【エロゲ紹介・感想】『つくとり』
こんにちは、やすけです。
今回取り上げる作品は『つくとり』(ruf・2007年)です。
rufといえば「クリスマスプレゼント」の『螺旋回廊』や『とあるシリーズ』で有名なはいむらきよたか先生が原画を務めている『ユメミルクスリ』などの作品でカルト的な人気があるブランドですね。
『つくとり』もそれらの例に漏れず、クセが強くとても挑戦的なゲームでした。
※注意点として、本記事では一部に差別的と思われる語句や表現を使用しています。
作品の性質上、そのような表現を避けて感想を述べることが困難なためであり、私個人に差別や偏見を容認・助長する意図はないことをご理解いただきますようお願いいたします。
あらすじ
さて本作ですが、フリーのカメラマンであり主人公の橋上郁が旅の途中で久十生寧と名乗る女刑事に出会い、舞台である「月鳥町」で起こった殺人事件の調査に同行する・・・という流れで始まります。
月鳥町は「ツクトリ様」という土着神に対する信仰が色濃く残る町であり、ツクトリ様を馬鹿にしたり、土地を荒らす者は「祟り」に見舞われるという伝承があります。
また住民は町の北部と南部に分かれて対立しており、南部の住民はよりツクトリ様への傾倒が強く、北部の住民はそんな南部の住民を忌み嫌っています。
さらに本編開始の一年前に「HAOMAラボラトリー」なる謎の研究所が建設され、外国人を含む多数の研究者が流入したことで、月鳥町はそれぞれの陣営がいがみ合う状態となっています。
そんな状況の中で最初の殺人事件を皮切りに、「ツクトリ様の祟り」になぞらえる形で第二、第三の怪死事件が発生してゆき・・・というのが本作の大まかなストーリーになります。
この作品の魅力
次に私が感じたこの作品の魅力についてですが、【容赦なく道義的・社会的なタブーに切り込み、質の良いシナリオとしてまとめあげたこと】に尽きると思います。
作中では一般的な創作物であれば間違いなく忌避されるであろう設定や表現がこれでもかと出てきます。
それらをただインパクトを与えるためだけに用いるのでなく、キャラの憎悪や怨恨、差別感情などの心理描写につなげているのが見事だと思いました。
この点はライターである門倉敬介(味塩ロケッツ)氏の筆力のなせる業ですね。
『つくとり』の3つのタブーについて
個人的な見解として、本作には大きく分けて3つの「タブー」があると考えていますので、以下に整理していきます。
タブーその① 部落差別
はい、しょっぱなにして恐らくもっとも難しいテーマです。
私事なのですが、私は大学(院)時代に差別問題、その中でもとりわけ部落問題を専攻していました。
なので批評空間で『つくとり』のレビューを見た際に、「エロゲで部落差別を扱っている作品があるのか」と非常に興味を惹かれたわけです。
正直なところプレイするまでは「なんとなく匂わせるくらいかな」と考えていたのですが、想像より遥かにしっかり描かれていました、脱帽です。
【そもそも部落差別とは】
さて、これを読んでいただいている方の中には部落差別って何?という方もいるかも知れません。
小学校や中学校の歴史の授業で「えた」や「ひにん」と呼ばれ、一般の身分制度(士農工商)の枠の外に位置付けられた人々の話がありましたよね?
ものすごくざっくり言うと、アレです。
(※実際には、その様相や背景はもっと複雑なのですが、ここでは非常に簡略化して説明しています)
中世~近代の社会において、このような人々は仏教や神道における「穢れ」思想の観点から差別視されており、部落差別とはそれに端を発する血縁的あるいは属地的な差別を指す言葉です。
要は差別されていた人の家系(血縁)やそのような人が住んでいる地域(土地)に対して不当な差別をすることを「部落差別」、またその問題自体を「部落問題」と呼びます。
前置きが長くなりました・・・。
『つくとり』の話に戻ります。
本作のあらすじで述べた北部と南部の対立ですが、この原因こそが部落差別にあるのです。
南部の住民は「サンカ」や「山の民」と呼ばれる山を移動して生活する漂流民の子孫(作中では「ツクトリ族」と呼称)であり、もともとは近代社会の枠組みの外で暮らしていました。
現代に近づくにつれそのような生活が難しくなったことで月鳥町に定住し、元来の月鳥町の住民である北部の住民と混住していくようになります。
しかし、北部の住民はその成り立ちの特殊性や彼らの「ツクトリ様」に対する異常ともいえる信仰心を恐れ、南部の住民を差別しているというわけです。
そのテの団体に見つかると問題どころではないですが、このようなテキストが躊躇なく書かれていることで、作品としての深みが出ていることもまた事実だと思います。
画像右のタカコ婆さんは作中における「ツクトリ様の祟り」を裏で主導しており、掟を守るためなら手下を使ってのリンチや殺人も辞さないとんでもないキャラです。
ですがその実誰よりもツクトリ族の安住を優先して行動しており、住民や一族をまとめる立場として見ると絶対悪と言い切れない部分があります。
一方でヒロインの一人である人問綺子は、主人公との関わりの中で考えを改め、「自分たちのルーツを明らかにしてでも北部の住民との関係性を変えていくべきだ」と主張します。
個人的に作中屈指の名シーンなのですが、この「融和路線」VS「寝た子を起こすな」の対比も非常に上手いなと感じます。
