学校というところ

私が新任の頃、先輩から教わった約20年くらい前の話です。

 A 君という難病の子どもがいました。 A 君の病気は動くとすぐに疲れてしまい休憩が必要になるという難病でした。 お医者さんからは10歳までは生きられないだろうと言われていました。  A 君のお母さんは A君に1日でも長く生きてほしいと、幼稚園にも通わせず 家の中で安静に育てていました。 

A 君が6歳になった頃、小学校の就学時健康診断の案内というハガキが来ました。「 Aには関係のない話だ」 とお母さんはハガキを捨てようとしましたが 、何故か捨てずに冷蔵庫の磁石に挟んでいました。 ふとした時にそのハガキが目に止まり、ある日 学校がどんな所なのかとりあえず見るだけ見てみようと思いました 。A 君をバギーに乗せて お母さんは学校へ行きました 。学校では 養護教諭の先生や校長先生まで出てきて A君が学校に来た時にどんな支援ができるかを前向きに話し合うことができました。お母さんは、その時ふと A 君を少しでも学校に行かせてみようかなと思いました。 そしてお医者さんに相談してみると 1日通って2日休む というペースで通学してみたらどうかということになりました。  

そして4月から A君は1年生になりました。 学校から帰ってくると A 君はくたくたに疲れていて、ぐったり畳の上に寝そべり何時間も眠りました。お母さんが「無理しなくていいよ」と言っても2日経つと A君は明日は学校に行くというのです。 そしてお母さんと一緒にバギーに乗ってまた学校へ行き、そこで皆と1日過ごして また2日間休む という生活になりました。

そして、とうとうA 君の体に異変が起こりました。 運動会の練習の頃です 。A 君の体力は2日経っても回復しなくなっていきました 。3日休んで A 君はまた学校に行きました。 お医者さんにその話をするとしばらく学校に行くのをやめたほうがいいと言われました。 A 君は嫌がりましたが 命には変えられません 。Aくんは学校をしばらく休むことになりました。でも A 君の体調は一向に良くならず入院することになりました。 しかし、入院しても体調は回復せず、お医者さんは もしかしたら覚悟をしなければいけないと言いました 。お母さんは A 君をなぜ学校に通わそうと思ったのか自分のことを責めました。ずっと家に居れば10歳までは生きられたのかもしれないと何度も後悔しました。

 そして、A 君が息を引き取る日、お母さんの耳元で A くんは言いました。

クラスのみんなにありがとうって言ってね

A君はその後家族の皆にお別れを言って天国に旅立っていきました。

お母さんは、Aくんを学校に通わせたことが良かったのか悪かったのか今でもわからないそうです。

学校というところは 普通の先生に出会い 普通の友達ができ、普通の学校生活を送ることができると、子どもにとって居心地のいい素敵な場所になります 。A君にとって、学校へ通うことが良かったのかどうかは私もわかりませんが、A君にとってのクラスは、大切な友だちに会える大切な場所だったのでしょう。

私はそういう場所で仕事をしています。苦しくなった時、いつもこの話を思い出して教員であることに感謝するようにしています。

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