見出し画像

対談【伊藤直子×近藤良平】 難しいことを考えず、ずっとこの場所を使っていたい(近藤良平/コンドルズ)

セッションハウス30周年を記念した、伊藤直子と近藤良平の対談【後編】です。お互いのこと、合同公演のこと、これからのこと、等々。主に現在から未来に関するお話を聞いています。前編の続きですので、ぜひ前編と合わせてお読みください。


▼  ▼  ▼


近藤良平 リンゴ企画 百年作戦『昨日・今日・明日』2021年2月@セッションハウス


▼一言で言えば「類稀なる」▼


ーーお互いの「アーティストとしての印象」について教えて下さい。

近藤 ダンスに必要な振りや動きがあった時、僕はそれをどんどん創っちゃうタイプ。僕が創った振りをあなたが踊る、という。直子さんはある意味真逆で、その人の中からダンスを引き出すタイプ。直子さんが振り付けることも時々あるかもしれないけど、それよりも、ダンサーが自分から踊り出す為にいま何をするべきか? を誘導するのがむちゃくちゃ上手い。踊らされるのではなく、自分から踊り出す。だから、直子さんはそこに興味があるんだなって。それと、昔の話を終わったことと捉えないで、「昔はこういう童歌を歌って遊んだのよ」とか、過去を懐かしんだり寂しがったりするのではなく、すごくリアルに、昨日のことのように話すタイプ。で、僕が何歳とか関係なく、ずっと対等に話せちゃう。それは出会った頃から今も変わらないです。創作に関するアイディアは、常に直子さんの頭の中にあり、そこから生まれてくることを強く感じます。

伊藤 良平さんを一言で言えば「類稀なる」です。もう類稀なるとしか言いようがない。30年見てきて、一人しか生まれていない、越える者がない、比べる者がない人。良平さんにしかできないことを良平さんがやっていく。事象として色々なことが起きるけれど、昔も今も、良平さんは自分がやるべきことを楽しみながらやっています。苦しみは見せないんですよ。だから、苦しんでないと思うことにしています。

近藤 アハハハ。

伊藤 苦しむのは当然のことなんです。これだけのことを為して、これだけの出会いがあって、全部吸収して、活動して、大変じゃないはずがないけれど、それを「大変さ」ではなく「面白さ」で積み重ねていける。それこそが類稀なる由縁で。

ーー無粋な質問をして恐縮ですが、もちろん苦しい時もある?

近藤 (笑)。そうですね、前より神経質にはなりました。

伊藤 あとは、身体能力として軸がブレない。その軸が独特で、ダンスで培った軸というより、小さい頃から生活の中で培った軸がすごく太く、そこから生まれるダンスなので、どのダンスを見ても嘘じゃない……という言葉はあまり好きじゃないけれど、いい加減そうに見えて、常に真実がある。ダンスを見せられるのではなく、こちらから「見ちゃう」。表現ではなく、表出してくるもの。良平さんのダンスはメッセージ云々ではなく、表出したものがそのまま入ってきます。


近藤良平 リンゴ企画 百年作戦『昨日・今日・明日』ニューアレンジバージョン
2021年7月@セッションハウス


▼男も女もダンスが好きで、楽しく創る人間が集まっていた▼

ーーこれまで話題に出たふたつのカンパニー、マドモアゼル・シネマとコンドルズが出演した公演『昨日・今日・明日』に関するお話を。

近藤 カンパニーから同じ位の割合で出演して、一緒のステージに立つのは初めてなんですよ。

ーーセッションハウス史において、ありそうでなかった合同公演。

近藤 あっちの村とこっちの村の人達が一緒になって創る、というイメージがありました。男子と女子の違いは強く出るだろうと思っていて、その違いが舞台上で出会う、みたいな。さっきの「表出」に近いかもしれないけど、どんな些細な動きも一生懸命やるマドモアゼルに対して、コンドルズは動きに茶々を入れるのが得意だったりするから、同じ動きをしても捉え方が異なる。それが面白くなるだろうと予感しながら創ったのが2021年の2月。で、紆余曲折あって7月にもう一度上演することになり、だったら役割をひっくり返したらどうだろう? と(※2月と7月で、ふたつのカンパニーが担ったポジションを逆転させて上演)。結局セッションハウスの創作は人と人の出会いで創るので、この組み合わせならこんな作品になり、別の組み合わせなら新しい作品になる。

