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言い換えれば、みんなが引くようなダメさも持っているんです【櫻井智也/『BITE』VOL.2(2015年)掲載】

BITEーPプレオープンを記念して、雑誌『BITE』に掲載された過去インタビューからいくつかの記事をご紹介! このテキスト及び写真は2015年発行の『BITE』VOL.2より転載しています。末尾に櫻井さんの最新情報も掲載しているので、ぜひ最後までご覧ください。

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MCRは誤解を恐れない劇団だ。故に誤解を受けやすい。パンクやプロレス等をアイコンにした宣伝ビジュアルやトゲのある言葉のチョイスなど、観る者の好みを測るような外観をしている。しかし、創作する作品は「人間の弱さ」へ惜しみない愛情を注ぎ、ダメなアイツもコイツも、ついでにオレも、みんなまとめて盛り返していこうぜ! という、優しさと男気に溢れている。その上で、尖った笑いもたっぷり含まれている。こういう演劇が、ダメを自認する人々に響かないハズがない。当然、筆者にも激しく響いている。そのMCRの新作公演『死んだらさすがに愛しく思え』は、20世紀に実在したシリアルキラーを描いた重たいトーンの一作だった。このインタビューでは、MCR主宰・櫻井智也の人となりと絡めて、作品の深部へ迫ってみたい。

012_人物

櫻井智也 さくらいともなり○1973年生まれ、千葉県出身。劇作家、演出家、俳優、劇団MCR主宰。1994年にMCRを旗揚げし、以降全作品で作・演出を担う。「ドリルチョコレート」という別ユニットも含め、年間3〜5本程度の公演を行っている。

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MCR『死んだらさすがに愛しく思え』2015/5/29〜6/2◎下北沢 ザ・スズナリ [作・演出]櫻井智也 [出演]川島潤哉 有川マコト 奥田洋平(青年団・サンプル) 澤唯(サマカト) 後藤飛鳥(五反田団) 堀靖明 田中のり子 櫻井智也 おがわじゅんや 北島広貴 福井喜朗 伊達香苗 [公演情報/2015年]
[ストーリー]「ヘンリー・リー・ルーカス」という実在した殺人者の半生を下敷きにした物語。主人公・川島(川島潤哉)は殺人罪で捕らえられ、刑事の櫻井(櫻井智也)と小川(おがわじゅんや)から取り調べを受ける。冷静沈着でありながら自暴自棄気味の川島は、胸の奥底に果てしない狂気と絶望を押さえ込んでいるように見えた。その様子に苛立ちを覚えながら、櫻井は川島の言葉を丁寧に拾おうとする。暴力と支配欲にまみれた川島の母親は、客との売春行為を息子に見るよう強要するなど、数々の虐待を尽くし彼に歪んだ精神を植え付けた。やがて成人した川島は当然のように母親を殺し、ごく自然に犯罪者人生を歩んでいくことになるのだが……。

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▼結局は人間の持つ振り幅だと思います▼

──今作は実在した殺人者をモチーフにした、ある種ショッキングな一作だと思うのですが、櫻井さんがこのモチーフを選んだ理由は?

櫻井 十何年も前からこの人物に興味があって、調べたり読んだりしていたんですけど、他のシリアルキラーと違って結構人間臭い面が見えるんですよ。それと、川島(潤哉)くんと奥田(洋平)くんという役者さんは、2人共底知れない狂気みたいなものがあって、キャストに2人が揃ったので「このタイミングかな」と。ただ、史実だけを追うとやっぱりグロいし、陰惨な話になっちゃうなぁと思っていて、あまりそれを感じさせず笑いながら観られるものにしたかった。あくまでMCRの作品にしたかったし「MCRっぽくないね」と言われない為にはどうしたらいいのだろう? みたいなことにかなり神経を使いました。

──その「MCRっぽさ」とは、例えば?

