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映画【遠いところ】を観て

わたしは沖縄が好きだ

回数にして、もう20数回は訪れているだろうか。
訪れる回数が増えれば、観光で訪問する観光地のキラキラした部分以外も当然見えてくる。

この映画は観光客には可視化されていなかったもう一つの沖縄であった。

この映画を観ている最中、ずっと怖い気持ちで見ていた。
ドキュメンタリーを見ているような圧倒的な現実感。これは演じられた方々と監督の力量の成せる技だと思う。

主演をはじめ友達役の女優さんたちは映画の中で実際登場するキャバクラで1週間ほど体験で働いていたという役づくりへの情熱がそこに現れていた。

まずは映画の紹介をしたいと思う

沖縄県・コザ。

17歳のアオイは、夫のマサヤと幼い息子の健吾(ケンゴ)と3人で暮らし。
おばあに健吾を預け、生活のため友達の海音(ミオ)と朝までキャバクラで働くアオイだったが、 建築現場で働いていた夫のマサヤは不満を漏らし仕事を辞め、アオイの収入だけの生活は益々苦しくなっていく。
マサヤは新たな仕事を探そうともせず、いつしかアオイへ暴力を振るうようになっていた。

そんな中、キャバクラにガサ入れが入り、アオイは店で働けなくなる。
悪いことは重なり、マサヤが僅かな貯金を持ち出し、姿を消してしまう。仕方なく義母の由紀恵(ユキエ)の家で暮らし始め、昼間の仕事を探すアオイだったがうまくいかず、さらにマサヤが暴力事件を起こし逮捕されたと連絡が入り、多額の被害者への示談金が必要になる。切羽詰まったアオイは、キャバクラの店長からある仕事の誘いを受ける―
若くして母となった少女が、連鎖する貧困や暴力に抗おうともがく日々の中で たどり着いた未来とは。

公式ホームページより

感想

こんな人生、無理ゲーじゃん。超難しいゲーム。しかもこれは彼女たちにとってリアルな人生

幸運な事にわたしが見た劇場で監督と女優さんの舞台挨拶があり、その後のサイン会に参加した際に、監督に『素晴らしい映画でした』とお伝えできた。
映画の感想でよくある、感動しました!良かったです!という言葉をこの映画では使う事が適当と思えなかったので素晴らしいという表現になった。

よく敷かれたレールというサラリーマンを揶揄する言葉があるが、彼女たちはこの劣悪な環境の中で敷かれたレールから抜け出せないでいる。

抜け出せないでいる

と書くのは簡単だが、映画鑑賞中、わたしがこの立場だったら。と思いながら見ていたが、この状況から抜け出すのは相当に難しいという感想になる。
そんな想いが感想の無理ゲーに繋がる。
行政に頼れば良いじゃないか。というのは簡単であるが、まず彼女たちにはそれを考えるだけの知識が大人から与えられていない。

彼・彼女たちの境遇は決して自己責任ではなく、沖縄の現実が生み出し、再生産されてる困難。

金を使い込んでしまうダメ旦那からお金を隠すのに主人公が選んでいる場所。
完全に子供の行動である。実際にまだ17歳であるわけだが。
子供が子供を育てている。

沖縄はリゾート地で人は優しく、食べ物は美味しく、景色は美しいといった一般的な沖縄の風景ではなく、非正規雇用の割合が4割、完全失業率も全国1位。職業を選ぶことが難しい。
そんな沖縄がこの映画では描かれていた。

路地の写し方が非常によく、狭く暗い路地から抜けると私たちも観光で見る煌びやかな街がうつり現実生活との上手な切替になっていた。

沖縄では中学からキャバは当たり前だよ

劇中の友人のセリフ

そう、周りの大人も含めこれを当たり前として受け入れている時点でここから抜け出すことを考えること自体が難しい。
17歳の女性たちとキャバクラで飲めることを『最高じゃん』と言ってしまう本土からの観光客もいた。

劇中、チラとしか写されてなかったが、セーラー服姿の少女が昼間のキャバクラの前にいた。あれは主人公アオイのかつての姿なのだろう。

キャバでもいいからちゃんと働きなさい

実の父親からこんなことを言われる主人公

17歳で子供がいて、旦那さんは働かない。
勤めていたキャバクラにガサ入れが入り、営業停止で働けなくなり、どうしようもなくなった主人公が実の父親に助けを求めていった際にかけられた言葉がこれ。
まず大人自身の感覚がこれでは負のループに入るばかりである。

監督は現地で何人もの女性にリサーチをして制作していたとおっしゃっていた。
この主人公アオイは架空だけど元になった女性は何人もいると。

17歳で2歳の子供がいて、旦那は働かないどうしようもない男。
よく考えずに生きてきて若気のいたりで自業自得じゃん。と言ってしまえるほどこの連鎖は簡単ではない。

予告編から切り取り

貧困であるが故に、教養が不足しているあるが故に、若くして子供を抱えるが故に、ありとあらゆることが不足しておりそれにより悲劇が起こっている。

主人公はタイトルでもある『どこか遠いところに行きたい』と思いつつも、抜け出す術を知らない悲劇。
仕事の紹介を先輩に聞き、その先輩から紹介をされた人づてで紹介された仕事をする。
本人たちはそのおかしさに気がついていない悲劇。
また一度キャバクラなどの夜職を経験して締まった主人公は昼職を探すも、給料が安すぎて働けない悲劇。

唯一、嘘ではないのが友人との友情と子供への愛情

劇中で行政の方が家を訪問するシーンも描かれており、手を差し伸べようとするが主人公の耳には届いていないシーンが印象的だった。
※この映画は本当にキャストが素晴らしく、この行政の方々の演技もとてもリアルだった。

タイトルにある『遠いところ』というのはどういう意味だろうかと思い見ていたが、おそらく遠いところというのはいろんな意味が含まれていると感じた。

ここではない別のところ

という意味だろうが、その別のところとは一体どこなのだろうかとこの映画を一人でも多くの人に見てもらい、その話をしてみたい。

実はわたし自身も九州の某地方都市で17歳のキャバ嬢と出会った経験がある。

同じようなことは日本全国である。
沖縄だけの問題ではない。貧困を理由に苦しんでいる人(これは女性だけではない)は大勢いる。
可視化されていないだけで日本各地で同じような負のループが行われていること。
それもまた日本が抱える現実。

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