ブエンカミーノ。という挨拶。6月22日。
素晴らしいアルベルゲだった。
寄付でいい、と言われたが、ランチまで持たせて貰ったし、前日の宿代を参考にして正当な対価だと思う金額をボックスに入れて出てきた。20代の自分なら最低限しか支払わなかったかもしれない。
2時間歩くと、城壁が現れてきた。
「ハイ!ヨースケ」の声に振り返ると、オーストリア人女性のハイディだった。昨日の宿で知り合った夫婦と同行しているのだそうだ。
はじめての大きな街。パンプローナ。まるでドラクエ
城壁伝いに進みアーチをくぐるとパンプローナの街が現れた。
ゲームのドラゴンクエストではじめて大きな街に入ったような高揚感。ワクワクしながら歩く。地元のお婆ちゃんが「頑張ってね」と握手を求めてくる。
皆挨拶してくれるし、応援してくれるし、道が間違っていたり、少しでも迷いそうな素振りだとすぐに案内してくれる。
ショーウインドウに並ぶ赤いスカーフと白いTシャツを見かけ、何かと思って店内を見ると牛追いの祭りの写真。7月に行われるサン・フェルミン祭。間違いなくテレビで見たことのある街だ。
カスティーリョ広場で、また「ヨースケ!」の声に振り返ると、昨日話したスペイン女性二人だった。
「ブエンカミーノ!」
ブエンカミーノという挨拶は、巡礼者たち共通の挨拶。ブエンはGoodの意味だから「良い巡礼を」みたいな挨拶。北海道でライダーがすれ違いざまに手を挙げる感じと同じ。休憩中にすれ違う時、歩いて抜く時、自転車で抜かれる時、「ブエンカミーノ!」と言い合う。
郵便局で、ここまでの地図など紙類や妻への土産を送った。支払いのサインをするペンタブレットにWACOMのロゴ。WACOMは埼玉県加須市の世界的なペンタブメーカーだ。
午後はとにかく暑い。太陽までの距離が日本より2割くらい近い感じの光線で、気温以上の体感温度。汗だくになって歩いていると、バイヨンヌのバスで見かけてから何度か会っていた金髪坊主の20代の女性と近づいた。
当初の冷たい印象も、何度か通りすがりに挨拶するうちに表情が柔らかくなって、今日やっと話が出来た。
アイステという名のリトアニア人だった。
名前の由来やここに来た理由、趣味など話した。エストニアと同じくリトアニアでも複数言語を習うらしく、リトアニア語以外に英語とロシア語。ギリシャ語とポーランド語は基礎レベル?その他の言語も言っていたが多すぎて覚えられない。
「日本が好き」と、ガイドブックに挟んだ水墨画の栞を見せてくれた。
サリキエグイの山の中腹のアルベルゲが今日の宿。足の裏のマメが潰れそうだったので早めの切り上げた。
受付の近くで「こんにちは…で合ってます?」と日本語で呼びかけられた。
エストニア以来100%韓国人に間違われていたが、やはり日本人が見ればわかるんだな。
彼女はキョウコ(50)さん。隣には、何度か挨拶をしていた渋いじいちゃんのイタリア人ジュゼッペ(68)が座っていた。
スペイン語堪能のキョウコさんとイタリア語のジュゼッペとが普通に会話している。
ジュゼッペは、ベローナで10年前まで30年以上印刷に関わる仕事をしていたそうだ。
ここに来た理由を説明をしてくれていたのだが、こみあげるものがあったようで、一度席を外して戻ってくると、彼の目が赤かった。
参加する理由は人それぞれだ。
「とにかくイタリアのアマローネというワインだけは飲んでおいた方が良い」と言われた。
寝る前にフェリーペに現在地を報告。30㎞離れてしまったので、もう会えないかもしれない。フェリーペとはもう一度会えたら、と思う。