櫻井 ケラケラ笑って特に何も残りませんでした、的な。普段のイメージをそのまま残したくて。

──とはいえ、快楽殺人等も出てきますし、全体の舵取りは難しそうですね。

櫻井 劇を観ている人が主観として捉えるのは基本的に主役だと思うのですが、今回の主役には感情移入が出来ないだろうと。そうなると俯瞰で観られちゃうから、感情移入出来るポイントを各登場人物に配置して、どこから観ても捉えられる、あるいは捉えられない……みたいなことを狙っていました。唯一感情移入出来ないキャラを奥田くんにお願いして、安易に「分かるわー」みたいな所へ行かないように。

──実在した殺人者を下敷きにしているからこそ、僕のような気の小さい者は少し距離を置いて観られたというか、追体験しない、出来ない、そういうダメさを描いている? と感じました。

櫻井 でも結局は人間の持つ振り幅だと思うんですよ。ヘンリーはああいう生涯を送ったけど、実際にどういう言動だったかはよく分からないから、自分に当てはめて書いてみる。その結果ああいう芝居になったということは、俺は、いつもの「この人ダメだな〜」と笑ってもらえる位のダメさも持っているし、言い換えればみんなが引くようなダメさも持っているんですよね。だから、そこなんじゃないかなぁ。最近は有り難いことに「櫻井さん、面白いですね」と言って近づいてきてくれる人もいるんですけど、俺はねぇ、土星の輪っかだと思ってるんですよ。

──え? 土星?

櫻井 遠くから見るとキレイだけど、近くに行けば行くほどガスで死ぬ(笑)。だから、俺と会った瞬間に人は死んじゃうんだなぁと。近くに来れば来るほど俺のダメさを笑えなくなるんです。そう考えると、お客さんと俺という距離が一番良いバランスなんじゃないかな。

──「人に伝わったら引かれるダメさ」は、櫻井さんに限らず僕にもあるし、割と多くの人にあるような気がしますが、今作でそんなに引いている人いました?

櫻井 もっと引かれると思っていたんですけど、実はそうでもなかったです。でも、どっちもあったと思いますよー、本当に。

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▼親近感があるとはいえ、やはり美化してはいけない▼

櫻井 俺ね、自分も一歩間違えたらそっち側へ行くなという境界線を常に抱えているんですよ。演劇がなかったら今頃前科……、まあ軽犯罪だと思いますけど(笑)、前科何犯かだと思う。友達と遊んでいても突き抜けちゃうとヤバイことになる、俺が本気を出すとみんな引く。だからずっと友達が出来なくて。でも、うちの劇団員の北島(広貴)さんやおがわ(じゅんや)さんに、勇気を出して俺が面白いと思うことをやってみたら、凄く笑ってくれた。自転車に乗った北島さんが俺の股から顔面までを真っ直ぐ轢いた瞬間に「ああ、俺にもやっと友達が出来た!!」と。

──(笑)。素晴らしいエピソードですね。

櫻井 あ、良かった(笑)。だから一歩間違えるとそっちへ行くという自覚があって、いわゆるシリアルキラー全体に興味があり、半生記とかを読み漁っている中でヘンリーと出会ったんですけど、科学的に言うと、母親からの虐待が脳に影響を及ぼしていて、大体10歳位の知能しか持ち合わせていなかったらしいんです。でも洞察力はずば抜けていて、それは「どうしたら母親の意に沿う受け答えが出来るのか?」を毎日探っていたから。そういう所が俺と似ているな〜と思うんです。俺も「いかに彼女を怒らせない発言をするか?」とか、そういう考え方をする人間なので、どこかで親近感を感じていたのだと思う。でもね、いくら親近感があるとはいえ、やっぱり美化してはいけないので、そこは本当に気をつけました。極めつけのゲスだという面は残さないといけない。

──そういうバランス調整が作品の魅力に直結していたと思います。ご自身は、今作を振り返っていかがですか?

