コッパ・イタリア 5回戦 ユベントス vs サンプドリア 〜ロカテッリとアルトゥールの共存
サンプドリアに4-1で快勝。ダニーロが復帰し、若手のアケもPKをゲットするなどいいニュースが多かった試合でした。中でも、ロカテッリとアルトゥールを同時に先発させたことについて書いておきたいと思います。
ロカテッリとアルトゥールの共存
ユベントスの先発は、ペリン、デシーリオ、ダニーロ、ルガーニ、サンドロ、クアドラード、アルトゥール、ロカテッリ、ラビオ、クルゼフスキ、モラタ。守備時は4-4-2で守り、攻撃時は両サイドバックに高い位置まで上がらせて幅を取り、モラタやクルゼフスキ、ロカテッリがライン間をとる。ビルドアップは2CBとアルトゥールが主な担い手になっていたが、サンプドリアのプレスの人数に合わせてデシーリオ、ロカテッリが後方に残って一時的に3バックへ変化する時間帯もあった。この変化に加えて、サンプドリアが5-3-2で引いて守ることを選択したこともあって後方のポゼッションが安定したため、終始ユベントスが押し込んで試合を進めることができた。
この試合で何より注目したのは、ロカテッリとアルトゥールを同時に先発起用してきたこと。ローマ戦のアルトゥール投入以降に見られた形だったが、先発から試してきたのは今季初めてで、中盤にクオリティの高い選手を並べたらどうなるのかというテストの意味合いが強かったように思う。なお、この試合もアッレグリはベンチ外となっており、ランドゥッチコーチが指揮をとっていた。アッレグリの指示だとは思うが、もしかしたらランドゥッチコーチの判断で2人を同時起用しているのかもしれない。現在のユベントスのスカッドの中では、ロカテッリとアルトゥールのクオリティはトップクラスだ。特に技術に注目するなら、ディバラを加えたこの3人がトップ3だろう。これまではロカテッリとアルトゥールを共にアンカーポジションで起用することが多く、同時にピッチに立つことはなかった。アンカーの交代ということで、ロカテッリとアルトゥールが交替するケースが多かった。しかし、アルトゥールはバルセロナではインサイドハーフの位置で起用されて輝きを放っていたわけだし、ロカテッリもラビオやベンタンクールにアンカーを任せて高い位置をとってプレーした時のクオリティは証明されている。2人を同時に起用することも可能なはずだった。
そして、この試合ではスタートからロカテッリとアルトゥールが共演した。守備時は2人が中盤でダブルボランチを組み、4-4-2の守備の真ん中を担当。攻撃時はアルトゥールがアンカーの位置に入り、ロカテッリは右インサイドハーフとして振る舞うことが多かった。アルトゥールはアンカーの位置から動かなかったが、ロカテッリはレアル・マドリードのクロースのようにルガーニの左に降りることもあり、ビルドアップの枚数調整に参加していた。
アルトゥール
アルトゥールは、アンカーの位置でCBからのボールを引き取り、パスを散らして攻撃のリズムと方向性を指揮していた。アルトゥールらしいアウトサイドを使ったターンでボールをキープ、プレスを剥がすプレーも見られた。パス回しだけでなく、ドリブルの技術も活用して後方のポゼッションの確立に貢献した。さらに、ライン間に構えるクルゼフスキやモラタに速い縦パスを打ち込むシーンも何度もあって、後方のポゼッションをチャンスに結びつけるパスを何本も通していた。試合を通して、攻撃面での貢献度はとても高かった。特に、後方でのポゼッションの確立と、ボールの前進へのアルトゥールの関与は大きく、ショートパスを主体としたパス回しでユベントスの攻撃にいいテンポをもたらしていた。浮き球よりは転がるショートパスの方が受け手もボールを扱いやすく、後ろのパス回しでミスが少なかったこともアルトゥール起用の効果だったように思う。ユベントスの選手同士の距離感も以前より近目に設定されており、アルトゥールの起用に合わせてショートパスを主体にボール保持に挑戦した。
一方で、守備時にはポジションを見失ったり、マークに出るか、ポジションを維持してカバーに入るかの判断に迷うところもあった。守備には未だ不安を抱えていることも明らかになった。
ロカテッリ
