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17歳の少女が叶えたい未来

これは九州のある地方都市でのお話だ

その日、わたしは出張でその都市を訪れていた。
そこは典型的な地方にある小規模な街で、昔は栄えていたというのが誇りになっている街だった。

あまり品の良い街ではない事は知っていたが、実際に訪問してそれを身をもって体験することになった。

その日の仕事は1日では終わらない仕事だったので、事前にホテルを取っていた。
全国チェーンのホテルすらない小規模な街のため、わたしが予約したホテルも名も知らないホテルだった。
物語進行上、ホテル名を言わずに進めるのは難しいので、仮にホテルグリーンと呼ぶことにする

取引先担当者より電話が鳴ったのはホテルに着いて荷物を解いている時だった。

予想はしていたが飲みに行こうとの誘いだった。
合流後、夕食は適当に選んだ店でラーメンと焼き飯を食べ、『さあ飲みに行こう』と意気揚々な担当者。

ちなみにわたしは諸事情によりお酒は1滴も飲まない。

しかし営業職という仕事柄、酒の誘いも多く宴席に出かけることは少なくない。
(宴会や酒の席自体は嫌いではない)
しかし、クラブ・キャバクラといったお店をとても苦手にしている。
それは烏龍茶を3杯くらいしか飲まないのにバカ高い料金を請求される割には得られるものがとても少ないからだ。

若く綺麗な女性と飲めるからいいじゃないか。という諸兄もいるのは存じている。
というかそちらの方が大多数な事も承知している。

そういったお店に行ったことがない方のために補足をしておくが、そういったお店では女性を指名しない限り時間内に複数の女性をつけてくれお話が出来るシステムになっている。

好みの女性を見つけるにはとても理に叶った方法だと思うが、15〜20分程度で女性が入れ替わるということは一人一人とは全く深い話が出来ず、知らない若い女性と上辺だけの薄い会話しか出来ないから馴染めないというわたしの理由を理解してくれる男性は少ない。

その日一緒にいた担当者はキャバクラ好きで有名だった。

わたしの油断は地方の小規模な街だからスナックくらいはあってもキャバクラはないと思い込んでいたことだ。

しかしどのような街にも必要とされるのか、その街にも2軒のキャバクラがあるとの情報を仕入れていたその担当者がぜひ行きましょうとのことで連れて行かれた。

ぱっと見、ただの雑居ビルに見えているビルがそのお店があるビルだという。

入った瞬間驚いた

学園…祭…?

そう、学園祭で企画された喫茶店のようなかなりチープな内装といえば通じるだろうか、いかにもなフェイクな観葉植物やレンガ調の剥がれかけた壁紙、そして無駄に広い店内。

客の入りは3割ほどか

しかも客のほとんどが都市部のキャバクラではあまり見かけない、いかにもな格好をしているおじさん達

歩くたびにシャカシャカという音を立てるテロンとした謎の素材のジャージを着ているおじさん。
謎のアニメ調の犬のプリントが胸元にされているトレーナーをきたおじさん。
格好は違えど統一感があるのは皆さん一様にガラが悪い方ばかり。

ヤバい店に入ったな。と目配せをしてみるも担当者には全く気が付かれず、そうこうしているうちに女の子が『こんばんわ〜』と到着。

顧客担当者にも同様に女の子がついているが無駄に広い店内に置かれたソファーだけあり同じテーブルなのに遠い。
これは時間内は女性と話すしかないのかと諦め始めた頃、店の暗さに目も慣れてきて女の子の顔が見えはじめた。

第一印象は失礼ながらこんな地方都市にあるお店にしては整った美形な彼女。
しかし次の瞬間、何やら強烈な違和感がわたしを襲った。

ひとつ目は、え…若くない?、若いというか、君、幼いよね。
ふたつ目は、なんでそんなに姿勢が悪いの?

気になったのが強烈な姿勢の悪さ。
極端な猫背。

先に記載した通り顔が美形なだけに強烈な違和感がある姿勢。そして幼いとも形容できる容姿、恐る恐る年齢を聞いてみた。

「17だよー、まあまあ若いでしょ」

高校生かと尋ねるわたしに、高校は中退したとあっけらかんと話す彼女。
本来、高校に通っているであろう女性が横でお酒を飲んでいるという状態に愕然とするわたし。

まあまあ若いと言ってしまえる彼女。

恐怖に似た感情がわたしを襲った。

それよりも17才の少女がキャバクラで働いている。
それはこの子が特殊なのか、この店では当たり前なのか。
それを確かめたいという気持ちが勝ってしまったわたしは会話を続けた。

高校に行かずに働いている子って多いの?
このお店にも他にもいるの?
年齢を隠して面接受けたの?それともお店公認なの?

質問攻めである。
そう、もうわたしは楽しむモードではなく、情報調査モードに入っている。

「何人かいるね」
「店長は普通に知ってるよ」

怖い怖い怖い怖い怖い怖い

すぐにお店を出たい

しかし、わたしは1人ではない、しかもお客様と一緒なのだ。
決定権はわたしにはおそらく・・ない。仕方なく、せめて時間が来るまでは知りたがりのわたしの欲を満たすべくお話に集中することにする。

というタイミングで更なる衝撃をわたしを襲う。

「今日はどうするの?最後まで遊んでいくの?」

いつまでお店にいるかはわからないけど今日一緒に来ているのがお客さんだから、わたしに決定権はないし、まだ早い時間で閉店までいたら金額がすごいことになるだろうから最後(ラスト)まではいないと思うよ。
と伝えると、

「あはは!お兄さんもしかして警察の人?【最後まで遊ぶ】の意味がちがーう、それってまじボケ?」

は?である、へ?でもある。どういうこと?

