コロ
犬を飼いたかったが飼うことはなかった。
昔のアニメで「名犬ジョリィ」というのが放送してて、デカイ犬に少年が乗ったりしてたから、本気でそんな大きな犬を飼って背中に乗って通学しようと考えていた。
しかし、その頃両親は工場に務めてて共働きで、犬を飼うとなると家にいるばあちゃんが世話をする事になるから、ばあちゃんの許可が必要だった。ばあちゃんは猫は放ったらかしでいいから、猫は飼うのはよいと言ったが、犬は吠えるし注射とかしないといけないからと犬を飼うことは許してもらえなかった。
ばあちゃんは昔の女の人には珍しくタバコをずっと吸っていた。じいちゃんはもの静かで、口喧嘩ではいつもばあちゃんに負けていた。豪快な、ばあちゃんだったので、わずかな年金を貰ってもすぐに使い切るような人だった。後で母親から聞いたが、借金こそなかったが二人はまったく貯金はなかったらしい。
そんな、ばあちゃんは俺の為にポテトチップスをいつも買ってくれてた。何日か分を買ってたのに俺が全部食べるから、すぐに食べれないように戸棚の上に隠してたが俺は見つけては、すぐに食べてた。
少ない年金から買ってくれてたのに、本当にごめん。
ばあちゃんはじいちゃんの事は、あまり好きではなく、見合いで仕方なく結婚したと聞いた事がある。
しかし子供は6人いた。なんとも微笑ましい。
そんな、犬を飼う許可は貰えなかった頃に小学校の近くで小さなビーグル犬を見つけた。
シッポ振り振り、潤んだ可愛い瞳で、こちらを見てくる。「そこの坊や、アタイと友達にならないかい?」
犬がほしくてたまらない時期に出会ったこの奇跡、ジョリィと違って体は小さいが「もちろんオッケーさ!」僕はすぐさま頭を撫でて、僕が飼った時のメリットを身振り手振りでプレゼンするのだった。
しかし、やはり野生に生きてる野犬、簡単には心を開かず「こっちは生きるか死ぬかなんだよ、自分を安くは売らないよ!」そんなコロコロしたつぶらな瞳でシッポ振り振り、こちらの気持ちに揺さぶりをかけて来る…
ここで僕は思いついた!そうだ、給食の残りのパンがあった!これを餌になんとか自宅まで連れて行こう!そこで至れり尽くせりのサービスをすれば、きっと僕に懐いてくれるはず!
そう思って、自宅まで4キロという長い旅路が始まったのだ。残ったパンはコッペパンなので、普通に撒き餌をしてたんではとても量が足りない。
少しづつ千切って与えて、そしてムツゴロウさんばりの頭撫でての「よーしよし」をして、世間の新婚当初の旦那ばりの餌ありの愛情表現で、4キロという自宅までの2人の旅路を乗り切ろうと考えたのだ。
ここで、気の早い僕は「コロ」という名前を名付けてた。
コロコロと真ん丸な可愛い瞳をしてるし、呼んだ時の言葉の感触もいい。この先、長い人生を一緒に過ごすのだ。コロの全てを愛し、コロを全力で守る!
そんな思いを込めての「コロ」だ。
もうコロに対する愛情が爆発寸前だ。狭い山道なので、トラックが来るとコロが飛び出して轢かれそうになる。その時に僕は、
「あぶない!」
そう言って自分の身を投げ売ってコロを守った。その姿を見てコロは「あんた…出合ったばかりのアタイの為にそんな事までして…」
そうコロの瞳が語ってる。シッポの振り方も最初より激しい。コロにも僕に対する信頼と愛情が溢れてるの感じる。
そんな2人の4キロの旅路が、無事コッペパンが無くなる時に終わった。しかし、2人の絆はコッペパンみたいに無くなるどころか溢れてる、輝いてる。
僕は、そっと手を出し家の敷地にコロを招こうとした。
そしたら、コロは、僕のふくらはぎに噛みついた。そして走って逃げた。
2人の絆なんて、最初から何も無かった。コッペパンと共に僕からだけの愛情は消え去った。
ふくらはぎに血が滲むのと同時に、僕の頬には涙が滲んだ。