愛情が降り積もる
今週の一枚は、
「降り積もる雪」
俺の地域だけの雪の被害ではないのは重々承知ですが、我が地域の現在の状況は俺が知ってる中では史上最高に雪が降り積もってる状況となっている。
この地域は元々が雪国ではないので、 我が家の作りがどこまでの雪の重さに耐えれるのかが分からないので、今は本当に怖い状況だ。
ネットで屋根に積もった雪の危険性を調べてみると、100m3の屋根の上に1mの雪が積もると雪の重さはなんと50トンにもなる!
俺は家が潰れるのが心配で、この情報を父親に報告すると、
「ジョージよ、何を慌ててる?我が家は大丈夫や!ワシが雪ごときで潰れるような家を建てるわけないやろ!どっからでもかかってこいや~!」
父親は高田延彦ばりにこう言って、俺のいう事をまともに聞いてくれない。 いや、大丈夫ではないよ。そもそも自然の脅威は、この地域に根を張って生きてる以上は避ける事は出来ない。だからこそ、自然と共存する為に正しい知識を持って 、来たるべき脅威の時は冷静に対処するしかないのだ。
ネットで仕入れた情報と言えど、普通に考えて、とても50トンの雪の重さには耐えられるような家はこの地域にはどこにもない。
さらにかなりの山奥なので、道路の除雪作業車など来るはずもないし、このままでは一週間は家から出られないと思う。
俺はこの先の食料の量が心配となり、母親のビタミン・マサヨにこう問いかけた。
「母ちゃん、このままだと車も動かせないし、灯油も食料を買いにいけないよ! 俺たち家族三人、このまま凍って飢えて死んでしまうかも知れないよ?!今の内に国家権力に連絡して媚を売っておいた方がいいんじゃないの?」
しかし、そんな風に慌てふためいてる俺の心配をよそに、母親のマサヨは慈愛に満ちた優しい眼差しを俺に向けながら 、静かにこう語り出した。
「いいかい、ジョージ……米は一年分はあるし、冷凍した肉もあるし、 灯油も十分ある。さらにサッポロ一番塩とんこつも十分な量は確保してる。それに今晩は雪は降らないよ。山の雲がそんな動きしてるから。 全ては山が教えてくれるのよ……」
しかし、そんな母マサヨの予言も虚しく、外を見ると今夜も雪が容赦なく降り積もっている。
これはダメだ……父親と母親は良くも悪くも自分たちの経験則でしか物事を判断しない。俺は夜になって何回も外の状況を見ているが、今回のこの雪の積もり方を見ると本当にヤバいと感じる……
家の裏にある小さな小屋の屋根は、もう既に曲がってるように見える。
しかしだね、そんな危険を感じてても、今からこの家を捨てるわけにもいかず、もし、雪の重さで家が潰れたとしても、家族全員下敷きになるか、それとも運良く下敷きから逃れられたとしても、この家から離れるという選択肢は我がビタミン家にはまったくない。
戦闘民族、我がビタミン家の唯一の選択肢は、この故郷で朽ち果てる道しか残ってないのだ。
これは、 我が家だけじゃなく他の地域で地元に根を張って生きてる人々には共感してもらえる事だと思う。
全国には災害危険区域という区域がある。
これは、建築基準法第39条に基づき、地方公共団体が条例で指定している区域の事を指す。
この災害危険区域で何か災害があった時に、災害のニュースを見た世間の人からは、
「前から危険だと言われてたのに、なんで事前に引っ越ししてないんだ?」
とか、
「前々から危険な地域だと分かってたくせに、自分で離れてなかったのだから自業自得だ!」
こんな容赦ない言葉が災害危険区域に住み続けている人たちに浴びせられてるのを見たことがある。
しかし、いざ自分が自然の脅威によって危険な目にあったとしても、この故郷を簡単に捨てる事など出来やしない。
それは例え、自分の命が危険に晒されたとしてもだ。
俺はこの場所で生まれ、ここで育ったんだ。
この故郷から、たくさんの利益を受け、こんなに丈夫に大人になれたんだ。
だから、いくら自分の住んでる地域が危険な区域だと指定されようとも、この場所で人生が終わる事が必然だと思ってしまう人の気持ちが、俺は十分理解出来る。
俺は、子供の時はこんな不便な山奥で一生を終える事など考えられなかったが、今ではこの場所が一番落ち着いて、この場所で自分の一生を終える事が役目だとさえ思ってる。
なぜなら俺には都会は向いてなかった。
それは決して、俺が田舎が似合う綺麗な人間という訳ではなく、俺が単純に弱くて臆病な人間だっただけだ。
この故郷は、こんなにも裏切り者で弱くて臆病な俺をいつだって優しく受け止めて包んでくれた。
だから、どんなに厳しい自然の脅威に晒されようとも、なんとかここで生きていきたい!
外を見ると、まだまだ雪が降り積もっている。
でも、外の雪が降り積もるのと同時に、俺の故郷への愛情の方が、より高く俺の心の中に降り積もってるのを今になって感じている。