「女の子を連れて帰って一緒にホテルに行くってことじゃん、わたしでもいいし他の子でも良いけど、お兄さん良い人そうだし、せっかくならわたしを選んで欲しいなあ」

頭が真っ白になった。
ここは日本なのか?わたしが知っている日本の常識が通じない。

わたしは怖い半分、どうせ時間までここにいないといけないんだし、ここまで特殊な経験をすることがないので最後まで話を効いてみたいという気持ちになっていた。
しかし、うっかり【最後まで遊ぶ】という話になってもいけないので慎重な舵取りが求められる展開となった。

初手でわたしはこう言ってみた。

『出張で来ていてビジネスホテルに宿泊しているので他の人間は連れて入ることが出来ないからね』

「どこのホテル? あ、グリーン?だったら大丈夫、フロントの男性とは全員やってるから」

やっているという言葉の意味を確認するのが今ほど怖いことは後にも先にもない。

しかし毒を食らわば皿までという諺の通り、追求をやめなかったわたしは彼女にこう聞いてみた。

『ち、ちなみにね、ちなみに値段っていくらなの?』
17才の通常であれば女子高生である彼女と【遊ぶ】ということにどれだけの金銭的価値があるのだろうと聞いてみた。

「そりゃ、17才だからね、多少は高いよ、18,000円」

吐きそうである。あまりの非日常ぶりに吐きそうになる。
そして、値段はさておき17才の自分が高く売れるということも理解している。

その最後まで遊べるっていうのは個人的にやってるの?お店の指示なの?と聞くわたしに対して彼女はこう言った。

「お兄さん、やっぱ警察じゃないの?やけに詳しく聞くね」

「特別言われてる訳じゃないけど、みんなやってるしここのバイト代だけだと足りないしね」
と笑顔を見せる彼女。

じゃあ、とわたしが薄暗い店内を見渡し、他の席の女性を指さしながらみんなやっているのか、と聞くと、みんなやっているとの事。

隣の席の女性を指さした時は
「あの子はもう20代だからね、15,000円(イチゴー)でやってる」
「その隣の人は30代だったかな、30代なんて価値ないでしょ、もしお兄さんがあの人が良いんだったら、逆にお金貰っちゃいなよ、何せ30代なんだし」

凄まじいまでの女性年齢インフレ率である。
彼女曰く30代でキャバクラにいるなんて【終わってる】らしい。

それでも決断しない客であるわたしに彼女はとどめの一撃を叩き込む

「あ、もしかしてお兄さん若い子がいいタイプ? もー、それなら最初から言ってよ。いるよ、わたしの妹」


妹さん15才
呼べばここに来ることも可能



あまりの怖さに「今日は無理です。このまま帰ります。」と断りを言ったところ、彼女からこう言われました。

お兄さん、もしかしてゲイ?

ここから無事に逃げ出して、わたしの純潔が守られるならゲイでもなんでも認定してもらって構わない。

と、いうことで無事に夜の営業トークから逃げることができたわたし、まだ少し時間があったので、最後にもう1つだけ質問をしてみることにした。

夢とか将来したいこととかあるの?

恐ろしいくらいおじさんトークである。おじさんの鉄板トーク。

しかし彼女は真剣に答えてくれた。
笑わないでくれる?と前置きをして

すぐそこにあるイオンモールで働いてみたい。

イオンモールのアパレルテナントで先輩のレイナさんが働いていてそれはそれはカッコいいんだと教えてくれた。
すぐにでも働けばいいじゃん。と聞くわたしにイオンモールもテナント店舗も採用条件が高卒が採用条件なので、自分は働けないのだと。

そんな夢があるなら夜間学校に通って高卒資格を取得してイオンモールで働けばいいじゃないか。と語るわたしに「ダメだよ、わたしバカだし勉強嫌いだし、それに、憧れるけどイオンモールはバイト代安いしね。生活出来ないよ。こっちの方が効率がいいし」と言いながら水割りを飲む彼女。

いや、効率がいいのはあなたが若いからであって、あなた自身が語っていたように20代で15,000円、30代なんて価値がないって言ってたよね。それは未来のあなたにも当てはまるんだよ。

その言葉は結局伝えることが出来なかった。
伝わるとは思えなかったからだ。あまりに価値観が違いすぎる街。
これは閉塞的な地域で、勉強などで付いていけない子たちに対して福祉や教育がうまく届けられていない場合に同じことが起きており、そんな街をわたしは他にも知っている。

教育(勉強とは言わない)がうまく受けられない環境で育ってしまうと、今自分が置かれている環境がおかしいと気がつけず、日常を過ごしている人は多い。

わたしは彼女の今後を心配する立場にはないが、ぜひ自分で今からでも勉強をして今の境遇から抜け出して欲しいと願うが地域や周囲の人間としか付き合わないとそれが自分にとっての世界の全てになり、気がつくのが難しいというのも承知している。

イオンモールで働くのが夢だ。という彼女。
しかも「笑わないでくれる?」と前置きをしたということは普段このことを彼女が言うと周囲の大人から笑われることなのだ。

涙が出た

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