櫻井 こういうアプローチを選んでも喜んでくれる人がいるんだという発見は大きかったです。自分の中では「ぶれてない、ずれてない」と思っているけれど、やっぱりどこか思い切った部分はありました。でも、それが意外と受け入れられて、自分の俗物性が共感されると、嬉しいなぁと思う反面、「あー、俺は俗物だなぁ。芸術にはなれないんだなぁ」とも思った。勿論、つまんないモノは作りたくないし、どんな時も主観を交えて書いているから、面白いという評価は単純に嬉しいんですけどね。

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▼サボるとつまらない自分になりそうで、それが怖い▼

──少し話題を変えまして。実は僕、MCRの存在をかなり前から知りつつ、ちょっと食わず嫌いだった時期があり、数年前に公演を観てあまりの面白さにビックリしました。その経験から「MCRは割と誤解を受けやすい団体なのかな?」と考えたのですが……、そんなことはない?

櫻井 それはねぇ、皆さんそうなんじゃないかと思います。よく言われるのが「やり方が下手だ」と。僕ら旗揚げ当初から演劇の方法論を磨いてこなかったので、いわゆる「演劇の高め方」みたいなことがよく分かってないんです。それと、僕はパンクロックが好きで、ずっと昔から聴いているんですけど、パンクは思想でパンクロックは商品だと思うんですよ。だから、やっていることは歌謡曲でいいんですけど、そこにトゲトゲしさというか、およそ歌謡曲には不釣り合いな表現を、例えそれが意地悪だったとしても、入れておかなきゃいけないなと。歌謡曲の中のパンクが響かない人には「あの曲良いね」で終わっていくし、パンクが響いた人には「パンクで面白いね」ということになる。ただ、間口を広くしてやっているつもりなので、結局ぱっと見は歌謡曲だし、割と普通のお話でもあるんですよね。

──仮に誤解を受けやすい団体だとしても、それを解きたいともあまり思ってないんですよね?

櫻井 いやいや、解きたいですよ、出来ることなら。でも誤解じゃない部分もあると思います。「なんか怖い」とか。

──全然怖くないですよ(笑)。むしろダメ人間に優しい演劇。

櫻井 単純にもう、これが好きだからやっているとしか言えないかも。僕らみたいな演劇が流行っていても廃れていても、好きだからやっているという。

──ちなみに、櫻井さんが影響を受けた劇団、お気に入りの劇団、はありますか?

櫻井 俺、全く演劇を観ないんです。だから流行り廃りも分からない。自分の作品を観ながら反省することはありますが、正直よその作品から影響を受けたことはないです。だからこそ成長度合いがゆっくりなんだと思う。何か革新的な作品に衝撃を受けて「よし、俺も!」と思えれば飛躍的なスピードで成長出来るかもしれないけど、自分の中の「格好いい、格好悪い、面白い、面白くない」だけですから。なんかね、あの劇団が面白いとか噂を聞くと、それだけでイライラしてきちゃう。「なにー!? 面白いのか? チクショー!!」みたいな(笑)。誰よりも面白くなりたいという漠然とした気持ちしかないから、妙にイラッとするんです。

──誰よりも面白くなりたい、その焦燥が櫻井さんを突き動かす?

櫻井 新作を年に何本も書くのは、ちょっとでもサボるとつまらない自分になりそうで、それが怖いから。俺にとって最後まで出来たのは演劇だけなんです。これがなくなったらホント捕まっちゃうと思う。ふははは(笑)。

[文]園田喬し

[撮影]岩田えり(人物) 保坂萌(舞台)


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ドリルチョコレート『アンジェリーナ3:49』2021/7/14〜18◎下北沢 ザ・スズナリ [脚本・演出]櫻井智也 [出演]櫻井智也 川久保晴 後藤飛鳥(五反田団) 三澤さき わたなべあきこ(劇26.25団) 三瓶大介 日栄洋祐(キリンバズウカ) 澤唯(サマカト)

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