セリエA 第18,19節 ボローニャvs ユベントス、ユベントス vs カリアリ 〜アルトゥールの最終試験?
ボローニャ、カリアリに共に2-0で勝利。最低限の結果を手にしてウィンターブレイクに入ることになりました。さらにアタランタ、ナポリが勝ち点を伸ばせなかったことで3位のナポリと勝ち点差は5となり、トップ4は十分射程圏内という位置になっています。さて、この2試合を振り返り、年明け1試合目のナポリ戦に注目しましょう。
アルトゥールのテスト
この2試合は、ロカテッリに代わってアルトゥールが先発で起用された。どちらも守備時は4-4-2の真ん中で、攻撃時はアンカーポジションに位置していた。おそらく、ディバラが使えないこの2試合を使ってアッレグリはアルトゥールをアンカーポジションでテストしたかったのだろうと思う。前半戦のロカテッリの稼働率は異常だった。シーズン開始当初はラムジーも構想に入っていたはずだが、ケガで構想から外れてしまった。シーズンの勝負どころの二月以降にロカテッリのコンディションをケアするためにもロカテッリに代わる人材が必要となる。その第一候補がアルトゥールなのだろう。少なくともセリエAの下位チームに対してアルトゥールを使ってボール保持で勝ち切れるかを試しておきたかったのではないか。
では、その試みはどうなったのか。
結論から言うと、想定以上の結果には結び付かなかった。つまり、格下相手には機能しそうだが、それ以上の相手にはおそらく使えないというところだろう。その理由は2つ。アルトゥールの守備に不安が残ること。アルトゥールのパスレンジが狭くユベントスの他の選手との距離感に誤差があること。
アルトゥールがアンカーで起用された場合、マッケニー、ラビオ、ベンタンクールと言ったメンバーと中盤を組むことになる。3人とも攻撃のフェーズでは前線まで上がって攻撃参加することが求められており、必然的にアルトゥールの守備負担は大きくなる。ただ、アルトゥールのフィジカル能力と守備の戦術理解、守備のポジショニングがカウンター対応を難しくさせてしまっている。中央の最も危険なスペースを明け渡してしまったり、ディフェンスラインのカバーに入れなかったり、スピードで置いていかれたりというシーンが散見されていた。確かに、ボール保持に特化すればアルトゥールのアンカー起用はアリだろう。カリアリ戦ではボールタッチ数、パスの本数では群を抜いていた。しかし、どんなチームも一度もボールを失わずにボールを保持し続けることは不可能だ。被カウンターの場面や守備のフェーズは必ずやってくる。そして、ユベントスは守備にこそアイデンティティがあるチームだ。現状のアルトゥールの守備力ではボール保持に特化したとしても、収支が大幅にプラスになるとは思えない。
それは、パスレンジが周りと合っていないことも関係している。この2試合で、アルトゥールは決定機に絡んでいない。ボローニャ戦の先制点は、アルトゥールのパスをカットしたボールがモラタに流れたところから生まれたが、ボローニャにとっては不運としか言いようのない、ユベントスにとっては幸運が味方したゴールだった。むしろ、2点目はロカテッリが体制を崩しながらでも左サイドの裏のスペースまで送り込んだボールが起点となっている。アルトゥールに比べて出場時間が半分程度のロカテッリが決定機を演出している。これはなぜか。それはアルトゥールとロカテッリのパスレンジの差から来ているといえる。例えば、ボローニャ戦の20分くらいまでは、アルトゥールはよくボールに触っていた。アンカーの位置にポジションを取り、CBからボールを引き出してショートパスを散らしていく。このプレーでユベントスのボール保持に貢献し、ユベントスは保持率を高めてボールを確保して試合を進めていった。ところが、20分過ぎからアルトゥールのボールタッチは減少する。ボローニャが果敢にハイプレスをかけてきたからだ。そうなると、ユベントスの選手たちは少し互いの距離を広げて、ボローニャの選手がプレスをかけるまでの時間とスペースを確保しようとする。ボヌッチやデリフトはその広がった距離でも強いパスやロングフィードができる。クアドラードやベルナルデスキもノーステップでサイドチェンジのボールを蹴ることができる。ハイプレスに対して互いの距離を広げて時間とスペースを確保するとともに、サイドチェンジやロングフィードも駆使してプレスを回避するのがユベントスのやり方だ。その中に、ショートパスとドリブルによるボールキープを軸にしたプレースタイルのアルトゥールが入ることで、ユベントスが取りたい選手間の距離が取れなくなってしまう。アルトゥールにボールを入れると、ショートパスを主体とするアルトゥールに対しては近い距離に寄っていかなければならないからだ。仮に、これまでのユベントスの距離感を維持したままアルトゥールにボールを入れると、アルトゥールから出されるショートパスを周りの選手が受け取れずにカットされてしまう可能性が高くなるだろう。だからこそ、ボローニャがハイプレスをかけてきた時に、ボヌッチやデリフトはアルトゥールにボールを入れなかったのだ。その証拠に、後半ボローニャが押し込む展開でロカテッリが入ってきてから2点目をとるまでは、ロカテッリを中心にボールが動いている。ボヌッチ、デリフトからロカテッリへとボールが渡っているのだ。2点目をとってからはユベントスらしく守備で試合を終わらせにかかったので、ボールはボローニャに渡していたため、ロカテッリは守備で貢献していた。アルトゥールに2点目以降の守備を任せるのは選手の特徴からしても合わないだろう。
