【童話読み聞かせ】星の子キラス
ちょっとおちゃめな魔法のようなことば「ペケロンパ」。童話の読み聞かせを「聞かせよう」。そして、みんなで読み聞かせを「してみよう」。
このペケロンパ・プロジェクトは読み聞かせによって子どもとの暮らしを応援しています。詳細はこちらの記事でご紹介していますので、良かったらご覧ください。
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このお話の目当て
母の健康をねがうのは、どの子も同じ。そんな時、不老不死の薬があったら、どんなにうれしいことでしょう。しかし、科学は進んでも、情緒の面にかけていたら、さびしい生活になると思われます。進歩した科学に情操面も満たしたい。そんなことを目あてとしました。
読み聞かせのポイント
星の子キラスは、漫画に出てくる宇宙人ではなくて、かしこくて、かわいらしい少年をイメージとして与えてください。
おはなし:出村孝雄 / え:田室綾乃 / こえ:折出賢一
/ 著書:出村孝雄 / 制作:Bit Beans
▼おはなし
マコちゃんのおかあさんは、病気で、ながい間、ねています。
ある晩のことです。
マコちゃんは、えんがわに出て、神さまにおいのりをしました。
「神さま、おねがいでございます。はやくおかあさんの病気を、なおしてください」
おいのりをすませたマコちゃんの耳に、美しい虫の声が聞こえてきました。
「チンチロリン、チンチロリン」
「スイーッチョン、スイーッチョン」
「リーン、リーン、リーン」
いろいろな秋の虫が、いっしょになき出しました。
「わあ、美しい虫の声。ちょうど、虫の音楽会のようだわ」
そのときです。
「マコちゃん、マコちゃん」
おかあさんが呼んでいます。
「マコちゃん、えんがわのしょうじを、あけてください。虫の声が美しいから、聞いてみたいの」
マコちゃんは、えんがわのしょうじをあけました。
「ああ、よく聞こえるわね……。おや、虫の声も美しいけれど、こんやの星は、とてもきれいねえ」
おかあさんに、いわれて、マコちゃんも空を見上げました。空には、いっぱいの星が、キラ、キラ、かがやいています。
そのときです。マコちゃんは、びっくりしました。
美しい星の空から、青く光ったものが、こちらにむかって、とんでくるではありませんか。
「おかあさん、たいへん、そら、青く光って、なにかとんできますよ」
おかあさんも、おどろきました。
「おや、なんでしょう。ずいぶん、はやくとんできますね」
青く光ったものは、星のかがやいている空から、ぐんぐん、近づいてきました。マコちゃんは、こわくなりました。
「おかあさん、わたし、こわい」
「マコちゃん、はやく、えんがわの戸をしめなさい」
マコちゃんは、えんがわの戸をしめて、おふとんの中の、おかあさんのからだに、だきついて、こわがっておりました。
それからしばらくすると、マコちゃんの家の、えんがわの戸を、トン、トン、たたくものがあります。
「あけてください、あけてください」
病気のおかあさんも、マコちゃんも、だまっていました。
「あけてください、おねがいです。わたくしは、悪い者ではありません」
それは、男の子どもの声でした。
それでも、おかあさんと、マコちゃんは、だまっていました。
「あけてください。わたくしは、星からきました。宇宙船にのって、いま、ここに着いたばかりの、星にすんでいる星の子どもです」
星の子どもと聞いて、マコちゃんは安心しました。
「おかあさん。あんなに美しい星にすんでいる子どもなら、きっと、よい子でしょうね。わたし、戸をあけてあげる」
マコちゃんが戸をあけると、マコちゃんより、すこし大きな男の子が、はいってきました。
その子は、マコちゃんのおかあさんの、おふとんのそばに、きちんと、すわりました。
「わたくしは、星の子キラスです。わたくしのすんでいる星は、そら、みなさんが、天の川といっている、あの近くにあるんです。いま、宇宙船にのって、この地球に着いたばかりです」
星の子キラスは、とても、かしこそうな顔をした、かわいい男の子でした。マコちゃんは、すっかり安心しました。
「では、星の子キラスさんというのね。わたしはマコ。ここにねているのは、おかあさん。おかあさんは病気で、ながいこと、ねているんです」
「マコちゃんのおかあさんは、ご病気ですか、それは、ご心配ですね」
星の子キラスは、マコちゃんのおかあさんの顔を、じっと見ながら、だまってしまいました。外では、秋の虫の、美しい声が聞こえています。
「チンチロリン、チンチロリン」
「スイーッチョン、スイーッチョン」
「リーン、リーン、リーン」
しばらくすると、星の子キラスが、思いついたようにいいました。
「じつは、わたくしは、さっきまで宇宙船にのって、あの星の空をとんでいました。ところが、わたくしの耳にあてている器械に、とても美しい声が聞こえてきました。ほら、いま、外で聞こえているあの美しい声です。それで、美しい声のするここに、宇宙船を着けたのです。」
「キラスさん、あれは、秋の虫の声です。わたしも、さっきまで、おかあさんと、あの虫の声を聞いていたのよ」
星の子キラスは、いかにも、おどろいたという顔つきでした。
「へえ、虫の声ですか。わたくしたちの星には、虫はいません」
「あら、キラスさんのいる星には、虫がいないの」
「そうです。虫もいません。ほかの動物もいません。人間だけが、すんでいるんです。でも、わたしたち星の人間は、いろいろなものを発明しました。ほら、この薬も、その一つです」
星の子キラスは、薬のはいっているびんを出しました。
「この薬をのめば、どんな病気も、すぐなおります。いつまでも、生きることが、できるのです」
「では、キラスさん。その薬をおかあさんがのめば、すぐ病気がなおるのね。おかあさんは、じょうぶになって、いつまでも、生きていてくれるのですね」
「そうです。さあ、この薬をおかあさんに、のませてあげなさい」
「まあ、キラスさん、ありがとう」
星の子キラスから、もらった薬を、マコちゃんのおかあさんが、のんでみました。
すると、どうでしょう。マコちゃんのおかあさんは元気が、モリ、モリ、出てきて、病気は、すっかりなおってしまいました。
床からおき上がったおかあさんは、星の子キラスにお礼をいいました。
「キラスさん、ほんとに、ありがとう。さあ、キラスさん。キラスさんになにか、ごちそうしましょうね」
すると、キラスは、
「マコちゃん、マコちゃんのおかあさん、おねがいです。虫をください。あの美しい声をたてている、虫をください」
といって、えんがわの方へいきました。
「わたくしたちの星には、人間ばかりで、かわいらしい動物は、一ぴきもいません。かわいらしいもの、美しいものをたいせつに、かわいがって、そだててみたいのです。美しい声で、たのしませてくれた虫を、わたくしにください」
えんがわからおりて、外に出た星の子キラスは、マコちゃんといっしょに、虫をつかまえました。
星の子キラスは、マコちゃんに、虫かごをもらいました。
虫かごに入れられた秋の虫は、よい声をたてて、いっせいになきだしました。
「チンチロリン、チンチロリン」
「スイーッチョン、スイーッチョン」
「リーン、リーン、リーン」
星の子キラスは、マコちゃんと、病気のなおった、マコちゃんのおかあさんに見送られて、宇宙船にのると、星のいっぱい、かがやいている大空にむかって、とんでいきました。
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