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のびーる。
彼女は、僕の前を歩いている。
流れる音楽、アナウンスの声。
「遊園地に行きたい」と、急に言い出した彼女と、
一日過ごした閉園間際の帰り道を歩いている。
「あなたと別れたいの」
台詞のように言う。
その見慣れた唇を、黙って見ていた。
さっきまで、手だって繋いでいたんだ。
あ、髪型変えたんだ。
気がつかなかった…。
あ、いつもと同じはずなのに、
なにかが違うと感じてた。
こういうことだったのか…。
彼女は、前を歩いている。
僕を振り向きもせずに。
彼は、私の後ろを歩いている。
こんな時ですら、並んで歩こうとしない。
決めていた。
別れは、遊園地で。
閉園のスピーカーから流れる音楽が、少し感傷的にさせても変わらない。
時間の流れは残酷だ。
彼は私を残酷だと思っただろう。
もう渡せる優しさは手元にない。
「す〜ぐに忘れるからね…」
よく言ってた口癖のように、きっとすぐに忘れる。
「自分の気持ちは、ストレートに伝えたいものだね」
そうだね。
そうしなかった。
最後に、その通りになるなんて。
ブームも去った朝に食べる、カスピ海ヨーグルト。
単純に、ゆっくり味わう。
こんな味で、こんな食感で、
いままで知らなかった。
「毎日、牛乳パックに菌を混ぜて作ってるんだ」と言う横顔と、記憶の声が流れた。
彼は、どんな顔だったっけ?…
のびーる のびーる のびーる
同時に記憶も、のびーる。
私の記憶に残る彼は、紛れもなく、
【カスピ海ヨーグルトの人】
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