一方、カリアリ戦ではボヌッチとデリフトもアルトゥールにボールを渡し続けている。それは、カリアリがハイプレスをかけてこなかったからで、ユベントスがアルトゥールに合わせて近い距離でポジションを取っていたからだ。セリエAの下位チーム相手ではっきりとユベントスがボールを保持できるなら、アルトゥールのために選手間の距離を近く設定して、ボール保持に力点を置いて攻撃を仕掛けることもできるだろう。そうすることで相手を押し込み、前線のタレントにボールを預けてゴール前に雪崩れ込むプランは、格下相手であればアリだろう。ただし、これから先のより重みが増してくる強豪との試合では、アルトゥールのアンカー起用はマイナス面の方が目立つ可能性が高く、採用されないのではないかと思う。
冬の移籍、第一希望選手
ということで、アルトゥールをアンカーで起用するプランはあくまでユベントスがボールを保持できることが確実なセリエA下位のチーム相手限定になりそうだ。ロカテッリを休ませるためという目的なら十分かもしれないが、チームの力を底上げするものではなさそうだ。少なくとも、セリエAの上位勢やUCLのノックアウトステージで採用するとは思えない。しかし、攻撃時に中盤を3センター気味にポジションを取らせるのであれば、ユベントスのスカッドの中で最もCHとして機能するのもロカテッリだということも事実だ。ボールテクニック、パス精度、戦術眼、守備への貢献度、どれをとってもユベントスの中盤の選手の中でトップだと思う。それほどまでにロカテッリへの依存度は高いと見える。
CHとアンカーポジションを入れ替えながら攻守にバランスを取れる人材がいれば、ロカテッリと共存させ、ロカテッリの攻撃性能をこれまで以上に活かすことができるのではないか。アルトゥールは、守備に目を瞑ればそれなりに形になる可能性はあるが、前項で見たようにユベントスの選手とパスレンジが異なる。結果、チーム全体がアルトゥールに合わせるか、アルトゥールが不自然なプレーに終始するかということになり、チームとして最大限の力を発揮するまでに至らないことが予想される。
では、上記のような人材は本当にいるのか?
ピアニッチだ。アルトゥールよりパスレンジが長く、問題なくユベントスの選手たちの中にフィットするだろう。第一次アッレグリ政権ではアンカーポジションに固定されていたことから、守備に関しても大きな問題はないだろう。元々はローマ時代に2列目で輝きを放っていた選手だ。ロカテッリとアンカーポジションとCHの位置を入れ替えながら互いの攻撃性能を発揮させ合いながら攻守のバランスを取れるのではないか。バルサには居場所はなく、今夏もユベントスへの移籍が噂されていた。今冬の移籍市場で獲得の可能性もあるのではないか。
ブラホビッチやカバーニ、オバメヤンなど前線の選手を獲得するのではという噂が多く聞かれるが、モラタをベルナルデスキやラビオ、マッケニー、クルゼフスキらが追い越していく攻撃を確立できれば、得点も伸びてくるように思う。アッレグリ自身も冬の移籍についてはパフォーマンスかもしれないが否定的なコメントを出しているし、ラビオとマッケニーをスコアラーとして指名したコメントも出している。それは、中盤で高い位置をとるラビオやマッケニーがFWを追い越す、もしくはクロスに後ろから飛び込むフィニッシュワークをイメージしているのだろう。だとしたら、冬の移籍で動くなら中盤か、キエッリーニが万全ではないCBかということになりそうだ。それなら、苦境に置かれているピアニッチに声をかけても良さそうだが…。
ナポリ戦に向けて
さて、とにかく連勝して上位との勝ち点も縮めた上でウィンターブレイクに入ることができた。そして年明けに早速3位のナポリとの直接対決が組まれている。おそらくディバラも復帰してくるだろう。ロナウドの移籍や散発的なケガ人によって、実験を繰り返すハメになった前半戦のユベントス。いよいよ後半戦に突入していくわけだが、もう流石にチームの方向性やメンバーもある程度固定して勝負をかけてくるだろう。20試合以上のテストを踏まえて、アッレグリがどのような解答を見せていくのか。ユベントスとは対照的に連敗してシーズンの折り返しを迎えたナポリは是が非でも叩いておきたいところ。アッレグリがどのようなメンバーを選び、どんなプランを授けてくるのか。リーグ戦再開を楽しみにしながら、クリスマス、お正月をのんびり過ごしたい。
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