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魔法少女。

三階にある図書室。

右から3番目の席が、

わたしの特等席。

放課後に夕暮れ時の陽を感じながら、
図書室で本を読むのが好きだった。

『ねぇ、何読んでるの?』

不意に話しかけられた声に驚いて、振り返った。

E子が笑っている。

『アンナ・カレーニナ、トルストイ文学の』

『ふぅん…どんな話し?』

隣の席に座って来た。

澄んだ柑橘系の香りがした。

それが、初めて話した日。


父親が再婚して、家に居場所が無いと思っていた私と、芸能界に入る事を反対されていた彼女は、何と無く一緒に過ごす時間が増えた。

彼女は、芸能界を目指す為、オーディションを受けていて、遅刻早退が多く、あまり学校に来ていなかった。

帰国子女だという理由からなのか?
ちょっとだけ日本語のニュアンスが妙な子だった。
不思議ちゃんとは違う、面白さ。


思春期というものは、収穫前の青い果実のように
宙ぶらりんだ。
他と相違があれば、すぐに取り除かれてしまう。
若さという未熟さは、時に傲慢さと無知で群れを成す。
感性の違いなんかを受け入れる器など無い。

みんな同じであること。
均一セールの商品みたいに。

彼女は、意思表示がはっきりとしてた。
強気な姿勢が、誤解され易かった。

でも、私と彼女は、何故か気が合った。

『わたし必ず、歌手になって歌いたいの』

当然、クラスで嫉みの対象になるのに時間はかからなかった…

女子特有の感情が、あちこちで行き交う。

学級委員の私は、冷めた目で傍観していた。


デビューが決定し、最後の登校日。

共に慣れ親しんだ、あの図書室で、

E子が、

『皆んなには内緒ね!』と

開けた窓の手摺りに持たれながら、

ブラインドの紐を以て遊びながら、

歌を聞かせてくれた。

校庭の木の葉が、深く光り輝き、薫る。

お日様が全てを包み、吹き上がる風に、

ポニーテールが揺れている。

真っ直ぐな声。



それが別れの記憶。

あの歌を想い出す度に、

青春の後姿に哀愁を感じて、

「なんて、魔法なんだろう…」

と暫し、思考回路を失くすのだ。


(E子は、その後、海外で活躍している)



#魔法少女 #中学生の想い出 #思春期 #青春の瞬き
#E子 #エッセイ



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