「人問」なんてずいぶん変わった苗字に感じますが、文字通り「人の心の在り方を問う」というメッセージが込められていると感じました。
部落差別という非常にデリケートなテーマを扱ったうえで、シナリオにしっかりと落とし込んでいるのは素晴らしいと思いますね。
タブーその② 近親相姦
次のタブーですが、「近親相姦」です。
エロゲで近親相姦というと『ヨスガノソラ』の穹や最近だと『天使☆騒々 RE-BOOT!』の天音なんかが人気のイメージがありますね。
エロゲでは近親相姦が「かわいい義(実)妹キャラとの背徳の関係」をウリにしたある種のご褒美・ファンタジー的要素の部分が大きいのに対して、本作は徹底した現実主義であり、近親相姦のマイナス面を全面に押し出した描写が目立ちます。
ツクトリ族には近親相姦の因習があり、シナリオ上でもいわゆる「血が濃くなる」ことの暗部が描かれています。
現実における近親相姦の弊害といえば「ハプスブルク家の顎」が有名ですが、近親相姦が一種の属性として描かれがちなエロゲではこのような描写は非常に珍しいと思います。
そもそもこの作品の主人公は近親婚の両親から生まれた子であり、その背景から村八分にあい故郷を追われたというエロゲ史上でも類を見ない重過ぎる過去を背負っています。
主人公からして近親相姦の呪縛に苦しんでいるわけです。
またこれは先述した部落差別にも関係することですが、一昔前の被差別部落というと「近親婚が多い」という偏見が非常に根強いところがありました。
これについては周囲の差別感情から部落内や近親者以外での結婚が困難だったというのがその偏見の理由ですが、実際のところはそんなことはなく、異なる部落から嫁いできた人と結婚するというのが一般的でした。
その辺りの事情も含めて、エロゲという媒体でよくここまで踏み込んだテキストを書いたなあと思います。
年齢制限のある18禁ゲームである以上、書くなら徹底的にやって欲しいという思いもあるので、個人的にはこちらも評価点ですね。
タブーその③ 新興宗教と北〇鮮
ようやくラスト、3つ目です。
冒頭のあらすじで出てきた「HAOMAラボラトリー」ですが、実は研究者は全員とある外国のカルト教団(解散済)の信者であり、その残党なんですよね。
シナリオでは「信者による集団自〇があった」「南米」「ガイアナ」などの言葉が出てくることから、かの「人民寺院」がモチーフであることは間違いないでしょう。
また最終ルートでは、女刑事の久十生は「愛護の会」と呼ばれる日本最大の宗教団体の二重スパイとして活動しているという事実が明かされます。
「愛護の会」はとある独裁国家と太いパイプを持ち、その国のスパイが日本で活動するための隠れ蓑になっている・・・といった展開です。
この2つですが、「愛護の会」はその規模からモチーフは恐らく信濃町に本拠地を置く某宗教団体、とある独裁国家は北〇鮮(の工作員)であると思われます。
久十生の母親は密航者として本国に強制送還されており、本人は親の顔すら知らないまま「愛護の会」に育てられているので、生まれながらにして宗教2世かつ工作員というトンデモハイブリット状態です。
まあこの展開についてもよくこんなの書いたな・・・とは思うのですが、先の2つに比べると風呂敷を広げ過ぎたというか、挑戦的なシナリオにしようと思うあまりとっ散らかった印象が否めないんですよね。
それでもこんなイカれた設定を持ってくるエロゲなんて他に知らないので、その意欲は買いたいですね。
『つくとり』の残念なところ
さて、ここまで長々とこのゲームの魅力と尖った部分について書いてきました。
じゃあ結局のところ『つくとり』って手放しで絶賛できるゲームなの?となると素直にそうとも言えないんですよね・・・。
◆ギャグが寒すぎる
本作のマイナスポイントその①。
本当に徹頭徹尾ギャグがつまらない、読んでるこちらが恥ずかしくなるようなダダ滑りのギャグが目立ちます。
特に序盤はギャグのテキストが多く、しかもつまらないので読んでてげんなりします。
中盤から頻度は減りますが、普通にシリアスな場面でもぶっこんできたりするので雰囲気が台無しになること請け合いです。
◆他作品と似ている展開がある
本作のマイナスポイントその②。
シナリオの特徴から致し方ないところはありますが、舞台や「ツクトリ様」という設定は『ひ〇らしのなく頃に』を彷彿とさせます。
また最終ルートでは主人公が連れている「猫」が事件解決のキーになるのですが、ここの展開は本当に杜撰でがっかりです。
あまりに強引なうえに、某有名エロゲのパ〇リとしか思えないオチなんですよね。
しかも元の作品は種明かしに至るまでの過程が素晴らしかったのですが、こちらは非常に唐突でご都合主義的です。
正直なところ、最終ルートを読まずに終わった方が作品としての完成度が高いとすら感じました。
これらに加えて題材やキャラのデザインも到底一般ウケするとはいい難いので手放しでオススメできるよ!って作品でないことは確かですね。
まとめ
長所と短所がはっきりしている『つくとり』ですが、終盤までの展開は読みごたえがありますし、伝奇・サスペンスモノとしてシナリオは良く練られていると思います。
何度も述べているように、およそ創作物において取り上げにくいであろうテーマを扱った点も評価したいですね。
「王道のエロゲに飽きた」「とにかく尖った作品をやってみたい」という方はぜひプレイしてみてはいかがでしょうか。
随分と長くなってしまいましたが、読んでいただきありがとうございました。
ではまた。