#アドベントリレー小説 19日目

「アドベントリレー小説」とは、25人の筆者がリレー形式で1つの小説を紡いでいく企画です。
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19日目 作・蒼鉛

『緋色のヒーロー』#19

…いや、まだだ。まだ、諦めるに早すぎる。

決めたじゃないか、今回でループを必ず終わらせるのだと。あの恐怖の大王<テリブル- ロック クロック>を完璧に燃やし尽くすのだと。そして、たとえ皆から忘れられるとしても、今度こそちひろを救うのだと。もう何度目の『今回』かわからないかなんて、知ったことか。考えるんだ、今できる最善の方策を。

俺の記憶が正しければ、ちひろはあの日、深紅のドレスをまとった状態で炎に包まれて消えた。俺はそれをてっきり、ちひろの炎心<ヒートオブハート>が何らかの理由で暴走してしまっただけなのだと勘違いしてしまっていた。だが、あのドレスに緋色のヒーローとしての力を増幅させる機能があるのだとしたら、彼女が炎に包まれて消えたことの筋も通る。そして、カナコちゃんと戦った『前回のループ』での2019年のあの時。カナコちゃんの炎心<ヒートオブハート>は俺の眼から見ても、他のヒーローと比べても遜色のない、最上級のものだった。緋色のヒーローではない一般人がまとった状態であの出力なのだ。能力者であるちひろがドレスをまとっている「今」なら、あいつの炎心<ヒートオブハート>は最高潮になっているはずだ。そんなブーストアイテムを使用した状態で、炎心<ヒートオブハート>を使えばどうなるか。つまり、ちひろはあのドレスのオーバーヒート現象で自らの肉体を焼き尽くしてしまった、と考えるのが妥当だろう。

ふと、あることを思いついた。

「おいタイチ、お前はたしか錯乱現象中の意識と肉体について調べていたはずだよな。」

「ん?そうだね。」

「なら、意識を肉体じゃない物質に縫い付けることだってできるんじゃないか?」

突拍子もない思い付きだった。でも、それ以上ないぐらいいいアイデアに思えた。きょとん、とした表情になったタイチはすぐに破顔して昔からよく見た悪い顔をする。

「はは、ひろし、今回のきみは結構勘がさえてるんじゃない?」

俺はそういう知識に関してはまだ素人だが、昔研究所の論文で目にしたことがある。量子脳理論、という学説だ。脳で生まれる意識は素粒子より小さい物質であり、重力・空間・時間にとわれない性質を持っている。その物質は普段は肉体に括り付けられているが、肉体が死を迎えるととどまることができなくなり宇宙世界に拡散してしまう。そして「青い砂」での錯乱現象でも同じようなことが起こるのだと言う。通常、錯乱してループし続ける意識を拾い集めることは不可能に等しいが、今回のループでのカナコちゃんは火蒼玉<ザ ファイア>を飲み込んだ状態で、なおかつ飲み込んでも発狂していなかった。普通の暴露者とはいくらか状況が異なるはずだ。

「カナコちゃんの飲み込んだ火蒼玉<ザ ファイア>はまだカナコちゃんの中にある。よりどころを失って漂っている意識は、その青い砂のおかげでまだ肉体の近くに拡散した状態になっているはずだ。意識を肉体に縫い付けるためには器を与えてやればいい。ちひろさんがまとっているドレスが炎心<ヒートオブハート>の疑似的な炉心となりうるならば、きっと彼女の意識を縫い付けるための『器』たりえるだろうし、ドレスに縫い付けられた量子的な意識が肉体に入る可能性だってゼロではないだろうね。」

専門家のタイチの言うことだ、勝算はかなりある。つまり、これから俺はちひろを探し出し、ちひろの持っている深紅のドレスをどうにかしてカナコちゃんに着させることで、カナコちゃんの意識をドレスへととどめ置く。カナコの意識がある状態なら、恐怖の大王<テリブル- ロック クロック>を燃やしつくすことだってできるし、ちひろのドレスによるオーバーヒートだって防げるはず。

きっと、ちひろもカナコちゃんも救うことができるはずだ。

「時間がない!出かけてくる!一刻も早くちひろを探し出して、カナコちゃんと”合流”しないと!」

時計を見る。衝突まで残り4時間を切っている。急がなければ、と思い俺はカバンをひっつかんで研究所を飛び出した。







「………ほんとうに、きみは毎度毎度無茶をする。」

誰もいなくなった研究所の片隅で、残されたタイチは報告書を片手にひとりごちた。


「…………おれの苦労も知らないで、さ。」


つづき → https://note.com/mitchy7532/n/n58c7ba7d0ada

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