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作家インタビュー:水彩絵の具とは思えない色味で絵を描く絵師、甲描さん

絵師の甲描(きのえかく)さんの絵は“watercolor”、水彩画だ。
と聞いて、この絵を見ると「えっ?」って思いませんか。

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水彩画と聞いて一般的にイメージされるような透明感とはちょっと趣が違っています。
ここにある絵に透明感どころか、色が強く押し出されています。

色とりどりの動物たちを描く

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作品のモチーフの多くは動物。そのどれもが多色で塗られています。極彩色の色づかいに何よりのインパクトがあります。
「動物は表情から感情が分からない」
だから動物をモチーフにして描く、と甲描さんは話します。
カエル、リス、ウサギ、金魚、ヤモリ、蝶、オウム……。
カラフルな動物たちは、クローゼットの洋服を手当たり次第、着こんだよう。月曜日のネクタイ、毛糸の帽子、草野球のユニフォーム、デートの勝負下着。
服にはそれぞれ着る理由があって、理由といっしょに感情がついて回る。たくさんの服を着こんだ動物には、たくさんの感情が描かれています。隣り合ったり重なったりしながら、いくつもの色が交じり合っています。


濃い色の理由は、ほとんど水で溶かない絵の具

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透明感のない濃い色合いの理由は、絵具の使い方。
水彩絵の具を使っていますが、ほとんど水で溶きません。これを実際の動物の色とは関係無しに、不規則に何色も画用紙に置いていきます。
たくさんの色が混ざります。赤、青、黄、緑。色の混ぜ方は自分自身でも説明がつかないそう。描いているときは、ただ楽しんでいる状態なのだとか。ただ、普通に色を置くことはしません。そうしても面白くないから。
「ここでこの色を使ったらどうなんだろう…と描いている方がすごい楽しい」
それでも、中には特別に決まっている色はあると言います。
「俺にとって白は特別な色。白は、いったん他の色が乾いてから、目に光を入れるために白を使う。あとは髭とかに。白は命を吹き込む色」
甲描さんは、絵の仕上げに、白い絵の具で瞳を描き入れます。どんな色にも染まり、どんな色にも影響を与える色です。


「飲まないと絵が描けない」お酒はエネルギー

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甲描さんが絵を描く際のルールというかルーティンのようなものは他にもあって、大事なのがお酒。
「飲まないと絵が描けない。気分がのらないんですね」
毎日飲んでいるそう。仕事をしている平日にはほとんど描きません。時間をかけてイメージを固めて、下書き。「どういった形の箱をつくるか」そこまでが勝負だと言います。下書きが終わってしまえば、色を塗るのは早ければ30分ほどで終わります。
実は、このインタビューは複数回の話を一つにまとめたもの。インタヴュアーの僕は、そのすべてでお酒を飲みながら話を聞いています。余談ですけれども。

かわいい?かっこいい? 感想は十人十色

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絵を見た人からはどう言われることが多いですか、と聞くと、繊細だと言う人も、かわいいと言う人もいると答えてくれました。
僕はそれよりも、甲描さんの絵はシャープだと思っています。
カエルの手のぷっくらした指先や、太ももからつま先までの肉付きは生々しく、散らされた背中のぽつぽつは水彩なのに盛られた絵の具の立体感があります。
周囲には丸や線が描かれることが多いが、どれも勢いが強い。
甲描さんとしては、
「一つの作品としてすごく面白く描いているつもりですが、かわいいと思ったことはない。良いと言ってくれればいいですけれど、結構、暴力的な感じだったりする」
その特徴的な色合いにしても、色の混ぜ方はさまざま。肝心なところは原色で塗り、にじませたい部分には少しだけ、水をつけてぼかすなど。色の境目が見えるものもあれば、溶かされているものもある。色を変える際に、絵筆を洗わずにそのまま使いもする。
カエルの背のぽつぽつは、絵筆の尻の部分に絵の具のチューブから色をぬぐいとって描く。リスの毛先であれば、爪楊枝でひっかくように描いています。
「結構、あの絵の中には、変な技術があるんですよ」と言います。


絵を描き続けるきっかけは?

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甲描さんの生まれは青森県。小学生のころからいくつもの絵画コンペで入選しました。
重要な出会いは中学の頃。ある美術の先生。普段は温厚ですごく面白いけれど、一回キレると誰よりもこわかったそうです。あるときには、クラス全員に怒り、黒板に絵の具を投げつけるわ、机を蹴とばすわと、なかなかだったとか。
その先生が言った言葉が、
「賞では、上手な人が入選するけれども、俺はお前の絵のほうが好きだ。描き続けたほうがいい」
甲描さんは高校に入っても部活動で絵を描き続けました。
その後、東京で建設会社に就職。働きながら、描き続けました。最初の頃は、仕事を覚えるのに一生懸命で、年に何回描けたかどうか。
それでも続けているうちに、絵を描いていることが周囲に知られていきました。個人のホームパーティーで絵を注文されたり、飲食店に提供したりするようになります。2015年からは展示会も行うようになっています。


絵に対する想い「絵は誰が描いてもいい、自由」

甲描さんはその想いを次のように話します。
「絵は誰が描いてもいいし、何よりも自由という思いを伝えたくて、この活動をしている。例えば、子どもが描く絵で、頭がすごく大きくて、体が小さいというものがあるじゃないですか。その子の中ではそう見えているし、それも一つの作品です。どんな絵であっても、個人が描いたものは一つの作品として、みんな平等。
上手い作品だけが展示されたり、評価されることは違う。似せて描いたものじゃないから、認められなくて絵を描かなくなる子どもたちはいっぱいいる。そうではなくて、一つひとつ、全部が全部、作品と認めてあげると、絶対に面白い。賞をとれば、それが偉いみたいな概念を抜きに、誰もが好きに描いていい。俺は中学校のときの恩師のおかげで描き続けてきた。学校の先生になりたいわけじゃないけれど、その役割を俺はしたい。絵は自由で、その自由さを伝えたい」

甲描さんの絵を見ながら、皆さんの目には何が映り、何を思い浮かべるでしょうか。
その感情はきっと極彩色であるような気が、僕はしています。

(インタビュー 2017年ほか)



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