「ダメ犬」たちよ、さあ今だ。本能のままに吠えろ!
もうじき5歳になる愛犬は、配達員の足音を誰よりも早く聞きつけリビングにダッシュする。掃き出し窓から階段を上ってくる頭が見えると息を荒げ、「インターホンが鳴っても無駄吠えしない」がセールストークの犬舎出身にも関わらず、ピンポーンを合図に吠える。血筋や遺伝など関係ない。犬だから吠える。本能のままに吠えるのだ。
ビビリで小心者の愛犬は、大きな犬や突然近寄る人間、さらには風にはためく自転車カバーなどに吠える。身の危険を感じて吠えている。「吠える犬」は、飼い主たちが共有するダメ犬リストの項目の上位にある。普段は大人しくいい子の愛犬なのだが、もう間違いなくダメ犬認定である。
昨日の3時過ぎのこと。滅多に訪問客の来ない我が家に見知らぬ女性がやってきた。インターホンを通して用件を聞くのだが、足元で愛犬が一生懸命吠えるので聞き取れない。愛犬に「シッ」と怖い顔で睨みながら、再度女性に尋ねると「マンション」「メンテナンス」「ご挨拶」の3語が拾い取れた。とたん、私は愛犬に目配せし、不気味なほど大袈裟な笑顔を見せた。さらに煽ってもっと興奮させる。「思う存分吠えてくれ」と。
うちの子、大活躍であった。「すみません、犬が吠えちゃって。あ、こら(と犬を制しているような小芝居)、今とても出れる状態ではありませんので、ごめんなさい!」とインターホンを切った。興奮の冷めない愛犬とハイタッチを交わす。どうやら女性は古い情報をもとに間違えて来たようだったが、私にとっては招かねざる客に変わりなかった。
かつて犬は不審者を見ると吠えて追い払ったり飼い主に知らせたりするなど番犬として人と共同生活をしていた。今では番犬の役目はなくなり、愛玩犬としてかわいがられ、吠えないようにしつけられる。いつかのニュースで、侵入してきた空き巣に尾を振ってじゃれている小型犬が防犯カメラに写っていたのを見たことがある。犬の癒し効果で空き巣を改心させたというオチでもあればいいのだが、しっかりお金を持っていかれた事件だった。
個人や高齢者を狙った詐欺や強盗が多発している今、吠える犬が重宝される時代の再来ではないだろうか?対面すると100%逃げる愛犬だが、得意の吠え攻撃でドアの前で撤退させることは可能だ。ドアに「猛犬注意」シールでも貼っておこうか。目玉を食いちぎった巨大テディベアを置いておくのもいいかもしれない。愛犬よ、ダメ犬撤回だ。本能のままに吠えろ!
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