伊藤 私はずっとリハーサルを見ているだけ。男女の違いがどう出るかな? と思っていたけれど、やってみたら男も女もダンスが好きで、楽しく創る人間が集まっていた。二度目の7月上演は親戚っぽさが増して、より安心して踊っている。踊る時って身体が緊張していると少し怖いんだけど、人間同士が安心した身体で対峙すれば、自分から脱ぐとか脱がないとか、そんなこと言わなくて済むじゃん、と感じました。

ーーカンパニー同士で共作する魅力などは?

伊藤 コンドルズは踊り上手なので、踊り上手な人が集まり「いい作品を創ろうね!」と言ってくれると、そこにシンプルに向き合える。目指す方向は一緒なので、私もダンサーも何の迷いもなく乗っかれました。

近藤 セッションハウスは元々実験性の高い場所で、やりたい表現にどんどんチャレンジできる。(香取)直登とか(黒須)育海とか、コンドルズの比較的若い連中も、ここで一緒にやることによって自由度がどんどん増してくる。生意気な部分も含めて「やっちゃえ!」という気持ちになれるんです。それはすごく感じました。

伊藤 そうなんですよ。男と女が出会うと、普段は見せない一面が出る。

近藤 そうそう、出ちゃうんです。それが多分、本人達も嬉しい。


近藤良平 リンゴ企画 百年作戦『昨日・今日・明日』2021年2月@セッションハウス


▼人が出会い、新しいことが始まり、どんどん広がる▼

ーー30周年のセッションハウスが培ってきた、場所の魅力や面白さについて、改めてお二人にお聞きできれば。

近藤 ここのサイズは30年前も今も変わらない訳で、「何このスペース?」と思う人もいるかもしれないし、「こんなに雰囲気の良いスペース他にない!」と思う人もいる。やっぱり、この場所が持っている広さ、それはサイズの意味もあるけれど、それよりも、ここで人と人が出会い、新しいことが始まって、それがどんどん広がる、その循環が大きな魅力かな。ここから人が出て行って、また入ってきて、その時間のサイクルを考えると、他にない独特の場所だと思います。

伊藤 私はあまり俯瞰的に見られないかも(笑)。マドモアゼル・シネマをやればその作品だけに集中しちゃうし、それしか興味がなくなるけれど……、例えば、全プログラムについて考えると、コロナの少し前からかな? ここに来る若い子達が沈んでいて、これはどうしたらいいのだろう? と。良平さん達が来た最初の10年位は、ワイワイした楽しい雰囲気で、何かを創る! という意欲に燃えていた。私も「この人と一緒にやればいいじゃん」と提案するのが簡単だった。でも今の若い子はすごく孤立していて、誰かと一緒にやらせるのが難しい。私、初めて「世代間」を感じています。これをどう飛び越えて行こうかと。

ーーそれは時代背景が影響している?

伊藤 そうだと思います。みんな真剣なんですよ。そんなに真剣にならなくても良いじゃない!? と思うけれど、こうしたらこんな風に言われるとか、すごくヒリヒリしながら生きている。今の若い女の子同士は仲良しではあるんですが、ダンスはまっさらで無防備な身体が一番大事なのに、ものすごく防備しているんですよ。それをダンスで何とかする。いまダンスに求められる役割はそれなんじゃないかと、最近感じています。

ーー興味深いです。「長く続けたからこそ」の魅力はいかがですか?

