悪い薬を盛られたかもしれません。」
ロールス・ロイスの車内では、使用人とお嬢様の口論が飛び交う。
👗「必要ないわ!彼は単純に仮装を楽しんでいる身分の高い方よ。服を見れば一目瞭然じゃない!アナタも素顔を見たでしょう?どっからどうみても善人よ!」
⚔「いいえ、眼光を見れば私にはわかります。彼はヴィランです、しかも…魔法使いの!」
👗「……何も剣を向ける事はなかったわ。」
⚔「お嬢様、これでいい加減最期にしてくださいよ!婚姻前の貴女に万が一の事があれば…私達全員のクビが飛びます!」

━━━

⚗️「害虫でも見る目だったな。」
そのまま茫然と歩いて自宅に戻ったが、勉強する気にもなれず、かと言って眠くもない。
もう深夜なのに、電球が切れそうなネオンが窓から入ってきて、迷惑だ。

どう足掻いても変えられない生い立ち。
隠しに隠してきた過去の悪事を全て見透かしたような⚔の目。

ロックグラスの氷を指の腹で回しながら、彼女の家柄を調べると、本人らしきポートレートを発見した。
一瞬で胸が高鳴る。
⚗️「可愛いらしい顔だな。いつかまた逢えたらいいな。」
…なんていう、好青年らしい、純粋な恋心をつぶやいた後、自分を鼻で嗤った。

ベッドに倒れ込みながら、イィーっと二本の牙を剥き出し、割れる勢いで食い縛る。
⚗️「クソッ、ダメだ、抑えられない!絶対に、どんな手を使ってでも…欲しい!」

Would you kiss me, as a memory?

チカチカチカチカ……と、彼女のセリフが脳内で回り、気がつくと朝の濃霧がネオンを隠していた。

続く


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?