冷静と情熱のあいだ(個人的)
あれは5月の梅雨の時期だったと記憶している。
「余白も持ち合わせ続ければ大丈夫ですよ」と、
笑いながら去って行った後ろ姿を忘れていない。
その作家は、「テクニックだけなら、きっと自分より表現力がある人なんて沢山いる。創作の世界って、書く人のバックボーンが見え隠れしないと共感には繋がらないんですよね」と話した。続けて「だからといって、不幸じゃないと傑作は書けないという一般論には吐き気がする」ともはっきり言った。
いろいろ話しを聞いて感じたのは意外にも生い立ちが複雑だったこと。どうしようもない中で、子供の頃に「コレは自分じゃあない」という別人格を偶像として作り上げてたそうだ。精神の安定の為、自分を守る為に。自身の生きる術を造るのが困難な状況からも、子供時代の想像力と底力は素晴らしい。
文壇という荒波に難破することなく、舵を取り続ける
逞しさを感じた。
強くたおやかに。
仕事ならば、私的な事は絶対に言わない。でも、つい『今後の課題をもらいました、これまで苦悩が多かったので』とつい言ってしまい…
『あ!』と間抜けな表情をしてるだろう私に、
「最初からそうだと思ってましたよ、一目見た瞬間に」と言われて廊下に立ちすくんで言葉が出なかった。
先日、雑誌でその作家を見た。