伊藤 その人のダンスをずっと見ていられること、ですかね。20代でここにやって来て、いま50代になったダンサーが踊ると、みんな独自性が出ているし、その人にしかできないダンスをするんですよ。それはすごく素敵なことで、私が見たいダンスはそれだと。上手なダンスが見たい訳じゃない。その人がその人らしく踊ること。それを見るのが私の一番の楽しみです。セッションハウスを続けてきたことで、みんな安心してその姿をさらけ出してくれるので、続けてきてよかったと強く思います。


近藤良平 リンゴ企画 百年作戦『昨日・今日・明日』ニューアレンジバージョン
2021年7月@セッションハウス


▼枝葉が自由に伸びていく場所になれれば▼

ーー2022年4月、近藤さんは彩の国さいたま芸術劇場の芸術監督に就任します。その報を受けた伊藤さんがすごく喜んでいたことを印象的に覚えています。

近藤 セッションハウスという場所にはダンスに関する出来事がいっぱい詰まっていて、ダンサー同士も自然に出会える。で、さいたま芸術劇場で僕に何ができるだろう? ということを、かなり長い時間をかけて考えたんですよ。その頃書いたメモがいっぱい残っていて。最終的に、ダンスのことは僕が引っ張るべきというか、ダンスの魅力、踊ることの面白さ、要はダンスを通じたコミュニティに関することは、僕に与えられた役割だと思っています。そういう意味で、無理に繋げようとしなくても結果的に繋がるだろうし、ある意味セッションハウスでやってきたこととあまり変わらないかもしれない。この件に関して色々な媒体からたくさん取材を受けましたが、その聞き手の方々と話していると、皆さんものすごく期待してくれていて。

ーー伊藤さんから近藤さんへ一言エールをおくるとしたら、どんな言葉をかけますか?

伊藤 『ダンスのある星に生まれて』(※2021年9月に彩の国さいたま芸術劇場で上演された、近藤さんのプロデュース公演)。この言葉で十分じゃないですか。あの言葉が出てくるなら、もうOK。あの言葉だけで私は満足(笑)。いや、そうだよね、その星に生まれたよね、と。あとは良平さん自身が、責任ある立場を楽しんでもらえたら。

ーー最後に。セッションハウスがこの先35年、40年と続く前提で、これからのセッションハウスに期待することを教えて下さい。

近藤 あまり難しいことを考えず、ずっとこの場所を使っていたいです。ここを使うこと自体が本当に楽しい。セッションハウスに来れば、ダンスを創るだろうし、音楽を創るだろうし、僕はいつもピアノを弾いて、ピアノを弾いていれば大体ご機嫌です。その時間が多ければ多いほど嬉しいですね。

伊藤 ここに集った人それぞれが、各々の作品を創り、その人達の枝葉が自由に伸びていく場所になれれば。どんどん育っているし、一人一人やりたいことが異なるので、もっと自由に、どうすればもっと解放できるか、今後もそれを突き詰めていきたいです。[了]


伊藤直子
いとうなおこ○鹿児島県出身。振付家、演出家、ダンサー、セッションハウス プログラムディレクター、マドモアゼル・シネマ主宰。1991年、神楽坂にダンスの為の小劇場「セッションハウス 」を設立。1993年にダンスカンパニー「マドモアゼル・シネマ」を結成し、以降全作品で振付・演出を手掛ける。
[次回予定]マドモアゼル・シネマ『彼女の椅子』2022/3/12〜13◎セッションハウス

近藤良平
こんどうりょうへい○東京都出身、南米育ち。振付家、ダンサー、コンドルズ主宰。1996年にダンスカンパニー「コンドルズ」を旗揚げし、以降全作品の構成・演出・振付を手掛ける。2022年4月より彩の国さいたま芸術劇場の芸術監督に就任予定。
[次回予定]リンゴ企画 近藤良平 百年大作戦『正直者は笑い死に』2022/1/15〜16◎セッションハウス  コンドルズ25周年記念スペシャル公演『ONE VISION』2022/2/4◎高知県立県民文化ホール、2/6◎藍住町総合文化ホール

[構成・文]園田喬し
[撮影]伊藤孝(舞台)

いいなと思ったら応援しよう!