ぐるーり。
ずっと、メールの世界で話してた。
思い切って電話して、会う約束をして、
雨の中で、お姉ちゃんに初めて会った。
お互いに傘を持って、並んで境内を歩く。
「綺麗過ぎる」と言ったら、
「言葉の使い方がおかしい」とクスクス笑われた。
お姉ちゃんは、僕よりも年上のエンジニアを好きになっていた。
(たがが、3つくらい違うだけじゃん…)
言ってやりたかったけど、
明日は、早番で仕事だから、黙ってた。
(僕より、当然だけどスラリと背が高かった。散々、歴代の彼女に「170ない男は男じゃない」と言われて来た。何だよ、結局そこかよ。畜生…
外見じゃない中身を知ってもらいたいのに…)
お姉ちゃんは、何も言わないけど、
僕を見ようともしなかった。
ただ、優しい。
弟は、思ったよりも弟だった。
本当に姉弟みたいで笑える。
でも、正直安心した。
恋愛対象にはならないと、直ぐに分かったから。
彼が自分のルックスを、気にしていた理由も分かった。
女は、条件で選別しているようで、実はそれほど
単純でもない。
(でも、今伝えても、嘘っぽい)
一方通行じゃない、押しつけがましさのない、
純粋な優しい気持ちに、応えたいと思いながら、
何処かで天邪鬼で、強引な気持ちに惹かれてしまう。
エンジニアの彼は、自由な人だ。
自由な人は、愛情を決して同じには返してくれない。
目の前の男を後目に、違う男を想っている。
黙って、部屋に座り込み、
マグカップの薄いコーヒーを飲む。
身体はこの部屋にあるはずなのに、
ぐるーり ぐるーり ぐるーり
わたしはまだ、しとしと。
あの境内をひとりで歩いている。
MoMAの傘の中の青空の下。
雨粒に足元のサンダルを晒したままで。
いつも、苦しい方を選んでしまう。
パソコンじゃない携帯からのメールで、弟に、
「さようなら」を伝えて始まることなく終わった。