ロカテッリは、主にライン間にポジションをとって、後方からのボールを受けるプレーを狙うことが多かった。そこでのクオリティも高く、ワンタッチ、ツータッチで守備者を引きつけてボールを逃すプレーもあり、パスレシーブからのターンもあり、モラタを追い越して最前線まで飛び出すこともあった。持ち前の技術と戦術眼でいてほしい場所にポジションをとって、攻撃をうまく回していた。また、後方でのボール保持のために下がってボールを受けるシーンもあり、これまで通り後方からの散らしや鋭い縦パスで局面を進めるプレーも健在だった。後方でのボール保持、ボールの前進、ファイナルサードの崩しと攻撃の全ての局面に関与して、かつそのプレーのクオリティが高い。これまではアンカーで起用されてファイナルサードの崩しに関わるシーンは限定的だったが、やはりそれは勿体無いと思わせるだけのクオリティを備えている。
守備では、攻撃で高い位置まで出ていることもあってディフェンスラインまで下がるプレーは見られなかった。しかし、ディバラの得点に繋がったように、相手のパスルートを予測してパスカットを狙っており、高い戦術眼がハイプレスでも活かされている。危険なスペースを埋めるプレーは継続できているため、守備での貢献度も高い。ディフェンスラインの前をほぼ的確にプロテクトしてくれる。
今後の可能性
さて、サンプドリア戦ではロカテッリとアルトゥールの共演を存分に味わうことができたわけだが、今後この2人のセットがスタンダードになるかといえば、疑わしいように思う。その理由の一つが、アルトゥールの守備だ。やはり、現状ではアルトゥールの守備には不安が残る。サンプドリアのように、ユベントスがボールを保持して押し込むことが前提で戦術を組むことができるなら、アルトゥールの起用はアリだ。ロカテッリと同時に先発させて、圧倒的なボール保持から選手のクオリティに任せてクロスやコンビネーションなどで攻撃し続ければいい。
しかし、次節のミラン戦やCLノックアウトラウンドのような強豪相手では、ユベントスのボール保持率も下がってくることが予想される。そうなると、流石にアルトゥールを起用しづらいのではないだろうか。ロカテッリをアンカーポジションに置いてビルドアップを任せて、守備でも飛躍的に成長しているマッケニーがライン間をとる。攻撃においてもタスクがうまく割り振れることもあって、ロカテッリとマッケニーのセットがメインになりそうな気がする。ミラン戦の先発メンバーにまずは注目してみよう。
アルトゥールを起用するとしたら、守備時に前に押し出すことは考えられる。ピアニッチがいた時のように、敢えて相手のアンカーポジションの選手のマークにつかせるパターンだ。残った2CHを絞らせて、ウイングの選手を下がらせれば、アルトゥールを前に押し出した4-4-2の守備ブロックの完成だ。これならば、アルトゥールの守備不安もある程度隠すことはできる。しかし、このプランだとモラタやケーンを起用している場合、ディバラにサイドの守備を任せることになってしまう。今季のアッレグリの選手起用を見る限り、ディバラの0トップ戦術はなさそうだ。だとしたら、ディバラを起用しないケースなら、アルトゥールを前に押し出す守備を使えるかもしれない。いずれにせよ、アルトゥールの先発起用は、おそらくユベントスのボール保持が確実に計算できる相手に限定されるのではないか。しかし、サンプドリア戦で見せたクオリティを考えれば、アルトゥールの先発の可能性を模索してみる価値はある。方向性としては2つで、
①アッレグリがアルトゥールに守備を叩き込む。
②アルトゥールの得意な距離でボールを失わないクオリティまでユベントスのビルドアップ隊が上手くなる。
理想は両立させることだが、ボヌッチやデリフトならともかく、キエッリーニには②は荷が重すぎるだろう。現実的には①の方向性をメインに、トレーニングやメルカートで選手を獲得することで徐々にビルドアップ隊のクオリティを上げていくことになるはずだ。ただ、②が実現するのであれば、こんなに面白いことはない。鉄壁の守備を誇るユベントスが、盤石なボール保持を手に入れた時にどんなチームが出来上がるのか。自陣で構える守備に自信があるポゼッション型のチームは世界初ではないだろうか。アッレグリがどんなチームを理想として描いているのか、興味は尽きない。
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