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日本の半導体産業、再生へ始動⁈

今から1年半前の2021年6月に放映されたTBS「半導体産業、再生へ始動」と題された特集が非常にわかりやすく日本の半導体の現状を伝えていました。それから1年半たって、どうなっているでしょうか。

半導体は失われた30年の反省と地政学変化で政策転換

この映像のなかで、1年半前の梶山経済産業大臣が「失われた30年」という発言をしています。日本が半導体のシェアを失い没落したあと、何とか取り戻そうと、経済産業省主導で民間企業を寄せ集め、再生を図りました。しかし結果はともなわず「失われた30年」となってしまったのです。

<「失われた30年」の出来事>
 2000年~ エルピーダメモリ
(日立製作所、NEC、三菱電機のDRAM部門を統合)
 →2012年破綻。2013年アメリカ・マイクロンテクノロジーにより買収。

 2010年~  ルネサスエレクトロニクス
(三菱電機および日立製作所から分社化していたルネサス テクノロジと、NECから分社化していたNECエレクトロニクスの経営統合)
→130~90nm世代のマイコンが主力。ロジック向けとしては国内最先端である40nmプロセスのLSIを製造。

 2017年~  キオクシア
(東芝の半導体メモリ事業を分社化して設立)
→2018年米買収会社Pangeaが買収。

 2022年~  ラピダス設立

TSMCと研究機関拠点

世界の半導体をとりまく環境の変化、特に地政学的な変化により、自国だけでやることにこだわらず進める必要がでてきました。
海外のトップ企業と協力が必要で、合弁で工場を設立し国内製造基盤を確保し、先端半導体の次世代製造技術の国産化を推進しようとしています。
「半導体戦略が今後の国家の命運をかける戦略・戦いになっていく。半導体を制する者が世界を制すると言っても過言ではありません」と甘利議員が述べています。
こうした中、注目されているのが、2022年度稼働する茨木県つくば市で稼働する台湾の半導体大手TSMCと日本企業などによる最先端の半導体の研究開発拠点です。

<半導体受託生産の世界シェア>(2020年)

  1. TSMC (台湾)  47%

  2. サムスン(韓国) 15%

  3. UMC(台湾)   7%

  4. グローバルファウンドローズ(米国)  7%

  5. SMIC(中国)  2%

つくば市の産業技術総合研究所を拠点として、台湾のTSMCが、最先端の半導体の研究開発を日本企業と行います。政府も日本のイビデンなど半導体の材料や製造装置のメーカー20社以上に参加をよびかけ、経産省がおよそ190億円の支援を行っています。

経産省資料より引用(引用元:https://www.meti.go.jp/press/2021/05/20210531002/20210531002-2.pdf)

日本の半導体産業はかつては世界シェア50%を占めていましたが、近年は10%をわっている現状ですが、今度こそ半導体立国の地位を取り戻すべく施策を重ねています。

そして今年2022年6月24日には、TSMCジャパン3DIC研究開発センターのクリーンルームが、産業技術総合研究所の敷地内で完成し、オープニングイベントを開催するに至りました。


半導体製造工程の後工程

半導体の製造は電子回路を半導体ウエハーの表面に形成する前工程と、ウエハーをチップの形に切り出して組み立てる後工程にわかれます。

イラストで分かる半導体製造工程

ひと目でわかる半導体業界MAPより引用

今回TSMCと開発を目指すのは後工程にあたるものです。後工程を工夫し、複数のチップを積み重なることで性能の向上と省エネを両立させる3次元化の技術の確立を狙います。

ひと目でわかる半導体業界MAPより引用


日本が強いのは設備と部材

日本の素材製造装置は、今なお世界の大きなシェアをもっていますが、「製造」部分は台湾や韓国がメインになっています。そしてiPhoneを製造するAppleなどをはじめGAFAのあるアメリカが「設計」を担っています。
この製造部分にどこまで入ることができるかが今後の課題です。

日経ビジネス電子版より引用


研究開発の次は製造拠点

先日“次世代半導体”国産化へ 8社が新会社ラピダスの共同設立(2022年11月11日)が発表されました。
トヨタ、ソニー、NTT、ソフトバンク、NEC、デンソー、キオクシア、三菱UFJ銀行の8社が5年後の量産化へ向けて始動しましたが、1社10億円づつという少額で均等な感じが微妙ですね。


製造拠点の背景に大口ユーザー

日本における製造拠点として、熊本にTSMCの工場が作られます。時を同じくして、アメリカのアリゾナにも作られますが、TSMCの2つの海外新工場はまったく違います。
国のユーザーがどのレベルの半導体を必要としているか、どんな需要となる大口ユーザーがいるかで、工場のレベルが違ってきます。半導体会社は、ユーザーがいるから工場をつくります。アメリカには最先端のデバイスを扱う大口ユーザーがいます。日本では比較的旧型でもよい車載用が必要とされています。しかし今後は、(5Gとか自動運転とかで)NTTやトヨタといった最先端の技術の大口ユーザーがいる必要があります。

<TSMCの海外新工場>
熊       本:27nm(10年前の技術)、5千億の投資(2024年稼働予定)
アリゾナ:3nm、5兆5千億の投資(2024年稼働予定)


新会社ラピダスはうまくいくか

さて、ラピダスはどうでしょうか。
以下は気になった識者の意見です。

今までは円高でうまくいかなかったが、円安局面ではチャンスはある(高橋洋一氏)

企業も社運をかけ、既存にこだわらない”変人”が情熱をもってチャレンジしないとうまくいかない(工学博士 武田邦彦氏)

現場の技術者からみてどうか。
なぜIBMの技術なのか。負け組でがんばろうとしているのか?
しかし今のままでいいとは誰も思っていない。デカップリングなど地政学的な事情から浮上してきた話とはいえ内心期待したい。


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