R.M.T.T(ラーメン食べたい)
急に食べたくなるもの。それは、ラーメン。こんな寒い日には特に。いろいろあるけどスープは、澄んだ醤油がいいね。じゃあ、行っとく?行っちゃおうよ!騒がしいクラブ音楽からエスケープするように、R.M.T.T(ラーメン食べたい)と口にすれば気分も高まる。
六本木の交差点を少し歩いたその先へと、白い息を吐いて彼とふざけ合いながら、えんとつが目印の屋台みたいな建物を目指して、濡れて鈍い街のネオン、車道で点滅するハザードランプ、赤から青に変わる信号機、雨上がりの埃っぽい匂いがする横断歩道の上を、彼の手首を大きめのパーカーの袖から、ちょこんと出した手先で握って、勢いよく走る。
都会だけど、ここだけ異次元……そんな台詞が頭の中に。「本当に美味しいんだって」彼が得意げに笑う。「熱いもの食べると鼻水が出ちゃうんだよね」「いいよ、これ使いな」「ありがとう」とポケットティッシュで、赤くなった鼻を押さえながら夢中で啜る。狭い店内には白い湯気が、ひっきりなしに登っては消えている。鷄ベースの魅惑のスープに細麺、ホロっとチャーシュー、葱の香ばしい風味、、、どんぶりを空にして、自然とお互いに笑みが溢れる。
「美味しかった〜」
深夜に食べる一杯は、罪悪感を超えたご馳走で、その日がどのような日であったとしても、嬉しい時でも、悲しい時でも、いつも平等に気持ちを包んでくれた。
彼は優しい人で、父はよく「男の優しさなんて、何の意味も価値もない」と吐き捨てるように言っていたけれど、やっぱり人として優しいことは、最大の長所だと思う。反面教師、その逆で一理あることも知ってしまった。擦れてしまったのは私。
彼はお金も無かったし、あるのは、夢と優しさだけだったけれど、あの時一緒に、並んで食べたラーメンほど、純粋に美味しい、心の底から美味しい、と思えた其れ以上の記憶が、未だに無いと気付いたら、ひとり遠くに来てしまったような気がして寂しくなった。
さあ、R.M.T.Y(ラーメン食べよう)